異世界人は俺のシルを欲しがり過ぎるのでさっさと現世に戻りたい!
父よあなたはバカだった……
玄関を開けたらそこは異世界だった……。
いや、玄関のドアを開けた瞬間、そこには見たこともない森が広がっているんだから、そこは異世界ってもんでしょ? 今どきの若者なら誰だって知ってる。
将来は安定した生活を送れる公務員を目指す俺の行動は、こういう時は無言でドアを閉める事に決めている。
あんな異世界冒険ものなんてのは、物語で楽しむからいいんであって、当事者になってみたら大変な目に合うに決まっている。
伸るか反るかの賭けに出るような性格なら、安定した公務員なんて目指さないよ。
で、深呼吸をする。
ええと……余裕を持って4回くらい。
もう一度、ドアを開けてみる。
やっぱり森が広がっていた。
ヤバイ……これはかなりしつこい異世界に違いない。
さて、どうしよう。
「いったい玄関でなにをしている?」
「うわぉう! と、父さん!」
玄関の異変に夢中になっていたせいか、背後に父さんが来ている事に俺は気づけなかった。
「さっさと行かないと遅刻するぞ」
いや、このままドアを開けて出て行っちゃったら、遅刻するもなにも存在がなくなっちゃうんだけどさ。
俺がモタモタしている事に気づいた父さんは、さらになにをしている? というようにギロリと睨んできた。
霞ヶ関のどっかの庁舎で国家公務員をしている父。
四角いメガネにキッチリとしめたネクタイ。ビシッと決めたスーツ姿。いかにも官僚って感じの父親で、声は声優の大塚●夫氏そっくり。厳格な父親像を地でいくような人だった。
「いや、なんていうか……玄関ドアが変なんだけど……」
「ドアが変? どれ、どいてみなさい」
言うが早いか、革靴を履いた父さんは、俺に代わって玄関ドアを開けた。そこにはいつもの住宅街の光景が広がっていた。
やったラッキーこれで学校に行ける! そう思うが早いか、父さんは玄関ドアを閉めた。
「どこもおかしくないぞ? 開けてみなさい」
「え? ああ……はい……」
促されるままに俺は玄関ドアを開いた。
すると、そこには森が広がっていた。
やっぱり……このドア変だ。
「ダメだよ父さん。なんていうか……俺には変な場所に繋がっているように見えるんだけど……」
父は眼鏡をキラーンと光らせて怪訝そうな表情を見せた。
「なにを言う? 私にはいつもの家の前にしか見えないぞ」
「はいい?」
どう見ても俺の目には、薄暗い針葉樹の森が広がっている光景しか見えない。だけど、父さんの目には普通の家の前に見えるらしい。
ということは、俺だけが見ている幻覚?
ちょっと待って! 公務員を目指す俺に死角はない。薬物なんかやってないし、幻覚を見るような怪しい修行とかもしていない!
「いやいやいやいや。おかしい。父さん、俺の目には森が見える。ち、ちなみに変な薬もなにもやってないからね!」
父さんはまた眼鏡をキラーンと光らせてから俺のことをギロリと睨み、そして玄関の外に目を向けた。そしてまた俺に目を向ける。
きっつい眼差し……。
くっ……ふざけるなと怒られるのか?
「私には普通に見えて、おまえには普通に見えない……」
予想外に、父さんは怒ってこない。ハテ……?
「そ、そういうこと……」
カクカク頷いた俺に、父さんは納得したというように頷いた。
「わかった……。つまりアレだ。おまえは異世界に行ける機会を得たということだ!」
…………?
今、脳味噌からウジが湧くような台詞を聞いた気がしたんだけど、気のせいか?
「は、はいいいいいっ!?」
「何度も言わせるな。おまえは異世界に行ける機会を得たということだ」
お堅い国家公務員勤続25年以上の父親の口から、異世界に行けるとかいう変な言葉を聞くとは思いもしなかった。
「選ばれた以上、おまえは行くしかない!」
まして、こんなバカな台詞まで聞くとは夢にも思わなかった。
「バカなの?」
思わず声に出していた。
すると父さんはムッとしたように眼光鋭い眼差しを俺に向けた。
「父親をバカ呼ばわりするとは何事か! こう見えても父さんは若い頃は異世界に転移する夢を持っていた! 戦国時代に転移出来るなら、自衛官に転職してもいいと思っていた!」
「…………」
厳格でマジメだと思っていた父さんが、こんなにもバカな人間だったと、俺は大学一年のこの歳になって初めて知ることになるとは……。
「うえ? あ……なんだ!?」
開けっ放しの玄関ドアが空気を吸いはじめ、俺はそれに吸い込まれるように、ジリジリと玄関の外に引きずり出されはじめた。
異世界が焦れて、俺を吸い込みにかかっているのか!?
