テンプレバスター!ー異世界転生? 悪役令嬢? 聖女召喚? もう慣れた。クラス転移も俺(私)がどうにかして見せます!

たっさそ

第40話 樹ーひとりじゃ気づけないスキルコンボ





「もしも!」


『もしもー! どうした樹。貴様から電話とは珍しいじゃんか!』




 俺はひとまず白石響子に電話かけた。地球に、日本に、自宅に戻ってきたならば、こちらでの意識が覚醒している響子に連絡をとるのが必然だ。


『………ってかどうした樹。まさか貴様死んだのか!? あたしの知っている限り、他の人たちみんな意識戻ってないぞ!』


 響子は異世界転移最初の死亡者。
 向こうの世界で死亡すると、こっちの世界で意識が覚醒してしまうが、異世界の方ではそれはまだ伝えていない。


 せっかく向こうとこっちを行き来できるようになったのならば、それを共有しておかないといけないし、せっかく響子がみんなに無事を知らせてくれた動画も、妙子の意向でみんなにはまだ伝えていないことも、言っておかないといけないかんな。


「今日は由依はまだ向こうにいる状態で、なんか俺だけこっちに来れたから、連絡しとこうと思ってな。」


『なるほどね。今日は土曜日だし、あたしはどう行動すればいいのかわからないところだったから、非常に助かるよ』


「そか。………前提条件として、前こっちに戻ってきた時よりも、向こうの世界で半年過ぎている。まだ誰もリタイアはしていないけど、俊平が見ている夢を確認できるんじゃないかと思ってな」


『ほぉー、昨日は妙子ちゃんの夢を見たけど、今度は行方不明の俊平ちゃんの夢を見るってことだね?』


「………そゆことや。俺としても俊平の動向を知るチャンスだったからな。協力してほしい」


『了解だよ。まだ誰もこっちの世界に帰ってきていないとなると、本当に寂しいんだから!』


「わかってる。とはいえ向こうの世界で仲間を殺したくはないからな。それは最終手段だ。俺が手に入れていた情報も共有するから、何か気づいたら教えて頂戴」


『わかった。向こうの様子が知れるのは私としても助かるからね。準備ができたらもっかい連絡して』


「り。」


 電話を終了。
 精神は入っていないだろうが、由依の抜け殻も連れて行ってやるか。






          ☆




「お邪魔しまーす」
「お、お邪魔します」
「失礼します」
「よろしくお願いします」




 俺と響子。そして抜け殻の俊平と由依を連れてヤクザの事務所にやってきたぞ。
 ちなみに俊平は、俊平んちに行って、あーそーぼー! って言ったら一発で出てきてくれたよ。
 抜け殻みたいな返事だったけどね。


「まさか昨日の今日でまた連絡がくるとは思わなかったってんですよ。」


 ヱリカさんは今日は大学はおやすみみたいで、連絡してみたら詳しく話を聞きたいとのことでまたヤクザの事務所で落ち合うことに。


「すみません………。向こうの世界ではもう半年は過ぎちゃってるんで、俺としては時間がめちゃくちゃ経っているのですが心苦しいです。一応、向こうの世界の妙子の様子もお伝えします」


「あっしは構いやせんよ。妙子さんの様子がわかるのならば万々歳です。早く元に戻れるといいですね」


 団三郎さんも歓迎してくれて、なんだかこのヤクザの事務所が好きになってしまいそうだよ。
 妙子の件がなかったら、一生接点がなかっただろうけど、味方でいてくれるうちは頼りにさせてもらいます。


