受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第24話 リオル vs バッファロー



 夜中。僕は黒竜マイケルを抱きしめ、ルスカは白竜キラを抱きしめて寝ていた
 まさにノンレム睡眠。今の僕は何をされても起きないよ


「リオル、起きろ。」


「んんぅ?」


「寝起きですまない。土魔法でこのくらいの大きさで丈夫な箱を作ってくれないか。」


「んー。」


 なにを言われているのかわからない。体から何かが抜ける感覚がある。
 あ、魔力が抜けているんだ。結構魔力がぬけるなー。なんだろうか。


「ああ、あと、この辺に取っ手を作ってくれ。 ああいや、もっと大きく。」


「くー………」


「箱が開いてしまわないように留め金も作ってくれ。」


「むぃ~~…………」


「上出来だ。ありがとう。お休み。」


「んにゃすみゅぅ」




 僕はノンレム睡眠からレム睡眠に移行し、そんな夢を見た気がした




                   ☆






『ぎぃ!』『ぴきー!』


 訳すと『まっくら!』『なんでなんで!?』


 うるさい声が聞こえたので 目を覚ました。


 目を覚ましたけど、真っ暗だった。




「なるほど、夢か。」




 僕はもう一度目を閉じた。




『ぴぎゃ!』『ぎっ、きー!』


 訳すと『あいた!』『かべがあるよ! せまーい!』


 マイケルとキラがうるさい。
 夢なのにうるさい。


 僕のおなかを軽く踏んづけて移動する二匹。
 夢なのに感触がリアルだ。大して重くないから特に何も注意しない。
 夢だから。






『ぴにゃ!』


「ふぎっ!」


 走り回っていたマイケルは、僕の頭に躓いて転んでしまった




「いたた……… マーイーケールー!」


『ぎ………きゅう………』


 訳すと『ごめんなさい、おにいちゃん』


 マイケルを軽くしかりつけたところで、これが夢ではないことがわかった




「きーらー。うるさいのー」
『ぴきぃ………』


 寝起きのルスカがキラを叱りつけていることを確認して、状況の把握をする。


 真っ暗だけど、すでに目は暗闇に慣れている。
 ルスカと子竜たちの姿は確認できた


 閉鎖的な空間。


 ―――グラッ


「おわ!」
「きゃー!」
『ぎっ!?』
『ぴー!』


 そして、傾く足場。




「うー、りおー!」


 怯えたルスカが僕にしがみつくが――


「ひぐっ!」
「きゃっ!」
『ぐぇ!』
『きぃ!』


 そのままつるつると滑って4人(?)とも壁にぶつかった。




「うぅ~~~、いたいのー。」
「いてて、よしよし、大丈夫だよ、ルー。」
「きゃあん♪ にへ~~」


 ルスカがかわいい。ルスカが涙を流してしまう前に、ぶつかったであろう後頭部をさすると、ルスカはだらしなく顔を緩めた。


――ガプ!


「いてっ!」


 痛い!! 今度は何!?




『ぎぇ、きゅぅ~~~』


 訳すると『おにいちゃん、おもい~』


「ありゃ、ごめんね、マイケル。」


 滑った拍子にマイケルを下敷きにしてしまったみたいだ。
 これはさっき僕の頭を蹴ったバチがあたったな


 壁際に4人で固まって状況の確認をしてみる。


 ここは閉ざされた閉鎖空間。
 出口らしき物は見当たらないし、通気口なんてものもない。真っ暗だ。


 こんな部屋を設計したのは誰だよ。文句言ってやる。
 こんな部屋じゃいつか酸欠死しちゃうよ!


 あと、両手を広げた僕の横幅が80cmくらい。それで、だいたいの部屋の広さを測ったら2㎥の正六面体だった。
 だいたいタタミ2畳ぶんくらいかな?


「ルー。」
「なーにー?」
「僕たち、なんでここにいるのか、わかる?」
「うゅ? んー。わかんない!」


 このくらいの年だと、目が覚めたら真っ暗という状況なら泣き出してもおかしくないのに、ルスカは平常運転だ。
 僕がもしこの状況で一人だったら、確実に気が狂うほど泣く自信があるよ。




「マイケルとキラは?」


 傍らにいた黒竜と白竜にも聞いてみた


『ぴきぃ!』 『ぎぃ!』


 なるほど。目が覚めたらすでにこれだったと。


 うーん。どうしよう。これ、誘拐かしら。
 でも紫竜の里に住む僕たちだけを誘拐する意味がわからないよ。


「考えても仕方がない。とりあえず真っ暗だと落ち着かないから、ルー。ライトを。」


「うん♪ 《光るの~♪》」


 ポゥ………と、ルスカの右手から光の玉が出てきた。
 そのおかげで密閉部屋が明るくなったので、部屋を観察してみるんだ、け、ど?




