テンプレバスター!ー異世界転生? 悪役令嬢? 聖女召喚? もう慣れた。クラス転移も俺(私)がどうにかして見せます!

たっさそ

第1話 由依ー悪役令嬢? 聖女召喚? もう慣れた。





「ああ、リリアンヌ、目を覚ましたのね!!」




「うぅん、このパターンは悪役令嬢………!」






頭がガンガンと痛む。


私の名前は、名前は………




佐藤由依だったり小鳥遊ユズハだったりローゼマリー・フォン・ブルームーンだったりします。


どうやら今回はリリアンヌらしい。


自分の手を見ると、手が小さい、つまりパターンB、幼少期だ。
何かの拍子に頭を打って私の記憶が入り込んでいる。
ちなみにAは赤子
Cは入学式
Dは婚約破棄の瞬間だ。


「何を言っているのですか! 先生! リリアンヌ様が目を覚ましました!!」


メイドが医者を呼びにいく間に、記憶の整理を行う。




リリアンヌ。
たしか、赤き瞳のマリアとかいう乙女ゲームの悪役令嬢。


ズキズキと痛む頭の中、


「ぺ、ペンを………!」


別のメイドにペンを準備させる。
パターンBでよかった。一番やりやすい。


Aだと言葉を覚えて喋れるようになるまで時間がかかりすぎる。


「お嬢様、一体何を!?」


紙とペンを持って机に向かうと




リリアンヌに向けてこれからの指南書を書き殴る




王太子
天真爛漫な子が好き、淑女教育が完璧にできるようになったら演技でもいい、笑顔の練習をして快活な声で返事をしてあげて




リリアンヌの義理の弟
そろそろ家に来るかも? 
両親が事故で亡くなっている。リリアンヌの父の不貞の子ではない。安心して。
将来歪んだ心のドSにしたくなければ、いじめずにデロデロに甘やかしてしまえ


騎士団長の息子
強い。
猫好き。
猫は学校の講堂裏。
以上




メガネ図書委員長
こいつに勉強見て貰えばだいたい上位の点数は取れるわ
ゴミみたいなプライドはポイっと捨てなさい
あと文学作品には目を通しておくこと。




王立学校に庶民が入学してきた時
絶対に庶民に嫌がらせはしないこと。
実は公爵の隠し子。


パターンA
リリアンヌが嫌がらせの主犯にされた時
庶民が王太子と恋仲になると、リリアンヌは婚約破棄及び国外追放ののち野盗に殺される
逃げる準備(武芸、資金繰り)をするべし


パターンB
王立学校に入学した庶民も異世界の知識を持った転生者の場合(最近のテンプレは主人公に性悪女がよく憑依するから)
大抵元の性格の悪さで自滅する。


パターンC
それでも庶民が手強い場合
自棄にならず、誠実でいなさい。
上記の人間は可能な限り全力で味方につけなさい。
証拠集めできる人材を見つけておきなさい
それでも無理なら、いっそ逃げて


以上。未来のリリアンヌより。




「よし、寝る!」




ゴン!


とテーブルに頭を打ちつけて意識を失った


さあ、リリアンヌ、あとはあなた次第よ。




⭐︎




意識が覚醒していく。


手を見ると、どうやら大人程度の大きさ。
どうやらリリアンヌは死を回避できる条件を揃えたみたい。


今度の場所は、石畳?
ずいぶんとひんやり。


となると、勇者召喚、もしくは




「おお、ようこそいらっしゃいました! 聖女様!」


「ううん、このパターンは、聖女召喚。」


ふるふると頭を振りながら起き上がる。
さらりと流れる黒髪は、元の私の髪、佐藤由依だ。
格好は制服。知らないけど、高校の制服?どこのだろう。
目の前の人物は聖女召喚を主導した王子様だな。




「して、どちらが聖女様かな?」


しかも、巻き込まれ系。
ただし、知ってる物語ではなさそう。
くそ、そうなったらどちらが巻き込まれたのかわからない!
パターンでは巻き込まれた方が謎のユニークスキルで草生える奴。
もしくはーーー


周りを見れば、ぽっちゃり体型の可愛らしい女の子がいた。
痩せたら美人になるのは間違いない。ということは


「美しい貴女が聖女ですね?」


王子が手を差し出したのは、私。


ぽっちゃりとわたしだと、私が聖女になるやつだ。
聖女ではあるがわたしが当て馬だ。


なるほど、つまり今回の主人公は聖女である私じゃなくてこちらの女の子だな。
委細承知


つまり今までのテンプレから当て嵌めると、この世界は飯がまずい。
ご飯のまずさに食が細くなって痩せた女の子が自ら腕を振るう奴だ。


この女の子は料理が趣味の聖女召喚完全無視の料理系乙女ライトノベルだ。
この子の料理にバフでもついてれば完璧だ。


にしても、2回連続で主人公じゃなかったけど、悪役令嬢転生はテンプレだから主人公といってもさしつかえないのかしら?


