テンプレバスター!ー異世界転生? 悪役令嬢? 聖女召喚? もう慣れた。クラス転移も俺(私)がどうにかして見せます!

たっさそ

第7話 樹ーパニックホラーのお約束。





おそらく、たぶん、メイビーという形にはなるが


俊平が主人公らしいことはわかった。
田中も頭を押さえている。
俊平を主人公とした物語ならば、作者の意図は、おねショタかもしれない。


異世界転生ならば序盤のショタ主人公はありえるだろうが


ファンタジークラス転移で主人公がショタはあまり見ない。だけれど、自爆というデメリットが高い能力は迫害の対象になりかねない。


迫害はつまりなろうにおける追放に繋がる。
夢を見るだけの俺たちよりも、周りを巻き込む可能性が高い分危なっかしいのだ。




―――――


  個体名:北条縁子
   種族:異世界人
アビリティ:<精霊使いエレメンツ
 魔法適性:光・闇・火・水・風・土・雷
 スキル:<精霊召喚><精霊の祝福><精霊の聖域><同化>
  称号:精霊の勇者


―――――


―――――


  個体名:百地瑠々
   種族:異世界人
アビリティ:<武神ファイター
 魔法適性:重力
 スキル:<瞬動><纏気><覇動拳><リミッター解除>
  称号:武神の勇者


―――――




「<精霊使い>に<武神>まで………! すごい、すごいです! 伝説級のアビリティがこんなにゴロゴロ転がっているなんて、あなたたちの世界は、どれだけ混沌としていたのでしょうか!?」




俺と由依と田中が集まって悶々としていると、向こうも進展があったようだ。


 縁子と瑠々のステータスを確認したところ、ミシェルは伝説級のアビリティばかりがはびこっている彼らの世界に旋律したみたい。いいよ、そういうテンプレでしょ。


 それはそうだろう。この世界では見ることのなかったアビリティの数々が、召喚された少年少女たちに備わっている。それが、33人もとなると、その世界を疑わざるを得ないだろうさ。


「い、いやあ、私達の世界にはそもそも<アビリティ>っていうのがなかったからそれほど混沌としていたわけではないよ………?」
「うむ。少なくとも国に住む国民は戦争などとは無縁の存在であったからな」


「そうなのですか………?」
「むしろ、戦争中の国の者や特殊な訓練を受けているものではなく、なぜ、普通に暮らしていたはずのわたしたちがこの世界に呼ばれてきたのか、それが理解できないのだ。」


 瑠々は、自分たちを召喚した神『サニエラ』というモノに疑念を持っていた。
 当然だ。神を自称するものなど、信用できるはずがない。
 宗教で神を信仰するのは精神の安定にも必要な時もある。


 だが、神を自称するものが自分たちを選んでこの世界に送ったと言われても、そこにはちぐはぐさしか見えなかった。


 この世界の人間たちを救おうと思うのならば、現代日本の技術の結晶や、特殊な訓練を受けたものを大量に送り込めばいい話。
 それを、なぜ自分たちのような一介の高校生にしたのか。
 戦争の経験もない自分たちよりも、戦闘の訓練を受けたものを召喚した方が、はるかに国にとっての負担も、人間族にとっての負担にもならないはずなのに、だ。




「まぁ、それは考えても仕方のない事なのだろうな。たまたま私たちが勇者の素質を持っていた、ともとれるわけなのだし」




 そういう疑念を持っても、すでにこの国に召喚されてしまった事実は変わらない。
 ならば、一刻も早く地球に帰還するために、できることをやらなければならないだろう。


そんなこんなで、俺たちとは別行動の腹黒タヌキである妙子が行動を起こした。




「のう、そろそろ話を先に進めてもよいじゃろうか」




 まとまらない考えを思案し続けても無駄である。これ以上この場に留まる理由も思いつかなかった妙子は、そろえた情報を頭の中に叩き込みつつ状況を進展させるために口を開く。