「―――うえあ!!?」


 ライトで照らしてみて気づいた。
 この独特の金属光沢は、オリハルコンだ。
 この部屋はオリハルコンでできていたんだ。


 なんともロイヤルな監禁部屋だこと。


 閉じ込められているとはいえ、僕ならば外の情報を集めることができる。
 僕はすぐさま《糸魔法》を発動。


 糸魔法はほんの少しの隙間さえあればどこにだって行ける。
 ほんの少しの隙間すらないなら、土魔法で穴を開けて作ればいい。


 糸魔法で隙間を探ってみたら、思いのほか簡単に見つかったので、そこから糸を出して外の状況を見てみることにする。


「りお。どう?」
「うわわわわ、足場が不安定だったのは、飛んでいたからなんだ………」
「とんでるの? ぴゅーん?」




 このオリハル部屋、飛んでいやがった。


 なぜだ。やっぱり誘拐か?


 神子と魔王の子と白黒竜が珍しかったのか!?


 珍しいだろうな、奴隷として売られてしまうのだろうか。
 だったら嫌だな。
 この世界に奴隷制度があるかどうかもしらないけど、さ。


 他にも情報を得ないと………僕は糸の範囲を広げる。


『む………? この糸は………ああ、リオルか。おはよう、起きたのだな。』


 すると、今度はオリハル部屋を掴んで飛んでいたゼニスを糸が捉えた。


 ゼニスが僕たちをここに閉じ込めた犯人らしい。
 ゼニスは魔眼で僕の糸を見破り、あいさつまでしてきた。
 誘拐ではないとわかり、一安心だ。


『族長殿? どうしたのでありますか? 糸、ですか? わちきには何も見えませんが』


 今度はミミロの声を捕えた。


 子竜のミミロは、ゼニスの背中にしがみついていた。風で飛ばされたりしないのだろうかとおもったら


『ミミロちゃん。知ってるでしょ。リオルの《糸魔法》よ。』


 フィアルがゼニスの背に座り、風魔法で風圧をシャットアウトしていた。


『おお、知ってます知ってます! この前、フィアル殿のお仲間たちの首をリオ殿が落としたヤツですね!』


 うん。まぁ確かに僕が糸魔法で首を落としたよ。
 極細の強靭な糸でプチンって。


「ねぇゼニス。僕たちはなんで、こんなロイヤル監禁部屋に閉じ込められているの?」


『む? リオルはそんなことをしていたのか? ふむ。後で叱っておくか。』




 ありゃ、僕の声が聞こえていない。


 そりゃそうか。僕は外の声は聞き取れるけど、部屋の中からの声は聞こえるわけがない。


 なんとかして伝えることはできないだろうか。
 イメージするのは糸電話。


 糸をミミロとゼニスとフィアルに接続する。


(これで、聞こえるようになるといいけど。)


『む?』
『わわ、何事ですか!?』
『いま、リオルの声が聞こえたんだけど』




 おや、僕は声に出したわけじゃないのに、ゼニスたちに僕の声が聞こえてしまったみたいだ


(なんか試したら、新魔法を開発しちゃった。気にしないで。それで、ゼニス。僕はなんでこんな狭い部屋に閉じ込められているの?)


