受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第31話 白竜の子 キラ

              ☆ リオルSIDE ★






 ―――ガタンゴトンと馬車が揺れ
 時代の波に身を任せ、着の身そのままに旅をする。
 流れに任せ、進むがままに道をゆく。


 ここはどこだろう。


 なんかおかしなテンションになっちゃって詩人になっちゃった。




Q.ここはどこだろう。


A.盗賊の所有する馬車の中。




 流れに任せたりするから盗賊の馬車に乗せられちゃうんだろうね。
 前世では散々恐喝されたり暴行を受けたりしたけど、誘拐されるのは初めてだ。
 なぜかわからないけど、テンションが上がった。気が狂ったのかな。




 いや、むしろ、僕は誘拐してもらいたかった願望があったのかもしれない。


 でも、どうせ誘拐されるなら前世か現世の3歳までにしてほしかったな。
 僕は今の生活を気に入っていたから。




「暇だなー。」
「ああああああああああああああああああああん!! にいさまああああああああ!!」
「よしよしキラ。兄ちゃんがついてるからねー。といっても、僕も手足を縛られているから頭も撫でられないんだけどね」


 僕は自分の現状を鼻で笑う。泣きじゃくるキラを宥めることもできない。


「ねーえ。グッヂさん。縄解いてよー。」
「解くわけねェだろ、馬鹿か!」


―――ガン!


「ッ!! 痛ったいなぁもう」


 魔法屋のババアの店にいたリールゥって子を麻布にクルんで先に馬車に乗り込んでいた盗賊、グッヂに手の甲で軽く殴られた。軽く、といってもこの体格差ではかなり痛い。
 グッヂの名前は馬車に入れられるときに盗賊同士の会話でわかった。


 それにしても、なんでうるさくしているこの子たちじゃなくて、聞いただけの僕が殴られないといけないんだよ。
 まあ、あんな小さな子だったら、ちょっと強めに殴ったら死んじゃったり折れたりするだろうし、商品価値を下げたくはないんだろう。


 でも僕は赤ん坊の頃から何度も蹴られてるよね。折れた骨が変な風に再生されてなくてよかった………。
 元から再生機能が高いみたいだし、あとはルスカの光魔法のおかげかな。
 なにはともあれ、殴られたのが僕でよかった。


 グッヂさんは追っ手を警戒してか、荷馬車から身を乗り出して後方を注意して見ていた。
 今ならうるさくない限り殴られないだろう。


 ちなみに、僕は手足を縛られる前に上着をキラに着せてあげたから、インナーしか着ていない。
 風邪ひいちゃうからそのくらいはいいでしょ、と盗賊に頼んだんだよ。あのタイミングじゃないと、キラはずっと裸のままだったはずだ。


 ぐずるキラの頭を撫でながら僕はこれからの事を考える。
 そう、頭を撫でながら―――あれ?


 あ、殴られた拍子かわからないけど、手の拘束が緩んでた。


「うううう! にいさま! にいさまああああ!!」
「大丈夫だよー。ほらほら、いないいない………べろーん!」
「ううう………? きゃはははは!」
「そーれ、こちょこちょこちょー!」
「きゃはは! やーめーっひゃあああん!」




 手が使えるならこっちのもんだね。
 僕はいつでもルスカを笑わせてきたよ。
 子供を笑わせる程度ならどんと来いだよ!
 暴れられたら困るから、キラの手足は縛られたままだけどね。


「よし、キラ。泣き止んだならよく聞いて。」
「きゃはは! ………? うー?」


 聞いてくれるかわからないけど、この子たちに制限を掛けておかないといけないことがある。
 むやみに身の危険を増やしてはいけない。


「(まずは、《白竜》に戻っちゃダメだ)」
「………?? なんでー?」
「(もし《白竜》に戻ったら、二度とマイケルやルスカに会えなくなるかもしれない。みんなにもう一度会いたいなら、僕の言うことを聞くんだ。)」
「えぅ………ぐずっ………。う゛ん………あいだい………」
「(いい子だ。キラは賢い子だって僕は知ってる。賢い子はこういう状況でも泣いたらダメだよ。笑って。ほら、ニコって。僕にかわいい顔を見せてよ)」
「う、ん………えへへ」
「えらいよ、キラ。」


 僕はキラの目元を指先で拭ってからキラのほっぺたから後ろ髪に掛けて撫でてあげた。


 すると、喉をひくつかせながらも、ルスカのようにだらしなく頬を緩めた。
 子供の扱いはちょろいね。


 今度は魔法屋のババアのところに居たリールゥって子だ。
 この子については、どういう扱いをしたらいいのか、僕も測り兼ねているところだ。


「ああああああああああああああああああああん!! うわあああああああああああああああああああああああああああああああん!! 」




 キラを宥めている間、盗賊が僕たちの行動に気付かなかったのは、この子の泣き声のおかげでもある。
 キラが笑い出しているのに、リールゥがずっと大声で泣いているから、かき消してくれていた。


