テンプレバスター!ー異世界転生? 悪役令嬢? 聖女召喚? もう慣れた。クラス転移も俺(私)がどうにかして見せます!
第33話 樹ー目を逸らすな!!!!!
さて、続いてますよ観賞会。
『集合! 整列!!』
団長の号令により、ざっと集まるクラスメイトたち。
決まった配置で整列することで、誰がいないかをはっきりさせる。
絶賛気絶中の由依と縁子、死亡の響子。行方不明で爆散した俊平。そして俺が空きだな。
『キョウコとユイとシュンペイとユカリコ………カラス、そこは誰だ?」
『樹です!』
『タツルって………誰だ?』
「おや?」
「んー?」
「おっと? 団長ってなんだかんだ樹のこと気に入っていたと思うけど? なんというかこう、同期には嫌われるけど先輩や上司には気に入られる感じで」
「え、もしかして俺みんなに嫌われてる?」
「いや、例え話だから」
まさかとは思ったけど、やっぱりこうなっているのか。
団長のセリフに思わず茶菓子を食べる手も止まる。
「どういうことですか? 樹さんってあなたですよね?」
ヱリカさんも思わず俺をみる。
「はい。どうやら私が異世界に行っている間、こっちの世界の人からは私に関する記憶が抜け落ちます。私が急に夢の世界に行くためのつじつま合わせなのか、私の能力の影響なのかはわかりませんが、たぶん向こうでも同じことになっているみたいですね」
「はぇ〜 本当に不思議なことに巻き込まれているんですね………忘れないように私も動画に樹さんを納めておきましょうかね」
なんてスマホで撮影されるもんだから由依と一緒に響子とピースしておいた。
『誰やっけ?』
『そんなやついたか?』
『誰だタツルって?』
『俺は誰だ?』
『はて、誰だったかにゃ?』
消吾も雄大 も、光彦も田中も。全員首を傾げている。
そんな忘れられる自分の姿をみて俺はショックを受けているのかと思いきや
「いや、むしろインテリメガネのカラスが俺の存在を認知していることの方が異常じゃね?」
そんなことないので、気になったことを呟く。
由依にネタバレ食らってたからな。予想はできてた。
「あ、確かに。カラスくんのアビリティって<絶対記憶>だよね、だからじゃない?」
「なーる。」
インテリメガネのカラスの能力<絶対記憶> 記憶の勇者。
バスケ部所属のインテリカラスの戦闘能力はそこそこ高い。剣も使うし魔法も使う。
でも、彼の能力の本質はみたものを忘れない、ということ。
そのおかげで俺の存在が消え、俺の記憶がみんなから抜け落ちても、カラスだけは忘れることがなかった、というわけだ。
『何を馬鹿なことを、みんなふざけているんですか? 由依さんを助けるために樹が迷宮の上から飛び降りてきたじゃないですか!』
『でもみんなタツルなんて名前に聞き覚えもないぞ』
『なんだって………!? ならばみんなの記憶の方が欠落している! 僕の能力はみたものを覚えていられる能力だ。自分の記憶を疑っても、僕の記憶だけは疑っちゃいけないはずです! そうじゃないとここに空席はできない!』
『………たしかに。何かが起きているんだろう』
すごいなカラス。自分の記憶だけは信じろというその胆力。俺にはできないよ
『カラス、タツルとやらについて、最後にわかる記憶はなんだ?』
『たしか、由依さんを助けるために、佐之助と妙子さんと協力して瓦礫を撤去していました。僕が魔物たちから守っていたらいつの間にかいなくなったので、救出に成功した後は魔物の掃討に移っているものとばかり思っておりました』
『なるほど………。』
自分の記憶にないことはなんとも納得のし難い団長だが、カラスの能力のことも知っている。
無下にはできないようだ。
