受難の魔王 -転生しても忌子だった件-
第21話 呼ばれて飛び出てわちき復活であります!!
『ゴロゴロ』とアルノー山脈の頂上で雷を鳴らす雷雲が嫌な予感を彷彿させる
ここはゼニスの住処のギリギリ中だ。
さすがに、雷が落ちてきそうなのに外で孵化なんて、危険すぎてそんなことさせられない。
「そういえば、テディ」
タマゴを孵化させるのに立ち会ってもらったテディに、少し気になっていることを聞いた
『む。なんだ?』
「朝起きたらゼニスの姿が見えないんだけど、どこに行ったかわかる?」
『ああ、それか』
何かを考えるように上を向いた戦士長テディ。
僕もつられて上を向いてしまったけど、そこには『ゴロゴロ』と鳴る雷雲しかない。
『客が来たんだよ。昨日の夜遅くに大きな音を立てて、な。』
「うわ、僕は熟睡してたから気づかなかったよ! もしかして、敵襲?」
『敵襲といやあ敵襲だが、考えるだけ無駄だな。俺たちもショックと疲労で動けなかったから、今はゼニスが相手をしてやってる。』
んー、テディが特に心配した様子を見せていないなら、僕が心配したところで無粋かな。
ゼニスだって魔力枯渇で疲労もあるのに、大変だ。
「えーっと、そろそろ孵化を始めるよ? いい?」
おっと、テディと会話しているうちに準備が整ったらしい。
「わかった。テディ、《魔力譲渡》できる?」
『ああ、ミミロのために死ぬ気で覚えた。
ほとんど霧散してしまったが《魔力譲渡》を行うことができた』
高等技術らしいし、それだけできれば十分じゃないかな
「おっけー。じゃあ僕がテディに《魔力譲渡》を行うから、テディは《紫紺のタマゴ》に《魔力譲渡》をしてよ。魔力の消費は気にしなくていいよ。」
『む、では………』
テディはゼニスに負けず劣らず巨体だ。
巨体の尻尾を《紫紺のタマゴ》に優しく当て、《魔力譲渡》を行う
テディが言った通り、ほとんどが空気中に霧散してしまっている。
でも1割くらいはタマゴに譲渡ができていた
『ハァ………ハァ………』
テディの魔力が危なくなってきた頃、僕はテディに《魔力譲渡》を行う。
他人の魔力が自分に入ったら、自分の魔力に変換されることはゼニスとルスカのおかげでわかっているので、これを何度か繰り返す。
効率は悪い。
でも、こうすることによってフィアルが魔力譲渡を行うよりこの《紫紺のタマゴ》が本来の形で生まれてくれる気がする。
まぁ、フィアルがやっても本来の形で生まれてきそうな気がするけど、そういう細かいところでも確率を上げておきたい。
しばらく《魔力譲渡》を続けていると、《紫紺のタマゴ》から『ピシリ』というひび割れた音が聞こえた
「ストップストップ! もういいよ!」
フィアルが慌てて止める。
割ってしまったかと少々不安になったけど、フィアルが言うにはこれで大丈夫だそうな
それにしても《魔力譲渡》、すごい便利だな。
本来だったらタマゴは漏れ出る魔素を吸収するだけだから温めはじめてから孵化するまで2ヶ月ちかくかかることになるのに。
「次はルスカの《白いタマゴ》だね。ルスカ、お願い。」
「うん♪」
ルスカはタマゴを両手で抱えて膝の上に乗せる。
そのまま《魔力譲渡》を行っているみたいだ。
魔力譲渡を始めてからものの20秒くらいで《白いタマゴ》も『ビシッ』とヒビが入った。
「最後にリオルのタマゴだね。本当だったら、ゼニスさんにも孵化の瞬間を見てもらいたかったな。もう遅いけど、私も好奇心に負けちゃった。えへへ」
フィアルが舌を出して頭をコツンと叩く。
僕もルスカにならって魔力譲渡を行う。
やはり半分くらい空気中に霧散してしまうけど、40秒くらいで黒いタマゴにも『パキッ』という音が聞こえてきた。
持ってみると、何かがもぞもぞと動いているのがわかる。
「うわぁ………本当にこんなに早く産まれるんだ………」
僕は黒いタマゴを見ながら呟く。
産まれてくるタマゴの予想はできている。
黒竜だろう。
産まれてくるであろう黒竜は、大切にしよう。
白竜とケンカしたら世界の崩壊の危機らしいけど、まぁなんとかなるだろう。
………フラグとかじゃない………よね?
