東京PMC’s

青空鰹

閉鎖区域から出る紫音達

 あの後、天野さんにこっ酷く怒られてしまった。怒られている途中に、リトアさんと188さんが天野さんをなだめてくれたから僕は助かった。だけどぉ・・・・・・。


 「ったく・・・・・・あの弾を確保していれば、いくらぐらい弾代を浮かせられたと思っているんだ」


 運転している中でも怒りがおさまらないのか、今だに煙草を咥えながらグチを言っているので恐い。


 「もういいでしょアマノ。188にだって、 怒りすぎだ。って言われたんだし。それに今回はアナタにも非があるでしょ?」


 「そうだがな」


 「それに1人でウルフを2体も倒したんだから、褒めてあげてもいいんじゃないのかしら?」


 「まぁそれは褒めどころだな」


 天野さんはそう言うと、自身が咥えている煙草を火を消してからシュガーボックスの中へ入れる。


 「この際だ。弾の事はキッパリ諦める。188のヤツが、お前が倒したウルフは、状態がいいから値段に色をつけてやる。 って言ってたからな」


 「うんうん」


 よかった。リトアさんのおかげで、なんとかなりそう。


 「本部に報告してから帰るぞ」


 「焼き肉は行かないのぉ〜?」


 「このまま行ったら警察沙汰になるだろう。だから一旦家に帰って荷物を下ろしてからな」


 「やったぁ! じゃあリュークにも連絡するわ!」


 リトアさんは嬉しそうにスマフォを取り出すと、L◯NEで連絡を取り始める。


 「紫音」


 「はっ、はいっ!?」


 「この先も俺と一緒に仕事をするのだから言っておく。今日体験恐い思いをこれからもするから、今後は覚悟をして仕事しろよ。いいな?」


 「は、はぃ・・・・・・わかりました」


 今日体験した事を思い出してみると、ゾッとする事ばかり。もしもあのままウルフに覆い被さられて噛み付かれていたらと考えると、見えてくる結末はたった一つ。
 噛み殺されて食糧として食べられる結末しかない。


 「シオンくん」


 「むぎゅっ」


 隣にいたリトアさんにいきなり抱き寄せられたので、思わず変な声を出してしまった。


 「あまり深く考えなくていい。今日生きられた。その事実だけを受け止めていればいいわ」


 そう言って頭を優しく撫でてくれるので、先程まで感じていた恐怖や不安が少しだけ和らぐ。


 「あ、そういえば紫音。お前に聞きたい事があるんだが」


 「あ、はい。何でしょうか?」


 頭を撫でてくれているリトアから離れて、バックミラー越しに僕をチラチラと見つめてくる天野さんに顔を向ける。その際にリトアさんが残念そうな顔をしていたのは、紫音は気づいていない。


 「本当にウルフをお前が倒したのか?」


 「はい、M327 R8 で2匹とも頭を撃ち抜いて倒しました」


 「2匹? お前2匹もそのリボルバーで倒したのか?」


 「え、はいそうですよ。車の前で待っていた時に襲いかかって来たウルフと、あのファミレスで潜んでいて、188さんに襲いかかったウルフの2匹だけです。
 あれ? 天野さんに話してましたよね?」


 「188にお前がウルフを倒した。としか聞いてないから、てっきり1匹だけだと思っていた」


 「う〜ん・・・・・・」


 バックミラーに映る天野さんの顔が、何故か険しくなっているのがわかる。


 あ! 天野さんがこんなに険しい顔をしている理由って、 コイツもしかしたら最初のウルフを、放置したまんまにしてんじゃないのか? と思っているのかも。


 「あ、安心してください! 最初に倒したウルフも、188さんが こっちで回収するから と言ってましたから!」


 「・・・・・・そうか」


 これで安心してくれるかなぁ? と思っていたのだけれども、天野さんは険しい顔をしたまま運転している。


 えっ!? 違うの。天野さんはもっと他の事を気にしてるの? 怒られる点は他に何があるんだろう・・・・・・。


 「スゴイわねシオン! 初めての任務でウルフを2体も倒しちゃうなんて!」


 「そ、そうですか?」


 「そうよ! これはもう焼き肉でお祝いしなきゃいけないわね!!」


 リトアさんは嬉しそうな顔をしながら抱きつくと、思いっきり頭を撫でて来た。


 リトアさんが行きたいだけじゃないのかなぁ〜?


