テンプレバスター!ー異世界転生? 悪役令嬢? 聖女召喚? もう慣れた。クラス転移も俺(私)がどうにかして見せます!

たっさそ

第26話 樹ー有能な人材ははやくどっかいくにゃ



 地下迷宮の爆発も気になるところだが、俺がいる場所からは地下の様子はうかがえない。
 ほとんど真っ暗だ。


「泣き言は全部後で聞く。今はロープとロープを組み合わせてどれだけ長く作れるかだけ考えよう」
「そ………、そうにゃ。手を動かすことが最善にゃ!」


 田中も、泣きそうな顔で強がった。
 田中のマジカルステッキに掴まって移動しながらだと詳しいことは聞けないが、だいたいのことは把握する。


 俺だってみんなが心配だ。
 俊平が自爆したのではないか、先の大爆発に由衣が巻き込まれているのではないか。心配でたまらない。


「消吾!」
「樹か!お前が無事でよかった! そいつは?」


 みんなが落ちた場所と、田中たちが上がってきた場所はだいぶ離れていたようだ。
 俺の無事に安心した消吾が俺が雑に運んでいたデリュ―ジョンを見て首をかしげる


「こいつは妄語のデリュ―ジョン。敵の幹部だが、なんかうまいことわーってやって倒した」
「雑だがすごくナイスな事をやったんだと思う。このロープでそいつふん縛っておけ」
「りょ」


 投げられたテント用のロープを受け取り、ひとまずデリュ―ジョンを、その、なんだ。
 エロい縛り方をネットで調べたことがあったから、手首と足首をそれぞれ縛った。


 別に亀甲縛りとかじゃないぞ。手足の縛り方が書いてあったから参考にしただけだ!


 とはいえ、こいつが目が覚めたら、今度こそテレポートか縛られてないとか言って縄抜けしそうなんだよな。
 さすがに気絶までさせりゃ能力も解除させられるだろうし、力が尽きれば能力も使用できない。
 出来る限り目を離さないでおきたい。
 というわけで


「木にロープ括り付けるんだろ。こいつに地獄見せたいから、木と一緒にこいつも括り付けとこうぜ。」
「うわ、みんなそれをつかんで登るにゃ。樹にゃんはやっぱり鬼畜にゃ!」


 消吾が次元収納アイテムボックスから木にふた結びでロープを括り付けようとしていたし、それ使って縛ればロープの節約も出来る。
 一石二鳥だ。


 木に括り付けるやり方は、遠征の前に騎士団の講習で教わっていた。
 これが出来るようになるまで、数十回は練習したから、問題ない。


 正直、ロープの括り付け方なんて初めて習ったが、バカにならんほど為になる情報だった。


 ロープをちゃんと木の根元に括り付けるんだが、そこにデリュ―ジョンを配置。
 上の方に括り付けられたら、てこの原理で木の根元からごっそり抜けちまうからな。
 とはいえ、デリュ―ジョンがつぶれてしまうかもしれないが、もうどうでもいいか


「樹はよく死ななかったな」
「死なねえよ、俺は。無敵だからな。消吾、田中。地下までの目算距離は?」
「だいたい300m超えないくらいにゃ!」
「俺もそれくらいだったと思う。」


 めっちゃ深いな。落とし穴ってレベルじゃねーぞ
 消吾が次元収納アイテムボックスから出したロープを複合し、長いロープを作成する。


 クラスメイト全員の、テント作成用と消吾が持っていたロープで、合計2本くらいは地下までおろせるかも知らないが、時間が足りないな。
 俊平が自爆した可能性が高い今、俺だって本当は飛び込みたい気持ちを抑えて、それでもみんなが助かるために、ロープの合成に励んでいるのだから。
 全体を地下から持ち上げるような能力を持っていないことが、こうももどかしいとは。


 俊平のおかげでドラゴンを倒したとしても、デリュージョンの仲間の、邪淫の方、名前忘れたが、あいつが呼び寄せた魔物が押し寄せている現在、急いでロープを作らないといけないんだ。


 田中は兵士コスの時に結び方を体感して手に入れていたのか、スイスイとロープを組み合わせていく。
 技能をいただくって、本当にすごいよな。ステータスに含まれない項目をバシバシ増やせる田中って、マジやばい能力だと思う。


 30mのロープを10個も組み合わせれば、だいたい300mくらいのロープにはなる。
 消吾を荷物置きがわりにしていてよかった。
 そうじゃないと、こんなに物資が揃っているわけがないもんな。


 なんとか完成したそのロープを、迷宮に向かって放り投げる。もう一個くらい作れそうだな。


 急いで次のロープの端と端を本結びでつないで300mものロングなロープを作成していると、大きな木が迷宮の方から現れた。


「おーい、田中ー、消吾ー! あ、樹もいるじゃん おひさー!」


 それに乗って現れたのが、


「おひさーヒロミ。真澄と美香とケモナーと美緒も一緒か。こりゃあ助かる」


 おそらく園芸好きの裏番長。花咲萌の能力で成長させられた木に乗ってここまできたのだと思う。
 花咲萌のアビリティ<緑の支配者グリーンルーラー> 緑の勇者。
 それは植物を操り支配する能力。
 スキルと魔力による急速成長で、迷宮から300mも高いこの場所まで木を伸ばしたのだろう。
 飛べる田中よりは脱出速度が落ちるが、複数を運べるとなるとそれはもう一長一短だ。


