クラス転移したけど私(俺)だけFPSプレイヤーに転生

青空鰹

第3話

 「・・・・・・でだ。お前が倒したゾンビを処理しようとしたら、グエル団長達が近づいて来るのが分かったから逃げたと?」


 エイドさんは俺を睨み付けながら淡々と話してくる。


 「・・・・・・はい」


 俺が手を置いている水晶は透明なままだ。だって俺ウソ吐いてないもんっ!?


 「そして宿に帰った後、どうしたんだ?」


 今度はグエルさんが俺に向かって質問を投げ掛ける。しかも、その顔はエイドさんと同様睨んでいる。


 「宿の子供とお風呂に入った後に寝ました」


 うぅ〜っ! まるで俺が犯罪者で取り調べを受けているみたいじゃないかぁ~!? なにも悪い事してないのにぃ~っ!!


 「水晶に反応がないって事はウソは言ってないようだな」


 もう宿に帰りたいよぉぉぉおおおおおおっっっ!!


 そう思いながら俯く。


 「ねぇ、エルちゃん」


 「な、なんですかリズリナさん?」


 顔を上げてからリズリナさんを見ると真剣な顔つきで俺を見つめていた。


 「なんで私達に相談しなかったの?」


 リズリナさんは俺の目の前まで顔を近づけながら言ってくる。


 「そのぉ・・・・・・時間がなかったのと目立ちたくなかったのと、後は・・・・・・」


 「後は?」


 「信じて貰えない。と思ったからです」


 「・・・・・・信じて貰えない?」


 リズリナがその言葉を聞いた瞬間の頬がおもちのように膨らむ。


 え!? どうしたのリズリナさん? もしかして怒ってるの?


 「あ、ファッ!?」


 「エルライナちゃぁ~〜〜ん。そう言う事を言われると私達は傷つくわぁ~〜〜・・・・・・」


 ミュリーナさんが俺のプレートキャリアの両腕部分にある隙間から、手を突っ込み指先で胸を揉んできた。


 「ヤッ! ヤメ、ヒャアッ!?」


 今、背筋がゾクッとしたっ!!


 「パッドだと思っていたけど違うのね。それに揉みごたえがあるわねぇ〜・・・・・・モミモミィ〜」


 もう揉むのもうやめてっ! 変になっちゃうよぉーーーっ!!


 「にゃうぅぅぅぅぅぅ~~〜〜〜〜っっっ!!?」


 「ミュリーナ、もうその辺にしておけ」


 「はい、団長」


 ミュリーナさんはそう言った後に揉むのを止めて胸から手を離す。


 良かった。グエルさんのおかげで離して貰えた。


 「さてエルライナ。さっきミュリーナがお前に言った通り、俺達の事を信じてくれない。と言われるのは心外だ。どうして言わなかったんだ?」


 「・・・・・・それはグエルさんが信じているとしても、王宮を守る兵士さん達が私の話をグエルさんの方に伝えてくれるか分からなかったから」


 「自分の名前を出してから俺の名前を出せば通して貰えた」


 ウソッ!? そうすればグエルさんと会えたの?


 「これについては伝えなかった俺が悪かった」


 「・・・・・・はい」


 「しかし、王国の危機を誰にも伝えなかったのは良くはなかった。分かるよな?」


 「・・・・・・はい」


 「俺達総合ギルドも対応していたぞ」


 今度はエイドさんが俺に言ってくるのだけども、険しい顔をしているのでグエルさんと同様に怒っているのが分かる。


 「ギルドマスターだってお前の事を気に入ってるから、話せばお前のところに来ていた」


 「そうだったんですか?」


 「ああ、そうだ」


 でもそれをやったら、ややこしい事になりそうな感じがするんだよなぁ。


 なんて事を思っていたら今度はバルデック公爵様が話し始める。


 「まぁその話は置いといて。すまないがエルライナ、今回の事に関してだがグエルは国王に報告、私は他の大陸の総合ギルド長に報告してから各地の支部へ報告しなければならない」


