テンプレバスター!ー異世界転生? 悪役令嬢? 聖女召喚? もう慣れた。クラス転移も俺(私)がどうにかして見せます!

たっさそ

第29話 樹ー夢現回廊1 前編



 数分前。
 異世界で結衣の手を握った瞬間に、俺の意識が途切れた。




「………は?」




そして、俺が『出現』したのは、自室だった。
服は兵隊服。向こうの世界に生身で行ったから、向こうの世界の服でこっちに出現したってことか。


いつものような寝起きではなく、漫画や筋トレ器具にかこまれた、いつもの自室に立っていた。
俺は、あの世界で由依が埋まっている瓦礫をどかしていて、由依に手を触れたら急に意識が………。


「ってことは、ここは由依の夢か。もしかして由依が初日に見たっていう例の夢ってことかな。」




日付は、俺たちが転移してから2日目。


間の1日の記憶がないってのは初めてのパターンだな。


由依の話からすれば、その間、俺は存在しなかったことになる。




「スマホの充電が切れてる………。向こうでずっと使ってたからか………。」


 ひとまず、少しだけでも充電してみるか。


目覚まし時計をみると、時間帯は、学校には普通に歩いて行ったら遅刻するくらいの時間だな。


きっと、由依が気絶したタイミングと時差があるからだろう。


ひとまず制服に着替えてリビングに行くことにする。




「おはよう、母さん」


「おはって………あ、あ、樹!! そうだ樹だ!! なんで母さんあんたのことを忘れて………」


「昨日の朝、由依が来たんだろう?」


「来たよ。あんたの部屋にズカズカと。あの時は非常識なって思ったけど、息子の存在を忘れていた母さんの方がよほど非常識じゃないか! 樹、何があった? 昨日はどうしていた? なんで母さんは樹のことを忘れてしまったんだ?」




「………話せば長くなるけど、今、俺のクラスで奇妙なことが起きている。みんな異世界に召喚されたんだ。昨日は一時的に由依がこの世界に戻ってきたけど、俺がいなくなっている間、みんなから俺の記憶が無くなってしまうみたいだ。」


「なんだって!? じゃあ、赤城さんちの雄大くんとか、青葉さんちの徹くんとか、黄島さんちの蓮くんとかもって、そっちはわすれてないわね………どうなってるの?」


なんでチンピラ信号機なんだとツッコミしたいがまあいいや。




「俺もわかんない。わかんないけど、俺が異世界に行ってる間、みんなの記憶から俺の存在がなくなってしまうみたいなんだ」
「でも、もう帰ってきたから大丈夫ってことでいいんだよね?」
「いや、たぶんまた異世界に行くことになる。俺の意思とは関係なしに」
「マジかー………。そんなのってある? 息子のこと忘れるとか、母親失格だよ………」


 ちょいちょいと俺を手招きしたかと思うと、そのまま母さんに抱きしめられた。


「ひとまず息子のことは忘れないようにいま魂に刻んでおいたから。」


 何言ってんだ。


「だったら冷蔵庫にでも俺の子供の頃の写真でも貼っといてくれよ。母さんと一緒に写ってるやつ。息子って付箋でも貼ってさ。忘れないようにさ」
「………。そうするよ。また異世界に行くことになるんでしょ。今日はここで何しにきたの?」
「………由依を助けに来た。」
「よし、男だ。行ってこい! 朝食は作ってないけど、食パンでも咥えていって由依ちゃんとぶつかってこい!」
「いつの時代の少女漫画だよ。ってか俺がパン食べてんのね」


 バシッと背中を押されてトーストされていないパンを渡され、そのまま家を出る。






 家を出るとすぐに隣の家に。
時間帯的には由依はいないだろうが、念のため。


ーピンポーン


「はーい、って樹じゃん! はー、噂をすれば。さっき由依から聞いてたけど、確かに私ミーム汚染に侵されていたわ」
「おばさん、気づいてたんだ。」


 どうやら由依も自分の母親に自分たちの現状を知らせていたらしい。


「由依に樹のこと忘れられてマジギレされたからね。妄想の幼なじみなんてひどいことを言ったボイレコも残ってる。こりゃあマジだわ。樹と由依はいま異世界でクラスメイトたちとなんかやってるんだろ? 由依はもう学校に向かったよ。行ってきな。あたしもそろそろパートに行かないと遅刻だから。由依を元気付けてやってくれ」
「はい。行ってきます」


 おばさんには由依の現状の説明は不要みたいだな。


 ならば、あとは由依に追いつくのみ。
 由依の話だと、夢の中とはいえ、この世界では魔法やスキルが使えないって聞いたけど、どうなっているのかな




「………。は? 火が出るやん」


 ボッと指先にライター程度の灯した。


 今までは、現実世界でこんなことはなかった。


 いや、夢の中だからか? それとも、あの異世界召喚で俺の肉体自体に変化が生じて、夢と現がごっちゃになって、現実世界の方でも魔法とか使えるようになっちゃったってえことか?