「まだ、全員分のプレートを確認しておりませんが………」
「どうせあと5人程度じゃ。それに、まだあと20人以上もプレートを貰っておらんものもいる。一気に確認した方が良いじゃろう。儂も本当は自分の持つ能力が気になるところじゃが、何事も順序が必要じゃ。」
「は、はい………」


 今はまだ、召喚された勇者たちを置いてけぼりにして、ミシェルや王、騎士たちが舞い上がっているだけなのだ。
 こちらは家に帰れない不安で押しつぶされそうな子も居るというのに。なんとも身勝手な話である。


「仕事を斡旋してもらえるのはありがたいが、最低でも衣食住は確保してもらわないとならんのでのう。こちらも無一文で知らぬ世界に放り出されてしまえば、今を生きるにも困ってしまうからの。そこの確認をしたいのじゃ。アビリティの確認なんぞは後回しでもよい」


「で、ですが………」


 なおもみんなの能力を確認したいと食い下がろうとするミシェルに対し、冷えた目で見下ろす妙子。


「なんじゃ、ずいぶんと強欲な『人攫い』じゃのう。」
「なっ!?」


突然の暴言にミシェルは目を見開く。




「其方の都合で勝手に住処を奪われ、親元を離され、そして自分の支配下に閉じ込められ、戦いに投じられる。まるで奴隷じゃな。」


鼻で笑う妙子。


「おい、それは言い過ぎだぞ葉隠! 彼らは本当に困っているから、俺達を呼んだんじゃないか!」


 あまりの物言いに眼を見開いて妙子に近づく光彦。
 しかし、どこか切なさと怒気を含んだ妙子の瞳に押されて怯む




「誠意を見せると言うのなら、こちらにも譲歩していただかねばならぬものがあると、なぜそれがわからんのじゃ。困っていたらワシらを奴隷のようにこきつかってもよいものなのかのう? なあ? 光彦。どうなんじゃ?」


 やれやれと肩をすくめて光彦に一歩だけ近づくと、息を呑む光彦を押しのけて王に目を向ける。


「王よ、お主は自分が言語も分からぬ土地に、金も地位も持たずに降り立てばどういう気分じゃろうか」


「む、ぅ………」


「しかも、こちらは無理やり“世界”から切り離されたのじゃ。元の国どころか、元の世界にも帰れないと来た。儂は正直、ハラワタが煮えくり返っておるのじゃよ」
「おい、それはさっき王様が頭を下げただろう!」


 光彦が妙子に詰め寄るが、妙子は光彦に一瞥もくれずに王を見据える。


 妙子は確信していた。
 この国は、勇者というモノに対して最大限の敬意を払っていると。
 宗教と同じで、勇者は神の使徒という枠組み。場合によっては“王”よりも上の立場にあるということを。


 上の立場にあるということは、情報戦に置いて、これほど優位なことは無い。
 できるだけの情報を引き出した上で、相手にこちらが優位になるような条件を飲んでもらえてこその、情報屋である。


 俺は妙子の観察眼と度胸には勝てないな。
 今の何の力もない俺には、そんな強気なムーブは絶対に出来ない。


 こちらの立場が上ならば、多少強引に迫っても、相手には拒否権は無いのだ。


「頭を下げたなら許されるような問題ではないぞい。儂らは無理やりこの世界に連れてこられたのじゃからな。人攫いとなんらかわらんよ。」


 光彦を見ることなく、光彦を諭すように事実を述べる。
 好き好んで戦争に行こうとするものの気がしれないのだ。正義を振りかざして悪人を切れば、そいつはもう日常には戻れないことになぜ気が付かないのだと妙子は光彦の評価を下げた。


「そして王よ。お主は儂らにできることは何でもすると言った。ならば早急に手配してもらいたいのじゃが、儂らはこの世界の言語をまったく知らぬ。ここは魔法といった不可思議な現象が支配する世界じゃ。お主の指に嵌っておるそれはおそらく言語を理解させてくれるカラクリ道具といったところじゃろう? ならばすでにこの地の言語を熟知しておるお主よりも、儂ら全員に寄越してもらえると助かるのう。多少時間がかかっても構わんが、できるだけ早急にのう。」