 「まぁ、なんにせよ焼き肉に連れってってやるよ」


 「やったぁぁぁあああああああっ!!!!」


  リトアさんが嬉しそうに喜ぶけど、僕は耳がいいから近距離で大声出されるのは、 キィィィイイイイイインッ!!? となるから止めて欲しい。


 「ただし、リトアと俺とリュークの割り勘な。シオンの分は、今回のお詫びとして俺が出す」


 「エエエエエエエエエエエエッッッ!!?」


 リトアさんが、もの凄く嫌そうな顔をしながら叫ぶ。耳元で言うのは、耳が痛くなるから止めて欲しいです。


 「馬鹿野郎。全額俺持ちじゃ俺が破綻するだろうが」


 「レディの私にお金を払わせるのは、男としてどうなのよ?」


 「彼女でもないのなら、払うわけがないだろう。てか、社会人ならケチらず出せ」


 「ムゥ〜・・・・・・」


 天野さんにそう言われたリトアさんは、膨れっ面をしたまま僕の耳を触って来た。


 「あの、何で僕の耳を触るんですか?」


 「ストレス発散よ」


 いや、ストレス発散じゃなくて八つ当たりされている気がするのは気のせいかなぁ?


 「それはそうと、もう検問所に着くぞ」


 天野さんの言う通り、フロントガラスの方に顔を向けると白い壁が見えた。その中で一部、くり抜いた様な形の中に大きな鉄の扉が見える。そこが検問所で、天野さんは車列の最後尾に並ぶ様にして車を停める。


 「あら本当だわ」


 「あの壁もラクガキされていたんですね。閉鎖区域に入る時に気がつきませんでした」


 そう、よく見ると高い壁の壁面に、ところどころラクガキされているのだ。検問所周辺から遠いところに集中していて、遠くて見えずらいが文字なのはわかる。


 「・・・・・・ああ、あれな。ヘイトとかプロパガンダとかだ。だから気にしな方が身の為だ」


 「ヘイト? プロパガンダ?」


 「簡単に説明すると、政府に対して自分達の不満や意見を壁に書いたりしているんだよ」


 「へぇ〜・・・・・・でも何で検問所から、あんなに遠い場所で書いてるんですかね?」


 検問所付近で書けば、もっと宣伝になると思うんだけど。


 「あまり近すぎるとね。ここにいる人達がすっ飛んで来て取り押さえちゃうのよ。
 だからあの何も書いてない場所と書いてある場所の境目が、追いかけられても逃げられるギリギリのラインなのよ」


 「へぇ〜、そうなんですかぁ〜」


 そんな話をしていたら自分達の番が回って来ていて、自衛官が車の運転席側から話しかけてくる。


 「すみません! PMCの方達ですよね?」


 「はい、そうです」


 「本人確認をするので、こちらの端末にスマートウォッチをかざして頂きます」


 「はいよ」


 天野さんはそう言うと、自身が付けていたスマートウォッチを端末にかざす。その後に続くようにして、リトアさん、僕の順番にかざす。


 「・・・・・・問題ありませんね。念の為に聞きますが、モンスターの死体や、牙、毛皮、肉などを入れてませんよね?」


 そう、閉鎖区域内のモンスターは一部の例外を除いて、連れ出す。または死体や身体の一部の持ち出しを禁止しているのだ。


 「ああ大丈夫だ」


 「そうですか。失礼しました。どうぞ、お通り下さい」


 天野さんは手で会釈すると、車を出した。今度は閉鎖区域の様な速さではなく、法定速度内の速さで。


 「あっ! そうだ。紫音」


 「あ、はい! 何でしょうか?」


 「お前、自分の持っている銃の整備は出来るのか?」


 「えっ!? ダニエル教官にオートマチックの方は習ったのですが、リボルバーの方は教わってないので、分解清掃の仕方がわかりません」


 ダニエル教官の訓練も、オートマチックピストルを使う前提で訓練をしていた。だから1回だけ、リボルバーの場合はこうやって使うんだよ。 ぐらいにしか説明してなかった。


 「やっぱりか。俺とリュークが教えてやるから、ちゃんと覚えろよ」


 「わかりました」


 「後、もう閉鎖区域も出たし、もう戦闘はないからシリンダーから弾抜いておけよ」


 「あ、はい!」


 僕は天野さんに言われた通り、 S&W M327 R8 から弾を抜くのであった。ちなみに、H&K UMP45 には弾倉マガジンが入っていないので、弾抜きなどをする必要はなかった。

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