テンプレバスター!ー異世界転生? 悪役令嬢? 聖女召喚? もう慣れた。クラス転移も俺(私)がどうにかして見せます!

たっさそ

第24話 ◆◆◆





「撤退だ!! みんな、全力で撤退しろ!!! あれはまだお前らが全力で戦っても敵う相手じゃない!!」 


 みんなをまとめてきた騎士団長のダンが声を張り上げて全員に伝わるように叫ぶ。
 自分を散々苦しめた魔王の幹部を一瞬で吹き飛ばした『それ』は咆哮をあげて彼らを睨んだ。




「にゃ! うにゃにゃ!!」


 コスプレ衣装の魔法のステッキに跨った田中は、しきりに指を鳴らして魔法少女の能力でその存在を消そうとしていたが、田中に対して、その存在の格が桁違いだったのか、消滅させる能力が発揮していない。


「タナカ! できないことを無理にしようとするな!! 飛べるお前は上に行って 上からロープをたらせ!!」


「っ〜〜〜〜〜〜!!! わかったにゃ!!! 消吾にゃん!! 田中の後ろに乗るにゃ!!」
「ああ!」


「優子はしたから迷宮の外に木を伸ばせ!!」


 脱出を最優先とするならば、物資の運搬のために、そしていざという時のためにロープを準備している消吾。
 ステッキの後ろに跨った消吾が田中の腹に腕を回すと、一気に迷宮の亀裂の上まで飛んだ。


 園芸好きの裏番長、花咲萌は、地面に手をつき、タネを植えると、その木が急速に成長し始める。


「真澄、美香、加奈、ヒロミ、美緒、木につかまって!! 上まで送るわ!!」


 成長する木だが、その上へのスピードは田中の上昇スピードに比べれば微々たるもの。
 だが、確実に複数人を上へと逃れることができる。


(はやくはやくはやく!!! 由依にゃんも心配にゃ! 樹にゃんにもはやく知らせないとにゃ!)


 焦りながらも迅速に、消吾を上まで運ぶ田中。




「ついたにゃ!! ってなんにゃこれ!?」
「うわ、どうなってんだここ!」


 消吾と田中が見た光景は、魔物たちが死屍累々している様。


 上から落ちてきた魔物は、ここから落ちてきたのだと田中にはすぐにわかった。
 まだ動いている魔物も居る。


 地下の迷宮から抜けたからと言って、地上も安全とは言い難かった。




「樹にゃん! 樹にゃん! どこにゃ!! 消吾にゃんはロープをありったけ出しておくにゃん! 田中は樹にゃんを探すにゃ!」


「おう、まかせろ!! <次元収納アイテムボックス>」


 消吾は異空間に仕舞っていたロープを出し、厳重に木にくくりつける。




「樹にゃん!!! どこにゃ!!」
「こっち」
「そこにゃ!!」




 田中が声の聞こえた方に全力で向かうと


「にゃにゃ!!? そいつは誰にゃ!?」


「幹部の妄語のデリュージョン。わりとガチ目に強かったけど、どうにかなったぞ。」


 バチーン!!


 田中が見たものは、尻を剥き出しにされ、真っ赤に腫れ上がった女の子のお尻
 膝の上に女の子のお腹を乗せて、思い切り引っ叩いていた。
 顔面はボコボコに腫れ上がって原型の止めていない泣き腫らした顔。


「ごべ、ごべんなざ………」


 バチーン!!!


