受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第29話 ★盗賊 vs フィアル(丸腰)



 僕は今日、魔法屋で昔懐かしクソババアに出会った。
 殺意を押さえながら帰路についた。


 そして、宿に帰りついたらあら不思議。


 ミニドラゴンちゃんたちが擬人化しているではありませんか!


 擬人化した竜たちは元気に宿屋の部屋を走り回っている。
 バタバタとうるさい足音が頭に響いてうざったいね。




「うゅ? だぁれ?」




 ルスカは子竜と擬人化した竜たちを結びつけることができていないようだ。


「ええっとぉ、ミミロちゃん?」


 フィアルは、紫紺のあほげを揺らす女の子を指差してから僕の方を向く。
 ねえ、なんで僕に確認を取るのかな?


「あ、フィアル殿! いいところに帰ってきてくださいました! ちょっとこの子たちを止めてほしいのであります!!」




 紫紺の髪からアホ毛を出した2歳くらいの女の子が、変な口調で饒舌に懇願する。
 なんだこの光景。


 ゼニスは壁際に片膝を立てて座って寝ている。
 この騒ぎで起きないほど、結構疲労が溜まっているようだ。


 もしくは気づいていて面倒くさいから関わらないようにしているか。




「ぶ――――ん!」 「ふきゃ――――!!」
「………。」




 おそらく後者だよね。
 今、眉がピクリと動いたもん。






「………しかたない。僕がやる。」


 僕は闇魔法を使い、2匹の動きを封じる。
 重力2倍を部屋全体に掛けると、黒い髪の男の子『マイケル』と白い髪の女の子『キラ』の動きが鈍った。


 紫紺の髪にアホ毛をぴょこぴょこと揺らすミミロは僕の魔法で床に倒れてしまう




「むきゃ! びえええええええええええ!! 」


 マイケルも体が思うように動かせなかったようで、地面に転んで起き上がれなくなってしまった。
 これが狙いだもんね。後は、回収するだけだ。


「あーもう、泣かないの。………お?」


 2倍重力の中を平然と歩く僕は、もちろん自分への効果は打ち切っていますとも。
 そんな中、キラが一生懸命よちよちと這いながらマイケルの方へと向かい、




「ちぬなー、まいこー!」




 と、懸命にマイケルを激励していた。やばい、今のキラにちょっと萌えた。


 キュン! とした!


 僕が倒錯的なローリングさんだったら、確実に襲い掛かっているね!
 そんな凶悪なかわいらしさが、そこにはあったもん!




「まいくはきらがころすのですー!」




 と思ったら白竜さんはトドメを刺したいだけであったようだ。
 白竜と黒竜が犬猿の中だというのは、兄妹であっても適応されるのかな。
 僕とルスカは仲良しなのにさ。




「ふ………ぎぎぎ………うあー!」




 そんなセリフに顔を青くしたマイケルさんは、2倍重力を受けながら、ぷるぷると震えながら雄々しく立ち上がった!


 おお! すごいぞマイケル!
 僕は1.5倍の重力を自分に掛けたら転んですぐあきらめたのに!


 やっぱりドラゴンの筋力はすさまじいものがあるみたいだ!




