クラス転移したけど私(俺)だけFPSプレイヤーに転生

青空鰹

第25話

 とある別世界の会社の一室。ボイスレコーダーとメモ帳を持った女性が待っていた。

 この取材は失敗出来ない。失礼のない様にしないと!

 そう、集団失踪をした高校の生徒の一人。倉本 春人くんの祖父である 倉本くらもと 甲信こうしん の独占インタビューに成功したのだ!

 「でも驚いたわ。あの建設業で有名なところの子だったなんて」

 手元にある資料を読み返していると、トントンッ! とドアを叩く音がしたのでファイルを閉じる。

 「失礼するよ」

 「おはようございます。倉本 甲信さん。わざわざ我々の取材の為に時間を取って頂き、ありがとうございます」

 「こちらこそ。わざわざここまで脚を運んで頂いて、すまないねぇ」

 彼はそう言い頭を下げると、椅子に座った。

 「さて、ワシの孫の話が聞きたいみたいじゃが・・・・・・一体なにから話した方が良いかのぉ?」

 「そうですね。学校でアナタの孫が虐められていたのは、知っていましたか?」

 そう、これは彼を含めた生徒達が失踪して分かった事だが、 倉本 春人くんがクラスメイト達に虐められていたのが発覚した。
 その事がすぐ公になった途端、学校側は世間に深く謝罪して彼のクラスメイトの親御さん達はマスコミの恰好の餌食となった。しかも中には引っ越しした者もいれば、家から一歩も出れずにいる親御さんもいる。

 「そうじゃのぉ〜。ワシ自身もその事は知らなかった」

 「そうですかぁ。その事を踏まえて聞きますが、アナタはどう思いますか?」

 「可哀想だなぁ。とワシは思っておるよ」

 やっぱり、血の繋がった子の事なのね。

 「ん? お嬢さんは、なにか勘違いをしていないかい?」

 「えっ? 勘違いと言いますと?」

 「ワシは春人が可哀想だ。と思うよりも、虐めをやっていた子達が可哀想だ。と言っておるんじゃ」

 それはどう言う意味なの?

 「アナタはご自身のお孫さんが、悲惨な目に遭っているのに主犯格の心配をするのですか?」

 「そうじゃ」

 呆れた。この人は自分の孫がどうでも良いと考えているみたいだ。

 「もしも、このまま虐めの事実が発覚していなかったら、彼らはもっと悲惨な日常を味わっていたかもしれぬからなぁ」

 ・・・・・・ハァ?

 「もっと悲惨な日常を味わっていた?」

 「ああ、そうだ。これを見れば見方が変わるはずじゃ」

 甲信さんが鞄から取り出して手渡して来たのは、なんと虐めの証拠の数々だ! しかも鮮明な証拠が多いので、裁判でも確実に勝てると知らない私でも言える証拠の数々だ。

 ・・・・・・ん? ちょっと待って!

 「アナタは虐められているのを知らないと仰いましたよね? なんでこんなに証拠を持っているのですか?」

 「全部春人が集めた証拠なんじゃ」

 「彼が集めた証拠? これ全部ですか?」

 私がそう聞くと、甲信さんは頷いた。

 「恐らく春人は虐められているフリをして証拠となるものを集めていたんじゃろう。
 まぁアイツの事じゃから、襲いかかられたところで自分で対処出来るじゃろうなぁ」

 「自分で対処出来ると言いますと?」

 「アイツは軍用格闘技を教わっており、その延長線上で銃とかの扱い方を教わっておったんじゃ」

 銃の扱いって・・・・・・。

 「エアーガンとかオモチャの銃とかの扱い方ですよね?」

 「いいや。本物の銃の扱い方を教わっておったんじゃ。実際に海外の方で本物の銃を持って訓練もしていたからワシも驚いている」

 本物って、イヤイヤイヤイヤッ!?

