受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第23話 子竜達の名前は―――

 慌ただしく黄竜族長ニルドが帰るのを見送った僕たちは、ゼニスの住処で子竜たちを抱えて集まっていた




 もちろん、僕の膝の上には黒竜がいる。


 『ぎー、ぴー!』


 遊びたいと連呼しているが、頭とおなかを撫でてさすり、落ち着かせている


 白竜はルスカの膝の上で元気に暴れているけど、ルスカは持ち前の体術と《ブースト》を駆使して押さえつけていた


 おいおい、子供とはいえドラゴンだぞ。
 しかも最強種だぞ


 紫紺竜ミミロはおとなしくフィアルに抱っこされていた。


 ゼニスは僕たちを見回すと、僕の隣に片膝を立てて座った。
 右ひざの上に右腕を置き、左手を背後の地面に付き、体を支える典型的なくつろぎのポーズで。




「リオルよ。」
「どうしたの、ゼニス?」




 ゼニスは僕の膝の上で丸まって寝息をたてはじめた黒竜の翼の付け根を軽く撫でる


「子竜が産まれたのであれば、名前を付けてやらねばなるまい」




 黒竜はすこし身じろぎしたがゼニスにされるがままだ。
 でも、ゼニスはなんで僕にそんなことを言ったんだ?


「え? 僕が名前を付けるの? そんなもんミミロでよくない?」


「む? リオルがミミロの事を好いていることはわかるが、黒竜はオスだぞ。
 さすがに『ミミロ』という名はどうだろうか」




「ん?」
「む?」




 あれ? なんか会話が噛みあっていなかった。なんでだ?


 あ、そっか! ゼニスはまだミミロが紫紺竜として産まれ変わったことを知らないんだ!


