東京PMC’s

青空鰹

紫音と実習の終わり

 あの騒ぎの後、生徒達は2回目のダイナミックエントリーをする為に準備体操をしているが、1人だけ壁際で不満そうな顔で立っている。
 宇野元くんは訓練中止となり、銃を取り上げられてしまったのであった。


 自業自得なのに、反省をするどころか不貞腐れるなんて。


 「よし、宇野元以外準備出来たな?」


 『はい!』


 「もう1回ダイナミックエントリーをする。さっきやった通り、名前順で始めてくれ」


 『はい!』


 生徒達はそう返事をすると、先程と同様にスタートラインに立ち、準備をする。


 「準備出来ましたか?」


 「はい!」


 「では、5秒前! 4、3、2、1、スタートォ!」


 その声と共にハウスの中に突入して行く。


 「・・・・・・ん?」


 さっきよりも銃声の数が少ない気がする。


 「成長しているのかな?」


 「確実に成長しているわね」


 リトアさんとの短い会話をして、少し待った後に反対側の出口から出て来てゴールと書かれた床の上に乗る。


 「1分16秒38」


 『おお〜!?』


 彼のタイムにクラスメイトは驚いていた。


 「先程よりもいいタイムが出ましたね。抜弾をした後に向こうに並んで下さい」


 「はい!」


 1番初めに受けた生徒は、嬉しそうな顔をさせながら抜弾をして列に並ぶ。


 「悪いところを改善しただけで、こんなにも早くなるとはねぇ〜」


 「ああ、この分なら他の生徒達もいい結果が出そうだな」


 その後、次々に生徒がダイナミックエントリーをして行き、遅くて1分19秒。早くて1分15秒台を叩き出したのだ。しかもそれだけではなく、何と最初やった時と違ってタイムオーバーが出なかったのだ。


 「皆さん、いい結果が出ましたね」


 「ええ、私自身もこの数時間でこんなにもタイムを縮められるとは、思ってもみなかった」


 ただ1人だけを除いてって話になるけど、生徒達はちゃんと成長していた。


 「全員いい結果が出てよかったと私も思っている。しかし、彼らPMCに比べるとまだまだ劣るので、これからもしっかり訓練に励むように!」


 『はい!』


 「一同、彼らに礼!」


 『ありがとうございましたぁ!』


 彼らは僕達にお礼を言うと、下谷さんに向き直る。


 「全員帰る準備をするように」


 「更衣室まで私が案内をするので付いて来て下さい!」


 『はい!』


 彼らはそう返事をすると、サラさんの後に付いて行くのと同時に宇野元くんも列に入る。


 「あの、天野さん」


 「ん? 何だ紫音」


 「宇野元くんの側にいたドワーフって・・・・・・」


 「ああ、ヤツは八方美人。悪く言えばイソップ寓話に出て来るコウモリみたいな存在だ」


 「イソップ寓話? コウモリ?」


 何を言っているのか意味がわからない。って顔をしていたら、リュークさんがこっちにやって来た。


 「イソップ寓話には色んなお話があるんだ。その中のコウモリの話は、鳥と獣達が争っていた時があってコウモリは鳥達が優勢になると、 僕には羽があるのでアナタ達の味方です。 と言って取り入って、今度は獣達が優勢になると 僕はお腹に毛があるから、アナタ達獣の仲間です。 と言ったんだ。
 そんな事をしていたら両方に、 お前は卑怯者だ! と言われて追われる身になってしまい、洞窟の中へと身を隠した。それ以降、コウモリは獣と鳥が眠る夜だけに外を出るしかなくなった。って話さ」