 今度はこの子を宥めないといけないね。




「ふあああああああああああああん! おばあちゃ―――――――ん!!
 まぁま―――――――――!!」




 助けなんて来ないのに、助けを求めて泣きじゃくる子供。
 同じことばかり繰り返しててノイローゼになりそうだ。
 覚えている単語のレパートリーがまだ少ないのだろう。


 盗賊も同じような心境だったのか、舌打ち交じりに馬車の窓から顔を離した
 僕は慌てて手が縛られているふりをする。


 まぁ、縛られてても、無詠唱の火魔法で縄を焼き切れるんだけどさ。




「ひぐっ、えええええええええええええええええええええええん!! 」
「だーから、うるっせぇっての!!」


 額に青筋を浮かべた盗賊のグッヂは、拳を振り上げた。
 それはアウトだ。僕に放った裏拳よりも力が込められている。


「おいおい!」


 縛られた震える両足に力を込めて、僕はリールゥとグッヂの間に飛び込んだ。
 暴力に対して、条件反射的に体が硬直する。


 それも一瞬の事で、ぎゅっと目を閉じた僕は、顔を両腕でカバーし、右腕で拳を受けてガードするも


「いぎっ!」
「な!! お前!」
「にいさまー!!」


 腕から響く、グチャ! という不愉快な音と共に、僕は吹き飛ばされた。


 リールゥともみくちゃになってしまい、反射的に手を解放してリールゥを抱きしめると荷馬車の壁に背中から激突し、咳き込む。
 よかった………この子には怪我はなかったみたいだ


 ………いっ………てぇ………。
 うるさいってだけでここまでするか普通………。


 くそっ、右腕、折れちゃったなぁ。
 僕もまだ4歳だし、骨がまだ丈夫ではないんだろうな。
 ポキッと折れるわけでもなく、殴られただけで、グニャっと骨が潰れた。


 あー、なるほど。
 バッファローの子供相手に僕が勝てなかったのは、単純に僕の身体がまだ出来上がっていないからなのかな。


 あと、前世からいじめられていた時の癖で、恐怖で体が硬直してしまうのも敗因に繋がる。
 トラウマはそう簡単に克服はできないだろうな。
 いまでもやっぱりおっかない人は怖いし。


「ぎゃ! いいいいいいいあああああああああああ!!! うわ――――――――ん!!」
「ゲホ! あいたたた………今のをこの子に当てたら、その子たぶん死んじゃってたよ。」


 本当はあいたたた、で済む怪我じゃないんだよ! 魔力纏っててよかった。
 魔力を腕に纏ってなかったらたぶん僕もこの程度では済まなかったかもしれない
 くっそ! 今にも泣きそうだ! あああああ! いってぇえええええええええ!!




 っくぅ………! でも、表情を取り繕うのは得意だ。
 困り顔の仮面を貼り付けて、壁際で転がったまま盗賊を諭す。


「ゲホッ! ゴホッ! ………っ、僕の縄をほどいて………。この子たちをおとなしく………させる、から。」


 骨折による眩暈と痛みから視界が歪む。
 あー、気分最悪。………吐きたい。


「……………お前は聞き分けのあるガキみてぇだが、ガキの言うことを聞く大人がどこにいる。うるせえ方が悪い。」


 ペッ と転がる僕に唾を吐く。


 気分が悪いし視界がぼやける。
 でも、盗賊がどうしようもないクズでバカだということはわかった。
 この調子じゃ、アジトに着く前に僕たちは殴り殺されかねない。
 子供を攫う理由を考えろよ、自分で商品価値下げてりゃ世話ねぇや。


 殺される前に―――殺すか。


 ゆっくりと体を起こしてから僕はリールゥを守るように、後ろに庇う。
 僕の中で、盗賊グッヂの死亡が確定した。
 もう容赦なんかしない。手加減無しで、魔力全部使って、ぶっ殺す。


 僕は自由になった手で勝手に足の拘束を解く。


 左手一本じゃやりにくい。


「テメェ、なに勝手に解いてんだよ。」
「手の方は、あんたが殴った拍子に解けたよ。」




 よし、足の方もなんとか解けた。
 この盗賊、今はめんどくさがって動こうとしていないけど、荷馬車から逃がす気は無いようだ。


 この荷馬車の中には、グッヂ以外の盗賊はいない。
 馬車を操っている御者は僕とキラを煙幕に乗じて攫った盗賊だ。たぶん、町に来た5人の盗賊で、一番つよいのがそいつだろう。