「えーっと、なんて説明したらいいんだろう。ミミロ、カモン」


『了解であります!』


 僕が紫紺竜ミミロを呼ぶと、フィアルの膝の上から『パタパター』と頑張って飛翔し、僕の頭の上に着地。
 バランスを取りながら頭の上で都合のいいポジションを探していた


 僕もミミロが落ちないように配慮するのが大変だ


 タマゴから孵化したばかりのころよりもだいぶ体が乾いてきているみたいだ。
 べちゃっとしない。


「ふむ………そういえばその紫紺竜の子は人間語を話しておったな。どういうことなのだ?」


「うん、信じられないかもしれないけど、この子、ミミロが生まれ変わった子なんだよね。」


『はいっ! リオ殿の言うとおりであります! なぜかはわかりかねますが、わちきは紫紺竜として生まれ変わっちゃいました! えへへ』


「しかし………人間語を操ることができるのは上位の竜だけだぞ。ミミロは序列も最下位だったではないか」


『はいっ! リオ殿やルー殿といつも一緒に行動していたからでしょうか、なんかしゃべれるようになりました!』


「そうか………色竜カラーズドラゴンとは、不思議なモノだな。私ですら知らないことが次々と起こる………。驚きを通り越してあきれるぞ」


 族長さまが額に手を当てて唸る。


「生きてれば不思議なことが起きるものだね」
「うむ、まったくだ。」




 ゼニスは深くため息を吐いて、深く考えることをやめた


「ミミロよ。無事でなによりだ。」


『はいっ! ありがとうであります、族長!』


「ミミロ、黒竜と白竜の名は考えてあるのか?」


『あはは、いえ。お恥ずかしながら、まだ考えていないのであります。そもそも、わちきも生まれたばかりですゆえ、名もなき紫紺竜ですよ』


「にゃー、みみろはみみろがいーのー!」
『ぴ………ぐぇ』


 ルスカが白竜を押さえながら発言する。
 そろそろ白竜が苦しそうだから、離してあげなさい。


『それもそうですね。わちきはミミロのままで通すとしましょう! ですが、わちきはちょっと名前付けに自信は無いのであります』


 自信がないことを自信満々に言わないでよ。


「それでも、自分の子なんだから自分で名前をつけようよ。」


『ふむぅ、そーですねー。この白竜の名前は「キラ」ということにしましょう』


「キラちゃーん♪」
『きぃ? きゅー!』




 白竜の方は一瞬で名前が決まったみたいだ
 キラちゃん、ね。白竜キラ。かっこいい。


黒竜の名前はどうなるんだろうか。




 とりあえず、寝息を立てている黒竜に謝りながら黒竜を起こす。




「くぅ………ぎぃ?」


 目が覚めた黒竜に向かって、ミミロは小さな指を差すと
 自信満々に言い放つ。


『この子は・・・「マイケル」であります!』


「マイケル!」


  マイケル・・・家名に『ジャクソン』をつけたくなる素敵なサムシングを感じる


ちょっと感動した。


「うわわ、家名に『ジャクソン』か『ジョーダン』って付けたい!」


 この気持ち、誰かわかってくれる人はいるだろうか。少なくともこの世界にはいないだろうなぁ




「へぇあ!? ドラゴンの子にわざわざ名字を持たせるの?」


 僕のつぶやきに、なぜかフィアルが驚いたみたいだ


「え? なんか変だった?」
「いや、べつにいいけど………名字もちってほとんど貴族くらいしかいないからさ」


 そういえばフィアルも本名は『フィアル・サック』だっけ


 貴族から落ちても名字は外されないみたいだし、実は名字もちって多いんじゃないの?
 結婚したら名字ってついちゃうんでしょ
 まぁ、つける気はないけどさ。


「まぁ、なんだっていいや。僕は深くは考えない。よろしくね、マイケル。」
『ぴぃ♪』


「あー、りおずるい! キラも! キラもじゃくそんつけるのー!」
『ぴー………くぇ』


 白竜キラは納得していないみたいだよ? 勝手に決めていいの?
 ルスカのわがままで、なんかおかしなことになってきたけど、とりあえずみんなの名前が決まった




 紫紺竜――ミミロ
 白竜―――キラ・ジャクソン
 黒竜―――マイケル・ジャクソン


 なんだこれ。
 いやいやないない。




「ゼニス。竜に家名があるのって変なの?」


「む? 別に変と言うわけではないぞ。家名が付いている者は族長に一人いる。緑竜りょくりゅう族長のシゲ爺………『シゲマル』がそうだ。『シゲマル・リョクリュウ』などという安直なネーミングをしているくらいだ。」


 ちょっとズレた回答を貰ったけど、別にマイケルがジャクソンであっても変ではないか。


「まぁ、シゲ爺は変わり者でな。人の姿では中央大陸東部の王国『クロッサ』では辺境伯爵として爵位を持つ貴族をやっているようだがな。」


「緑竜の族長が伯爵とか馬鹿じゃないの? ばれないの? しかもそんな名前だし。」


「うむ。族長は皆バカだが、シゲ爺は意味不明だ。なぜかバレておらぬ。」


 そうか、意味不明か。
 そんなに意味不明だったら、そのシゲ爺さんに会ってみたいよ。


 ………というか、家名ってのはやっぱり貴族だから付いたってところなのかな。


 だったら黒竜マイケルにジャクソンを付けるのはよした方がいいかもしれないね。
 別に貴族なわけでもなしに。家名をつける意味も無し。


「わかった。まぁ、基本的にマイケルとしか呼ばないだろうし、マイケルのみで。」


 白竜――キラ
 黒竜――マイケル


 ようやく確定。


ついでに、 一応僕も黒竜の名前を考えてみた。
 でも、僕が名前考えると二つ名みたいになるんだよ?


 『黒炎のグラムリッツェ』とかどう?




 ちなみに、頭の中を空っぽにして考えたらこうなった。グラムリッツェってなに。
 グラムはわかるけど、リッツェの意味を教えてよ。


 僕が考えたら、なんかこっ恥ずかしそうな名前しか思いつかないからさ、やっぱり黒竜はマイケルがいいね。


 そもそも、黒い炎を出すとも知らないのに黒炎だなんて、馬鹿じゃないの。


 ああ、はずかしい。


 こんな恥ずかしい名前考えるくらいだったらマイケルの方がマシだね。




「ねぇマイケル?」


『きゅー?』


「人間の言葉ってわかる?」


『きゅー!』




 しゃべれないけどわかるようだ。便利だ。


『きぃ、くるるー』


 訳すと『たぶん、なれたらしゃべれるよー』


 慣れでしゃべれるようになるの?
 この黒竜がいまいちよくわからない。




「キラも慣れたらしゃべれるようになる?」


『ぴぃ!』


 できるらしい。ミミロは僕たちと一緒に人間語に触れて育った竜だからね。
 生まれたてでもしゃべれたのか。


 なんだその理屈。めちゃくちゃじゃん。


 色竜カラーズドラゴンは不思議な生き物。これで納得しよう。






               ☆






「そういえばゼニス。今朝、黄竜族長ニルドが何かを頼んでいたみたいだったけど、なんだったの?」


 夜。白竜黒竜キラケル誕生&紫紺竜ミミロ復活祭を開催していた紫竜たち。
 樽酒を一気飲みし、気分が悪くなったテディを紫竜たちが馬鹿笑いしている。


 そんななか、人型に変身しているゼニスはちびちびと名酒『竜殺し』を飲んでいた。
 アルコール度数は95%らしい。バカじゃないの?