『とはいえ、樹くんならアレも、彼が仕留めているからそうなっているのでしょうし、心配はいらないでしょうが。多分、俊平くんの肉体の回収でもしているのかもしれませんね』
といってカラスが指差したのは、木にくくりつけられたデリュージョン。
なんだか下半身が鬱血してかわいそうなことになってる。
クラスメイトみんなの体重をその身に一身で受けたのならそりゃあそうなっても不思議じゃない。
「俺って、なんだかんだみんなからの評価高くね?」
「ふはっ、今更かよー。」と由依が笑う。
「一人で魔人と戦っているとき、微塵も敗北を疑ってなかったよ。私もタナカちゃんも。」
「いやあ、由依や田中に言われても………」
「何言ってるの? 由依と樹と田中ちゃんはそうとう評価高いよ? ありふれた苗字トリオ。」
「なんだそのふざけたチーム名、初めて聞いたぞ。」
「ふっはー! 全国的に一番多い佐藤と東日本に一番多い鈴木、西日本で一番多い田中。このありふれた名前であの世界でよくつるんでるからってそんな名前がつくなんて!」
「だって異世界で一番落ち着いて楽しんでいるのがこの3人なんだもん。目立つし評価もあがるよ」
そんなものなんだろうか。3人ともテンプレ慣れしているだけなんだけどなー。
『タツルとやらのことはともかく、キョーコとシュンペイについては、俺がついていながら、申し訳ない。」
と頭を下げる団長のダンさん。
『シュンペイには無茶をさせてしまったし、油断しなければキョーコだって………』
「と悔しがる団長だけど、あたしがここにいるから、見ててあたしの胸が痛くなるんだけど」
「わかるマン」
「わかるウーマン」
響子の言葉にうなずくしかない。
今この場でできることがないのもさることながら、死んだにもかかわらず、響子が今すぐ隣にいるこの状況に申し訳なさしかない。
「でも、頭を下げる人を見ると思わず手を差し伸べたくなる性癖のやつがいるんだよなぁ。絶対なんか言うぞあいつ。」
「そんなことないです。とかね」
「え、なんでわかるの二人とも」
静かに。
言うから。
今から言うから。
『団長が謝ることはないですよ!』
「「 ほら!! 」」
「本当だ!」
ここでこんなアホみたいなセリフを吐けるのは、やはりテンプレ勇者。虹色光彦。
馬鹿だなぁ、団長は自分の責任だとしているのに、妙子の言った通りだ。
光彦は『責任の取り方も知らない餓鬼』。まさにその言葉を体現している。
まさにテンプレ勇者。
綺麗事だけをほざける人間だ。責任の取り方で一番しっかりとした考え方をしているのは、ヤクザを部下にもつ妙子くらいなもんだろう。
光彦がゴブリンと対峙した時に自ら一番槍になるといった。
その際に仕留めきれなかった際に妙子は、妙子がとどめを刺すのではなく、動きを阻害するに留め、光彦にとどめを刺させた。
それが一番槍の責任だ。
「なんでわかったの?」
「そりゃあなぁ………」
「もちろん………」
「「 テンプレ 」」
「わお」
『団長だけの責任じゃないですよ。あんな化物が出てきたら、対処のしようがない。みんなで協力できればあるいは………。だけど………』
ちらっと雄大を見る光彦。
『俺っちは知ってるっぜぃ。赤城が俊平をドラゴンの前に蹴り飛ばしていたのを。』
ざわっ、と事情を知らないクラスメイトたちが佐之助の言葉にざわめきたつ。
『優しい俊平は、お前に対して恨んじゃいないだろう。』
と、佐之助が雄大に近づきながら言う。
『だがな赤城。俊平の代わりに俺っちが怒るし俺っちがお前を恨む!!』
ハギッ!! と佐之助が思い切り雄大を殴った。
雄大は半歩だけよろめいて下がるが、決して倒れなかった。