 だけど、遊びはここまでだよ。
 僕は闇魔法を打ち切って、立ち上がったマイケルを頑張って抱き上げる。


 2歳児体系と4歳児体系では身長に大人と子供ほどの差も無いので、抱き上げるというより後ろから抱きしめる程度でしかないけど、僕の膝の上に座らせた。


 骨盤がももに当たって結構痛いよ。


 でも逃がさないように両手でしっかりとシートベルトまで閉める。




 ルスカも同じようにキラを後ろから抱きしめていた。あらかわいらしい






「ふぅ、ふぅ………さすがリオ殿! その魔法があれば何でもできますね!」


 肩で息をしていたアホ毛の女の子は、バランスを取りながら二足歩行でおぼつかない足取りながらも、僕の所に歩いてきた。


「うん。便利なのは認める。あと、一応確認するけど、君はミミロ………で、いいんだよね?」


 アホ毛の女の子はミミロと同じ、紫紺の髪をしているから、この子もミミロが擬人化した姿だというのはすぐに分かったけど、一応確認をしてみる。


「はい! わちきは今こんな姿をしておりますが、ミミロであります!」




 その返事を聞いて、一人納得する。
 2歳くらいの女の子が敬礼しながら自信満々に言い放つ姿に、僕は笑ってしまった
 こりゃミミロだわ。




「それじゃあ、答えてもらっていいかな。なんで擬人化してるの?」


 これが一番気になっていた疑問だよ。
 帰ってきてそうそうにキラケルとミミロが擬人化しているんだもん。


 そりゃあいつかは擬人化するとは思っていたよ。


 でも今だとは思わなかった。




「はい! 族長殿に教えていただいたのであります!」


「ゼニスが?」


 たしかにゼニスも人間に擬態することができるね。
 だから、手っ取り早く擬人化の方法を覚えるにはゼニスに聞くのが一番だということかな。


 ゼニスはフィアルと違って教えるのが上手いんだろうなぁ。
 フィアルは数日で前衛の剣士しか体得できないような技術ブーストを覚えたみたいだし、フィアルよりもゼニスの方が先生役として適任なんじゃないかな


 そしたらフィアルの存在意義がなくなるね。
 一応魔法について教えてもらえるのはフィアルがいないとできないけど。


 僕はゼニスの方を窺うと、わずらわしそうにふんっと、鼻でため息を吐いていた。


 やっぱり寝たふりだったんだ。




 子供が5人と大人が二人。この大部屋もいつの間にか大所帯になってしまった。
 僕はため息を吐き、もっとも当たり前のことを口にする。




「とりあえず、ミミロとキラとマイケルに、服を買ってあげないといけないね。」




 そう、今の今まで、擬人化した竜たちは全裸だったのだ。
 せっかく宿屋に戻ってきたけど、また出かけないといけなくなった。


 とりあえず、申し訳ないとおもいつつ、フィアルにお使いを頼んだ。
 ごめんね。


 僕とルスカはマイケルとキラを動かないように拘束する役目があるからね。










             ☆ フィアルSIDE ★










 私の人生は最近おかしい。


 人類の運命を左右するような一大事に遭遇してばっかりだ。


 まずはリオル。あの子は魔王の子だ。
 つぎにルスカ。この子は神子。


 400年前の勇者物語でも、この二人は衝突していたにもかかわらず、この時代の神子と魔王の子はまるで恋人かのように仲がいい。


 とくにルスカちゃんがリオルにべったりだ。




 そして、こんどは色竜カラーズドラゴンについて。


 私が《魔力譲渡》なんて技術を教えたばっかりに、黒竜と白竜が産まれてしまった。


 黒竜はリオルが責任を持って世話をしているし、白竜もルスカちゃんがちゃんと面倒をみている。
 白竜はいつも楽しそうに黒竜を虐めている。
 姉弟喧嘩もよくする。
 黒竜は白竜から逃げるようにリオルの後ろに隠れる。


 これが子竜たちのいつものパターンだ。
 本能で自分たちの宿敵が誰なのか、わかっているのかもしれない。


 それを宥めるミミロちゃんも、たいへんそうだ。






 それが、まさか3人とも擬人化するなんて………




「世の中には本当に不思議なことが溢れているものだね!!」




 私は現実逃避をするべく、声を張り上げる。
 私はいったい、何をしているんだろう。


 私が居るパーティは、明らかに人外しかいないよ。


 常識からかけ離れた人しかいない中で、ちゃんとした人間が私一人。


 ちゃんとやっていけるのかな。




 おっと、考え込んでいるうちに服屋に着いた。


「子竜って成長早いよね………今この場で買ってもすぐ成長したら意味ないんじゃ………」


 ピッタリサイズとちょっと大きめのサイズを買うことにする


「うん、これで大丈夫かな。」




 子竜たちはまだ小さいけど、2、3歳向けに一人2着ずつ買ったら、もう私の財布はすっからかん。


 4歳くらいまでならリオルたちのお下がりがまだ紫竜の里にあったはず。
 今はそれでコレで大丈夫かな。




 さーてと、宿屋に帰ろうかな。
 と、私は宿屋への道のりを歩いていると








「盗賊が町に攻めてきたぞー!!」






 え!?