「なんか怖くなってきた。」
僕は黒いタマゴをそっと地面に置きながら小さく呟いた。
それをフィアルに聞かれたらしく、後ろから抱きしめられた。
「あ、あはは………やっぱりリオルでも怖くなっちゃうんだ」
「僕はただのヘタレな4歳児だよ? 何の変哲もないよ。」
フィアルと軽口をたたき合うけど、フィアルも緊張しているようで、背中に伝わる心音が、結構な速さでバクバクと音を鳴らしていた
あと、フィアルも結構なモノをお持ちなようで。
なにの話かは言わないけど。
「この瞬間を、ミミロにも立ち会ってもらいたかったな………」
『ああ、そうだな。この子たちはミミロの子だ。ミミロだと思って精一杯かわいがってやろう。』
「そうだね。ミミロの子だから、きっとかわいい子に違いないよ」
紫紺のタマゴから『バキリ』という音が響く。
奥から『ギィギィ』という小さな鳴き声と、テディとは似ても似つかない紫紺色の湿った翼が見えた
「りぃおー。みみろはいないの?」
白いタマゴを抱きながらルスカが、そんなことを言った
「っ………」
「これおわったら、みみろとあそびたいの♪」
ルスカは、今何をしているのかを理解していない。
今はタマゴの孵化に興味を持っているけど、興味を失ってしまったら、ミミロを探しに行ってしまいそうだ
「そ、外はいま雷雲で真っ暗だから、また今度にしよ?」
「ごろごろーどっかーん?」
「そそ、当たったら痛いよぉ~!」
「きゃー♪」
自分の心を騙すように、ルスカを脅すように言ったらむしろ喜んでしまった。
ルスカはMなのかな。そんなことないか。
ちょっとでも痛いことがあったらすぐ泣いちゃうし。
「はぁ、ミミロ………どうして………」
死んでしまったんだろう。
思わず声に出てしまう。
またミミロの事を思い出してしまった。
過去ばっかりに引きずられてはダメだとわかっているけど、せっかく仲良くなってくれた友達がいきなり死んでしまうのは、精神的にガツンと来るものがある。
テディが自分の住処をメチャクチャにした気分が僕にもわかる。
テディは今も空元気を振り絞ってここに付き合ってくれているんだ。
でも、その顔は慈愛に満ちている。
そして、ミミロの忘れ形見を、命を賭して守り通すという決意を感じる。
『ミミロ………』
テディも、タマゴの殻を頑張って割ろうとしている中の《紫紺竜》を見ながら、そう呟いた。
その時―――
『呼んだでありますか?』
「へ?」
『あ?』
「うゅ?」
「な、なに今の声」
なんか、高い声で、『ヨンダデアリマスカ』って聞こえたような気がするんだけど
「フィアル、なんか言った?」
「わ、私じゃないよルスカちゃんじゃない?」
「にゃー! るーなにもいってないの!」
『俺も、何も言っていないのだが………』
きょろっきょろとあたりを見渡すけど、声の発生源がよくわからない。
なんだ今の
『なんですかなんですか! せっかく呼ばれたから返事をしたっていうのに、どこを見ているのでありますか! ここですよ、こーこー!』
注意深く音の場所を探すと、テディが魔力を送った紫紺のタマゴからだった
「ま、まさか、タマゴがしゃべるとは………気持ち悪いね。それに、なんでか知らないけど、ミミロのふりまでしているみたいだし。」
『うむ。そうみたいだな。』
「うゅ? これ、みみろなの?」
「ふわ………頭がいたくなってきちゃったよ………どうなっているんだろう、この紫紺のタマゴ」
『ミミロのふりをしているわけではないであります! わちきが『ミミロ』でありますよ!』
タマゴに『ビシッバキン』とヒビが増えていく。
所々剥がれ落ち、小さな翼がようやくタマゴの外に出た
「ほんっとうにわけのわからないタマゴだね。もはや紫紺竜の赤ちゃんが人間語をしゃべることに驚きはないけど、冗談が過ぎるようならミミロの子でも殺すよ」
『うんしょ………うんしょ。冗談じゃないであります! 殺すなんて冗談でもやめてくださいよ、だからわちきがミミロなんですってば! ええっと、例えばリオ殿がわちきのベッドでおもら―――』