 あのゼニスの目をかいくぐって僕を拉致ったんだ。腕は相当なモノのはずだ。


 盗賊団は他にも3人いたようだけど、それは宿屋でゼニスが縛り上げているから身動きは取れない。
 すぐに騎士団が捕まえてくれるだろう。


 馬車に乗り込んでから、3人を待たずに馬車を出発させていた。
 宿屋に来た盗賊三人が馬車に居なかったら置いていく手はずにでもなっていたのだろう。


 折れた右腕がズキンズキンと脈を打つ。
 左腕で瞳から落ちる液体と、頬に付着した唾を拭って目の前の男を睨みつける。


前世から痛みには耐性がある。痛いのは嫌だけどそれなりに慣れているんだよ。






「なんだ、そのナマイキな目は。文句でもあんのかァ!? ぁあ!?」


「きったないツラだね………」


「ああ!? し、死にてぇみてぇだな! クソガキが!!」


 武器商人でも襲ったのだろう、装飾された長剣を僕に向けたグッヂ。


「死にたいのはどっちだ? 僕は今、ものすごく怒っているんだよ。
 僕に向かってよくまぁそんな大口叩けるものだよ。感心したよ。敬意を称して、跡形もなく消し飛ばしてあげるね」




 にこっと微笑むと、グッヂは自分がこんな子供に舐められていると思ったのだろう。
 顔を真っ赤にして切りかかってきた。
 避けるのはまずい。後ろにリールゥが居る。


 糸魔法や闇魔法をどう駆使したらこの状況から脱せられるのかは、この一瞬ではわからない。思考の時間が足りない!
 だから僕は、土魔法の防御力に頼ることにする。


いったん防御してから一気に叩く!




「 《軽金属板ミスリルプレート!》 」




――――ギィン!


「なっ!」
「っあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」




 僕は土魔法で目の前にミスリルの板という即席の盾を作り、左腕に《ブースト》をかけて盾ごと、その剣を思い切り弾き返した。
 高く済んだ音が荷馬車の中に響き、盗賊グッヂが驚愕の表情に変わる。
 そりゃそうだろう。ただのクソガキの目の前に金属が現れて、それに弾き返されたんだから。
 弾く音と同時に、僕の手首が砕ける音も聞こえてきた。


 ただ防御したいだけなのに!
 手首まで折れるとは思わなかった! クソッ!!


 頭が真っ白になるような激痛が僕を襲う。
 気を失ってはだめだ。意識を保たないと!


 《ブースト》のおかげで部位ごとに爆発的に身体能力が強化されると本当に便利だ。
 弾き返すために、足腰の力が足りなかったから転んじゃったし左手首も折れたけど、剣を弾き返すことができた。


 《身体硬化》みたいな技術はないのだろうか。魔力を込めるだけじゃ防御力に難があるし、《ブースト》を使って攻撃するたびに僕の腕が折れるんじゃ意味がないもんね。
 あとでフィアル先生に聞いてみよう。




 僕は肉弾戦は得意ではないから、別に両手が使えなくたってもいい。
 僕は闇魔法に任せて手も力も大して使わずに立ち上がることができる。


「ううううう……………いたい………くぅ」
「なんで弾かれ………!? っ!? おまえ、浮いて………何者だ、貴様!」




 地に足を着いて立ち上がり、僕は盗賊グッヂを見据える。
 すぐさま闇魔法を発動。


「何者でも、いいよ。 《闇穴 ブラック・ホール》」
「答え―――(ヒュゴッ!)」




 僕はグッヂを核にして極小の極大引力ブラックホールを発生させるつもりで思いっきり上下左右から加重を掛けた。
 でもブラックホールなんて発生しなかった。
 腐るほどある魔力のほぼすべてを持って行かれるこの魔法。完成には程遠いか。


 思いつきはしたけど、なかなか実行に移せなかった魔法だ。
 いい実験台が転がっていたものだ。


「―――ゼハァッ! ハァ………ハァ………いたいよ………。うぅ………答えるわけが、無いだろ………クソが………」




 うう、両手がイカレてしまっているから、痛みでこらえきれずに溢れてきた涙を拭うこともできない。




「子供に対する理不尽な暴力が………一番、許せないんだよ。」




 グッヂは直径7㎝くらいの赤い珠になって死んだ。
 痛みを感じる暇もなかっただろう。


 技名は変えた方がいいかな。《紅球デッドボール》に変更だ。


 それと、やってから後悔した。
 物質を凝縮するのはいいけど、水は体積は変わらないんだよなぁ。


 荷馬車の床一面は、血と脂で水浸しになってしまった。
 凝縮した瞬間に内側から血が弾けたんだ。
 ブラックホールに飲み込まれて消滅してくれたらうれしかったのに。


 人間の体って60%くらいが水分なんだっけ?
 赤い珠にこうなると、人間ってのがいったいなんなのか、わからなくなるね。
 こんな赤い珠がさっきまで人間だったんだよ。滑稽だよね。


