受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第36話 ルスカの戦闘力

 僕が闇魔法《暗幕ブラックカーテン》により真っ黒に塗りつぶした洞窟の中で圧倒的な勝利を収めたゼニスたち。
 すごいな。


 盗賊たちを静かにさせた後、ゼニスたちは牢の前にやって来た。
 僕はまだ盗賊たちが逃げられないように《炎壁ファイアウォール》を持続させていた。


 たぶん、もう魔法を解除しても大丈夫かな。


「リオル、無事だったか。」
「うん。ごめんね、一人逃がしちゃった。ゼニスが出しぬかれたあの盗賊だよ。」
「ふむ。しかたあるまい。そやつは後で追う。リオル。闇を解け」
「はーい」




 僕は火魔法と牢の中の女性たちを拘束していた闇魔法もまとめて解除する。




 視界が明るくなった


 う……‥。まぶしい。




 洞窟の中だから薄暗いはずなのに眩しいぞ。
 僕は夜行性じゃないのに暗い方が元気ってどういうことだっ!


 周りを見れば、盗賊たちが転がっていた。
 何人かは頭から血を流している。


 牢の中の人たちも、倒れる盗賊やゼニスを見て目を丸くした。
 言葉も出ないようだ。


「クソが………ダズのやつ、ゆるさねぇぞ………!」


「そうか。その恨みは冥土にでも持って行くがいい」


 団長はしぶとく正気を保っていたけど、ゼニスが斧槍ハルバードで団長の首を切り落とした。


「ヒッ!」


 小さい悲鳴が牢の中から聞こえたけど、ゼニスは全く意に介した様子がない。


 なぜだ。なんでゼニスはこいつを殺したんだ!


 僕は牢の中の女性たちに怯えてほしくないがために盗賊たちを殺さずに時間稼ぎをしようとしたのに!


「ゼニス、なんで殺したの!」


 僕は牢を土魔法で変形させて牢から脱出してゼニスに詰め寄る


「む? 生かす必要があるのか? こいつらはここの者たちにそれ相応の事をしてきたのであろう?」


「それはそうだけど………」


「そもそも、なぜリオルはこいつらを殺さなかったのだ。」


 斧槍ハルバードを肩に担いで、馬鹿な子を見るような顔で僕を見下ろした


「だ、だって、目の前で人を殺しているところなんか見せたら、この人たちに怯えられちゃうじゃん! 僕だって世間体は気にするよ。」


「ふむ。無駄なことだ。リオル、覚えておけ。お前は魔王の子だ。
 いまさら世間体を気にしてどうする。一般人を傷つけず、助けるならまだしも、下らん世間体を気にして悪党まで殺さぬようであれば信用を失うだけだ。
 やるならどちらかを徹底的にやれ。」