 心象を悪くする可能性と天秤にかけて、無理にでも、言語を把握できる指輪の早急な手配を促したのだ。
 まずは言語。それがどうにもならないことには始まらない。
 この国も、勇者たちとの会話がうまくいくとは思っていなかったのか、言語を通訳する指輪を準備していたくらいだ。
 確信犯なのだ。


「わ、わかった。」


「最低でも5つ。これだけは今日中にそろえていただきたい。此方の世界の言語をわかるものが居た方が何かと便利なものじゃからのう」


「善処しよう。おい、今すぐ翻訳の指輪を手配するのだ!」


 王に命令され、急いで指輪を手配するために騎士たちは動き出した。
 俺たちクラスメイトは、呆然とそれを見つめる。




「す、すげぇっぜぃ」
「絶対に妙子にゃんには弱みを握られたくないにゃん」
「俺は誰だ!?」
「拙者のプライベートは誰にもわからないはずでござる。忍忍」
「葉隠に掛かればワイの手品のタネも見破られちまいそうや! 商売あがったりやで!」




 その情報戦に勝利して、王様から衣食住と指輪を勝ち取った妙子に戦慄するクラスメイト達。


「心配せずとも、儂はクラス全員分の弱味などすでに握っておるぞい」


「「「ひぃぃ~~~~~!」」」


 振り返りながら不敵に微笑む妙子に、一同は全身の震えが止まらなかったとか。






     ☆








 さてさて、俊平が主人公だと言うことが判明したが、それは置いておいて、クラスメイトたちはそれぞれ妙子が勝ち取った部屋を割り当てられて、王城で暮らすことになった。


 そのへんの長話は割愛して、ひとまず今日のところは王城の案内と施設の案内。
 食事をして、稔が大食漢ぶりを披露しコックを戦慄させ、午後は姫さまに魔法とか見せてもらって、できそうな人は魔法の練習にのめり込んでいた。
 騎士団にも顔を出してみて、剣を振るわせてみたり希望者は一緒に走り込んでみたり。
 非番の侍女の案内で街に出かけたり。
 物づくり系女子の安達さくらが細工職人のショーウィンドウや魔道具屋さんから動かなくなったりしたけど、なんとか連れて帰り、とかいろいろあったけど、割愛!!
 夕食で稔がまたも大暴走してお代わりしすぎたものだから、あいつだけ騎士団の量が多くて安いメニューがアホみたいに出されてた。


その時、何故かメイドの姿をした、頭につけるホワイトブリムを猫耳にしたままの田中が給仕に入っており、所作の完璧さにクラスメイト一同気づくのが遅れたりとなんかいろいろあったけど、まあ、異世界1日目が終わるところだ。




 ひとまず就寝。


 今日のところはみんな混乱しているからね。
 世界に慣れるところから始めないと。


 訓練とか何をしたいのかとかは明日、確認することになったんだ。




 ただ、電気が無いので20時には就寝の時間だ。
 電気が無いなら仕方ないね。もうランプがないと真っ暗だもんな。


「ランプ消すぞ。」




「ええで」
「ういー」
「構わないっぜぃ!」


  流石に30人以上をそれぞれ別の部屋で用意は出来なかったようで、俺とマジシャンの加藤消吾、大食漢の大田稔。エロガッパの西村佐之助は同室だ。
 真っ暗ですることもないので、早速寝る。


