受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第42話 紫の竜魔法(パープルマジック)

 ケリー火山に到着した!




「うおおおおおおおおおお!! あっついぞ―――――!」
「う―――、りおー!」
「けほっこほっ」
「あついのです………」






 降り注ぐ火山灰。
 これはマスク必須かもね。


 麓の町から徒歩で山を登ることになっている。
 ちなみに、ケリー火山は立ち入り禁止の危険区域。


 危険な魔物が生息するし、そもそも生活が難しい環境だ。


 だけど僕たちはそこに居る。
 ゼニスやフィアルは冒険者で、採取や討伐系の依頼で立ち入ることがあるからだ。


 僕たち?


 それは、ほら。おしのびで。




 ダラダラと汗が流れおちていく。
 僕の体にはそれほどの水分があるというのか。


 まだ出てくるぞ!


「ゼニス、ここ、すごく暑い! なんとかならないかな!」
「………無理だ。私も、ここに来るときはいつも竜形態だからな。熱さを意識したことはない。」




 ゼニスってばおっちょこちょいさんだね!
 ちなみに、汗が服に張り付いてゼニスは今、すごく色っぽい。


 服で顔の汗を拭うもんだから、へそチラで目のやり場に困るよ。
 ときどきシタチチも………おっと。なんでもないです。


 あ、そうだ、いい魔法があった!
 盗賊ダズが使ってた魔法だ!


「そんじゃ、僕に任せて! なんとかしてみる! 【インヴァリディションフレイム・ 改!】」




 僕を攫った盗賊ダズが使っていた魔法は炎に対する耐性を高める魔法だった。
 フィアル先生に魔法を教えてもらい、旅中で使えるようになったんだよ


 もともとそれは使用者本人にしか効果は無いはずだったんだけど、
 フィアル先生が教えてくれた《最適化》の恩恵で、僕以外にも効果が発揮できるになったんだよ
 魔法に応用と操作性が増すんだ。


 フィアル先生、よくこんな技術を発見できたね。
 これだと本来の魔法の効果じゃなくて全く別の魔法だよ。




 僕のスカスカの指ぱっちんの後、僕の指先から出た赤い光に、側に居るみんなが包まれて、光が収まると暑さが薄れる。
 涼しいとまではいかないけど結構快適な温度まで体感温度が下がった。




「おおー、ありがとう、リオル。」
「えっへん! フィアル先生が《最適化》と魔法を教えてくれたおかげだよ!」
「お、なんか照れるね。えへへ」




 暑いのは嫌いだ。


 生前の修学旅行の時にホテルのサウナに閉じ込められたことがあった。


 中で気を失ってしまって、危うく死ぬところだったらしい。
 思い返すと、けっこうやばいね。




 僕の生前では歪んだ人生。
 現世でも歪んだ人生。


 死ぬ前からすると、今の歪んだ状況でも、本当に天国にいるみたいだよ。




 現世での多少の怪我は僕の自業自得。
 いじめられて出来た怪我ではないんだ。


 むしろ僕の生きた証と言ってもいい。


 まぁ、幼い頃から受けた暴行の傷もあるけど、今も幼いから、結果的に僕の傷はほとんど自分でつけた傷ばかりになっちゃうのかな。




 でーもー、そんなことは今は昔。
 前世みたいなことは二度と起きないし、家族とも決別した。決別って程じゃないかもしれないけどね。


 これでもう、僕を苦しめるものは黒い髪だけだ。
 黒い髪も、バンダナさえ巻いていればほとんど問題にならない。


 ああ、幸せだ。


 僕はこの幸せを噛みしめる。
 この幸せを、ずっと味わっていたい。
 僕は4歳にして、前世も含めたら約20年で、ようやく自由を手に入れたんだ。


 本当の自由だ。なにしちゃおう。




「さて、では行くか。」


 ゼニスの一言により、休憩は終わり。
 さあ、山登りだよ! 自由になって最初にすることは強制山登りだよ!


 なぜ山に登るのか。


 そこに火山があるからさ!


 ちょっと今、心の中が晴れやかすぎてテンションがおかしくなってきちゃった。
 でもうれしいものはうれしい。


「ゼニス、この火山のどこら辺に赤竜の里はあるの?」
「うむ。中腹の………あそこだ。」




 ゼニスが山の中腹を指差すと、そのあたりを赤竜が飛んでいる姿が見えた。




「ふわぁ~~~~~♪」


 マイケルが目をキラキラさせて中腹を見上げる


「にーちゃん、おれ、はやくいきたい!」


 紫竜以外のドラゴンを初めて見るようで興奮しているようだ。




 くくく、紫竜以外のドラゴンを見るのが初めてなのがマイケルだけだと思うなよ!
 僕だって赤竜を見るのは初めてなんだから!