「………。」


「視野を広く持て。周りを見ろ。これからおいおいできるようになればいい。」


 そういってゼニスは僕の頭をグシッと撫でた。
 じゃあ、さっきまでの僕の行動は全部無駄だったってのかよ


 僕は後ろを振り返る。
 そこには、悲鳴を上げはしたものの、団長が死んだことに心底ほっとする捕虜たちの姿があった


「コレが結果だ。殺していいタイミングを見誤るな。」


 ………くそっ! じゃあ僕の行動は全部裏目ってことかよ。


「ただ、お前が魔王の子だから、という理由ですべてが否定される可能性もあるがな。」


「完全に善意で完璧に人を助けても意味ないってのかよ。」


「そうなるな。」


 ………。




「あ、りお!!」




 僕が悔しさに拳を握っていると、ルスカが気絶した盗賊たちを踏み越えて僕の所に走ってきた
 ルスカもこんな危ない所に乗り込ませてしまったとは………。


 攫われた身で、兄として情けない。
 ごめんね、心配かけて。




「しんぱいしたの!」


「ふぼわ!!?」


 そのまま、全力で僕に抱き着いてきたため、僕は後ろにひっくり返ってしまった
 僕に馬乗りになったルスカはポロポロと涙を零しながら僕の胸に顔を埋めた




「ルー! 苦しいよ、離れてー!」
「やー! いやなのー!」


 グリグリと僕の胸に顔を擦りつける
 涙と鼻水で結構ぐしょぐしょだ。


 ルスカのだったら全部許そう。
 ぶっちゃけルスカの鼻水だったら飲んだっていい。


 でも体がべっとりにされるのは正直、不快だ。


 ルスカを僕から引きはがそうと力を込めるけど―――ありゃ、やっぱりダメか


 僕とルスカじゃ腕力に差があってルスカをどかすことができない。
 されるがままだ。


 自分に重力を掛けたり筋トレしたりして頑張ってるんだけどなぁ。
 ルスカは元気に楽しそうに走り回っているだけで相当体力をつけているみたいだね。


 うらやましい。


「あー………。リオル。ルスカはこんなに長い時間、お前と離れたことが無いらしくてな寂しがってあやすのが大変だったぞ。それに、この洞窟にも言いつけを無視して何度も突入しようとしていた。」


「うわぁ………」






                  ☆




『ぜにすー、りおはー?』


 私がルスカを背負ってリオルの糸を辿っていたのだが、ルスカがリオルが居ないことに不安を覚えてな。ずっとこの調子で聞いてきたのだ。




『うむ。ちょっと待つのだ。リオルはお前の為に攫われてしまったのだ。それを今から助けに行くのだぞ』


『るーのせい? うぅ………るーのせいで、りお、いなくなっちゃうの?』


『ルスカのせいではない。リオルの不注意だ。だが、安心しろ。かならず助け出す』


『うゅ? ん………がんわる』




 ルスカは意味を理解してはいないのだろうが、またお前に会えるのだと張り切っていた。
 何度も泣きそうになっていたがな。




『あそこ! りおがいるの!』




 洞窟のそばまでたどり着いたら、ルスカが洞窟内に走り出そうとしてな。
 よっぽどお前が心配だったのだろう。
 リオルを助けるために何も考えずに洞窟に突入しようとしていたので、到着してから10分ほどルスカの説得に時間がかかっていたのだ。
 やはり兄妹だな。お前たちはこの辺がよく似ている。
 とくに、深く考えずに突っ込もうとするところがな。


 そしたらリオルからトラブル発生の知らせを受けてな。
 私達の隙を突いてルスカが洞窟の中に飛び出して行ってしまったのだ。


『なんだこのガキ! うわ、なにしやがる!』


『りおをかえしてー!』


『げふっ! なんだこいつ! 早さが尋常じゃねェ! グハッ!』


 振られる剣にも臆さずに、ルスカは入口にいた二人の盗賊を《ブースト》のみで倒して見せた。
 あれは見事だった。リオルにも見せてやりたかった。




 さらに、洞窟内部でも魔力の濃い空間があってな。そこがリオルの闇のテリトリーだったわけだが、その中でもルスカは頑張った。
 本当なら私には魔眼があるから暗視の魔法は必要ないのだが、ルスカは暗視の魔法を私とフィアルにまでかけて、なぜか足を押さえている盗賊たちの後頭部に、ルスカは大きな石を持って殴りつけたり膝蹴りをしたり、フィアルから預かったナイフで首を刈ったりしていたぞ。


 足が折れていた盗賊がいたが、あれはリオルがやったのだろう? 私達に任せておけばいいものを………。


 もはや私達にはルスカの行動は止められなかった。
 そもそも、止めなくてもルスカはきっとやり遂げただろう。


 お前よりもルスカの方が殺すタイミングをよく理解しているように感じるぞ。
 この辺がルスカとお前の違いだな。
 実際ルスカは交戦したものを全員殺した。






                  ☆






 ルスカに押し倒されルスカにされるがままの僕は、ゼニスの話を聞いて絶句した


 ルスカの戦闘力はとんでもない。
 本当に4歳児か? 