 僕は火魔法で床の血を蒸発させ、グッヂだった赤い珠は、荷馬車の外に蹴り出して捨てた。
 これが僕に歯向かったヤツの末路か。
 床に付いた血の跡は、土魔法で土を練り出してごまかしておいた。
 これで血の匂いもいくらか薄れるだろう。


 本格的に魔王みたいだね、僕は普通に生きたいだけなのに。


 深く息を吐いてズルズルと壁にもたれて、座り込む。


「いっつ………ははは、もう腕がぐちゃぐちゃだよ………」


 腕にはもう痛み以外の感覚が無くなってる。
 ルスカはいない。故に光魔法で治癒してもらうこともできない。


 こりゃ、おとなしく攫われる、という考えは間違ってたかもしれないな。


痛いのには慣れててよかった。まだ、耐えられる。




「ああああああああああああああああああん!! おば―――ちゃああああああん!!」


 うっく………泣きたいのはこっちだよ。


 またしても幸いか。リールゥが泣き続けていたから、御者をしていた盗賊の男は先ほどの戦いにも気づいていないようだ。
 荷馬車が隔離された閉鎖空間だというのも大きい。




「にーさま! てが!」




 キラがずりずりと芋虫のように這いながら僕の方にやって来た。
 ちょっとほっこり。
 でもやっぱり手が痛い。痛すぎる
 もういやだ


 今ある属性の魔法で治癒魔法って何ができるかな………。


 治癒で一番いいのは光で、その次に水属性。
 火魔法は血が出るような傷の時に傷口を焼いて閉じるくらいしかできないし。
 風魔法じゃそもそも治癒ができない。血を空気に触れさせて血を固まらせるくらいか。
 土魔法ならどうだろうか………骨の形を元に戻すくらいはできるだろうか………


 治癒する予定なのに、骨の破片を腕の中で動かしたら痛みで魔法を使うどころのか集中力を持続するのすら不可能だろう。
 考えただけで痛そうだ。現在進行形で痛いけど。




 やめやめ。今の僕じゃ、ゼニスにつないだ糸が切れないように維持するのが精一杯だ。
 こんな状態じゃ骨の再生だってやろうと思っても魔力が無くなって終わりだ。
 治癒はあきらめよう。


 ゼニスに連絡を取ろうと思ったけど、距離が遠いから魔力が尽きる。
 魔力が回復したら、すぐに呼ぼう。




 とりあえず僕はキラの手足を縛っている縄をろうそく程度の火を呼び出し、焼き切った。
 すると、キラは待ちきれなかったかのように立ち上がって僕の手を取った


「にーさま、いたい?」
「いっ! あー、うー………まぁ死にはしないよ………」
「うぅうう………」


 僕が大丈夫だと言ってるのに、キラは目元に涙を溜めた


「約束。」
「うう………やぁだ………」
「泣かない。」
「やぁだぁ………」
「笑顔。」
「うああああああああああああああああああああん!!」


 はぁ、とうとうキラも泣き出してしまった。
 頭を撫でてあげたいけど、体力がない。


 手も痛いし。


 盗賊団のアジトってどの辺かな。
 ローラの生存の確認だけのつもりだったけど、こんなに怪我するとは思わなかった


 はあ、とため息を吐いてから僕は荷馬車の天井を見上げる。あと何時間後に着くんだろう。






――――ガブ!






 ガブ時間。そうか、ガブ時間か。


 ガブってなに?


「ふぐぅ! うううううううううううううううう!!!」






――――ミシミシミシ!!!






 左手首の方から変な音が聞こえるし、なに!? めちゃくちゃ痛い!!


 見てみれば、キラが泣きながら“僕の左手首に噛みついていた”。骨が折れたところを、ピンポイントで!




「いたいいたい、いたたたた!! いってえええええええええええええええええ!!!
 いだい! 離れなさい、キラ!! いきなり何するんだ!!」


「う―――――――!!!」


「うわああああああああああああああ!! うー! じゃないってば! 離れてよ!」


ふぃやらいやだあ―――!!」


 僕は絶叫しながら力いっぱいキラを押しのけるけど、2歳児体系とは思えぬ顎力で、食らいついた左手首から離れようとしない!