「なんかちょっと早めの修学旅行って感じやな」


「ちょっとわくわくしねえか?」




 暗くなった室内で消吾と稔が




「あれやろ。最近流行りの異世界転生」


 転移な。




「俺TUEEEできたらええな。ワイもちょっと緊張しとる。」


「あんま信用しすぎも良くないっぜぃ。何が絡んでいるのかわからないからな」


 エロガッパの佐之助はどうやら信用はしていないようだ


「その点、樹っちは落ち着いてるな。異世界に転移すること、知ってたのか?」


 佐之助もどうやら俺を疑問視しているようだ


「まあ、なろう読んでて似たような状況を良く知っていただけだ。あとは夢の中で異世界やら現実世界やらを冒険したりとか?」


「ああー、なろうか。俺っちは読まないけど、なろう原作のアニメは見るっぜぃ! そっか。それでか。なんか納得だっぜぃ」




 納得顔の佐之助。


「樹。なろうだと、他にどんなことがある?」


 と聞く稔。
 おや、なにやら俺がレクチャーする流れ。いいだろう。別に隠すことでもないし


「そうだな。例えば、ステータスオープンだ。リピートアフタミー。ステータスオープン」


「「「 ステータスオープン 」」」


 3人がステータスオープンを、唱えると、自分のステータスが表示されてる


「うお、ステータスプレートに表示されているのと同じことが書いてあるやんけ。こっちは読めるで」


 と、すでにステータスプレートを受け取っていた消吾


「俺っちはわざわざ血ぃ垂らすのが嫌やったからまだいじってないっぜぃ」


 佐之助は慎重派だったようだ。
 このムーブは主人公っぽさもまあまあある。
 盗撮魔だから慎重なのだろうか。
 口調は小物だけど。




「みんなの能力アビリティと称号は? ああ、数値はどうでもいい。どうせすぐにインフレする。」


 と俺が聞くと


「ワイは次元収納アイテムボックス。収納の勇者」


「俺っちは空間探知サーチ。探知の勇者。」


「俺は暴飲暴食ハングリー。暴食の勇者」




 やべえ能力者の集まりじゃねぇか。


 テンプレから当て嵌めれば、一番やばいのが稔の暴飲暴食だろうか。


 暴食系の異能はラーニング性能があるブッ壊れの筈だ。
 イキリゴミなろう作家が考えそうな、よくありふれた強奪系の異能と言えよう。
 例えば、食らった魔物の能力を手に入れたり、殺した相手の能力を奪ったり。
 これも何万回となろうで見たな。


「ちなみに俺は夢現回廊ドリームコリダー。夢現の勇者な」


 佐之助は主人公向けの能力では無さそうだが、サポート性能バリバリの支援職。
 俊平の親友なだけある。


「このステータスオープンっての知ってるのは何人だ?」




 と、稔が聞いてくる。
 利権を独占したいのか?暴飲暴食の能力を持つ稔に疑心暗鬼になってしまうぞ。


「一応、俺と由依、あと田中と、妙子………。あとは俊平だな。」


「みんなの能力はなんや?」


 と、今度は消吾が聞いてきた。




「流石に俺が勝手に教えちゃまずいだろ。後で個人的に聞いてくれ。」


「それもそうだな。わかった。」






 と、まあこんな感じで夜を迎え、就寝することになったのだ。















 ここは俺の夢の中。




ーーーきゃー!
ーーーおいあぶねぇぞ!


ーーーこっち来た!!