 聞いているかぎりでは魔法は暗視の魔法しか使っていないようだけど、にしても戦闘力が高すぎる。
 魔力だけの僕とはえらい違いだ。




「そっか………ルスカと離れる訓練でもしてみるよ」
「やー! ずっとりおといっしょなの!」




 とはいっても、ずっと僕にべったりじゃこの子の将来に不安が残る。
 それに、躊躇なく人を殺すことができるルスカが、ちょっと怖い。


 ルスカの前で人や動物を殺してきたからかな。
 ルスカの教育を間違えたようだ。


 何と言ってもルスカは神子なんだ。
 僕と一緒じゃなにかまずい事でもあるかもしれない。
 現に僕と一緒に居て人道からかけ離れて行ってる。


 当面の目標は、僕と30分離れ続けることができるのか。ということかな。
 今まで、30秒以上離れたことは無かった気がするもん。




 そんなルスカにとっては、僕は半身みたいなものなんだろう
 。産まれてから片時も離れた時がないんだ。当然か。


 ルスカがこんなに情けない兄貴をいつまでも慕っているなんてダメだな。
 ルスカは魔力だけの僕なんかよりもずっと強い。




「そもそも、リオル! お前はなぜ戦ったのだ。相手も目が見えなかったからよかったものの、お前の闇のせいで私達まで戦いにくくなったぞ。」


「うっ! ………じ、時間稼ぎをしようと思って………」


「時間稼ぎをしたいのであれば牢の中から土壁でも作ってから私達の到着を待っておけばよいであろう。なぜわざわざ牢から出たのだ………」


 心底呆れたような口ぶりでため息を吐いた。
 うぐ………思い返せば僕の無駄な行動がいっぱい出てくる


 後になってこうしとけばよかったってのはどうとでも言えるけど、たしかに最初から土壁を作って牢を守っていれば僕が怪我する必要も、そもそも僕が牢から出て無意味に戦う理由もなかった


 たしかに、キラの擬人化が解けて僕もすこしパニックになっちゃって正常な判断を下せていなかったのもある。


 冷静だったら、もう少しうまくやれただろうか。
 ifの話をしても、わかるわけがない。




「だ、だって………あの闇の中だったら勝てると思ったんだもん」


「だってではない。過信しすぎだ。無事だったからよかったものの………
 お前はタダの子供だという自覚が足りん。
 あと状況を読む力も足りないな。リオルの行動には理解ができないものがある。過信しすぎるから怪我などするのだ。そんなことだからバッファローの子供にすら負けてしまうのだ」


 そう言ってゼニスはハルバードで僕の肩を小突いた。
 盗賊ダズに付けられた傷だ。


「っ~~~~~~!!」
「お前はしばらく私から離れるな。離れてしまえば何をしでかすか全くわからん」




 ………今回ばかりは何も言い返せない。


 待っていれば解決するはずだったのに。
 自分から動いて自分が怪我してれば世話ないね。


「………ごめん。」
「うむ。わかればよいのだ。」


 そう言うとゼニスは牢の中に視線を向ける。


 そこには怯えた表情を僕に向ける捕虜。
 さらにはゼニスには羨望の眼差しを向ける者までいる。


 ゼニスの言っていることが正しかった。
 結果的に僕が生きているからよかったものの、その無駄な行動で僕が命を落としていたかもしれないし、牢屋内の女性たちを危険にさらしていた可能性もある。


 生きているからよかった、だけではダメなんだ。




                   ☆




 とりあえず、先ほど牢の中に蹴りいれた道具袋の中から衣服を取り出し、女性たちに着てもらう。
 いつまでもボロ布じゃみすぼらしいし、今からファンタの町に帰らないといけないのに、ボロ布じゃあまずいよね




「あの………」




「む?」






 僕とルスカがイチャコラしていると、ウサ耳の女性が声を上げた。
 このウサ耳さんはボロ布ではなく、服を着ていた。
 明日の朝、競りに出される予定だった人だろう。間に合ってよかった。


 その隣で女性の手を握る僕と同い年くらいのウサ耳の男の子は赤い瞳でじっと僕を見つめる。


 なに? 僕の顔に何かついてる?