「なっ! ちょ、ちょっと待って!」
「行くが良い、息子よ!」
父さんは腕組みし、感動の涙を流しながら頷いていた。
「バカなことを言ってないで助けてよ!」
吸引力の変わらないただひとつのナニかみたいに、凄い力で玄関は俺を異世界に引き込もうとしている。俺は必死で入口の縁に両手をかけて吸い出されるのを拒否しているけど、吸引力は一向に衰えないどころかますます強くなっていく!
おまけにこの吸引力は、俺にしか効いてない!
父さんは涼しい顔をして、必死に玄関にしがみつく俺を見ていた。
「父は万感の思いを胸にお前を見送ろう! さらば息子よ! 異世界転移に憧れていた私に代わって、その世界を満喫するがいい!」
そう言うが早いか、父さんは玄関の縁にかけた俺の指を引き剥がしにかかってきやがった!
「なにすんだこのバカオヤジ!」
「往生際が悪いぞ息子よ!」
「あっちに行ったら帰ってこられなくなるかもしれないだろ!」
「安心しろ。こういうこともあろうかと、おまえには多額の生命保険を掛けてある。父さんたちの老後の心配をする必要はない! むしろ、おまえがいなくなった方が、老後の蓄えが増えるというものだ!」
「クソオヤジ! 死んだら化けて出てやるぞ!」
「息子よ。この後に及んで非科学的なことを言うな」
「異世界なんて、非科学の極みじゃないか!」
俺の反論に、父さんはおまえはなにを言うんだ? というものすごくガッカリした表情を見せた。
「並行世界が存在することは、もはや科学の常識であろう? だからこそ、巷にはたくさんの異世界転生・転移の小説があふれかえっているのではないか」
は、話にならない!
完全に頭が沸いてるじゃねえか!
そんな玄関での俺と父さんのやりとりに気づいたのか、母さんが慌てた様子で駆けつけてきた。
父さんに頼れないのなら、ここは母さんに救いを求めるしかない。
「母さん助けて!」
「史人! これを持って行きなさい!」
そう言って母さんは、俺が高校時代に使っていた青いナイロンバックを投げつけてきた。
ゲイン!
派手な擬音と共にバッグは俺の顔を直撃し、その衝撃で俺は玄関の縁から手を離した。
「うわあああああああああああっ!」
悲鳴を上げて吸い出される俺に、母さんはニッコリと微笑んで手を振った。
「達者で暮すのですよ! おまえはドコに行ってもちゃんとしていると母は信じてますからね!」
「はっはっは! 息子よ、私たちのことはなにも心配するな! おまえなき後、新婚時代を思い出して夫婦水入らずの生活を送るとしよう!」
「バカ両親、しねええええええええええええっ!」
俺が完全に異世界の森に吸い出され、その地面に転がった瞬間、バカな両親の姿と共に、玄関と思しき四角い空間も消えてしまった……。
「バカじゃねえの! なんなんだよ……これ……」
こうして俺――須田史人すは、異世界に文字通り投げ込まれることとなった。
いや、玄関のドアを開けた瞬間、そこには見たこともない森が広がっているんだから、そこは異世界ってもんでしょ? 今どきの若者なら誰だって知ってる。
将来は安定した生活を送れる公務員を目指す俺の行動は、こういう時は無言でドアを閉める事に決めている。
あんな異世界冒険ものなんてのは、物語で楽しむからいいんであって、当事者になってみたら大変な目に合うに決まっている。
伸るか反るかの賭けに出るような性格なら、安定した公務員なんて目指さないよ。
で、深呼吸をする。
ええと……余裕を持って4回くらい。
もう一度、ドアを開けてみる。
やっぱり森が広がっていた。
ヤバイ……これはかなりしつこい異世界に違いない。
さて、どうしよう。
「いったい玄関でなにをしている?」
「うわぉう! と、父さん!」
玄関の異変に夢中になっていたせいか、背後に父さんが来ている事に俺は気づけなかった。
「さっさと行かないと遅刻するぞ」
いや、このままドアを開けて出て行っちゃったら、遅刻するもなにも存在がなくなっちゃうんだけどさ。
俺がモタモタしている事に気づいた父さんは、さらになにをしている? というようにギロリと睨んできた。
霞ヶ関のどっかの庁舎で国家公務員をしている父。
四角いメガネにキッチリとしめたネクタイ。ビシッと決めたスーツ姿。いかにも官僚って感じの父親で、声は声優の大塚●夫氏そっくり。厳格な父親像を地でいくような人だった。
「いや、なんていうか……玄関ドアが変なんだけど……」
「ドアが変? どれ、どいてみなさい」
言うが早いか、革靴を履いた父さんは、俺に代わって玄関ドアを開けた。そこにはいつもの住宅街の光景が広がっていた。
やったラッキーこれで学校に行ける! そう思うが早いか、父さんは玄関ドアを閉めた。
「どこもおかしくないぞ? 開けてみなさい」
「え? ああ……はい……」
促されるままに俺は玄関ドアを開いた。
すると、そこには森が広がっていた。
やっぱり……このドア変だ。
「ダメだよ父さん。なんていうか……俺には変な場所に繋がっているように見えるんだけど……」
父は眼鏡をキラーンと光らせて怪訝そうな表情を見せた。
「なにを言う? 私にはいつもの家の前にしか見えないぞ」
「はいい?」
どう見ても俺の目には、薄暗い針葉樹の森が広がっている光景しか見えない。だけど、父さんの目には普通の家の前に見えるらしい。
ということは、俺だけが見ている幻覚?