「ううん、これはパニックホラー。」








 まさか異世界に生身が召喚された状態で、地球のパニックホラーの世界に夢の中でご招待されるとは思っても居なかった。




「こまったなぁ、俺、パニックホラーは苦手なんだけどなぁ」


 なろうでもホラーはマイナーなジャンルだ。
 俺はもっぱらファンタジー専門で、ホラーは読まない。


 しかも、バイオなどのゲームもやらないからセオリーがよくわからないんだ。
 さらに言えば、幽霊とかだったら、情けない話、俺はマジで怖い。泣く。


「こういう場合は、なろうに限らず、パニックホラーの鉄則に従うべきだ。」




 ではまず、シナリオの確認だ。


 シナリオA シャークパニック
 ご存知サメのパニックホラー。ただし、ここは海の上では無さそうなので除外したいが、水没した都市だったらどうしようもないな。


 シナリオB ゾンビパニック
 触れたり噛まれたりしたら感染するタイプのパニックホラー。
 ゾンビの弱点は脳だったり脊椎だったりする。


 シナリオC エイリアンパニック
 謎の知的生命体が襲撃してくるやつ。
 人間は餌。謎の超技術により手も足も出ない。
 敵の基地に潜入して大本を叩く必要がある。




 クローズドシナリオ 心霊ホラーパニック。
 閉じ込められた曰く付きの館で、謎を解き館からの脱出が最終目標。






 そして、パニックホラー映画の鉄則。


 鉄則1.セックスしてるリア充は優先的に死ぬ。


 鉄則2.お色気シャワーシーンを優先的に映した結果、待っている男は死ぬ。惨たらしく死ぬ。


 鉄則3.童貞は生きる。


 鉄則4.柄の悪いやつは劇場版ジャイアンみたいになって改心して主人公格を庇って死ぬ。


 鉄則5.武器は使い捨て(ハンマーで相手を殺した後に「ここは危険だ」ぽいっ)


 鉄則6.一人になると死ぬ。(有名なテンプレ)




「現状確認。俺は誰だ?」




 ポケットには割れたスマホ。画面に映っているのは


 鼻にピアス。鼻くそほじりにくそう。よく知らんけど。
 そんで金髪刈り上げ。これはまさしく




「優先的に死ぬ奴だ!」




 今いる場所は?




 陳列棚に食料が置いてある。ということは、




「ショッピングモール立てこもりは定番だな」




 物資がそれなりに沢山ある。
 ならばショッピングモールに立て篭もるのは当然。


 ショッピングモール立て篭もりってことは必然、ゾンビパニックあたりが最有力。


 主人公は逃げるのが得意なのか、特殊部隊か、はたまた研究員か。


 どちらにせよ、行動を起こさねばなるまい。


 よっこらどっこいしょ! と立ち上がり




「しゅ、しゅーちゃん。どこにいくの?」


 と、金髪ギャルが俺の手を掴んだ。


 なるほど、この男はカップルで、二人でここに立てこもっているんだな。


「武器になるものと食料を調達する。一緒に来てくれるか?」


「い、嫌だよ! 動いたらアイツらに見つかっちゃう!」


「ずっとここにいてもいつかは食料も無くなる。それに、一人は危険だ。」


「だったらしゅーちゃんはここにいてよ! 私を一人にしないで!」




 ………くっっっっそ面倒くさい女!!!




 いや、違う。正しい反応だ。パニックホラーの最中ならば当たり前の反応だ。


 慣れてる俺の方がおかしいんだ。


「ならば、ここでずっとじっとしててくれ。俺はバリケードを作ってくる。安心しろ、俺が守ってやる。」


「………ぐすっ、わかった。」




 うるさいこの女と一緒に行動してたら俺が間違いなく死ぬ。


 とはいえ、俺も人の心を持ったなにがしだ。
 容易に囮や道連れにはしないようにしよう。


 いざとなったら脱出タイプDのシナリオの破綻でどうにかする。


 とはいえ、主人公が見つからないことにはシナリオの破綻すらできないのも現状だ。






 俺が主人公でないのなら、現在の脱出タイプはCのモブ転移。
 まあ、俺が主人公ではない確証もないが。


 主人公が見つかったらBのハッピーエンドに移行。
 無理そうならDのシナリオの破綻。


 優先順位はこうだな。




 つまり、生き残るのは最優先。残れそうなら物資の確保。
 それができてから夢幻牢獄の脱出については考えよう。


 身を低くしてモールを探索。


 落ちてたバッグに食料品を詰め込み、階を上がって、雑貨店に到着。


 看板を見た限り、1階は鮮生食品売り場と衣類雑貨。2階は飲食店と雑貨店、3階は映画館とスポーツ用品や小物。アウトドア製品。目標はアウトドア製品だな。サバイバルグッズが手に入るかも。
 地下は土産物売り場だな。日持ちするものが置いてあるかも。