 あっちの世界………名前、なんだっけ? あ、あ、あら、あり、ある、アルカディアか。聞き流してたから忘れてたわ。でも夢の能力の引継ぎはあったし、引き継がれてもステータスへの引継ぎはレベル以外はいっさいなかった。
 これは………俺の体がバグり始めている、と考えた方がいいか?


 試してみたが、異世界転移以前の能力は使えそうにないな。


 ひとまずはこっちの世界でもなんかいろいろできそうって程度だと思っておこう。


「とりあえず、優先は由依だな。」


 俺は由依に電話しながら、中学校までの直線ルートをダッシュで駆け抜けた。
 多分、時間にして30秒から1分くらいだったと思う。
 肉体の強化も入ってるのか。やばたん。






          ☆




 由依と合流し情報の交換を終えた。


 異世界転移して、由依が見た初日の夢から推測し、できうる世界からの脱出で、最も楽観的な脱出タイプだったと思う。
 脱出条件は死ぬこと。


 そう難しいことはないが、本人にとっては補償のない自殺などやりたくないのは当然だ。


 響子は自殺したわけではないが、敵の幹部に不意打ちで殺されてしまった。
 夢と幻のアルカディアで殺されると、現実の世界に戻ってくる。




 みんなに俺たちが見た夢を説明しても、信じてもらえるとは到底思えない。


 だが、伝えないという選択肢もない。
 希望くらいはあったっていいと思う。


 みんなの精神衛生上も、すこしはマシになるかもしれないからな。






「さて、次はどうする? この世界に黒幕がいると思う?」


 俺がそう問えば


「いや、うちのお母さんとも情報の考察を行ったんだけど、黒幕は向こうの世界の神様だと思う」


「だよな。じゃあやっぱり、魔王とやらを倒して、神様にお願いして元の世界に帰してもらうか、向こうの世界で殺されるかの二択。死ねばこの世界に戻れるとしても俺はいやだし、多分俺はうつつの肉体で、生身で向こうの世界にいるから、俺だけはどうしても魔王を倒す必要があると思う。俺が死ぬのはバツだ。」


「バツって………なんか女魔人リビディアの喋り方みたい」
「確かに」


 ふふっ、と共通の夢の話題で響子と由依も笑い合う。


「でも、そう考えると、やっぱりタツルが主人公だよね?」
「夢幻の世界と現実を行き来するのは主人公の特権だ。たぶん、俺も主人公なんだろう。」
「ふーん。じゃあ樹が主人公だとしたら、ヒロインは誰よって話は………。無意味ね」


 下唇に手を当てて砂糖でも吐きそうな顔をする響子。


「だろうな。由依一択だろ」
「ふはー! 恥ずかしげもなくいいおるわこのタツル!」


 ゲシゲシと恥ずかしそうに笑いながら肘鉄食らわせられる。いて、いてて。


「………。でも、物語としてみるならば、やはり主人公は俊平だと思う」


 俺がそういうと


「………ほぇ? 俊平ちゃんが? 光彦くんじゃないの?」


 響子はキョトンと首を捻った。


「自爆という明らかにヤバイ能力。初日に王子と友達になるコミュ力。」
「禁書庫に忍び込むイベント力。それに、私は見ていないけれど、自爆をしても生きていられるご都合主義的なまでの豪運。どれをとってしても、主人公としての素質があるのは俊平という結果になる」
「次点で俺だな。敵幹部撃破してるし。」
「ほえー、なんか私らが必死こいて異世界で生活してたのに、由依と樹はそんなこと考えて異世界にで過ごしてたんだー。」


 白い目で響子に見られたが、こればっかりはな。


「俺たちの能力は夢の異世界で冒険したり物語進めたりする能力だって言ったろ。癖になってんだよ。主人公を設定するのが」




 なんて言ったところで、矢沢先生が教室に入ってきた。


「席につけー、ジャリ共。」


 気怠げでいつも通りの先生だ。
 いつも通りでありながら、目に光がない。


「ホームルームを始めるぞ。連絡事項は特になし。以上。」


 出席すら取らない。確認すらない。




「………。」
「………。」
「………。」




 無音だった。


 不気味なほどに無音だった。


 やはり精神が入っていないみんなの肉体は必要以上の行動は起こさないようになっている。
 この状態でヤンキーに絡まれたりおかしなDQNに絡まれでもしてみろ。抵抗すらできねえぞ。


 やはり、早いところみんなの意識を戻さないといけないな。


 俺は前の席にいるインテリメガネの肩にツンツンと触れてみるも、なんだい?と聞かれるだけで意識が戻るわけじゃない。


 この状態じゃ、この学校にいる意味もない。


「あいたたた、急にお腹が………先生、トイレに行ってきます!」
「あ、私が付き添います!」「私も!」


「ああ。行ってこい」




 こうして、俺と由依と響子は、学校を抜け出すことに成功する。
 今のクラスメイトで、欠席者が1名。妙子がいなかった。


 探しに行かなければならない。















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