「はい。ありがとうございます」


 団三郎さんにお礼を言って、俊平と由依を誘導して座らせる。
 ちゃかちゃかとヱリカさんが夢映しの鏡をセッティングをして




「妙子は?」


「おばーちゃんは向こうでクッションの上で丸くなってますよ」


 ヱリカさんが指差した方にはクッションの上に焦げ茶色の毛玉。


 元気そうで何よりだ。


「それじゃ、誰の夢から見ます?」


「じゃあ由依からお願いします。急に俺が消えてビックリしていると思う。」
「わかった。今日は最初からテレビに繋いでますから、大画面で見れますよ」


 由依に立てかけた鏡をカメラで撮影しながら、撮影された映像を解析してテレビに映す。




『うおっ、なんかビビッと来た! 監視されてる??』


 映った瞬間に由依がびくっとしてキョロキョロしてた。
 マジかよ。こっちで夢映ししているのに気付きやがった。


『まさかいきなりタツルが消えるとは思わんよー………。って、そっか。そういうことか。』
『なにを言っているにゃ?』


 田中は俺の存在を忘れてしまったからか、由依の発言の真意を掴めないでいると、由依はそれを完全にスルーして


『タツルー、そろそろヱリカさんと一緒に私の夢見てるんじゃないのー? 意識のない私に変なことしないでよねー!』


 そんで、こっちに向かっての注意をする。


「わお、エスパーかよ!」
「すごいですね、由依さん。しょっぱなから樹さんの行動読んでますよ。」
「さすが由依ね………」
「同じ夢の能力だからか、由依も俺のこと覚えてられるみたいだな。」


 由依が初日にこっちに来た時、俺は居なかった。
 しかし、由依は俺の存在を探して、みんなながおかしくなってて、それで気を失ったって聞いた。
 由依は俺のことを忘れることはないのだ。絆の力かな!!




『由依にゃん、どうしたにゃ?』


『タナカちゃん、前に夢の世界で現実に戻った話したでしょ』


『されたにゃ。響子にゃんが向こうで生きているにゃ。その動画も………あれ、誰から見せてもらったのかにゃ?』


首を捻る田中。どうやら記憶の欠落や違和感に気づいても、俺のことは思い出せないようだ。
俺のことは思い出せなくても、知識だけは残るんだろうな。
少し寂しいが、あまりデメリットにはなり得ない、かな。




『タツルの記憶が欠落しているからそこだけ抜け落ちているみたいだね。大丈夫。タツルが現実でなんとかしているよ』


『記憶の欠落は怖いにゃ………………田中も記憶力には自信があったのににゃー。そういえば、由依にゃんは、現実に夢を映す鏡があるって言っていたにゃ。そこから今見られているってことにゃ?』


『相変わらず理解早くて助かるこのタナカちゃん。』


『タツルにゃん! 覚えてないけど、たぶんそこに響子にゃんもいるにゃ? 元気しているなら何よりにゃん! そっちの声はこっちには届かないけど、こっちの無事をお知らせするにゃん! そっちにいるついでに俊平にゃんの夢を見て俊平にゃんがいま何しているかの確認をお願いするにゃん!』


 と、見当違いの場所に手を振っているが、覚えていないにもかかわらず、こっちでやってほしいことをお願いする厚かましさ。
 ふむ。嫌いじゃない。




「おお、田中ちゃんすごいね、やるべきことがちゃんとわかってる感じ………」
「なんですか、この猫耳カチューシャの子………。なんでこんな格好してるんですか?」
「あ、なんか当たり前過ぎてそんなツッコミがあるとは思わなかった。多分理由なんてないですよ」


 ヱリカさんは田中を見るのは初めてだったのか、そんなことを呟く。
 たしかに、田中の語尾が「にゃ」の理由を知らないし、なんで猫耳カチューシャなんてしてるんだろう。


 いや、田中は田中だ。意味不明の生き物なのだ。
 深く考えるとドツボにハマる。




『そういや、夢で思いついたにゃん!』


 くだんの田中はポンと柏手をうって顔の横で猫の右手を作る。
 無駄に可愛い。


『ん?』
『まだ試していないことがあるにゃん!』


 首を捻る由依に、今度は左手も顔の横に猫の手を。
 にゃんにゃん。


『ほむ。』
『田中のアビリティ<転身願望メタモルトリップ>は着ているコスプレの能力を得る能力にゃ』
『そうだね。』
『パジャマって、この世界で着たことないにゃ』
『ほむ? まあ、適当に脱いで薄着で寝るだけだもんね』
『パジャマで寝たら、由依にゃんと同じ能力覚醒しないかにゃ?』


………は?