「あなたが、助けてくれたんですか?」
「そうだ。私はそこのリオルたちが攫われてしまったから、助けに来た。
 お前たちは運がいい。売られてしまう前に助けられてよかった。」




 ゼニスが指差す僕に視線を映した女性たち。
 僕が魔王の子だからか、ゼニスにも懐疑的な視線を向ける。


「あの、あいつを殺してくれてありがとうございます! スカッとしました!」


 一人の女性がゼニスに感謝の言葉を述べた。
 なぜだ。


 僕は自分が嫌われないために………『魔王の子は軽々しく人を殺さない』と印象付けるために盗賊を殺さなかったはずなのに、なんで有無を言わさず殺したゼニスが感謝されているんだよ


 ………いや、ここの牢にいる人たちはそれだけのことをされているはずなんだ。
 盗賊たちを殺したいほど憎いはずなんだ。


 僕はそれを読み間違えた。
 ゼニスの言うとおり、僕の行動は全部裏目に出たんだ………。




「あ、あなたは、魔王の子を助けるために………?」
「そうだ。だが、魔王の子といえども、子供だ。この子に罪はない。」
「で、でも………」


 女性はチラリと僕を見る
 僕ってそんなに信用ないかなぁ。………しかたない


 僕はルスカの頭のバンダナをはぎ取った。






「「「 ッ!! 」」」






 白い髪があらわになり、それだけで周りの人間はルスカが神子だと悟ったようだ。
 ルスカの白い髪には、神子だと思わせる何かがあるのだろう。
 僕の時だってそうだった。


 僕が数百年に一度しか生まれないはずの魔王の子であるというのに、なぜか周りが納得する。
 この髪は、そういう風にできているんだ。


「なんで、神子様が魔王の子に………?」


「知ってるでしょ? ローラは神子と魔王の子を産んだんだって。一緒に居るのは当然だよ。
 伝承がどうなのかは知ってるけど、神子が魔王の子にこんなに懐くんだよ?
 僕はこの子が大好きだから傷つけたくないし、ルスカも僕に攻撃したりはしないよ。
 伝承では仲が悪いはずの僕たちがこんなに仲良くしているのに、なんで伝承とは関係ないはずの人間がそれをできないのかな。
 僕にはそれがとっても不思議なんだよね」


「リオル。その皮肉を止めろといつも言っておるであろう」




 ゼニスが僕の頭にゲンコツを落とす


「いたい! ………うぐぐ………善処するよ。」




 でも僕の皮肉が伝わったのか、牢の中の女性たちもすこしは納得したようだ。
 ちょっと安心した。


 まぁそれよりも、僕を殴ったゼニスを心配そうに見るからものすごく不愉快だけどね。




「さて、すでにリオルから説明を受けているだろうが、お前たちを助けに来た。」




 ゼニスが宣言すると、何人かの人が安心した息を吐いた。


 ルスカの髪を露出させたのが効いたのだろう
 僕の信用が得られないのは、やっぱり『魔王の子だから』だよね。


 つくづく、嫌な世の中だ。


「し、信じられないわ! だって魔王の子よ! あなたも魔族なんでしょう!
 また私達を騙そうとしているに違いないわ! 白い髪の子も魔族の擬態よ!
 魔王の子が神子と一緒にこんなところに居るなんてありえないもの!」