 それに僕の右手が潰れているから、キラを押しのけようとすると僕が痛い!


 なんなのこの子! なにがしたいの!?


―――――ミシミシミシ!!


 顎の力が強いから僕の手首がちぎれちゃうんじゃないかってほど噛みついている!


「ちぎれるちぎれる!! キラ! ごめん、僕が何か悪かったんだろ!? 謝るから! 離して!! いだあああああああああああああああああああああああ!!!」


「う――――! ………ぷへぇ!」




 ようやく解放された………。
 うわぁ………手首にくっきり歯型とよだれが残ってる………
 血も出てきた………


 ミシミシって変な落としてたけど、手首、ちゃんと動くかな………




「コラ! キラ、痛いじゃないか! なんでこんなことしたの! せめて理由をおしえてよ!」


「うー………にーさま、いたそうだったから………」


「痛そうだったら痛い所を噛まないで!」


 涙を拭ってから左手首の調子を確かめる。
 うぅ………折れた手首にさらに追い打ちとか、拷問だよ………お?


「………あ、れ? 左手首が治ってる………」


 歯型がくっきりついて血が出ているし、骨に鈍痛が残っているけど、それを除けば左手は万全の状態に戻っていた。


「な、なんで!? これ、キラが………?」


「ぅん………。こーすれば、にーさまよろこんでくれるとおもったのです。………ごめんなさいでした。」




 しゅんとするキラ。
 そっか、あれは僕の怪我を直そうとしていたのか。


 でも、それならそうと言ってくれればよかったのに………。
 しかし、そうか。キラはルスカが《魔力譲渡 》して孵った白竜だ。


 光属性の魔力を持っていてもおかしくない。
 本能的に、どうやったら僕の腕を直すことができるのかを悟ったようだ。
 キラは光魔法を知らないし、治癒の魔法も分からないだろう。
 ただ、噛まれた傷口を通してキラの治癒をしたいという気持ちのこもった光属性の魔力が僕の骨に直接働きかけた、というのが僕の推論。魔法の世界万歳!


 結局はよくわからないけど、キラが光属性で助かった。
 一緒に拉致られていたのがマイケルだったらどうなっていたことか。


「怒ってごめんね、ありがとう、キラ。」
「んへへ………にーさま、きら、やくにたった?」
「もちろん! 大助かりだよ!」


 治った左手でキラの頭とほっぺを撫でてあげる。
 この目を細める仕草がルスカとそっくりだ。


 よし、怪我が治るとわかればこっちのもんだ。


 僕はキラに右腕を差し出した


「キラ。あともう一回。右腕にもさっきのをしてくれない?」
「わかったのです! ―――はむっ!」




―――――ガブ!




―――――ミシミシミシ!!






「ひっ――――」






 僕の絶叫は割愛するよ。






                   ☆




 一通り絶叫した後、僕とキラは二人掛かりでリールゥをあやした。
 泣くことに体力をほとんど使っていたようで、泣き疲れてすぐに眠ってしまった。


 僕は荷馬車の中にあった布でリールゥを巻いて、抱っこした。


 キラと一緒にリールゥの寝顔を堪能しました。
 あのババアの孫とは思えないくらいキュートな寝顔だ。
 でもこの子は男の子だった。子供の寝顔はそれだけで凶器だね。かわいい。
 髪の色は金色。目の色は蒼色。
 ああ、この子は将来イケメンになる。




 リールゥが起きたら、泣かさないようにしよう。


 僕は寝てても糸魔法を解かないように設定してから目を閉じる。
 リールゥを抱きしめながら魔力の回復に専念することにする。


 キラも僕の両腕を治してから、ちょっとダルそうにしていた。
 ドラゴンと言っても、やっぱりまだ子供なわけで、魔力の量は少ないんだろう。
 キラは僕に体重を預けて寝てしまった。




 僕もそうとう魔力を使ってしまった。
 どのくらいの魔力で何が起こるのかを把握しないとな、今日は無駄が多かったな。
 雑魚相手に使うような技じゃなかった。


 魔王や神に匹敵する魔力をすでに持っているって話だけど、まだ無駄があるってことなんだろうなぁ。
 盗賊を珠に変えた魔法は、魔力を全部使うくらいの気持ちでは本気で使ったから、魔力の残量なんて気にしていなかった。


 反省。


 姿の消えた盗賊グッヂについては、知らぬ存ぜぬを通した。
 僕は4歳児だよ。怖くてずっと目を閉じてたからなにも知らないのだ!











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