 門番の突然の声に、私は身構える
 昨夜も盗賊に襲われたけど、町にも来るのか


 もー、せめて商人を狙ってよねー。
 町まで来ないでよ。


 私は路地裏に身を潜めて《魔力探知》を起動。
 私はいまのパーティみたいに無尽蔵に魔力があるわけではないけれど、半径10m程度なら5時間ほど持続することが可能だ。


 とりあえず30mくらいまで探知を広げると、慌ただしく動く影がある。
 これは事件を伝えるために走っている詰所に走る門番さんかな。


 盗賊は一体どこに………おっと、見つけた。


 30m圏内に盗賊がいたのか。早めに気づいてよかった


 地形を《魔力探知》で認知し、頭の中でビジョンを映す。
 この町は結構小さい。
 村と呼んでも差し支えないレベルだ。




 そんな町で動いている盗賊の影は五つ。


 一人は《魔法屋クロムル》へと向かった。


 もう一人は。私がさっきまで入っていた服屋。
 これはもう、盗賊というより、強盗だよ。


 もう残りの三つは―――


「わわっ! みんな、大丈夫かな!」


 うーん、残りの三人は私達がアポをとった宿屋に向かったみたいだ。
 宿屋は旅をしている客や商人や冒険者がよく泊まるし、そこに人数を割くのはわかるよ。


 でも、冒険者はいわば戦いのプロだ。
 盗賊は町の外で生活をしているにして魔物との戦いを熟知しているとしても、冒険者を何人も相手していられるほどの実力はないんじゃないかな。


 でも、たった三人で冒険者を相手するのは分が悪い気がする。
 それを行うということは、盗賊がよっぽどのバカなのか、それとも相当な手練れなのか。




 足運びからして、おそらく後者なんだろうなぁ。
 冒険者くずれかしら。


 おっと、そんなことはそれなりにどうでもいい。
 宿屋は………あのメンバーなら大丈夫でしょう。ゼニスさんがいるから特に心配はしないでおこう。
 リオルだって、接近戦さえしなければほぼ無敵だし。


 ということで、服屋に強盗に行った不届きものを野次馬しに行く。
 私だって馬鹿ではない。


 私は自分の身がかわいいし、死ににいくつもりはない。
 実力差があるようなら服屋の店員さんを助けよう。


 そもそも私は討伐ではなく採取の冒険者なわけだし、戦闘方面はあまり得意ではないのよね




 服屋の入り口に張り込み、《魔力探知》で中の様子を探る。


 大雑把な情報が頭の中に入ってくる。
 どうやら盗賊は脅して金を出させるなどということはしていない。


 『殺してから奪う』という方法だったようで、服屋の店員はすでに事が切れているようだった。


 お店から出るタイミングが遅ければ私がそうなっていたかもしれないと思うと、ゾッとする。


 ことが切れているなら助けに向かう意味はない。
 そこまで勇者ではない私は今度は魔法屋のおばあちゃんの方に向かうことにする


 魔法屋の入り口に張り付いて《魔力探知》で中の様子を探る。
 おばあちゃんは意外にも生きていた。


『なんじゃ貴様! ―――《大津波タイダルウェイブ》』




 水属性の上級魔法《大津波タイダルウェイブ》が発生。
 少しだけタイムラグがあるが、上級の水魔法を一瞬で発動させた魔法屋のおばあちゃん。


 侵入した盗賊は津波に流され、店の外に押し出されていた。


 魔法屋のおばあちゃん、だてにドラゴンから逃げてこの町までたどり着いただけのことはある


 私の目から見ても根性が腐っているおばあちゃんは、自分が生きるためならなんだってするであろうということを思い知らされた。


 魔法の属性は全世界の人々が持っているけど、実は一杯の水を作り出せる人は、相当ちやほやされる。
 幼い頃から訓練していたら話は別だけど、魔法にもやはり才能はある。
 それに、魔力の最大値は年を取るごとに増える。教会で賢人などと呼ばれている人たちがまさにそうだ。老いているにも関わらず魔力の量が桁違いなんだ。


 魔力の訓練をしていても、小さな火種を作れるようになるだけで、かなりすごいのだ。




 私みたいに幼少の頃から訓練をしていなければ、一杯の水を作ることもできないかもしれない。


 魔法は、それだけ重要なモノだともいえるね。




「ぐ………ゲホッ ゴホッ! クソが、あのババァ!!」




 津波に盗賊が咳き込みながら魔法屋を睨みつける
 おばあちゃんの実力なら盗賊に襲われても問題ないだろう。


 だけど、何か奥の手を持っているかもしれないから、私は盗賊を拘束するために動き始めていた。
 もちろん、見つかるわけにもいかないので、物陰に隠れてこっそり魔法を使うよ。