 「アナタはお孫さんになんて事をやらせているんですかぁ!?」

 「ワシ自身知っておったら止めておったわ! あの師匠めぇ〜。春人には軍人になる資格があるじゃ。ただ護身術を教えてやれと言っただけなのに・・・・・・」

 甲信さんはそう言い、悩んだ顔をさせながら頭を抱えていた。

 「あの馬鹿夫婦が気づけなかった。いや、気がつかない方が普通じゃな」

 「馬鹿夫婦? それって・・・・・・次男の方の夫妻の事ですか?」

 「ああ、そうじゃ」

 甲信の言う馬鹿夫婦とは、倉本 甲信とその嫁の間に産まれた次男が、春人くんの産みの両親である。

 「無惨な死を遂げてしまった方達ですね。きっと春人くんも残念に思っていると思います」

 「春人が残念がっているだって? 馬鹿を言うな。アイツにとってあの馬鹿夫婦は親でもなんでもないし、ましてや亡くなってザマァみろと思っているだろう」

 「ザマァみろって、まるで春人くんが両親の事を恨んでいる様な言い方をしますね」

 「実際問題。死んでも恨んでいるんだよ。アイツは」

 彼が、両親を恨んでいる?

 私がそう思っていると、甲信さんは立ち上がり窓の側まで歩いて行く。

 「ワシももう齢じゃから公にしても良いじゃろう。あの家族の真実をのぉ」

 「あの家族の真実?」

 「ああ。ワシの息子の一人、 倉本 甲二こうじ の事は知っておるじゃろう?」

 「知っています。有名なIT企業の設立に携わった人物ですから」

 そう、 倉本 甲二は大学の友人達と共に会社を設立。そして僅か五年で大企業にした人物だ。その筋の人達の間では、知らない方がおかしい人物なのだ・・・・・・悪い意味で。

 「ワシの元を離れてから会社を設立して、見事大企業仕立て上げた。その多忙な中で結婚して産まれたのが、ワシの孫である春人と秋斗なんじゃ」

 「それは我々も知っております」

 「そうじゃろう。だがここから先の話は知らない事ばかりだと思うから、心して聞いておった方が良いぞ」

 記者の私が知らない情報・・・・・・。

 とんでもないスクープな気がした彼女は、自然と生唾を飲み込み、甲信に耳を傾ける。

 「あの夫婦は春人と秋斗が産まれた時は、大層可愛がっていた。しかしそれは彼奴らが赤子の時だけであって、物心ついた頃には弟の秋斗しか可愛がらなくなってしまったんじゃ」

 「弟の秋斗くんだけ可愛がっていた。つまり春人くんの育児放棄をしていたって事ですか?」

 「ああ。夫婦揃って自分の息子に優劣を決めつけて育てていたんじゃ。しかも自分の息子をいない者として扱って来てたとは・・・・・・今思い出すだけで腹立たしい!」

 やはり祖父と孫の関係なのか、声に怒りが滲み出ていた。

 「・・・・・・しかし、そんな家族に不幸が降りかかった。確かあれは春人が七歳の頃じゃったな」

 「倉本 甲二 が会社を自主退社した事ですか?」

 「ああ、そうじゃ。分かっていると思うが、自主退社は表面上の話であって本当のところは会社からクビ宣告されたんじゃよ」

 「クビですか」

 そう言いつつも、やっぱりそうなんだ。と思う。

 「彼奴の会社は他の事業にも手を出そうとしていたが、甲二が成功しないと反対をしておったんじゃ。
 その事業の事について話し合いを続けて行く中で、経営がだんだんと悪化して行ってしまった。これではマズいと思った社長・・・・・・いや、甲二の友人達が考え出したのが、甲二の地方移転じゃった」

 なるほど。そうすれば甲二から経営に関して煩く問われる事がないし、なによりも自分達の思った通りの経営が出来ると考えたのね。

 「しかし、甲二もプライドが高い人間。その事を聞いた彼奴は、 ふざけるなっ!? と言った後に、辞表を提出して会社を出て行ってしまったんじゃ。
 出て行く間際も、 この会社は俺がいなくなった事を深く後悔するだろうなっ! とも言っておったみたいじゃしな。しかし、それが後々間違いだったとなぁ」

 その言葉を聞いた記者は、 ハッ!? と気がついた顔をした。

 「そういえば、赤字ギリギリの経営から安定した経営まで利益を持って行ってましたね。しかも新しい事業の成功を収めている・・・・・・」

 「そう、それも彼奴がいなくなってからじゃ。これがどう言う意味を指しているのか、分かるじゃろう?」

 「はい。あのIT企業にとって、倉本 甲二は本当に必要のない人物だった」

 「うむ。その事を知った彼奴のプライドは砕かれたワイングラスの様に粉々り、そこから全ての歯車が狂い出したんじゃ」

 「全ての歯車」

 この時の私は思いもしていなかった。まさか、とんでもない事を知ってしまうとは・・・・・・そう、この時までは。

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