 現在、彼女がいた場所は衣類雑貨の場所。服に埋もれる形で隠れているのだ。


「ア”ア”………ウウゥウアアア!!」


 すれ違った人はゾンビだった。
 おけまる。シナリオBのゾンビパニックで間違いないな。


 足を引きずり、バランスが悪く、俺を見つけると、ずりずりとコチラに寄ってきた。




 接触したくないので、衣類雑貨からかっぱらってきた手袋を二重にして、掴みかかってきたゾンビの左腕を逆に掴んでやり、そのまま引っ張って足を引っ掛けてうつ伏せに転がすと


「どっこいしょ!」


 ゾンビの首に全体重を乗せて両足スタンプ。


 ボキッ!


 という音で、ゾンビの無力化を確信した。
 首の皮なんて肉の下で滑るから、しっかりと踏み込まないと転んじゃうから気をつけないといけないけど、よし、やり方は覚えたぞ。




 2、3秒ほどゾンビの手足が動いているかを確認すると、やはり頚椎は弱点なのか。
 ウイルスだか菌だか寄生虫だかはわからないが、脳から送られる神経伝達系が損傷するとゾンビも動かなくなってしまうらしい。


 まあ、それがまかり通ってしまうと、切り離した手足までもがカサカサと動き回る結果になる。


 そうならなくてよかった。








 ってか、あまりゾンビも強くないな。
















 ………モールの中、皆殺しにするか。















「ふう、いい汗かいた。」






 俺の殺り方は返り血をあまり浴びないため、血液感染のリスクも少ない。


 単独で行動するはぐれのゾンビを狙って転がしてスタンプ。


 これ最強。


 生死の戦いなんて慣れ親しんだものだからね。
 気負いもなく、異能もなく対処はできる。


 ついでに雑貨屋でセラミック包丁見つけたから、突っ張り棒3つとガムテープで合成して、簡易槍を作成。
 持ち手もガムテープで少し太めにしてあります。




 旅行鞄も見つけたから、ペットボトル水を詰めて彼女のところに戻るとしよう。




 うーん、ゾンビ相手って、槍よりも鈍器の方がいいのかな。
 脳を損傷させるとしたら鈍器の方がいいのかも。
 衣類雑貨の靴下に工具詰めてブラックジャックも作っておいた。
 これならあの女でも遠心力で戦えるだろう。


 シャベルがあれば一番良かったんだが、さすがにホームセンターに行かないとないだろうな。


 ひとまず、目につくところにいた三十匹のゾンビは追加で行動不能にした。
 ブラックジャックいいな。脳死で振り回すだけでゾンビを退治できる。
 ただ、複数回やると靴下が破れるのが難点か。靴下は二重三重にして強度を高めるかな。


 そんでもって、こういう閉鎖空間で一番恐ろしいのは集団感染。クラスターだ。
 モールに閉じこもっていると、その中の誰かが、噛まれたことを黙っていて、それが原因で全滅なんてのはよくあるお話。