「びゃぐぅうう!!!! 」


 泣きながらボロボロの顔で謝る褐色の魔人。


「生きて帰さんっつったろ。あやまったら許されると思うなよ。俺たちを殺そうとしたんだ。お前らは殺されても文句を言う資格はない。」


「<ボクは、………まおうじょう、に、いる>」


「もう能力は使えねーよ。ループした指令を自分で出してしまってるんだからな」


「ん、なん………ぐぞ、ぐぞぅ!!」


 泣きじゃくる魔人と、ゴミでも見るような目でそれを見下ろし、尻を叩く樹に、田中はドン引きだった。


「田中、急ぎの用事ならすぐにいくが」
「急ぎにゃ」
「わかった」


 樹は、魔人の首に腕を回し、首を絞めた。


「ぐぎゅぅうう!!!」




 と、苦しそうに呻き声をあげると、パタリと動かなくなる。


「殺したのかにゃ?」
「いや、気を失わせただけだ。」


「女の子にも容赦ないにゃ」
「おう。まさか俺もボクっ娘だとはおもわんかったけど、容赦して死ぬような状況で余裕ぶっこいてらんないからな。顔には出さんけど。」
「ふーん、ボクっ娘のお尻をぺんぺんして興奮したかにゃ?」




 との田中の質問に対し、樹は目を細めて親指と人差し指の間に少しだけ隙間を開けて見せた


「樹にゃんはえっちにゃ! 田中はそんな樹にゃんが嫌いじゃないにゃ!」


  両手で樹を指差す田中


「えっちだよ。みんなの状況は?」


 そんな風に答えながら、樹は田中のステッキに捕まると、田中は森のなかで宙を翔ける。
 一応、デリュージョンの首根っこも掴んで一緒に連れて行ってやる。


「最悪にゃ。魔人が呼んだドラゴンにぶっ飛ばされた由依にゃんと、それから逃げるために、空飛べる田中がみんなを引っ張り上げるために先行してロープを準備しているところにゃ」


「そりゃあ助かるな。由依は………。うん。多分生きてる。幼なじみの勘だが、死ぬとは考えづらい。」


「由依にゃんへの信頼度がすごいにゃ」


「まぁ、死ぬほど心配なのは変わりないが、ここで慌てて騒いでも何にもならん。頭使って次を考えるだけだ。」


「その考え方、田中は好きにゃん」


「最悪ロープ取りに俺だけ一時撤退を覚悟したくらいだぞ。いろいろ想定しないといけないからな」


「樹にゃんの覚えている魔法でどうにかならんかにゃ?」


「………土魔法使えるやつが壁から土を出しながら歩けば階段みたいにできるかも? 迷宮の壁に使えるかはしらんが、【通魔活性】できない奴が詠唱の破棄もできないだろうし難しいか。一段作るのに20秒もかけてたら日が暮れちまう」


と樹が思ったところで




ーーードゴォオオオオオオオオオオオン!!!!




と、樹の水素と酸素の結合による爆発の比じゃない爆音が響いた




「おい、今のまさか!」


「俊平にゃんの自爆にゃ!?」















 赤城雄大。チンピラ信号機とも一部で呼ばれる不良のリーダー。
 意外なことに、彼は数学のテストでは学年1位をとっている。


 自頭は良い方なのだ。


 経験と統計と書物による確率論を自分で調べ、麻雀における次に何を切るを地道に計算した結果である。
 そのおかげか、麻雀の点数計算を、点数早見表を使うことなくすぐに答えることもできる。