 「両方に取り繕ってもいい事はない。って話さ」


 「でも、彼は媚びる様子は見せませんでしたよ」


 側にいるだけで、何もしていない気がする。


 「そこだよ」


 「え?」


 「あのドワーフはどっちに付いた方が有利か見定めていたんだ。アイツ、クソガキが投げ飛ばされたのを見た瞬間、1番後の列に行っていたんだぞ」


 「そうなんですか?」


 何処かに行ったと思っていたら、最後尾に逃げていたとは・・・・・・。


 「まぁ、この先そいつがどうなろうと知ったこっちゃないからな。放っておこう」


 天野さんはそう言うと、銃を壁に立て掛けた。


 「さて、指導も終わった事だし。酒でも飲みに行くか」


 「さんせぇ〜い!」


 「打チ上ゲデスカ! イイデスネェ!」


 ダニエル教官もノリノリのご様子。


 「コニー、お前はどうする?」


 「ワタシですか?」


 「ああ、一応お前の代金は俺達が持ってやるし、家に送ってやるから安心しろ」


 「それではおコトバに甘えます」


 コニーさんは嬉しそうな顔させた。


 「因みに紫音。お前は払えよ」


 「ええ〜っ!? 何でですかぁ!」


 「お前はバイト代が出ているからだよ」


 絶対に違う理由だ。


 「アマノったら、まださっきの事を気にしているの?」


 「ちょっと大人気ないよ」


 「・・・・・・気にしていない」


 目を逸らしているところが怪しいんですけど。


 「それはそうと、お前の幼馴染みの糸風だっけ? よくお前に突っ掛からなかったな」


 「ああ〜、言われてみれば確かにそうですね」


 もしかしたら僕と同様に、釘を刺されていたのかもしれない。


 「それで、シオンくんは彼女の事をどう思っているのかしら?」


 「どうって・・・・・・どう?」


 「気になってる。とかないの?」


 そう言いいながら指先で突いて来るリトアさん。


 「う〜ん・・・・・・久しぶりに会ったなぁ〜。ってぐらいにしか思いませんでした」


 「恋愛感情とかないの?」


 「ないですね」


 ご近所でよく遊んでいたけど、そこまでではない。


 「そうなの。ちょっと残念ねぇ〜」


 「コニーとその子が取り合いをする様子でも浮かべていたのかい?」


 「ううん、コニーとその子とマナミがシオンくんの取り合いをする様子を思い浮かべていたのよ」


 「それって修羅場じゃないですか」


 しかもサラさんと真奈美さんとコニーさんが僕の取り合いをするなんて、絶対にあり得ない状況だよ。


 そんな事を思っていたら、サラさんと下谷さんの2人が戻って来たのだ。


 「本日はお疲れ様でした」


 サラさんがそう言ってくれ、隣にいる下谷さんに関しては申し訳なさそうな表情で頭を下げて来た。


 「わざわざ我が校の生徒達にご教授して頂きまして、ありがとうございました。それに生徒の1人がご無礼な事をしてしまい、申し訳ありませんでした。
 彼には厳重注意をしますので、どうか許して貰えないでしょうか?」


 「ハハハッ、インストラクター ヲ ヤッテイルト、 アアイッタ人ガ 偶ニイルノデ 気ニシテマセンヨ」


 「そう言って頂けると、幸いです」


 「彼ラニハ、伸ビシロガアリマァス。コレカラジックリト、鍛エテイケバ イイソルジャー ニナレマスヨ」


 「ありがとうございます」


 下谷さんは頭を上げると僕の方を見つめる。


 「大園くん」


 「あ、はい。何でしょうか?」


 「正直申し上げると、ワタシ自身もアナタの実力を見くびっていた。その事に関して謝罪を申し上げます」


 下谷さんはそう言うと、今度は僕に向かって頭を下げた。


 「あ、いえ。気にしていませんよ」


 正直、気付かなかたし。


 「そうだな。このヒョロヒョロがあんなタイムを出すとは、誰も思いはしないだろうな」


 「しかもアマノが負けたぐらいだものねぇ〜」


 「コイツがリボルバーを使わなかったら、俺は普通に勝ててた」


 「またまたぁ〜、強がっちゃってぇ〜」


 天野さんの顔が恐くなっているから、もう言うの止めて下さい。


 「彼のホルスターにしまってあるリボルバーは、何か特別な物なのですか?」


 「ああ、シオンくん専用にカスタムされたモデルなんだ」


 「オーダーメイドですか?」


 「オリジナルカスタムモデルって言った方が合ってるかな。シオンくん、彼女にR8を渡して見せてあげて」


 「わかりました」


 リュークさんに言われた通り、ホルスターから M327 R8 を抜いて下谷さんに渡した瞬間、驚いた顔をさせる。


 「お、重い」


 「紫音が反動負けしないように、普通よりも少し重くしているんだ」


 「そ、そうなんですね」


 その後も銃を隅々まで見つめていると、何かに気が付いた様子を見せた。


 「これ、木製グリップ? ゴムやポリカーボネイト製じゃない。それにトリガーチャンネルも1つだけになってる」


 「紫音はゴムの質感が気に入らないみたいだから、木製ウッドにしているんだ。しかもトリガーチャンネルも1個に減らしているのは、握りにズレ生じた時に命中精度に影響するから1つ減らしたんだ」


 「そうだったんですね・・・・・・ありがとうございました」


 そう言って M327 R8 を返すと生徒達のところに向かうのか、僕達に背を向けて歩き出したのであった。

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