『む。別に閉じ込めているわけではないが………そもそも、この箱自体、リオルが作ったのだぞ。覚えていないのか?』


「え、僕が!?」
「うゅ? りお、どうしたの?」


 びっくりして声を出してしまったみたいだ。
 ルスカにも糸魔法をくっつけてグループ念話に組み込む


 糸魔法による念話か。便利………なんだろうか。




『そうだ。まぁ、昨日はぐっすり寝ているところを、私が無理やり起こして作らせたのがこれなのだが』


「えっと、何のために?」


『言ったであろう。赤竜の里へと行くのだ。』




 わお!
 だからって閉じ込める必要はあるのだろうか




 でも、納得した。
 こんなオリハル部屋を作ることができるのは僕しかいない。


 だからゼニスの言っていることが正しいのだろう。
 気になっていた問題が解決したならなんだっていいや。


「あとどのくらいで赤竜の里に着くの?」


『ふむ。1週間くらいだな。』


 ふむ。ゼニスの言うことは信用ならん。
 おそらく1か月はかかるだろう。


「わかった。それまでの食料は?」






『うむ。もちろん、現地調達だ!』






 自信満々にそう言うゼニスは、滑空して地面に向かって飛ぶ。


「うわたぁ!」
「きゃ~~~~♪」


 おかげで箱の中は無重力状態だ。


 僕はちょっと無重力を味わいながらハコの外の糸を確認すると、はみるみる地面が近づいてくる


 うえ、無重力酔いしてきた。気持ち悪い


 うーむ。無重力、とはつまり0だ。ゼロに何を掛けてもゼロなのだ。
 無重力に対して、闇魔法をどう駆使したら地面に足が付くのだろうか。


 一瞬だけ考えてみて、思いついた。
 床から僕を引力で引き合わせてみたらいいんじゃないかな。


 ルスカ達がいまだに宙を浮いている中、僕は箱の床に足を着く。
 どこが床なのかわからないのに、足を着いた。


 そこでふと気づいた。


 この闇魔法。重力を操るんじゃなくて、引力を操っているのではないかと。


 これを応用すれば、壁を走れるかもしれない。ジャパニーズ忍者だよ!


 そんなことは置いておいて、ルスカやマイケル、キラにも魔法をかけて床に立たせる。


『きゃ―――――――――――――!!!!!』




 箱の外ではフィアルがゼニスにしがみついて絶叫していた




 糸魔法で頭にガンガンと声が響いてウザったい。


 フィアルの糸を切った


『着地するぞ。』




 ゼニスのそのセリフの後、強烈なGが体にかかって床にうつ伏せに倒れる


 急な減速で体が床から離れられないほどのGがかかる




 1.2倍の重力を掛けていたころの比じゃないぞ




 バサッバサッとはばたく音が聞こえた後、部屋を地面に降ろす衝撃が体を襲った




 部屋の天井がパカリと開いて、竜型のゼニスが顔をのぞかせる


「ここは?」


『うむ。中央大陸南部、《ソマッキウ草原》だ。』


「何が居るの?」


『バッファローの群れが近くにいる。1匹狩るぞ。』


 ゼニスそう言うと、人型に変身した。


 僕はロイヤルオリハル部屋を塵にする。
 別にこれをここに置いておく必要はない。持ち運ぶ必要性もないなら魔素にまで分解してしまった方がいい。


 悪用されたくない。


 僕はぐっぐっと準備運動をして、体をほぐす。
 うーん、久しぶりに高所から平地に降りた気がする。




 いつもよりも酸素が体にめぐるのが早い。




「おっけー。ねえ、僕が狩ってきてもいい? 紫竜の里でずっと走り回ってきたから、地上ではどこまでできるのか試してみたいんだけど。」


「構わんが、無茶はするなよ。」


 とくに僕の心配はしていないみたいだ。
 ゼニス、忘れているかもしれないけど、僕はまだ4歳なんだよ。


 身長は1mも無いんだよ。




 僕は糸魔法で索敵をする。
 ゼニスは《魔力探知》とかいうので広範囲にわたって地形や動植物の確認をしているようだけど、今の僕にはまだその技術がないから、糸魔法でカバーする。