 ネット麻雀の段位も、中学生にして7段と、まぁそこそこに強い方だった。


 リスクをとってリターンを得るならば、彼は期待値を計算の上で、物事を実行する。


 100%の確率で現状維持と言う選択肢と
 30%死ぬが、70%で打開できるかもしれないのならば、間違いなく彼は後者を選ぶ。


 彼の頭が導き出した答えは、田中が上からロープを垂らし、それをひとりひとり登って脱出するよりも、『それ』に全滅させられる方が確実に早い。
 という計算結果。


 先ほど『それ』に吹き飛ばされた佐藤由依が生きているか死んでいるかもわからない現状。
 もはや全員無事で切り抜けることは不可能だと結論づけた。


 できるだけ多くのクラスメイトたちの命を助けるためには、誰かの命を犠牲にしなければならない、という鬼畜の選択肢。


 自分はこれから、全員の罵倒を一身に受けるだろう。
 勇者として、いや、人としての尊厳などない。
 悪魔の所業を行う。


 だが、切れるカードは限られている中、そのジョーカーの切り時を見誤ってはいけない。


 彼は、己の心に蓋をして、小動物のように小さく震えるそれを組み伏せた。
 そんな選択肢しか選べなかった自分の弱さを恥じながら。






「いやだ! やだやだやだ!! 死にたくない!! 誰か、誰か助けてよ!!」


 幼い少年の声が迷宮の奥から響く。
 少年は後ろ手に腕を組まされ、地面にうつ伏せに倒れながらも必死な抵抗を示していた




「ッるっせんだよお荷物野郎!! 助かりたいのはみんな同じなんだよ!! テメェだけが特別だなんて思うなよ! 黙ってテメェはテメェの役目を果たせボゲ!! <トン対子トイツ>!」




「あぐぅっ!! ゲホッ、ゴボッ」


 そして、何かを蹴りつける音と、血の混じった湿った咳と苦痛の声。
 蹴った拍子に内蔵を傷つけたのか、はたまた肋骨が折れたのか


 それとも両方なのか。


 だが、その苦痛の声も、周囲の恐怖にまみれた絶叫に紛れて誰にも届かない




「<ナン刻子コーツ>! ぉらああぃッ!!」


 ズドム!


「ッがぁああああああああああああああああああああああああ!!!」


 さらに蹴りつけられ、絶叫と血をまき散らしながら、幼い少年はボールのように奥に吹き飛んで行った。
 圧倒的なステータスの差であった。
 幼い少年では、どうあがいてもその蹴りを防ぐことはできないのだから。


 迷宮の地面を何度もバウンドし、少年は『ナニカ・・・』にぶつかって静止する


「やめてぇ―――!! 俊平君をいじめないで!!」


「もうおっせーんだよ縁子! お前も死にたくなかったらさっさと逃げるか<精霊聖域エレメントサンクチュアリ>の発動をしやがれ! チッ! そっちに行くんじゃねェ! 死ぬぞ!!」


 縁子と呼ばれた少女が俊平という先ほどの蹴り飛ばされた少年の方に走り出そうとしたのを、とっさに縁子の襟首を掴んで引き留める
 襟首を掴む少年を恨みがましく睨みつける縁子




「でもっでも! 俊平くんが! 赤城くん、なんであんなことを! あぁ、ぁぁ………いや、いやぁああああああああああああああああああ!!!」




 地面に泣き崩れる。
 その視線の先にあるのは、俊平が蹴り飛ばされた拍子にぶつかった『ナニカ・・・』―――


―――『漆黒竜ブラックドラゴン』がその大きなアギトでボロボロになった俊平を丸のみしようと口を開けていたからだ




「うわああああ!! 助けてくれええ―――!!」
「きゃー! どいて! 逃げられないじゃない!!」


 しかし、縁子の悲鳴も、周囲でも同じような絶叫を上げている少年少女の喧騒にかき消される




 大きな咢に咥えられる寸前。


「くくく食われて、たたまるか………っ! ぅああああああああああああああ!!!」


 俊平は痛む身体にさらに鞭を打ち、血を吐きながら地面を転がってなんとかやり過ごす


 しかし、それでも、俊平は己の死期を悟っていた




(………さっきので肋骨が折れて肺に刺さったかも………内臓も、もうダメだろうなぁ)


 自分の命はもう長くない。意識も遠のいてきて、なんだか眠たくなってきている。
 なんでこんなことを、と赤城を睨むが、その瞳が苦痛に満ちていたこと悟り、彼を恨みきれなくなった。


 俊平は優しい子だ。
 赤城雄大にパシリにされても、俊平は彼のことを名前で呼んでいた。
 というか、クラスメイトみんなを名前で呼ぶ。(田中は除く)
 それは自分が名前で呼ばれたら嬉しいから。


