受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第13話 紫竜序列最下位 ミミロ



 4歳になった。


 生まれた時からすると、だいぶ体が大きくなったことを実感できる


 さて、今日はなにして遊ぼうかな




『グルアアアアアアアアアアア!!』


 歩いていたら、紫竜が僕に向かって体当たりを食らわせようと突っ込んできた


「ほいさ!」


 《ブースト》は使わずに横っ飛びで躱す


『グ………ガァアアアアアアアアアアアアアアアア!!』




 横っ飛びで躱したはいいけど、足腰がまだ少し弱い。
 着地と同時に足首をひねってしまった


 でも、一年ちょっとの修行で平均4歳児よりは動きがいいだろう。
 もちろん、自分の身体にかけている1.2倍の重力を解いたらの話だけど。


 まだ体の線は細いし肉も少ないけど、運動量はバカにならない


 今の僕だったら、生前の購買パシリレ―も難なくクリアできそうだ
 まぁ、相手も同じ年齢だったら、だけどね。




 転んだ僕は紫竜の恰好の的だ


『グル………グルアウ………』




 でも、紫竜は僕を食べようとしない。
 心配そうに僕を見下ろした


 このドラゴンの名前はミミロ。


 紫竜のメスだ。
 僕とルスカの修行によく付き合ってくれる、若い竜。


 紫竜としての序列は最下位。


 最初に僕たちを毛嫌いしていた竜の一人なんだけど、どういうわけか僕たちの事を気に入ってくれている


 理由なんかどうでもいい。長く一緒に住んでいたから、情でも移ったのかもしれない


 そう思っていたんだけど、実はそうじゃない。
 ちゃんと理由があったんだよ。


 この子は紫竜の序列最下位だから、ミミロは、実はいじめられていた。


 それに気づいたのはルスカだ。
 ルスカが紫竜がいじめられているのを見て、僕に助けを求めてきた


 このミミロが以前見た絶壁に追い詰められ、紫竜に体当たりを喰らっていたのだ


 ルスカがそれを僕に知らせてきた。
 僕は、僕を嫌うやつはどうでもいいので傍観者になろうと思っていたんだけど、ルスカが助けるように懇願してきたから、仕方なく紫竜たちを追っ払ってミミロを助けてあげた


 そんな感じ。
 今のルスカだったら、ピクシーに蹴られる僕を守ってくれたのかな。


 ん? どうやって助けたかって? 闇魔法って便利だね。はい終わり


 それから、ミミロを虐めていた竜には嫌われたけど、ミミロは僕たちに懐いてくれたんだ


 それからというもの、ミミロがいじめられている現場を見たら、とりあえす助けてみることにしている。
 ミミロは紫竜の中でも若く、体も小さい。
 序列が最下位となれば、まぁそうなってしまうのもしかたないけどね。


