クラス転移したけど私(俺)だけFPSプレイヤーに転生

青空鰹

第55話

 ネネちゃんを含めて多くの人達が参加した防衛戦は幕を閉じた。その3日後、被害を最小限に止められたとは言え、その戦いの爪痕が深かった。


 「自分の力のなさに不甲斐なさを感じてしまう」


 行方不明になった者、姿が分からなくなるほどに傷ついてしまった者を祀った墓の前に花を手向けた。


 「お姉様。そんな事はありませんよ!」


 「そうでっせ。事実一番活躍していやしたのはエルライナさんじゃありやせんか!」


 「活躍かぁ・・・・・・確かに魔物をたくさん倒したし、魔人と戦ったよ。でもね。ドッペルにトドメを刺せなかったし、敵のボスには逃げられるでダメダメだったじゃん」


 「いや、魔人の相手はキミしか出来なかったよ。それに死に追い込んだのはキミ自身だろう?」


 「まぁそうだけど・・・・・・」


 結局は横取りされて終わったんだから、倒せたとは言えない。


 「それはそうと、私よりも彼らを元気づけた方が良いんじゃないんですか?」


 総合ギルド長達は俺が指をさした方向を見つめると、ちょっと驚いた表情をさせる。


 「アオノくん? それにクメヤマくん達もどうしたんだい? そんな暗い表情をさせて」


「すみません。彼女と話したいので、退いて頂けませんか?」


 「私達、彼女に話さないといけない事があるので」


 「あ、ああ・・・・・・話ぐらいだったら構わないぞ」


 「「「「ありがとうございます」」」」


 彼らはそう総合ギルド長にお礼を言うと、俺の元へと歩み寄って来た。


 「・・・・・・エルライナさん」


 「申し訳ありませんでした!」


 「「「申し訳ありませんでしたぁ!!」」」


 学級委員達が、いきなり俺に向かって土下座をして来たのだ。


 「どうして頭を下げるの? 私はアナタ達に謝って貰う事は一つもないと思うけど」


 「アナタについてのお話は、“全てメルティナス様から話をお伺いしました。”なので、謝るのは筋だと思っています」


 「メルティナス様が話したの?」


 「はい、話して頂きました」


 なるほど、メルティナさんが彼らに話したんだね。


 「ふ〜ん、そっか。私が倉本 春人くんだったら、謝罪だけで許したと思う?」


 「実際・・・・・・許して貰えないと思います」


 「彼が目の前にいたら、 ずっとこのままでいられると思っているのか? それで良い思っているのか? とか言っていたかもしれません」


 そうは言わないと思うが、近い事は言うかもしれないな。


 「この場に居ない人の事を考えても仕方ないから質問を変えよう。私だったらなんて言うと思う?」


 俺がそう言うと、お互いの顔を見つめて考えている。


 「いい加減、実戦に出て欲しい」


 「それはあの騎士団長の願いだから違う」


 久米山は外れた。


 「足手まといだから強くなりなさい」


 「そんな事は今回の事で実感しているでしょ。だから私からはそんな事を言わないよ」


 青野も間違えた。


 「強くなりなさい」


 「そんな当たり前の事は言わない」


 青野と同じ事を言ってる気がする。


 「あの・・・・・・私分かりません」


 「正直で良いけど、相手からしたら何も考えてないと思われるから考える様にね」


 そう言ったら、木崎はしょげてしまった。


 「みんな外したから言うね・・・・・・良い加減、覚悟を決めたらどうなの?」


 「覚悟、ですか?」


 「そう覚悟」


 「でも俺達は現に覚悟を決めて・・・・・・」


 「ウソを言っちゃいけないよ。あの時のキミ達には覚悟はなかった。その証拠に 私が危なくなったら逃げても良いよ。 ってキミ達に伝えたら安堵した様子をしていたよね?
 人々を守る勇者達が、人を置いて逃げても良いと考えるのって・・・・・・おかしいと思わない?」


 「でも、アナタがそう言ったんじゃないんですか?」


 「確かに私はそう言った。勇者だったら、民間人を見捨てて逃げる事なんて出来ない。とか言うと思うよ。もしかしたら大輝くん達なら、そう答えると思うし」


 俺がそう言ったら、押し黙ってしまった。


 「とにかく、勇者になるのなら覚悟を決めた方が良いし、辞めるって言うのなら王様に頭を下げて出て行くしかないよ。
 今のままだと、この国にとっても迷惑だし自分達に取っても良くないからね」


 「・・・・・・なら」


 「ん?」


 「ならどうすれば良いんですかぁっ!? 俺達じゃクラスメイトを説得出来ないし、挙句の果てにはみんな好き勝手やるし・・・・・・もう、どうすれば良いのか分からない」


 「だからそこだよ」


 「え?」


 「私の覚悟はない。って言う言葉はそこだよ。クラスメイト? 彼らが? 前にも言ったと思うけど、ここに学校はあるの? それに防衛に来てくれなかった人達を? 挙げ句の果てには気晴らしに仲間を痛めつける連中の事を仲間なんて言うの?
 今のキミ姿を見ていると、馬鹿馬鹿しいとしか思えないね。キミ達の世界で言う八方美人って言う言葉が適切かな。でも八方美人になりきれてもないからね」