「私は何をしたらいい?」


「世界の穢れを払って頂きたいのです。」


「対価は?」


「聖女は代々、王族との婚姻を結んでおります、それが」


「却下で。」


王子様がなにか言いかけていたけれど、無視。


私は一緒に召喚された女の子に手を差し伸べた。


「私は佐藤由依、貴女は?」
「え?え? は、はい。中村カエデです。」
「カエデ、私のカンだけど、料理が得意そうね」
「は、はい。」
「じゃあこの世界にいる間、私の料理は貴女に任せるわ。対価はこの王子との結婚で」
「「えええええ!!!」」


王子とカエデが声を揃えて仰天するのを尻目に、私は深く頷いた。






…………
……





数年後


私の聖気とカエデが作ったご飯を食べた騎士たちの手により、世界の穢れは祓われた。


カエデは騎士団長と結婚した。




「あ、意識が」




結婚式を見届けた私は、意識を失い




⭐︎




ぺけぽこぽんぽん♪ ぺけぽこぽんぽん♪


ぺけぽこぽんぽん♪ ぺけぽこぽんぽん♪


ガシッ!


「ここはどこ!?」


ガバッと起き上がるとすぐに
周囲を見渡す。


ベッドの上だ。


スマホは7:00を表示している


周りには見覚えのある壁紙や机がある。


「私の、部屋? もどって、来れたの?」


ほっぺたをつねっても、いつも痛いからもう抓らない。


私の名前は、佐藤由依。


ごく普通の中学生。


ネット小説や乙女ゲーム、BLゲームなんだったら物語全般をこよなく愛する普通の中学生。13才、のはずです。
体感年齢はもう20歳は過ぎてるけど。


わたしにはちょっと人と違ったことがあります。


それは、夢の世界で物語の中や異世界にトリップしてしまうこと。




複数の物語を一晩で何年も経験するので、これが本当の自分なのか、自信がありません。




もしかしたら、まだ夢の中で逆行している可能性だってあるのですから。


もはや最後に寝た日がいつだったのか思い出せませんが、私の覚えている限り、今の状態がオリジナルの佐藤由依だと思います。


部屋の外からお母さんの「ご飯よー!」との呼び声を受け、私は慌ててベッドから降りることにした。






⭐︎




制服を着て家を出ると、隣の家から割れた腹を掻き目を擦りながら出てきた制服の男。


「今日は?」


主語も述語もない。そんな幼馴染のタツルから放たれたことばに、私は簡潔に答える。


「乙女ゲーム赤き瞳のマリアの悪役令嬢。解決30分。あと聖女召喚3年。そっちは?」


「は、勇者召喚。巻き込まれた5人目の奴が謎のユニークスキルで好き勝手する奴。最初から最強だとハーレムが増えるだけで中身がなかったのか1年で急に終わった。打ち切りみたいだった。」
「ぶっ!!」


さすがに吹き出した。
私たち幼馴染は、夢の中で複数の世界を行き来している。


樹は勇者召喚や巻き込まれ系。私は悪役令嬢転生や聖女召喚。


もはやテンプレすぎて感慨も湧かない。


いくつ世界を救ったのかわからないが、救った世界のことはちゃんと覚えている。


なんだったら夢の中で習得した技術や魔法なんかは別の夢の世界で使うこともできる。


さすがに現実じゃ魔法は使えないけど、体術なんかは体力と柔軟さえ出来れば現実でも役に立つだろう。




「タツルの夢ってなろうかよー」
「エタったのかな」
「ふはっ!やめっふふふっ!」


そんな私たちの朝は夢の中の冒険話から始まる。




明日、なろうでおなじみのクラス転移に巻き込まれるとも知らずに。

















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