「ロープ作ってるの? 手伝いますぅ! ね、美香ちゃん!」
「………うん、作る。みんなを助けないと」
「二郎三郎、みんなを守って………! あとで迎えにいくからね………! って、樹は私のこと名前で呼ばないよね!」
「気兼ねなく本を読むためにはみんなが助からないといけないもの」




 どうやらロープ作りを手伝ってもらえそうだ。


「樹にゃんはさっさと行くにゃ。人手が足りるなら、ここは田中がまとめるから、有能な人材はさっさと動かすにかぎるにゃ」
「助かる。」


 登るのはダルイが降りるのは一瞬だ。田中の計らいにより、俺はこの場からの離脱をして、迷宮に飛び込むことにする。


 俺が迷宮にダイブすると、後ろの方で悲鳴が上がったが、そんなことを気にしている余裕が今の俺には全くない。






          ☆




 俺が地の底で見た光景は、 背中から胸を貫かれる声楽部の白石響子。




 貫いていたそれをかかと落としで粉砕していた百地瑠々の姿。




 先の大爆発の影響か、魔物の姿は少ないものの、押し寄せてきていることはわかる。


「【浮遊フロート】」


 落下速度をギリギリで落としてザンッ!! と着地をすると




「タツル! 無事だったのか!」


 団長のダンさんが声を弾ませた。
 だが、それにかまっていられる暇はなさそうだ。




「佐之助!」
「おう! 佐藤はあっちだっぜぃ!」


 俺が佐之助を呼べば、なんか宝石みたいなクモにハンマーを叩きつけてかち割っていた佐之助が、瓦礫を指差していた。


 ブレスが壁に当たって崩れたのだろう。


「助かる、あと、念のため、探知は切らすな。俊平につけてたマーキングはどうなっている?」


 佐之助のアビリティ<探知サーチ>は、周囲一帯の地形の把握と、特定の個人のマーキング。


 マーキングした相手は、どこにいるのか、わかるようになる。


 以前、佐之助が中庭でおままごとをしている俊平を見つけたのも、この能力だったそうだ


「………反応は弱いが、俊平はギリギリ生きている。たぶん、俊平が禁書庫で見つけた【通魔活性】のおかげだっぜぃ」


 通魔活性は、魔力を血液やリンパの流れに乗せて、通力の流れを自由に操作できるようになる技術。


 全身から爆発するところを、おそらく、体の一部に限定して自爆したのかもしれない。


「どこにいるか、わかるか?」
「………。壁の中を移動中。周囲にジュエルスパイダーが周囲に大量にいる。食料として連れて行かれているのかもしれない」


 それもまた、ちいさな俊平にしか通れないルートなのかもしれないな。


 俊平が本当にギリギリで生きていることがわかった。
 しかし、自爆の能力を使ったのだから、それなりの被害を自らに被っているはずだ。


 生きてはいるかもしれないが、無事ではない。


 そういうことなのだろう。俺は息を深く吐いた。




「青竜剣術・流星りゅうせい


 俺は緑竜に叩き込まれた剣術で、ぬるりと相手の急所を撫でるように切る。


 斬りながら移動する。軍勢と移動に特化した剣術だ。




 襲いくるリザードマンを切り殺し、宝石みたいなタランチュラを剣の柄で叩き割り、手が水晶みたいになっている猿の首を刎ねた。


「由依!!」




瓦礫にたどり着くと、敵を切り飛ばしながら【浮遊】の魔法をかけて瓦礫をどかしていく。




「………手伝うぞい」
「妙子………」
「俺っちも。………」


 妙子と佐之助が瓦礫の撤去を手伝ってくれた。




「何をしている! 魔物が大量に押し寄せてきているのだぞ!みんな撤退しているんだ、お前たちも戻れ! それに、ブレスの直撃を受けたユイはもう………!」
「あんたが由依の最期を決めんな!! 由依は生きてる!!」 


 思わず、団長に怒鳴ってしまう。


「………タッチ」
「………? どうした、ユウコ」




 感染系女子である荒川優子が、団長の肩に触れた。


「………。由依を助けたい気持ち。伝染うつしたわ」


 粋なことをしてくれる。




「………。響子はもう戻らないけど、由依が生きてる可能性もあるんでしょう?」


「………、わかった。この場に残る全員に告げる! あの瓦礫の撤去が終わるまで魔物たちを食い止めろ!!」


「「「 はい!! 」」」


 この場に残る生徒は少ない。


 それでも、地下の迷宮に残った男子生徒たちは、魔物を食い止め、瓦礫の撤去を手伝ってくれた。






 そして、しばらく撤去が続くと、細い指が見えた。


 指の次は手首。ひじと見えてくる。


「大丈夫。脈はあるぞい」






 その手首に指を当てて脈を測った妙子。




「よかった………」


 生きているとわかってほっとし、俺は思わず由依の手を掴んだ。






 その瞬間。俺の意識は途絶えた。


























 

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