 やっぱりグエルさんとバルデック公爵様は知ってしまった以上報告はしないといけないんだね。だけど、それはそれで俺が困る。


 「あのぉ~、それだと私が困るんですけどぉ・・・・・・」


 「どうしてだ?」


 「ゴーゼスの時のような状況は、もう懲り懲りです」


 「・・・・・・ああ~、なるほど」


 ミュリーナさん以外の人は納得した顔をするが、ミュリーナさんは困惑した顔をしながら全員の顔を順番に見る。


 「えっ!? なに? 団長、ゴーゼスでなにがあったんですか?」


 「ゴーゼスの事件の事はお前も知っているよな?」


 「はい、知っています」


 「その事件の後、エルライナは街全体で感謝されたんだがぁ・・・・・・」


 「だが?」


 「俺から見てもあれは異常だった」


 「異常だった?」


 ミュリーナさん首を傾げながら言うので、俺から説明をする事にした。


 「グルベルトを捕まえ後日に街のみんなから感謝されました」


 「それはそれで良いんじゃないの?」


 ホント、感謝だけされるんだったらね。


 「総合ギルドの入り口を取り囲むように沢山の住人達がいて、その沢山の人達が私に向かってお礼を言って来ました。しかもギルドに出入り支障が出るほどに・・・・・・」


 「えっ!?」


 「あの時、職員だけじゃ人手が足りないから、僕達騎士団と街の兵士の人達も呼んで対応したんです」


 キースさんはあの時の事を思い出しているのか苦笑いをしている。


 口では出さないが、なぜかあの時バーボスさんにこっぴどく怒られたんだよねぇ〜。


 「それだけだったら良かったんですけどぉ・・・・・・」


 「まだなにかあるの?」


 「はい・・・・・・ファンクラブが出来たんですけど、その人達が総合ギルドに結構迷惑を掛けていたんです。用がないのに総合ギルドに来て私に挨拶をした後に解散せずに、その場でファンクラブ内で談話したり喧嘩したりしてました」


 「それは、流石に追い出されるんじゃないかしら?」


 「実際に出入り禁止になったんですがファンのみなさんは言う事を聞かないで総合ギルドに出入りしていて、総合ギルドの人達は五回目の注意からは諦めていました」


 「えぇぇぇーーー・・・・・・・」


 ミュリーナさんは信じられない顔している。


 「バーボスから来た手紙を読んだんだが、他にもあったみたいだな」


 「はい・・・・・・ファンの方に告白されたり、ストーカーに付きまとわれたり、更には泊まっている宿にまで押し掛けてくる事態にまでなりました」


 ゴーゼスにいる時は本当に毎日疲れる思いをしてたよ。


 「・・・・・・それは大変な思いをしたわね」


 「だから私がゾンビの大群を倒した事を大々的に報告されると困ります・・・・・・ホント」


 「うーん、なるほどぉ・・・・・・事情は分かったわ。でもねエルライナちゃん。アナタの立場がどうあれ私達はこの事は報告しなければいけない立場なの」


 ミュリーナさんは困った顔をしながら頬に手を当て言ってくる。


 クッ!? 事情を話しても駄目なのかっ!!


 「エルライナ、私の方からキミに提案が一つあるのだが、聞いてくれるかい?」


 提案? バルデック公爵様は俺に対して脅しを言う人じゃないから聞いてみても大丈夫だよね? 聞くだけならタダって言うし。


 「その提案聞かせて下さい」


 「グエル達は国王だけに報告する。そして私は他の総合ギルド会長にするのだが、情報制限として関係者とリードガルム国王と各地の総合ギルド会長内だけの情報にする。って事でどうだ?」


 確かにそれは良い提案だけど不安なところがある。


 「私はバルデック公爵様とグエルさん達は信じられますけど、会った事もない人達を信じられません。安易に話してしまうような気がしてなりませんが」


 「そこでこの紙を使う。[契約の魔法紙まほうし]だ」


 バルデック公爵様は悪趣味と思えるような黒い紙を取り出して俺に見せてくる。


 「それはどういった紙なんですか?」


 「知らないのか?」


 「・・・・・・はい」


 「ハァー・・・・・・」


 はっきり答えると、バルデック公爵様は目をつぶりため息を吐いた後に俺に向かって言いだした。


 「常識を知ってるのか知らないのか・・・・・・キミの先行きが不安になってきたよ。良いかいエルライナ。説明をしてあげるからちゃんと聞くように」


 「お、お願いします」


 今後の為にもなるから聞いておこう。それになによりも、ちゃんと話しを聞くからそんな怖い顔をしないで下さいよっ!!


 「この紙に書いた内容は必ず守らなければならないんだ。契約期間内に契約違反をすると犯罪者の烙印を押されたり酷い時は死を伴う契約まである。
 この紙を見たとき注意してくれ。不当な契約を交わされる場合があるからね」


 死を伴うだとっ!! 怖っ!!?


 「流石にそこまでしなくてもっ!!」


 「なに、書く時に罰を自分達で決められるから安心してくれ。それにこの契約書はあまりに不当な契約をしようとすると、契約発動しないようになっているんだ」


 決められて不当過ぎると契約発動しないのなら安心だけどぉ・・・・・・。


 「それに私の兄上、もとい国王と他の総合ギルド会長は口が硬い人達だからそんな事をしなくてもゾンビの大群をお前が倒したなんて言いはしない」


 本当に信じて良いのかな? てか兄上って国王とバルデック公爵様は兄弟なんだ。うーん・・・・・・よしっ!!


 「分かりました。そこまでするのですから、その人達を信じましょう!」


 「おお! そうかっ!!」


 「ただし! 契約の魔法紙はちゃんと書いてもらい罰則については、私の方で決めさせて貰います!」


 「かまわないが、どういった罰則にするんだい?」


 俺がゾンビの大群を倒した事を話しただけで罪人になったり死ぬのは心が痛む感じがするので、俺から罰則を決める事を提案して死ぬ以外の契約をさせる。


 よしっ! ラノベによく使われるあの選択をしよう!!