「おかあさん、おちついて。あの人たち、ウソは言ってない」


「で、でも! ラピスは見たんでしょ! 魔王の子は盗賊たちを誰も殺さなかったって!
 殺せたはずなのに殺さなかったのよ! 悪党を殺さないでおいて、なにが助けるよ!
 また私達を攫いに来るに決まってるじゃない!!」


 ウサ耳の女性が取り乱したかのように言い放つ。
 ウサ耳の男の子はその人を宥めるけど、効果は無い。


 ウサ耳の男の子はラピスって名前なのか。
 なんというか、兎さんらしい名前にちょっとだけほっこりした。




 ふーむ。魔王の子に従順な白い髪の女の子。
 たしかに、魔王の子やその魔法を目の当たりにした後で神子を見ても信じられないだろう


 魔族ってのがなんなのかはよくわからないけど、僕の存在のせいで全部が怪しまれてしまっている


 僕が女性たちに嫌われないようにした行動で、逆にこの女の人を怯えさせてしまっている


 あの時、どんな行動をしたらよかったのか、全くわからないよ………。


 最悪だ。




 この世界では、人の命はそんなに軽いモノなのか。
 すでに何人も殺している僕が言えた義理ではないけれど。


 悪党を殺さなかっただけで、ここまで言われるようなことなのかな。
 たしかに、僕が起こした行動は最善策ではなかったかもしれない。


 むしろ悪手だっただろう。
 でも、それでもあの時の僕はこの人たちを助けようと思って行動した。


 それが、そんな言われ方をされてしまうと涙が出そうになった。






「無駄な問答はよそう。フィアル! 準備はできているか!」




 そこで、ゼニスは時間の無駄だと言わんばかりに話を打ち切ってウサ耳の女の人をシカトすることに決めたようだ。
 無理やりにでも村に連れて行って信用してもらうしかないよね。




「はい! できてますよー! 《ゲート!》」




 フィアルの無属性魔法だ。
 目の前の空間がグニャリと歪んだ。


 フィアルの無属性魔法は《門魔法》


 設定した地点に繋がるゲートを作成する魔法だ。
 設定できる数は5つまで。


 一つは中央大陸西部の王都
 一つはフィアルの自宅。
 一つは中央大陸西部にあるアルノー山脈、紫竜の里
 後二つは未設定のはずだ。




 でも、今ここでフィアルがゲートを開いたということは―――




「この《ゲート》はファンタの町に繋がっています。
 みなさんはここを通ってください! そしたら町に出ます!」




 一つをファンタの町に設定したようだ。
 これで安心してもらえたら―――




「イヤ! そんなもの通れないわ! きっと《魔界》に繋がっているのよ!
 魔族に食べられるなんてごめんよ!」


 この女、我がままもいい加減にして欲しいな。




「生きたくなければ死ねばいいよ。
 でも、死なないためには生きる道を選ぶしかないんだ。
 こんなところで盗賊に売られてしまいたいのであればここに居ればいい。
 もとはと言えばここにいるみんなの救出はついでなんだ。
 そんなに盗賊に売られて奴隷にされたいなら、僕は引き留めたりしないよ。」




 僕を信用しないなら痛い目に合えばいい。
 善意で動いているはずなのに、そういうことを言われるとなにもかもがどうでもよくなってくる。


 自分で選んだ選択肢に後悔しておけばいいよ。
 僕たちは道を示した。


 この女は僕たちの敷いたレールに乗らなかっただけだ。


「リオル、その皮肉のせいで嫌われるという自覚が足りんな」


「だって、最初に助けるって説明したのに誰も僕を信用してくれなかったんだよ!?
 なんで助ける側の僕たちが損した気分にならないといけないんだよ!」


「そういうときもある。リオルは思ったことを口に出さないように我慢しろ」




 くそっ! なんでいつもいつもうまくいかないんだよ


 それに、僕が『魔王の子だから』、っていう理由だけですべて否定されそうなのに、なんでそんなことを言うんだよ。
 たしかに今回は僕が悪かったけどさ。


 もしかしたら、僕が最初に盗賊を皆殺ししても、もっとうまく助けることができても、最終的には僕が恐れられているのかもしれないんだ。『魔王の子だから』って理由で。
 もしそうだったら、耐えられないよ。