『今のは俊平の分だ。お前は謝らなくていいし、謝る必要もないっぜぃ。それを俊平は望まないし、俺っちからすれば謝ったら許すほど俺の心は広くない。むしろそれで謝ろうってんだったら虫唾が走るっぜぃ』
『ああ………』
『それがお前さんと俊平が考えた落とし所なんだろうさ。いいよ、乗ってやるっぜぃ。ただし、俺っちはお前のことを一生許さないけどな。』
雄大は、光彦とは違い、自分の行動の責任は自分でとっている。
逃げも隠れもしない。
正義を振りかざす光彦よりも、余程大人に見えた。
雄大は俊平をパシリにつかっても、決して好き好んで殺そうとまでは思っていない。
話を聞く限り、雄大が俊平を蹴り付けてドラゴンの元まで弾き飛ばし、飲み込まれた俊平が体内で自爆している。
俺がいれば話は変わったかもしれないが、由依も結界ごと吹き飛ばされるレベルとなると、あまり期待はできない。
たらればの話をしてもしょうがないか。
これからの雄大は全員から敵のように見られることだろう。
いざとなったら味方を切り捨てる人物だと、そう思われる。
大多数を生かすために俊平を切り捨てたのだから、間違いではない。正しくもないが。
光彦にとっての正義がみんなを生かすこと、といった綺麗事なのに対し、雄大の正義はその場での大多数を生かすために切り捨てるべきものを選ぶという対極にあるが合理的なもの。
たしかに、光彦の言うことも正しい。みんなが生きて帰れるならそれに越したことはない。
だけど、あの由依を一撃で吹き飛ばすレベルのドラゴンを相手に、それができるわけがない。
褒められたことをしたわけではないが、雄大は確かにみんなを救ったのだ。
だが、それは俊平の命を使って、という注釈がつき、みんなもそれをよく思っていないのは確かなのだ。
『雄大についてはもうよかろう。次はお主についての責任じゃよ、光彦』
雄大の責任追及は佐之助の拳でひとまず決着。
人の感情に機敏な佐之助だからこそできた終着点かもしれないな。
妙子はそこはもう終わった話として脇に置いて、光彦を睨む。
『俺の………?』
『お主、まさか自分に責任がないとでも言うつもりか?』
『な、なにを………?』
『お主は先ほど、地下で雄大に俊平の腕を見せて言っておったな。『これが、お主がやった結果だ。お前が望んだことだ。満足か?』とな』
『あ、ああ。』
『よくもまあ自分のことを棚に上げて言えたものじゃ。この世界に召喚された初日に、お主はなんと言った? ワシは一言一句覚えておるぞ。』
『………。』
『勇者の力をこの世界のために使わずしてなんとすると言ったお主は、続けてこう言っておったぞ。『俺は人間を魔人に支配されたりなんか、絶対にさせない。みんな、オレについてきてくれるか?』とな』
『あ………あ………!』
サァ………と光彦の顔色が青白くなる。
『響子の亡骸を見よ。倒れ伏す縁子と由依を見よ。俊平の腕を見よ。そしてワシが問おう。『これが、お主がやりたかったことだ。 お主が望んだことだ。満足したか?』』
『あぁあ、ああああああああああああ!!!!!』
『お主が先導した結果がこれじゃ! 目を逸らすな! 光彦!!!』
『うわああああああああああああああ!!!!』
膝から崩れ落ちる光彦
自分の発した言葉の重みに耐えかねて、俊平の腕を抱き、うずくまる。
「うわぁ〜〜、おばーちゃん、エッグぅ! 正論で責任の刃ぐっさぐっさ指してるよ。そのうち黒髭みたいに急所に刺さって首が飛ぶんじゃないかなぁ」
ヱリカさんが口元に手を当ててそんなことを言う
俺たちの方はと言うと
「「「 キッツぅ……………… 」」」
妙子のあまりの迫力に、俺たちまで怒られていると思うレベルの錯覚に陥ったよ。
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