 「それはですね」


 「それは?」


 「[話そうとしたら、苦しくなるほど笑う]ですっ!!」


 「「「「「「はぁっ!?」」」」」」


 そう笑ってしまえば、話そうとしても話せなくなる! だからこれは最高の選択だよね!


 「そんなんで良いのかい?」


 「はい、それで構いません!」


 バルデック公爵様は困惑しているのか、眉を潜めながらグエルさん達の顔を見た後に俺に向きなおる。


 「分かった。この場にいる者達はここで契約をしよう。今から書くから少し待っていてくれ」


 バルデック公爵様は胸ポケットから万年筆を取り出すと契約の魔法紙に書き始めるのだが、 俺はバルデック公爵様が持っている物が気になってしまった。


 「バルデック公爵様」


 「ん? どうしたエルライナ?」


 「それって、万年筆ですよね?」


 「よく知ってるね」


 「はい、見たことありますからね。もしかして高いんですか?」


 羽ペンで書くのが常識の時代に万年筆はおかしいと感じてしまうけど、多分勇者がこの世界にもたらした物の一つだと思う。


 「そうだよ。万年筆は人気で値段も高いからなかなか手に入らない物なんだ。この前やっと手にいれられたから本当に良かった」


 バルデック公爵様は顔を緩めながら語るが紙に書いている手を止めない。


 「へぇー、そうなんですか。取られないように気をつけて下さいね」


 「私もその所は気をつけているから大丈夫・・・・・・よし書けた。エルライナ、内容を確認してくれ」


 「はい、分かりました」


 バルデック公爵様から手渡された紙に目を通す、内容に不備はもちろん、契約期間が死ぬまでと罰則の内容が[エルライナがゾンビの大群を倒した事を誰かに話そうとしたら、苦しくなるほど笑う]で間違いないか確認する。


 「・・・・・・確認しました。大丈夫ですね」


 「うむ、それじゃあギルド長を呼んで来てくれ。彼女もここで契約させる」


 「バルデック会長、私はここにいる」


 「うわぁっ!?」


 俺の後ろから突然声が聞こえてくるのでビックリして声を出してしまう。


 振り向いて見るとラミュールさんが立っていた。


 「ラミュール!?」


 「どうしました会長?」


 「キミは今の話・・・・・・いや、エルライナがゾンビの大群を倒した事を誰かに伝えてないよな?」


 「大丈夫です。バルデック会長心配なさらずに」


 こ、この人はどうやってこの部屋に入って俺の後ろまで来たんだ!?


 「そうか、丁度良い。お前もここに名前を書いて欲しい」


 「分かりました。エイド、そこにある羽ペンとインクをこっちに持って来てくれ」


 「分かりました」


 エイドさんはインクと羽ペンを取りラミュールさんに手渡した。そしてラミュールさんは紙に自分の名前を書き始める。


 「バルデック会長、確認して下さい」


 「・・・・・・うむ、キミの名前だな。グエル達も名前を書いてくれ」


 「分かりました。と言いたいのですが私は書きません」


 「なぜだ?」


 「国王様に報告をするのでその時にやります」


 「あ! そうだったな。分かった。私も他の会長に話す時に書くから待っててくれないか?」


 「大丈夫ですよ」


 バルデック公爵様とグエルさんは、ウソついたり忘れる人じゃないから信じよう。


 「よし! 他の者は名前を書いてくれ」


 「「「「ハッ!」」」」


 騎士団の皆さんとエイド教官は返事をすると紙にキースさん、エイドさん、ミュリーナさん、リズリナさん、の順番で紙に書いていった後にバルデック公爵様が契約の魔法紙にちゃんと名前を書いたかを確認をする。


 「よし、全員名前を書いたな。では契約を始めるぞ」


 名前を書いた人達は自分の指をナイフで軽く切った後に紙に一滴垂らしてから詠唱を始める。


 「「「「われわがが名の元で 女神メルティナス様 と契約を結ぶ事を誓います」」」」


 エイド教官達はそう言うと契約の魔法紙は光輝き出した後に消えていった。


 「無事に終わったな」


 バルデック公爵様が安堵した顔を見せる。


 「え? 今ので終わりなんですか?」
 

 「うん、そうだよエルちゃん。だからね。エルちゃんがぁ、プッ!?」


 リズリナさんは、なぜか口に手を当てる。


 「リズリナさん大丈夫?」


 「キャハハハハッ!? ひ、アハハハッ!? ク、クルヒ・・・・・・ア、アハハハハハハハッッッ!? たっ、たす、プッ!? キャハハハハハッッッ!?」


 「リズリナさん! しっかりして下さい!?」


 な、なんでこうなってるの?


 リズリナさんは俺が心配している中でその場で笑い続けた、そして笑いが止まる頃にはマラソンをしたかのように疲れきっていたのだった。

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