 白黒竜? しらんね。




「よーっし! じゃあマイケル! 赤竜の里まで競争だ!」
「うん!」


 山登りにも遊びを組み込めば楽しいものに変わる。
 子供はなにをしても遊びに変える生き物なんだよ!


「ゼニス! この辺に出る魔物のランクは?」
「BとAだ。」
「お、おぉう………」




 水を差された気分だ。




 Dまでなら余裕で倒せる。
 実際はSランクの竜であっても実際に倒したことがあるし、倒せる自信はあるんだけどさ。
 最近は僕の自信がない。


 だって僕、ドラゴンに勝ってもバッファローに負けるし。




「別に競争したければすればいい。子供の娯楽に立ち会うのも親としては楽しいものだ。」


「そうであります! わちきも子供たちが元気な姿で走り回るのを見るのは楽しみの一つなのですから。リオ殿、マイケルのことを負かしてやってください!」


 ちょっと自己嫌悪していると、ミミロとゼニスが援護してくれた
 今のミミロではほとんど戦闘力は無いけど、母親が認めてくれるとありがたいね。
 といっても、ミミロもドラゴンだからかなり強いけどね。


「えっと、じゃあ周りの魔物の駆除とかお願いしていい?」


「任せろ。お前たちの安全を確保するのが、私の役目だ。Dランク以下は放置するが、構わんな。危なくなったらすぐに助けに入る。」


「おっけー。」


 危険地帯の火山で安全を得た。
 ゼニスが安全だと言えばそうなる気がする不思議。




「んふふ。わちきはリオ殿の妨害工作を行うであります! わちきのとっておきを見せて差し上げますので、フィアル殿、わちきをしっかり守ってくださいね!」


「えええええ!? 私も行くの!?」


「もちろんであります! フィアル殿の他に誰がわちきを守ってくださるというのでありますかっ!」


「えっと………まぁいいや。もう私は色々諦めたよ。リオル。私は先に行っとくね!」




 シュタタタター! と元気に走って行ったミミロを追ってフィアルも走り出した。
 ああ、そういや、ミミロも生まれ変わって0歳児でありながら母親だと言っても、実年齢は4,5歳なんだよな。


 ちょっと子供っぽいところを見て少しだけ安心した


 ミミロも大人ぶっていても、やっぱり子供なんだ。




「りお~。るーもかけっこするの♪」
「きらもするのです! まいくにはまけないのですっ!」
「う~~~! ねーちゃんはあっちいけー!」




 ぺちぺちと子供パンチで仲良く喧嘩を始める白黒キラケル


 和む。




 なんだかんだで全員参加のイベントになっちゃった。






                   ☆








 妨害組 :ミミロ フィアル
 安全対策:ゼニス
 選手組 :リオル ルスカ マイケル キラ




 ルールは単純。
 赤竜の里に一番最初にたどり着いた者の勝ち。


 ミミロとフィアルが妨害をして、ゼニスがCランク以上の魔物や害獣を駆除する。


 F、E、Dランクは放置する。




 それは僕たちの障害物といえる。


 Dランクと言えば、以前ルスカが対峙したガウルフがそれに当たる。
 Dランクは初心者冒険者からようやく抜け出したような人たちがやっとこすっとこ討伐できる程度の獣だ。


 普通の3歳児だったら脅威だ。
 というか、Fランクの魔物であっても3歳児からしたら化け物でしかない。


 しかし、キラやマイケルを見た目がただの3歳児だからと侮るべからず。
 この子たちはドラゴンだ。


 それに、旅の途中で修行と称してよく魔物との戦闘を繰り返してきた。
 キラとマイケルの姉弟喧嘩も、ドラゴン同士の喧嘩であり、実はとんでもない高レベルの喧嘩だったりする。


 つまり、なにが言いたいのかというと




 キラとマイケルはすでにDランク程度は瞬殺できる実力を持っているということだ。


 え? 僕?