 クラスメイトたちがみんな名前で呼び合うようになったのは、俊平がみんなのことを名前で呼ぶからだ。
 こんな小さな子にできて自分たちにできないわけがない、と。俊平と同じようにほとんどのクラスメイトを名前で呼び合うようになった。


 クラスメイトたちの結束を強めてくれるのは、なんだかんだで俊平の心配りなのだから。


 俊平は赤城のことを雄大くんと呼ぶ。
 しかし、別に友達というわけではない。パシリにはされても、彼のことが嫌い、というわけではなかった。


 そんな彼が俊平を死に導こうとしているのをみても、優しい俊平は瞳の奥のその意図を読み取り、やはり嫌いになりきれない。彼が苦渋の決断をしたことがわかってしまったから。


 それに、もしこの怪我で命を落とさなかったとしても、漆黒竜ブラックドラゴンから逃げおおせられることなど、最弱の俊平ができるはずがなかった


「ゆかり、こ………よく、聞いて」




 俊平は紙風船から空気が漏れるようなかすれた声で、縁子を呼ぶ


「なに、なに!? 俊平くん! 死なないで、いやだよ! 早くこっちにきてよぉ!!」


 俊平の声を聞いて顔を上げる縁子。
 求めるように俊平の下に駆け寄ろうとするのを、赤城と呼ばれた少年が羽交い絞めにして止める


「僕は、もうダメだ。ここから生きて地上に戻れるとは思えない………」


「そんなことないよ! わたしが! わたしが俊平君を治すから! だからっ! 早くこっちに来てよぉ!!」


 縁子の持つアビリティは<精霊術師>
 火、水、風、土、雷、氷、光、闇属性の精霊を操り、精霊結界を張ったり、仲間に属性の加護を掛け、ステータス上昇させたり、攻撃、防御、支援のすべてに優れたアビリティだ。
 たしかに、縁子ならば光属性の精霊や水属性の精霊の回復魔法を唱えれば今負っている俊平の怪我も治せるだろう。
 だが―――


「団長の、ダンさんには、お世話になったって、伝えておいて………」


 ズルズルと身体を引きずって、少しでも漆黒竜ブラックドラゴンから距離を取ろうとする俊平だが、どういうわけか、前に進めない。
 それもそのはず、漆黒竜ブラックドラゴンが俊平の身体を足で押さえているのだ


 つまり、縁子が回復魔法を唱えられる射程に、俊平は居ないのだ。


「イルシオと………ネマにも、僕と仲良くしてくれて、ありがとうって、兄妹………ゴホッ……ッ仲良く………するんだよって………」


「いやだいやだ! いやぁ! そんな最後の言葉みたいなのなんか聞きたくないよぉ!!」


「僕が………最後にみんなを、守る………から。うぐっ ぅあああああああああああ!!」


 突如足に走る激痛。
 視線を向ければ、漆黒竜ブラックドラゴンは俊平の枝のように細い右足を腕で踏み潰し、勢い余ってその細い足を切断していた


「いや、いや! いやぁあああああああああああああああ!!!!!」


 吹き出す鮮血。迷宮内を紅く彩るそれは致死量の出血だと物語っていた
 縁子の悲鳴と周囲の悲鳴が大きくなる


『緑川―――!!』
『俊平――! うそだろぉ!!』


 地面に押さえつけられていた俊平が漆黒竜につまむように持ち上げられ、その口の中に放り投げられる。
 口の中で弄ばれているのをクラスメイト達も視認しているのだ


「いぎぃいいあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 牙が食い込み、足を潰され、肺も機能しない。
 この世の終わりを悟らせる絶叫が漆黒竜ブラックドラゴンの口内に囚われた俊平から放たれる。