 前世の僕と同じだ。
 体が小さくてガリガリで学校内序列スクールカースト最下位シュードラ


 この子は生前の僕と同じなんだ。


 とりあえず、自分を見ているようでイライラする。
 僕はミミロのことはそれほど好きではない。


 僕は自分の事が嫌いだから。




「ミミロ、今日は頂上に行ってみようよ!」
『ガル!』


 ミミロがパシリをしていない時は、よく僕とルスカのところに遊びに来るようになっていた
 紫竜は高い所を飛ぶことができる。


 飛行能力が高い竜らしい。
 だから他の竜と比べると、戦闘力では劣るとか。




 ゼニスの場合は魔眼を持っているからなのか、色竜カラーズドラゴンの中でも最強である赤竜せきりゅうの族長よりも強いっぽい


 竜の種類は大きく分けると7種類。ほかにも細かい種類がいるようだけど、大雑把に説明すると


 赤 橙 黄 緑 青 藍 紫 この7色らしい。


 虹の色だね。
 強さなんだけど


 赤 > 橙 > 黄 > 緑 > 青 > 藍 > 紫 


 やっぱりこうなっているらしい。


 ゼニスは戦闘力では最下位の紫竜なのに、赤竜の族長に勝てるというのは、本当にすごい。


 ちなみに、竜の細かい種類って言ったけど、それは亜種ってことになるのかな




 突然変異で進化とか変な風に生まれたりした竜の事


 赤竜だったら紅竜くれないりゅうという深い赤色の竜となる


 ちなみに紫竜の亜種だと紫紺竜しこんりゅうという濃い紫色の竜になるっぽい。


 紫竜の里にはいないから、本当に希少なんだろう




 でも、ゼニスが青竜セイリュウの族長に聞いたところ、群青竜ぐんじょうりゅうは色違いとして下位青竜にいじめられていたそうだ。
 可哀想な話だ。


 群れで生きる以上、そこにカースト制度は生まれる。
 イジメはなくならないってことか。


 それに、白竜とか黒竜とか、灰竜とかがいるから、色竜カラーズドラゴンの種類は多いだろう。
 主だった7色の竜がおさを務めているってところなのかな?


 Sランクレッドクラスがはびこるこの世界。なんとかならんかね。




「きゃあ~~~~~~♪ みみろ、すごいの! たかいのーーー!」


『ガルル♪』




 飛行能力が高い紫竜。雨雲さえぶち抜き、晴天の空を仰ぐ。


 いっちゃなんだが、かなり寒い。風も強い。
 5000m位の酸素濃度には慣れたけど、さすがに8000mオーバーは息ができないレベルだ。
 なぜルスカは元気なんだい? その元気を僕に分けてくれ。