 でもまぁ、ほとんどの人はこれにすがるしか助かる方法がない事に気付いているようだけどさ。
 このままここに居ても盗賊に売られるだけだし、僕たちが盗賊を退治した後、ここからファンタの町まで歩いて帰るには時間がかかるだろう。


 一番近いファンタの町まで、体力は持たないはずだ。


「ローラ。」


「………う、うん。」




 安全なことを示してもらうために、最初はローラにフィアルのゲートをくぐってもらおうと思っていたんだけど、ローラの目線は僕に抱き着くルスカに釘づけだ。




「ルスカとはあとで時間を作るから。今はファンタの町に戻って。
 この《ゲート》をくぐればすぐ着くから。」


「ええ。リオル………」


「………なに。」


「ありがとう。待ってるね」




 フィアルの《ゲート》にローラが入って行った。
 何人かがローラの後に続いた。


 ゲートに入る前に、女性たちは気絶した盗賊を何人か蹴ってからファンタの町に戻った。
 捕らえられていたはずなのに、たくましい女性たちだ。


 この盗賊たちはそれだけのことをしているということなんだね。
 さっき投獄させられたばかりの僕にはわからない何かがいろいろあったんだろう。


 ここの女性たちは、盗賊たちを殺したいほど憎んでいただけの事。
 僕はそれを、読み間違えたんだ。




 事情をよく知らない隣の牢の男性たちは有無を言わさずゲートに通した。


 さて、残ったのは僕やゼニス、フィアルを魔族だと疑っている人たちだ。




「わ、私は絶対に行かないからね! ラピス、お母さんから離れないでね!」




 ウサ耳の女性は男の子の手を握ったまま壁際に寄る。


 ウサ耳の男の子は母親の言葉に返事もせず、僕とルスカを見て、視線を空中に移してからゼニスに向かった。


 この子は一体何をみているんだ?