 僕は、ほら。
 Cランクのバッファローの子供(推定Eランク下位)に負けちゃうような子だから、使い物にならないよ。


 さらに、安全対策の為に、ゼニスとフィアルとミミロ。ルスカとキラケルにはそれぞれ糸を引っ付けてある。
 これで、みんながバラバラに動いても位置情報はわかるって寸法だ。


 逸れて迷子になる心配はない。






『リオル、ゼニスさん。こっちは準備ができましたよ』




 おっと、糸でつないだフィアルから連絡を受け取った。


 ちなみに、僕自身の不正を防ぐために、念話しか使用していない。
 だからどんな妨害があるのかは知らない。


「うー、まけないのです!」
「おれがかつもん!」
「うゅ………るーがかつの!」
「くくく、僕も手加減なんかしないからね!」




 みんなに僕のかっこいいところを見せよう!
 張り切って僕はみんなと並んだ。




「うむ、では………はじめ!」




 ゼニスの掛け声とともに、スタートダッシュを決めたのはルスカ。
 開始と同時に上に飛びあがり、木々を伝って変則的な3次元の立体的な動きで一気に先頭に立った。
 対してキラとマイケルはそのまま直進。
 木々に阻まれて進みにくそうだ。


 だから、林での競争ならルスカのように木を伝った立体的な動きの方が早かったりする。




 そして、僕はと言うと―――


「みんなはっや!」




 出遅れちゃった。いやガチですごいんだけど。
 僕もゼニスが宣言した瞬間に走り出したつもりだったんだけど、反射神経と瞬発力に地力の差が出た。


 産まれたばかりの白黒この子たちにまで負けるなんて………。
 まぁ、結構予想通りなんだけどね。




「いいね、じゃあ恨みっこなしで僕も最初から全力でやらせてもらうよ! 糸魔法・遊技【結糸空歩スカイターザン!】」




 キラケルにまで運動能力で負ける今、僕にできることと言ったら立体移動しかない。


 僕は木に向かって糸を射出。
 体を浮かして振り子のように振り回され、すぐに次の木に向かって糸を射出。


 リアルスパイダーマンって結構勇気居るな。
 かなり怖い。


 あ、ちなみに技名のスカイターザンはスパイダーマンとかけているんだよ


 どや!




「じゃーねー! 僕は先に行くよ!」


 僕はおよそ時速40km程度のスピードで進んでいる。
 質量保存の法則なんざ僕にとっては意味をなさない。


 前方に糸を射出し、木にくっついた瞬間に自分に加重を掛ける。
 さらに、前に進むにつれて体重を軽くすればあら不思議。


 ブランコよりも簡単に加速できちゃいました!
 でもこの林で時速40kmはめちゃくちゃ怖い!


「にーさまずっこいのです!」
「ひきょーだぞにーちゃーん!」
「アハハ、勝負は常に非情なんだよ! どーせこの世は弱肉強食。僕を超えたかったら強くなれ!
 僕程度を超えられないようならゴブリンにも負けると思え!」


 おそらく、今の冒険パーティの中で身体能力が一番低いのは、僕だ。


 生前から運動音痴だったし、生まれてからもほとんど運動できていない。
 修行と称して筋トレしたり加重を掛けたりしているけど、芳しい結果は無い。


 やはり、僕には運動能力は無いということだ
 前世でも体の動かし方がなっていないのに、この身体でできるなんて、あるわけがない。


 僕の身体の動かし方は前世の記憶から引き継いだものだ。
 ご都合主義みたいにニート野郎が異世界でめちゃくちゃ運動ができるようになる、なんてことは幻想だった。
 ちくしょう。


 だったら僕はそれを魔法で補うしかない。
 そして、そんな雑魚介ざこすけである僕に負けるようであれば、キラとマイケルは強いとは言えない。
 潜在能力が僕よりも高いのに、僕程度に負けてしまうようではたかが知れるね。


 ちなみに僕は闇魔法を駆使すれば浮いて滑空することも可能だ。
 だけど、魔力の消費が結構尋常じゃない。


 それでもかなり余裕はあるんだけど無駄に使う必要もないからね。
 糸魔法による操作ミスで木にぶつかりそうになる以外は闇魔法による引力操作はしないよ。




(ふっふっふ、わちきがそう簡単に木々を渡らせると思っているのでありますか!)