 「八方美人? 俺が?」


 青野の肩に真月が手を置いた。


 「ねぇ、猪瀬の顔を殴ったあの時に私言ったよね。アナタ達はアナタ達で勝手にやってって」


 「私ね。ついカッとなって言っちゃったんだけど、今思い返せば間違いじゃなかったんだ。って思ったの」


 「真月、それどう言う意味だ?」


 「私はね。これからは岡野や猪瀬、況してやクラスメイト達を仲間とは思わずに過ごして行こうって考えていた。けど、考えが変わった。
 これからはエルライナさんの隣で戦えるぐらいに強くなろうと考えてるの」


 「俺もその気でいるんだが・・・・・・ってまさか!?」


 「私、総合ギルドに登録して、王都を出て修行の旅に出ようと思っているの」


 真月の言葉に久米山達は驚いた表情をさせていた。


 「そこまでしなくても良いんじゃない?」


 「ううん。そうしないと、今まで通りあの団長に甘えてしまうかもしれないし、なによりも岡野達に邪魔されるからね」


 うん、その答えは正解だ。


 「・・・・・・そう。ギルド長」


 「ん?」


 「彼らなら総合ギルドに加入しても問題ありませんよね?」


 「ああ、キミならいつでも歓迎するよ」


 「だってさ、身支度が整ったら総合ギルドへ行って登録すると良いよ」


 「よろしくお願いします」


 「まだ加入してないから、お礼を言わなくても良いと思う」


 「そうだな!」


 俺とギルド長が笑っている中、久米山と木崎が真月の元へ歩み寄る。


 「俺も覚悟を決めたよ」


 「私も、もう彼らとは一緒にいられないし、なによりも強くならなきゃいけないから」


 「2人共・・・・・・ありがとう」


 さぁ、残りはお前だけだぞ。どうするよ、青野?


 「青野、先に言っておくけど私達はなにも言わないわ」


 「なにも言わないって、なにを?」


 「青野がどうしたいのかを決めるのは青野自身だから、私達はなにも言わない。自分で決めて」


 「俺は・・・・・・俺は・・・・・・・・・・・・」


 青野は意を決した様子で語った次の日。


 「久米山さん達がこの王宮を出て旅しに行くですってぇ!?」


 「ええ、王も了承されていますよ。因みに我々の優秀な者が二人ほどついて行くので、心配はいらないと思いますよ。今廊下ですれ違いましたし」


 「心配とかそう言う話じゃないわっ!!」


 「え? ちょっとぉ! 猪瀬様、待ってください!」


 彼女は引き止めようとするメイドを無視して、部屋を出て廊下を駆けて久米山達の元へと行く。


 「お待ちなさい!」


 「ん? どうした猪瀬?」


 「なぜアナタ方はこの王宮を出て行くのですか?」


 「なにって、強くなる為に決まっているじゃない」


 真月がそう答えると、猪瀬は睨みながら目の前まで近づいて行く。


 「私の許可なく出て行くなんて、あり得ませんわ!」


 「はぁ? なんでお前の許可を取らなきゃいけないんだよ?」


 そう答えた久米山の態度も気に入らない様子を見せた。


 「良いですか久米山さん。リーダーであるこの私の・・・・・・」


 「リーダー?  お前が? 笑わせないでくれ」


 「青野さんまで・・・・・・私にそう言うのですか?」


 「言うもなにも、俺だって猪瀬がリーダーだなんて認めていない。むしろ迷惑だからな」


 「なぁっ!? この分からず屋ぁ!」


 怒り浸透の猪瀬が手を出そうとしたのだが、なにかに阻まれた。


 「いったぁ!?」


 今度は痛がっている猪瀬の目の前に木崎がやってくる。


 「もう私達はね、アナタ達の事を仲間だって思ってないの」


 「・・・・・・え?」


 「だってそうでしょう? 自分が不利になったら即暴力を振りかざす人の元なんか、私はいたくない。それに臆病者なんかについて行けないわ」


 「私が臆病者ですって!?」


 「ならなんであの戦いに参加しなかったの?」


 「それは、私に作戦があって・・・・・・」


 「戦いが終わってから堂々とくる人が作戦? もう少しまともなウソを言えないの?」


 「ウソなんて、ッ!?」


 青野がいきなり剣を抜いたので、猪瀬は恐怖のあまり縮み込んでしまった。


 「さっきも言ったが、俺達は俺達で勝手にやらせて貰う。それともう一つ、お前に言っておく事がある」


 「な・・・・・・なんですの?」


 「今度ちょっかいを掛けてくるのなら、全力で相手をするから覚悟しておけよ。じゃあな!」


 呆然としている猪瀬を置いて、青野は剣を鞘にしまい、本当の仲間と共に歩き出した。


 「・・・・・・一日で成長したね」


 エルライナは望遠鏡を片手に、彼らの歩く姿を見つめながら言ったのだった。

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