 度数が強いから、ゼニスの顔も真っ赤だ。
 だけど酔ってはいないっぽい。




「うむ。ちょっとした頼みごとをされてな。来週、赤竜の里に行くことになった。」


「ふーん。じゃあ、僕たちはお留守番?」


「いや、赤竜族長ジンに黒竜やリオルたちを紹介したい。一緒に連れて行きたいのだが………」


「いいよ。」


「うむ。ありがとう。なんでも黄竜族長ニルドの奴が武器を破損させたらしくてな。
 赤竜族長ジンに修理を頼みたいらしいのだが、あいにく黄竜族長ニルド赤竜族長ジンを苦手としているようなのだ。
 だから私が代わりに武器を持って行ってやるのだ。」


 その間、ニルドが他の族長の所に行って報告をしてくる、と。


 色竜カラーズドラゴンは世界中に拠点を持っているから、他の色の里に行くのは大変そうだ。
 だからニルドは昨日から世界一周する旅に出たのだ。


 赤竜族長は鍛冶師をしているらしい。
 ゼニスの斧槍ハルバード赤竜族長ジンが作ったってさ。


「ニルドの武器は?」


「棍棒だ。極長のな。」


 そういってゼニスは棒を取り出した


 棍棒と言われてバットみたいなものを想像していたけど、ちがった。
 見た感じ如意棒みたいな感じの長い棒。
 刃物の類は付いていない。棒だけだ。


 材質はよくわからないけど、所々黄色い部分がある。


「これは、ニルド自身だ。」


「というと?」


「ニルドの牙と角と鱗を溶かして練った物が、この棍棒だ。どんな金属よりも雷をよく通すらしい。」


 うわ、ただの棍棒かと思ったら、けっこうえげつない武器だったみたいだ


 よく見ると棍棒の途中でひびが入っていた


「ずいぶんと使っていたようだしな。ガタがきたのであろう。」


 まぁ、黄竜の牙と鱗と角の混ざった武器をへし折るなんて、どんな敵だよと言いたいもんね。
 ガタがきたなら納得だ。




『きぃ!』


 ん? あ、マイケルが僕の足元にやってきた。
 かわいいな、こいつ。


 抱き上げると、アルコールの匂いがした


 飲んだのかよ。


「りーおー!」
『ぴー!』


 今度はルスカが僕の所にやって来た
 キラはルスカについて行っているみたい。


 誰が魔力譲渡してタマゴを孵らせたのか、わかっているんだ。


 白黒竜ってのは案外頭がいいのかもしれないね。


『リオ殿は飲まないのでありますか?』


 さらに今度はよちよちと歩いてきたミミロが僕の足元にすり寄ってくる


「ミミロ。僕は竜みたいに成長が早いわけじゃないから、肝臓が心配だよ。」


『カンゾウ? キモでありますか。お酒とキモが関係あるのですか?』


「お酒を飲みすぎると、キモの味が悪くなるんだよ。つまりお酒はキモに負担をかけるってこと。僕は食べられるときはおいしく食べられたいね。」


 肝臓の働きについて深く理解していないミミロには、こういう説明の方がわかりやすいだろうか。


『なんと! そうでありましたか! でしたら、わちきはもうしばらく飲みません。』


 というか、生まれたばかりなんだから飲まないでよ。


『ぴきー!』
『ぎー!』
『はいはい、いまいきますよー。リオ殿。わちきはこの子たちと遊んできますね』


「うん。マイケルとキラのことをよろしくね。」


『誰に言っているのでありますか。わちきはこの子たちの生みの親ですよ!』


「だって、ミミロも赤ちゃんじゃん。」


『はわわー! そうでしたー!』


 ミミロは黒竜と白竜に引っ張られながら、酒飲んでフラフラになっている紫竜たちの所へと向かった


「あ、キラー!」


『ぴきー!』


 ルスカの抱きしめから逃げるように白竜はミミロを連れて去って行った。
 残ったのは座って酒を飲むゼニスと、僕。キラを追いかけようとしたけど、僕の方が優先順位が上だったらしく、僕の左腕をギュッと抱きしめるルスカの三人になった。


 ちなみにフィアル先生はゼニスに酒を進められて2,3口でノックダウン。
 その辺で伸びているよ。




「むへへ~、私はもう飲めないですよぅ、ゼニスさぁ~ん。」




 あれは放っておこう。




 大騒動を起こしたミミロの出産は、こうして幕を閉じた。

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