 なんかそんな声が聞こえた気がした。




「きゃん!」


「ん? あ、ルー!」




 可愛い悲鳴が聞こえ、そこを見ればルスカが手を滑らせて木の上から落下していた。


 僕は闇魔法による方向転換をして、僕のやや左側を並走していた(木の上を僕と同じスピードってどういうことだよ)ルスカの助けに入る


 地面に落ちる前にルスカを空中キャッチ。






 ―――しようと思ったんだけど




「《ういんどぼむ!》」


 ルスカは風魔法を使って爆風を呼び、自分の体を浮かして木に乗り移った。




「………。」




 ブラーンとぶら下がる僕。
 この空を掴んだ手を、どうしたらいい?


 え? 集中しろ? ああそう。


 念話でゼニスに怒られちゃいました。


 ゼニスはルスカなら怪我なんかしないと信用しているようだ。
 なら僕もルスカを信用しなければ失礼と言うものだ。






 というか、運動神経抜群のルスカの運動神経で落下なんてあり得るのだろうか。


 あれがミミロの妨害工作なのかしらん
 ミミロはいったい、なにをしたんだ?


「僕だって負けちゃいられない!」


 左手の糸を切断し、右手で次の木に向かって糸を飛ばすが




「――――――。」
「え?」




 僕の糸は木に触れることなく、通り過ぎてしまった。


 見間違いかな“木が動いた”ような気がする
 慌てて別の木に糸を巻きつけて体制を立て直す。


 よし、今度は大丈夫―――


「――――。」
「は?」


―――ドガッ!


「おっふ!」




 今度は、木の枝が僕の身体に直撃した。
 やっぱり、木が動いている。見間違いなんかじゃない!


 上手くガードできたけど、いったい、何が起きているんだ?
 目を凝らしてその木を見てみる。


 ん? なんだあれ。


 なんか“紫色の魔力”が見えた


 ゼニスの魔眼ほど優秀なものではないけれど、ぼんやりと正体を掴めてきたぞ


 この木こそ、ミミロのとっておきの妨害工作。


「ミミロめ、おもしろいことをしてくれる! 種明かししてもらってもいいかな?」


『いいでしょう。種明かししましょう。これこそ、わちきの《竜魔法》であります!』




 竜魔法、か。
 そういえばゼニスがそんなことを言っていたような気がする。


《私の魔力は魔眼に使われているため、属性を持たないのだ。無属性と言うわけではないが、私はブレスも吐けなければ竜魔法も使えぬ。魔眼が優秀すぎて、私は他がアンポンタンなのだ。》


 たしかこんな感じで。


 竜魔法ってのがなんなのかは気になってはいたけど、ゼニスは竜魔法を使うことができないから聞く機会は無かったんだっけ。


 僕は他の木に移動しながらミミロの魔法について説明を求めた




『ふふん、では特別に詳細を教えて差し上げましょう。紫の竜魔法パープルマジックの効果は【洗脳マインドクラッシュ】であります! わちきより弱い魔物であれば、3分ほど洗脳し従えることが可能なのであります!』


「洗脳? 魔物? 木は魔物じゃ………」


『リオ殿、気づかないのでありますか? ここの木はただの木ではないのであります!
 樹種族トレントのナワバリであります!』


「どぅわあああ!」


 移動中にツタで足を取られた!


 木々が生きている魔物ということですか!


 ミミロはそれを意のままに操っている、と




「ふわあああああ!」
「きゃあああああ!」




 見れば、後方でキラケルは二人ともツタに捕らえられて宙吊りにされていた


「キラ! マイケル! くそっ【炎転火フレイムダンス!】」


 僕は自分の周囲に回転する炎をまとわせ、僕に巻きついたツタを焼き切った。
 すぐさまキラケルを助けに行こうと思ったけど、ルスカは自分のピンチを自分で切り抜けて見せた。


 だったらあの二人も、己の力でピンチを切り抜ける力を身に着けてほしい
 ここはあの二人を置いていくのが正解だろう。
 強くなれ、二人とも。


 ミミロめ、とんでもなく厄介な能力かくしだまを持っているようじゃないか




 僕は体に炎を巻きつけたまま、次の木に向かって糸を飛ばして、迫るツタを焼き切りながら進んだ。


 キラは手刀でツタを切り、マイケルはツタを引きちぎってその場から脱出し、二人同時に木を駆け上って立体移動に参加した




「アハハ、ただの遊びだと思っていたけど、思いのほか楽しいイベントだね!!」


 現在のトップはルスカ。
 二位が僅差で僕。
 三位がキラとマイケル。


 さて、次はどんな妨害が待ち受けているのやら。
























 あ、ちなみに、移動に魔力を使っているのは僕だけだよ。
 みんなすごい。













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