 暖かい服に身を包み、ミミロの背中に土魔法と糸魔法で僕とルスカが抱き合った状態で固定する。
 風圧で簡単に転げ落ちちゃうからだ。あと寒いし。


 上空から下を見ると、人がというより、人里がゴミのようだ。




 それに、この紫竜、その気になれば2万8千メートルまで飛行できるっぽい。
 なんそれきもい


 アルノー山脈を旋回して、頂上へと降りる。
 頂上ともなると、もうその辺は凍っている。


 そんでもって、頂上には紫竜の卵が隠してある。


 やっぱり、紫竜の卵は高度が関係しているようだ。


 稀に赤竜が生まれることもあると言っていたのは、おそらく紫竜の里で、特に暖かい場所で中途半端な標高で暖められた卵がそうなるのかな


 もしかしたら、この里でも赤以外の竜が生まれることもあるかもしれないね
 ここは寒いし、氷竜ヒリュウとか。


 詳しくは聞いてないから知らないけど。




 登山者では紫竜の卵は見つけられないであろう場所だ。
 巧妙に隠してある。


 僕は盗む気はないけど、もしかしたら冒険者ギルドでは『竜の卵の納品』みたいなクエストがあるのかもしれない


 登山者は、あんがい採取部門の冒険者である可能性もあるな。




 登山者以外にも、どこかに犯罪ギルドみたいなところがあれば、盗んだ卵を育てて灰竜を孵らせ、犯罪者に従順なドラゴンが出来上がってしまうだろうし、


 もうちょっと頂上の管理をした方がいいんじゃないかな。
 一応交代で頂上を巡回しているようだけどさ。




『ガルルルル!!』




 頂上付近を飛んでいたミミロが、何かを発見したみたいだ


「どうしたの、ミミロ?」


『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』




 いきなりの大絶叫に僕は思わず耳を塞いだ




 ミミロの絶叫を聞きつけた他の紫竜がどんどんこちらに集まってくるのがわかった


『グル、グルルーガルー』




 ふむ。ミミロが僕に話しかけてきた。


 1年紫竜の里に住んでいたから、大分竜言語がわかるようになってきている。


 ミミロが言うにはこうだ。


『リオ、タマゴ泥棒が居る。』


 こんな感じ。


 ほとんど適当なニュアンスであてずっぽうだけど、だいたい合っている気がする




「タマゴ泥棒? 採取の冒険者かな」


 モコモコフードからひょっこりと顔をだしてミミロの背中に作った鎌倉を解除。
 糸魔法のみで体を固定し、立ち上がって下を見下ろす。


「いた、あの人たちか。」




 防寒装備で山を下る登山者たち。


 そこは、紫竜の卵が一つ隠してある場所だった。


 紫竜の卵は頂上に4つ、里に2つある。
 それ以外は、おそらく忘れ去られたタマゴだと思われる。


 紫竜は個体数が55匹なため、卵は貴重だ。
 そもそも生殖活動をあまり行わないんだ。


 里にあるタマゴは、あともうすぐで孵化するタマゴ。
 頂上に置いてあるタマゴは、紫竜として確定させるためのタマゴなんだろう。


 頂上はマイナス20度くらいかな。


 痛いくらいに寒いし酸素が薄い。
 息を吸ったら肺を痛めそうだ。




『でかしたミミロ。タマゴを盗みに来た輩だろう。排除するぞ』


 人間語でそう言うのは、紫竜の戦士長『テディ』
 テディは上位の竜らしく、人間に擬態することはできるが、人間をあまり好きではないらしく、擬態はあまりしない。


 僕とルスカのことは結構気に入ってくれている。ありがとう。


『グルル、ギャアア!!』


訳すと『はっ、お褒めに頂き光栄にございます!』こんな感じ。


「あは、今日の晩御飯は人肉かな」


『リオルは人間ではないか。共食いとは解せんな』


「だから、僕は人間とか大っ嫌いなんだって。僕を人間じゃなくて悪魔扱いするんだよ?
 だから僕は悪魔でいいの。それなら共食いじゃないでしょ」


 テディに注意されても、開き直る。
 僕も物騒なことを考えるようになったものだ。


 殺すことにためらいを持つことが無くなってしまった。


 といっても、本当にタマゴ泥棒だったら殺す。
 登山者だったら、一応見逃す。
 紫竜には世話になっているから、紫竜の敵は僕の敵だ。


「るーは? るーもきらいなの?」


「るーは天使だよ、僕はるーのことは大好きだからね」


「にへへ~ るーもりおのことすきー!」


 うれしいことを言ってくれやがるね。
 ルスカの頭を撫で繰り回す。


 眼前の事に集中しよう。


「僕が連中の動きを止めるよ」


『うむ。頼りにしている。リオルが居ると狩りが楽になる』


「ありがと。いくよ、《重力倍加ダブル》」




 闇魔法を一瞬だけ発動させる。


 頂上で薄い酸素。
 重い登山用の装備。
 頂上まで登ってきた疲労により、一瞬だけ体重を倍にしたら、簡単に転んだ。




 その隙に、ミミロとテディ。あと二匹のドラゴンで登山者を囲んだ
 ズズンと音を立てて雪に足をつけて着地する紫竜たち。


「さーって。狩りの時間だね」


 僕はミミロの背中から降りる。
 ぼふっと雪に足を突っ込んだ。うひい、冷たい。


 登山者たちは転んだ体を起こすと、自分たちが紫竜に囲まれているということを知ったらしい。
 遅いね。


「ひっ! きゃぁあああああああああああああああ!!」


「ご、ごめんなさい! 食べないでええええ!!!」


「あわわわわわわわわ!!!!」




 登山者は7人。
 武器の類は見当たらない。


 登山者っぽいな。
 服装が分厚いからかな、冒険者にはあまり見えない。




 怯える登山者たちに向かって、僕とルスカはミミロの足元からひょこひょこと歩いていく。




「ふぇええええええええ・・・・・・・・え? こ、子供がいるぞ!」


「な、なんだって!? そこの子! どうしてこんな頂上に!? そこは紫竜の足元だぞ! 早く逃げなさい!」


 意外とやさしい。キミたち、今絶体絶命なんだよ?


 チラリと白い防寒具のジャンパーから顔を除くことができた。
 あ、この人たち、冒険者だ。


 というか、知ってる顔だ。
 猿顔だった。


「逃げないよー。ここは僕の庭だもん。」
「にわなの~♪」


 ルスカが僕にピッタリと寄り添った。
 ルスカはなんでここにいるのかな? ミミロの背中でじっとしていれば安全なのに。


「は? ど、どういうことだい!?」


「んっとね、答える気はないかな。それより、こっちから質問。」


「手短に頼む! 紫竜の相手なんてしたくない! 君も一緒に早く逃げよう!」




 僕は、僕をここから助けようとしてくれている猿顔の男に向けて、一言だけ聞いた。










「そもそも、どうしてここにいるの? ルパン。」








 僕はCランク冒険者の猿顔に向かって、そう言った。









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