 この糸、強度を無視して一本だけを伸ばしたら地球一周するくらいの長さはできるとおもう。


 でも、さすがにそんなことしたら、情報量の多さに僕の脳が焼き切れちゃうかもしれないからできない。


 とりあえず、半径2.5km圏内で生き物の反応を探すと、たしかに角がカールした牛みたいな生き物がいた。
 あれがバッファローなんだろう




 距離は結構近い。


「ルスカ。待っててね」
「うん♪」


「リオル。気を付けてね。魔法を使えば余裕なんだろうけど、そうするつもりはないんでしょ?」


「最初は自分の身体がどこまで動かせるのかテストだね。といっても、僕は4歳児。体格と筋力には限界があるから、すぐに魔法を使うよ。」


 高度4000mで走り回り続けた僕は、きっと4歳児の域は超えているだろう。


 それでも、ルスカほどではない。
 ルスカは天才だ。


 ガリガリの身体から、よくここまで鍛えられることができたものだと自分自身に感心する。


 今の僕はおそらく7歳児くらいの力はある。


 普通にバッファローに負けるだろうけど、負ける勝負をするつもりはまったくない。


「行っています」


 僕は《ブースト》を使って左足の身体能力を爆発的に増加させる
 《ブースト》とは体のごく一部の身体能力を上げる技術のことだ。


 この技術を使うことができるのは、天才レベルの剣豪。死闘を潜り抜けてきた前衛の冒険者のみだ。


 これが使えるというだけで、戦闘はおおいに楽になる


 本気を出せば、三階建ての建物の屋上まで一足で飛び乗ることができる




 バッファローの群れの端に居た子供を発見。ターゲットはそいつにする。


 子供といっても、僕より大きい。
 1.3mはある。
 体重は70kgくらいかな。


 群れを発見した時点で、糸魔法により群れ全体の首をちょんぱすることは可能だったけど、今は僕の身体能力のテストだ。


 バッファローの子供の元までたどり着くと、僕は《ブースト》は使わずに―――


「てい! 4歳児キック!」


 ただの蹴りを放った。バックステップですぐさま距離を取る


『ブ モ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!』


 やっぱり鍛えているとはいってもこの低身長だと威力はでないか。


 バッファローの子供は怒ってこちらに突進を開始した


「うーん、おそいね。」


 子供だから、というわけではない。むしろ子供のバッファローのくせに時速40kmくらいは出していてかなり早いと思う。
 でも、5m級のミミロの突進を必死で避けて逃げ回り続けた身としては遅く感じる。






「あらよっと」






―――ゴキッ!


 回転しながら避けるついでに子供バッファローの顎に裏拳いいもんをくれてやった


 右拳に《ブースト》も乗せた、渾身の一撃だった。


 その結果―――




「ウソォ!? いってえええええあああああああああ!!!!」






 右手首を押さえて悶絶し絶叫する僕に気付いたバッファローの群れ。


 痛い、痛すぎる。バッファローってこんなに硬いの?
 それとも、僕の身体が弱いの?


 できれば前者であってほしい


 やばいやばい、囲まれた、痛い痛い死ぬ!!


 どうしよう、逃げたい! でも痛い! 痛すぎて動けない!




 いや、動けないなんて言い訳はしちゃダメだ。
 涙をこらえて倒れないように踏ん張る。


 ゼニスも僕を信じて送り出してくれたのに、ものの30秒でこの体たらくは情けなすぎる




 光栄に思え、バッファローの子供。
 キミは僕に、魔王の子に傷を負わせたんだ!(←自業自得だけど)


 というわけでさっそくバッファローの子供の首を糸魔法でちょんぱ




 ゴトリと落ちる生首。




『『『『 ブンムォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!! 』』』』






 すると、ブチギレるバッファローたち。


 殺気に満ちた瞳で僕を見下ろすバッファローたち。
 フラッシュバックする校内暴力。
 誰も助けに来てくれない孤独感。




「ひぃごめんなさいごめんなさい僕なんかがケンカ売ってごめんなさい許されることとは思っていませんが許してくださいお願いします助けてえええええええええええ!!」




 突進してくるバッファローさんを避けるために、僕はとっさに《ブースト》を発動
 右手首を押さえながら、数秒でゼニスたちの元へと走った
 骨折による眩暈で着いたとたんに倒れ伏した
 ぽろぽろと涙が零れる


『何をやっているのでありますか、リオ殿。』
「何をやっているのだ、リオルよ。」
「何やってんのよ、リオル。」
「どうしたの、りお?」


 ミミロとゼニスとフィアルがため息を吐きながら僕を冷たく出迎えてくれた。
 ああ、ルスカ。ルスカだけが僕の癒しだよ。


「し、じぬがどおもっだ」




 ううう………バファローってランクどのくらいだよ。Sランクじゃないのか?


「リオルよ、馬鹿にもほどがあるぞ。バッファローはランクで言うとCだ。そんな連中の群れに突っ込むなど、Aランクでもやらないぞ。」


 ごめんなさい、本当にバカでした。
 ちょっと自分の力を過信しすぎてた。4歳児が素手で敵うわけがないじゃないか。


「りお、けがー?」
「うん………」


 右手首をルスカに差し出して、ルスカの光魔法で治癒してもらう。


 ほっ………痛かった………




 実はまだちょっとだけ幻痛が残っているけど、そんなもんはほっときゃ治る。




 そして、僕はorzの姿勢で涙を流した。




 僕、肉弾戦は一生やらない。







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