 あと、映画館には感染者が閉じ込められており、迂闊に開けるとゾンビに飲み込まれるというお決まりパティーンだ。さすがにそんな迂闊な真似は出来ないな。


 俺がゾンビバスターしてるときに
 感染していない若い男性とこんにちはしたけど、特に会話もなく、目的は同じモールの資源の略奪であろうことはわかった。


 その男はガチャガチャのカプセルの中に小石を入れてマラカスを作って、音でゾンビを誘導してここまで来たっぽい。


 頭使ってんなぁ。


 そっか、ガチャガチャって空気穴みたいなのが空いてると鈴みたいにいい音が出せるんだ。
 すげえなあいつ。


 俺みたいなサーチアンドデストロイの脳死プレイじゃないんだ。


 まあ、あっちも俺の戦法を見て感心してたみたいだけど。


 さすがの俺も、ゾンビの一匹や二、三匹を一気に相手する程度なら問題ないが、集団で来られたらなすすべもない。


 はやいところ自分の城を築かないといけないな。
 ある程度のゾンビを退治したら、


 今度はモールの出入り口はひとまずイートインコーナーの椅子や机をポイポイと放り投げて人間はかがんで通れるけどゾンビの知能じゃ通れない程度のバリケードを作った。


 物資を補給しに来た普通の人間が通れないのはダメだからな。








「ただーい」
「おそーい! 本当に怖かったんだからね!」


 すまんって。








 と、合流したところで俺の意識が途絶えた。






 よくわからないけど、図らずも脱出タイプDの条件か何かを満たしたっぽい。




 あれか、あの場でエッチしてれば、俺、死んでたのか?
 まじかぁ
 それとも、あのいい感じのバリケードが将来の主人公の助けになったのだろうか。


 もしかして、途中で出会ったあの男が主人公? わからん。


 サーチアンドデストロイがよかったのか。
 本来は一人で物資の略奪をしている時に一人で死んでしまう運命だったのかはわからないが、ひとまず。


 金髪ピアスの生存確定。脱出タイプA 主人公おれの生存確定?
 もしくは脱出タイプD(シナリオの破綻)?


 いや、この程度でシナリオ自体は破綻しないか。


 脱出タイプA 自分の生存 コンプリート。











「もっとモールの元締めと主人公がドンパチやるのかと思ったのにな。」


 頭をふりながら起き上がる。


『何を言っているのですか、ご主人様』




 と、無機質な声。
 周囲は岩に閉ざされたクローズドシナリオか。




「今度はどこよ。」


『ここはダンジョンの最下層。貴方はダンジョンマスターに選ばれました。』




 ほいきたダンジョンマスターなろう。
 今度はホラーの次はダンジョンマスターですよもう。




 どうせダンジョンポイントとかそんな数値でダンジョンの拡張とか、なんかするんでしょ!!




『ご主人様にはダンジョンポイントを使ってダンジョンを拡張していただきたいのです』




 正解!
 今回の肉体は鈴木樹そのもの。
 ってことは、俺が主人公かな。


「いいだろう。ダンジョンマスターがダンジョンの外を出歩くのはありか?」


『ありです。ただ、遠くに行きすぎると死にますので注意してください。』


 あ、勝ったわ。




『では、ダンジョンコアで、ダンジョンの設定を、行ってください。』


 ダンジョンの入り口の幅は60cm四方。匍匐前進で入れる程度。
 ボス部屋はダンジョンの入り口のほぼ真上に、やはり匍匐前進して体を捩じ込まないと通れない通路を作り、石で目隠しした。
 ダンジョンの入り口は石や草で隠して極力見つからないようにしてっと


 ダンジョンポイント節約っとね。


 見つけられる大きさしか出来ないタイプとかあるしな。
 この世界は運がいい。


 2週間くらいかけて、ダンジョンの外で生捕にしたウサギやシカやゴブリンやオークやオーガなんかを、ダンジョンの入り口に頭を突っ込ませては殺害するを繰り返してダンジョンポイントを貯めた。


 なんかダンジョンの精霊? みたいな人がぶつくさ言ってるけど、ようはダンジョン内でなんか殺してダンジョンコアに養分あげればいいんだろ。




 ダンジョンマスターがせかせか働いてやってんだ。文句言うな。




 いい感じのポイントが貯まった所で入り口を拡張。
 ダンジョンを拡張。
 中ボス部屋を作った。
 中ボスはホブゴブリン君だ。




 ダンジョンコアの部屋? 入り口の真上にあるよ。
 トリックアートっぽく、入り口側からは見えないけど、内側から見ると天井の岩の一部に横穴があるけど、その横穴もすぐに行き止まりが見えるので、体を捻り込まないとダンジョンコアにたどり着けないようになってるよ。