「 《風食エアブロック》 」




 ノータイムで放たれる私の魔法。
 これは特定の空気を真空の状態にする魔法だ


 それで盗賊の頭をすっぽり覆うと、盗賊は急に呼吸ができなくなり、顔が真っ赤になる。
 しばらくもがくと、顔が真っ青になって、盗賊は地面に倒れた。




 そのままロープ状の物で盗賊の手足を縛り上げる。コレで動けないだろう。
 騎士団の人たちにこれを引き渡したら、もう大丈夫だ。
 盗賊は今はこのまま放っておこう。






「な、貴様! 俺たちに歯向かったらどうなるかわかってんだろうな!!」




 私に向かって大声を張り上げる声が後ろから聞こえてくる。
 嫌な予感がする中、後ろを振り返ると―――




「げ………」




 服屋の方を物色し終わったのか、大きな布袋を担いだ盗賊が私を指差していた




 やばい! 気づかれた!




「テメェ、よくもグッヂを!」




 仲間が拘束されたことに怒り心頭。
 派手な装飾がされた短剣を抜いた


 と、同時に―――


「『―――わが身を燃やし自らの内なる力を解放する!』《身体燃焼エリアブースト!》死ね!!」
「きゃっ!」


 10mはあったと思われる距離を、一瞬で詰められた
 とっさにしゃがんで一撃目を避ける


 相手が使ったのは身体強化の魔法。


 《ブースト》ほどではないが、これは火属性の身体強化魔法で、体内で酸素の燃焼を加速させ、身体能力を飛躍的に向上させる魔法だ


 この盗賊、魔法まで使えるのか。


 この魔法の効果は10分ほど。
 でも、これよりも《ブースト》をつかえた方が魔力効率がいい。




「《身体燃焼エリアブースト!!》」




 私も身体燃焼をして盗賊距離を取る。
 《最適化》と《詠唱短縮》により、ほぼノータイムで同じ魔法を使う。


 私はまだ無意識で《ブースト》ができる程器用な人間ではないからね。




 盗賊と戦う意味は無い。私は町の中央へ向かって駆け出した。




「………ちっ!」




 盗賊は追ってくる気は無いようだ。物陰に隠れてやり過ごす。
 そもそも私は採取の冒険者であって、戦闘はあんまり得意じゃないんだよね


 町の中まで安全に生活できないのは厄介だなぁ。
 というか《身体燃焼》だと酸素の消費が激しすぎて今ちょっと動悸が収まらないんだけど。
 身の危険を感じて心臓がドクドクドクと、心臓ってこんなに早く動くものだったんだね。






 再び《魔力探知》であたりの状況を探ると、服屋から出てきた盗賊の男が私が縛っておいた男の拘束を解いていた。


 悔しいけど、これはしかたない。
 軽く蹴りを入れて魔法屋に入った盗賊を起こすと、今度は二人で魔法屋に乗り込み、魔法屋のおばあちゃんに襲い掛かっていた。


 魔法屋のおばあちゃんは応戦しようとしたのだろうけど、二人相手では詠唱の時間もないだろう。


 おばあちゃんはすぐに気絶させられ、魔法屋の商品を片っ端から奪っていくのがわかった。魔法屋の道具は高価なものが多いからだろうね。


 この盗賊たちは収納ストレージ付加エンチャントされた道具袋を持っているようで、重量を感じさせることなく素早く魔法屋から出てきた
 魔法屋の中から『ビービー!』とけたたましいアラーム音が鳴り響く。おそらく、騎士団に通報する魔導具なのでしょう


 その時、服屋から出てきた男は、大きな麻布を担いで魔法屋から出てきた




「あれは………」


 男が担いできたものを見て、目を見開く




「むぐー―――――――!! うあ―――――――――――ん!!
 ママ、まま―――――!! おばあちゃ―――――――――ん!!」


「うるっせぇガキだぜ、だぁってろ!!」




 たしか、魔法屋の中には小さな子供がいたよね。
 麻布に包まれて、盗賊たちに攫われているのって、もしかしてその子!?





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