『は? 天才かよ? 』
『なんなら異世界に行っているタツルにゃんにパジャマ買ってきてもらうにゃん!』
『聞いたなタツル。パジャマ買ってこい!』


「そんなん言われたら買ってくるしかねえだろ!」




 命令する由依に対し、俺はメモ帳のやることリストに『田中のパジャマ購入!!』と速攻で記載する
 ちなみに『妙子の酒!!』とも記載されてるよ。




「なんというか、由依たち、楽しそうに異世界満喫してますよね」


 クスクスと笑いながらヱリカさんが俺の肩にポンと手を乗せた。
 俺はチラリとそちらを向くと


「まあ、楽しんでいる節はあります。もはや俺以外の死すら怖くないし。死んでもこの世界に戻ってくるだけですから。」


 なんて言っていたら、こっちのやりとりを全く聴こえていない由依がちょっと大きめの声で割り込む。


『そうだ、タツル! うちの母さんがみんなの能力を検証してるんだけど、面白そうなスキルコンボとか思いついているかもしれないから、ちょっと確認してもらってもいいかな。こっちに戻ってきたら教えて!』






 なんて由依がいうから、ソッコーで由依の家に電話かけてみる。






『はい、佐藤です』
「あ、おばさん。樹です」


 電話に出たのは、由依のお母さん。




『ああ、樹! さっき抜け殻みたいな由依を連れて行ったばっかりじゃん。どうしたの?』
「ちょっと異世界の方の由依からお願いされまして、クラスメイトたちのおもしろいスキルコンボとか思いついていたりします?」
『ああー、あるよ。便利そうな子が一人いるよね』
「ほう?」


 俺や由依はテンプレを網羅しているし、なんなら能力の応用なんかもある程度思いつく。
 だからこそ、俺がこの世界に戻れるようになったわけだし。


『坂之下さんちの鉄太くん。あの子、複数人がやっていることと同じことできちゃう能力でしょ?<便乗模倣ペギーバック>だっけ?』
「そうです」




 坂之下鉄太。<便乗模倣ペギーバック> 便乗の勇者。
 複数人がやっていることと同じことができる能力。
 珍しいコピー系の異能。


 剣握ってる奴が2人以上いたら鉄太も剣を握ってスキルを扱い
 魔法使ってる奴が複数いたら、その属性に合わせて魔法を使う。
 儀式系の魔法の数合わせにもなる。


 正直これといってパッとしない異能だった。
 コピー系といってもその場限りだったし、複数人が同じ行動をしていないと便乗できないのだ。
 完全に稔の暴飲暴食の下位互換だったはずだ。


 つまり、人数が必要なところの、傘増し要因だった。


 そんな彼をどうやって使うというのか。










『由依と樹が寝てる真ん中に鉄太くん置けば、鉄太くんも夢の世界の冒険とかできちゃうんじゃない?』




「………天才ですか?」






 つまり、俺と由依が同じ夢の能力を持っていることで、鉄太はそれに便乗できる!?


 なんてことを考えるんだ、さすがは由依のお母さん!
 考えることがえげつない!!


 俺と由依は男女だ。
 さすがに寝る時は別々だ。
 そんな時にまとめて寝ようなんて考えない!


 自分の思考の盲点をついた由依のお母さんの考えは、まさに目から鱗の提案だった………!
 鉄太をそんな風に使うなんて………。


『またなんか思いついたら教えてあげる』
「ありがとうございます」


 電話終了。頼りになる大人ってかっこいい。なんつーか、………憧れる!!
 まさか、夢の冒険仲間を2人増やせるのか?


 由依のお母さんがとんでもないことを考えついていたことなど梅雨知らず、由依はこちらに伝えるべきことがないか、顎に手を当てて「んー………」と考えていたが、それ以上のことは思いつかなかったのか




『あとは、こっちから伝えることは特にないかな? 俊平ちゃんの様子だけ教えてね』




 とのことなので、由依の夢を覗き見ることは終了とする。









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