 だれがわざわざそんなとこまで見るかよ。




 俺の外出が面倒なだけで、見つからないにこしたことはない。




 で、ダンジョンが相手するのは人間だ。
 俺の敵は人間だ。




 そこで、ダンジョンポイントを使って出歩ける距離を現在のポイントでできる最大まで強化。


 コツコツ貯めたダンジョンポイントは人間との取引に使うんだよ。


 ダンジョンで暇を持て余している間は、その辺の薬草から、別の世界の知識で手に入れたポーションを作り。


 それらを売り捌いて金を作り、闇の奴隷市で、処分品の奴隷を購入。


 口減らしで売られた老人、手足の欠損した男。
 生きてさえいれば、死にかけだろうと二束三文で買って、馬車で連れ帰って、このダンジョンで生き残れたら奴隷から解放してやる、といってホブコブリン君に挑ませる。


 鬼畜の所業だ。




 おかげでダンジョンポイントもサクサクだ。




 さすがに手足を生やせるほどの薬は作れんからな。
 老い先短かったのを俺の我儘で消費させてしまったのをお悔やみ申し上げる。


 そうやってポイントを貯めたところで一ヶ月。
 そろそろ元の世界に帰りたい。


 あ、いや元の肉体も異世界転移中だった。
 忘れる所だった。危ない危ない。


 同じような作業を繰り返して
 ダンジョンポイントを自力で稼ぐと、冒険者がウチのダンジョンを見つけた。


 ふむ。あまりは沢山あるからな。




 ダンジョンを拡張して、ボス部屋っぽい中ボス部屋にガーゴイルを配置。


 ダンジョンとしてようやく始動する。


 拡張は続けるよ。







 最奥まで行ったのにダンジョンコアがない。
 なんだか不思議なダンジョンとして、有名になったおかげか、人が増えた。
 予想外だが、まあそういうこともある。


 とはいえ、コツコツとダンジョンポイントを貯めたのに、最奥まで行かれちゃ世話ないよ。俺にはダンジョンマスターとしての才能はなかったようだ。


 1年も代わり映えのないダンジョン生成をしていたからか、唐突に意識を失った。


 おそらく、ダンジョンマスターとして1年耐えることが今回の夢幻牢獄の脱出に必要な条件だったのかもしれない。


 ふぅ、ダンジョンコアが入り口の真上だとは思うまい。
 なんだかんだで出入り口付近に人がいるといつもヒヤヒヤしてたからな。


 なんとか耐えたぞ。




脱出タイプA 主人公の生存 コンプリート。

















目を覚ました。
目を覚ましたが目を開けない。心地の良い微睡の世界だ。
目覚ましがなるまではこの微睡にまかせよう。




………………
………







「樹っち、起きぐへぇ!!」




 声をかけられて高速チョップ。
 音源にヒットした。


「なんだ、佐之助か」


 周りを見渡すと、自分の部屋ではなく、異世界の部屋だと分かる。


 スマホのメモ機能を確認して、現在、俺は自分が異世界にいることを思い出す。


 寝る前に、直前の行動を書いておかないと忘れっぽくなるからな。


 夢は起きるとあやふやになっていき、昨日まで何をしていたのか、ぼんやりと思い出してくる。


「いってえな。樹、いつもそうやって起きるのか?」
「わりとこうだぞ。目覚ましがなった瞬間に高速チョップだ。」
「じゃあ声かけた俺っちがわりぃな。とはいえ、痛いっぜぃ」
「すまん」




 佐之助に起こされて、周りを見渡すと、まだ暗い。
 夜明け前か。


「それで、どうしたんだ佐之助。」
探索トイレに行こうっぜぃ」
「おっと、俺には本音が透けて見えるぞ。いいよ、付き合ってやる。」
「さすが、樹っちは話がわかるっぜぃ!」


 佐之助に促されて、一緒に探索トイレに行くことにした。


 女子部屋にも行ってみたいなぁ。


 俺と佐之助はぴょんこぴょんこと音を立てないようにスキップしながら、部屋を出るのだ!!
 修学旅行の醍醐味は女子部屋への潜入と相場が決まっているのだ!


 レッツゴー!



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