 漆黒竜ブラックドラゴンに対して大きな火球や氷弾、はたまた風の弾までもが殺到するも、まるで効果をなした様子を見せない




「ぐぅ、ぅあぁ………つよく………いきて」




 ボロボロと涙を零しながら、俊平はそう言い残し、漆黒竜ブラックドラゴンはそれをあざ笑うかのように、俊平を丸ごと飲み込んだ。




「俊平くん!! いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 縁子も、涙と鼻水を飛ばしながらなりふり構わず漆黒竜ブラックドラゴンに駆け寄ろうとするが、それを赤城が縁子の首筋に手刀を打ち込み、気絶させることで押しとどめた


「チッ! 」


 赤城は舌打ちをしながら気絶した縁子を肩にかつぐと、漆黒竜ブラックドラゴンに背を向けて走り出す


「きゃああああああああああああああああ!!!」
「俊平が食われたぞ!! はやく、早く後退しろ!! あいつが来る!!」
「俊平っ………く、嘆いている暇はないぞい! 結界の魔法が使える奴は魔力を全部使ってでもあヤツを止るのじゃ!!」
「くそぉ!! 俺達もいずれああなるんだ! もう嫌だ! 地球に返してくれ!! もうたくさんだ!!」




 周囲では、クラスメイトの死というものをありありと見せつけられ、恐慌状態に陥ったことにより、生徒会長らの奮闘もむなしく漆黒竜ブラックドラゴンからの避難が完了しそうになかった




「よくも緑川を! 大事なクラスメイトを! 決して許さんぞ!! <リミッター解除> <縮地> <破斬>!!」




 <聖剣使い>のアビリティを持つ生徒会長、虹色光彦の渾身の一撃が漆黒竜ブラックドラゴンを襲い、漆黒竜ブラックドラゴンはその攻撃に怯み、鮮血が舞う。さすがは勇者と言ったところだろう、多少の効果はあったようだ。


 だが、それでも時間稼ぎとしては不十分だったようで、生徒たちのほとんどがまだ漆黒竜ブラックドラゴンの視界の外に逃げ出すには至らなかった。


 充分な成果を得られないことに歯噛みする光彦




 そんなときである。
 突如、漆黒竜ブラックドラゴンの腹が赤く光り出したのだ!


「これは………まさか緑川の! 全員、結界を張れ!! 全力でだ!!」


 生徒会長の叫びに呼応するように、生徒たちが一斉に結界を張ると、漆黒竜ブラックドラゴンは、赤く光る腹から急激に膨れはじめる




『グルル………GYAOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!』




 なぜか胸を掻き毟りながらもがき苦しむ漆黒竜ブラックドラゴン
 だが、無慈悲にも、その腹の中から大爆発が起きる。


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!


 という爆音が鼓膜を激しく揺らす


 爆心地に居た漆黒竜ブラックドラゴンの身体は、当然のごとく爆発四散した


 爆発の衝撃は、みんなで張った結界をたやすく打ち破り、その衝撃を受けた者たちは例外なく、抗うこともできずにあっさりと吹き飛ばされた




「ぐうっ………なんて威力だ………コレが緑川の………」


 地面に伏せて爆風と爆炎をやり過ごそうとした光彦は、想像を絶する威力の大爆発に思わず息をのむ。
 迷宮の天井は崩壊し、青空が姿を表す。


 爆発の影響で、光彦自身も数十メートルほど後ろに流されていたのだ。
 爆風が吹き荒れる中。びちゃり、と光彦のすぐ近くに小さな何かが落ちた。




「………? なんだ………うっ!?」


 落ちてきたそれは、とある生徒の右腕だった。
 くしくもそれは、この世界に来るつい数分前に、クラスメイトでじゃれあって取り合った生徒の体の一部。


 その小さな右腕には、焼けて溶けた、キャラクターの腕時計が張りついており、つい数ヶ月前に、彼が縁子に自慢していた物と同種のものであった。


 緑川俊平みどりかわしゅんぺい
 すべてのステータスで最弱を誇る彼のアビリティは<自爆ディシンテグレイト


 自らの身体を犠牲にし、相手を確実に屠る一度限りのアビリティである。


 その時計は15時25分を指したまま、もう二度と動くことは無かった



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