 そういやさっき、この子の母親が僕が『盗賊を殺さなかったことを見た』って言ってたな。
 僕の視界阻害魔法のせいで目は見えないはずなのに………。


 この子は………魔眼持ちか?
 僕はウサ耳の男の子の視線を追うと、いまだに僕とゼニスには糸魔法が繋がっていた。
 おっと、解除し忘れていたようだ。




「苦情は助かった後、いくらでも聞いてやる。リオル。やれ。」


「やれって?」


「残った奴らを闇魔法でゲートに押し込め」




 うわお、なんかそれ、僕が嫌われそうだよ。




「でも了解。ウサ耳さん、僕は何度でも言うけど、一応助けるつもりだからね。
 あんま乗り気じゃないけど、助かってからその考えを改めてくれることを祈るよ。」




 ウサ耳の親子に向かって闇魔法を発動。
 引力を操って親子の体を浮かす


「ぴょっ!? ………びっくりした。」
「きゃああああ! なにをするの! 離して! この悪魔! やめろ――――!」




 男の子がなにやらかわいらしい悲鳴を上げた。
 『ぴょっ!?』 だって。すこしニヤけてしまった。


 それにくらべて母親ときたら………僕は悪魔じゃないっての。


「おかあさん、うるさいよ。それにあの子、ウソは言ってない」
「ラピス! お母さんから手を離さないでね!」




 うっさいうっさい。


 ウサ耳さんは子供にまでうるさいって言われているじゃん。
 というか、ラピス君、めっちゃ落ち着いてるね。


 お母さんみたいな反応が普通だと思うんだけどな。


 僕はなるべく慎重にフィアルのゲートに親子を通した。


 ゲートを通してしまうと僕の魔法の効果が打ち消された。


 ファンタの町の正確な場所がわからないからだろう。




「それじゃあ、私もファンタの町に行きますね!」




 最後にフィアルがゲートを通ってファンタの町に帰還する。




 洞窟に残ったのは僕とルスカとキラとゼニスだけだ。




「あれ? キラとルスカもファンタの町に送らないでよかったの?」


「うむ。今送ってしまったらフィアルが大変だろう。
 フィアルがファンタの町の駐屯兵の所で事情を説明に行く手はずになっている。
 子供が居ては邪魔になるからな。」


 ウサ耳の男の子、ラピス君は子供だけど被害者だからゲートでの帰還は仕方ないね。
 ここに居ても困るし。


「面倒事をフィアルに押し付けてしまって申し訳ないが、私達は盗賊の残党を狩るとしよう」






                   ☆






 僕は糸魔法の索敵で洞窟内部を隅々まで探索してみた。




 今度は同じヘマはしない。
 見かけたらすぐさま首を撥ね飛ばすつもりでいる。




「………あれ? 」




 だけど、僕はすぐに異変に気付いた




「ゼニス、おかしいよ。盗賊がどこにもいない!」
「む? おかしいな。私が《魔力探知》で地形を探った時は隠し通路の類は見つからなかったのだが………」
「あと、宝物庫に置いてある財宝なんかも全部消えてるよ!」
「む、リオル、案内しろ。」
「うん、こっち!」


 一度僕と離ればなれになってから、僕と離れたくないと駄々をこねるルスカの手を握りながらゼニスを案内する
 キラは竜形態のまま、ルスカの後に続いた。


 やっぱり、白竜は魔王の子である僕よりも神子であるルスカの方が好きみたいだ。
 キラはルスカに構って欲しそうに


『きぃきぃ』


 と鳴き声を上げるけど、ルスカが


『りおはるーのなの!』


 と、キラと張りあっていた。


 ルスカは竜言語を理解できていないんだ。
 なんでだろうね。ずっと一緒にくらしてるのに。




「宝物庫はここなんだけど………。ほら、何もない」
「ふむ………。」


 ゼニスは宝物庫に到着すると、部屋の中をぐるりと見渡した


「魔力が満ちているな。………ん? これは………。」


 ゼニスがしゃがみこんで地面に手を触れる


「どうしたの、ゼニス?」
「使い捨ての魔方陣の塗料だな。」
「魔方陣の塗料?」
「おそらく、送還の魔方陣だろう。」
「送還? えっと、よくわかんないけど………。盗賊たちはどこかに転移して逃げたってこと?」
「うむ。そうみたいだ。」
「どこに逃げたのか、場所はわかる?」


 僕がそう聞くと、ゼニスは静かに首を横に振った。


「………逃がしたか。」


 ………。僕のせいだ。


 初めから皆殺しにしとけば、こういうことにならなかったはずなのに
 これは僕の認識の甘さが招いた結果か。


 でも、僕がどういう行動を取っても嫌われるかもしれないと思うと、ちょっとだけやるせない気持ちになる。


「ここでフィアルを待とう。逃がしてしまったものは仕方がない。」


「………ごめん。」


「もうよい。これに懲りたら、お前は自分勝手な行動を慎め。」


「………うん。」


「反省しているなら洞窟内をくまなく探せ。これと同じような魔方陣があれば潰しておけ。召喚の魔方陣があるかもしれない」


「わ、わかった。」










 30分後。《ゲート》を使い、この洞窟に戻ってきたフィアルによって僕たちもファンタの町に帰還することになった。


 その間、召喚の魔方陣を見つけ出してから土魔法で地面をめちゃくちゃに耕した。
 これで魔方陣は機能しないだろう。


 団長の首以外の盗賊の死骸は、僕が火魔法で焼き払った。
 肉が焼ける匂いに、吐き気がした。







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