「ななななにをいってるのさー!」
「くすっ、リオルもお子ちゃまだね」
「フィアルも何を言ってるのさ! えっと、え? なに、この《紫紺竜》は、本当にミミロ、なの?」
ちょっといきなりの急展開に頭が付いて行かなくなって思考が空回りを続ける
この《紫紺竜》の赤ちゃんは、ミミロしか知らないであろうことを知っていた
それに、なんでか知らないけど、不思議と納得している自分がいる。
ミミロは、生きているんだ。
『そうであります! とーう!』
渾身の力を込めて紫紺竜の赤ちゃん………いや、『ミミロ』はタマゴの殻を内側から『バッキーン!』とぶち破って上に飛びあがった
「うえあ!?」
『呼ばれて飛び出てわちき復活であります! よくわかりませんが、赤ちゃんからやり直すことになりました! ああ、ちょっと限界です、誰かヘルプ、ヘルプミー!』
パタパタパターと頑張って飛行しようとするミミロを、僕が下に待機して、ミミロを抱きかかえた
体長30cmくらいの小さな竜だ。
四年もすれば、5m級のミミロの大きさになるのかな
『ふひゅう、リオ殿、助かったであります。赤ん坊の身体ではまだ飛行はできないみたいですね! ちょっと無茶をしたみたいであります!』
「うん、まぁそれはわかったけど………」
「み、みみろー? みみろなの?」
いきなりテンション高く現れたミミロに、ルスカがすこし警戒して近づく
『はい! ルー殿。わちきはミミロでありますよ!』
「うゅ………ほんとう?」
『もちろんであります! ルー殿に嘘を吐く必要性がありませんよぅ』
僕の腕の中でぺらっぺらと独特で饒舌な人間語を話す赤ちゃん竜に、ルスカはそろそろと手を伸ばして、そして触れた
「みみろ~♪」
『ルー殿!』
ミミロを離してルスカにパタパタと飛んでいく。
ずっとタマゴの中にいたからなのか、かなり湿っていた、というよりぬめっていたけど、ルスカは構わずミミロを抱きしめた
「みみろ、あそぶの~♪」
『わちきもルー殿と遊びたいであります!』
もはやルスカはミミロと遊べるなら姿や色がどう変わっていても関係ないらしい。
僕は紫紺竜の赤ちゃんのことを少し疑っていたけど、ミミロとルスカの間に、確かな絆を感じた
孵化したてのミミロをぶんぶんと振りまわして喜ぶルスカ。
それを宥めてからミミロに聞いた
「えっと、ミミロは、なんで《紫竜》から《紫紺竜》にクラスチェンジしたのかわかっているの?」
『いえ、実はよくはわかっていません!
最後のタマゴを産む時に、族長殿や戦士長殿の魔力ではタマゴを産む魔力が足りなかったらしく、わちきの生命力や意識や存在ごとすべてタマゴに吸収されてしまいまして………なんか気づいたらこうなっていたのであります!』
そんなよくわかっていないことを自信満々に宣言しなくても………
でも………
「でも………よかった………ミミロ、生きててくれてよがったよおおおおおおおお!!」
今の今までミミロは死んだものだと考えていたから、僕は泣きじゃくりながら紫紺竜の赤ちゃんにむかって抱き着いた
『うわぶ! あはは、わちき今モテモテでありますね! わちきが死ぬわけないじゃないですか! リオ殿やルー殿を残して先には死ねませんよ! お二人は、わちきにとって初めての『お友達』なんですから!』
「ぶええええええええ! 僕もだよ、ミミロ、生ぎででくれて本当にありがど―――――!!」
『ミミロ………よかった………』
テディも安堵のため息を漏らした。
このことは、テディにとっても朗報だっただろう。
この日、ミミロは《紫竜》の亜種である《紫紺竜》として生まれ変わった。
『ぎゃう?』
『きゅー?』
そして、いつの間にか生まれていた《黒竜》と《白竜》は、仲良く首を捻っていたという。
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