ちょっと待って! 公務員を目指す俺に死角はない。薬物なんかやってないし、幻覚を見るような怪しい修行とかもしていない!
「いやいやいやいや。おかしい。父さん、俺の目には森が見える。ち、ちなみに変な薬もなにもやってないからね!」
父さんはまた眼鏡をキラーンと光らせてから俺のことをギロリと睨み、そして玄関の外に目を向けた。そしてまた俺に目を向ける。
きっつい眼差し……。
くっ……ふざけるなと怒られるのか?
「私には普通に見えて、おまえには普通に見えない……」
予想外に、父さんは怒ってこない。ハテ……?
「そ、そういうこと……」
カクカク頷いた俺に、父さんは納得したというように頷いた。
「わかった……。つまりアレだ。おまえは異世界に行ける機会を得たということだ!」
…………?
今、脳味噌からウジが湧くような台詞を聞いた気がしたんだけど、気のせいか?
「は、はいいいいいっ!?」
「何度も言わせるな。おまえは異世界に行ける機会を得たということだ」
お堅い国家公務員勤続25年以上の父親の口から、異世界に行けるとかいう変な言葉を聞くとは思いもしなかった。
「選ばれた以上、おまえは行くしかない!」
まして、こんなバカな台詞まで聞くとは夢にも思わなかった。
「バカなの?」
思わず声に出していた。
すると父さんはムッとしたように眼光鋭い眼差しを俺に向けた。
「父親をバカ呼ばわりするとは何事か! こう見えても父さんは若い頃は異世界に転移する夢を持っていた! 戦国時代に転移出来るなら、自衛官に転職してもいいと思っていた!」
「…………」
厳格でマジメだと思っていた父さんが、こんなにもバカな人間だったと、俺は大学一年のこの歳になって初めて知ることになるとは……。
「うえ? あ……なんだ!?」
開けっ放しの玄関ドアが空気を吸いはじめ、俺はそれに吸い込まれるように、ジリジリと玄関の外に引きずり出されはじめた。
異世界が焦れて、俺を吸い込みにかかっているのか!?
「なっ! ちょ、ちょっと待って!」
「行くが良い、息子よ!」
父さんは腕組みし、感動の涙を流しながら頷いていた。
「バカなことを言ってないで助けてよ!」
吸引力の変わらないただひとつのナニかみたいに、凄い力で玄関は俺を異世界に引き込もうとしている。俺は必死で入口の縁に両手をかけて吸い出されるのを拒否しているけど、吸引力は一向に衰えないどころかますます強くなっていく!
おまけにこの吸引力は、俺にしか効いてない!
父さんは涼しい顔をして、必死に玄関にしがみつく俺を見ていた。
「父は万感の思いを胸にお前を見送ろう! さらば息子よ! 異世界転移に憧れていた私に代わって、その世界を満喫するがいい!」
そう言うが早いか、父さんは玄関の縁にかけた俺の指を引き剥がしにかかってきやがった!
「なにすんだこのバカオヤジ!」
「往生際が悪いぞ息子よ!」
「あっちに行ったら帰ってこられなくなるかもしれないだろ!」
「安心しろ。こういうこともあろうかと、おまえには多額の生命保険を掛けてある。父さんたちの老後の心配をする必要はない! むしろ、おまえがいなくなった方が、老後の蓄えが増えるというものだ!」
「クソオヤジ! 死んだら化けて出てやるぞ!」
「息子よ。この後に及んで非科学的なことを言うな」
「異世界なんて、非科学の極みじゃないか!」
俺の反論に、父さんはおまえはなにを言うんだ? というものすごくガッカリした表情を見せた。
「並行世界が存在することは、もはや科学の常識であろう? だからこそ、巷にはたくさんの異世界転生・転移の小説があふれかえっているのではないか」
は、話にならない!
完全に頭が沸いてるじゃねえか!
そんな玄関での俺と父さんのやりとりに気づいたのか、母さんが慌てた様子で駆けつけてきた。
父さんに頼れないのなら、ここは母さんに救いを求めるしかない。
「母さん助けて!」
「史人! これを持って行きなさい!」
そう言って母さんは、俺が高校時代に使っていた青いナイロンバックを投げつけてきた。
ゲイン!
派手な擬音と共にバッグは俺の顔を直撃し、その衝撃で俺は玄関の縁から手を離した。
「うわあああああああああああっ!」
悲鳴を上げて吸い出される俺に、母さんはニッコリと微笑んで手を振った。
「達者で暮すのですよ! おまえはドコに行ってもちゃんとしていると母は信じてますからね!」
「はっはっは! 息子よ、私たちのことはなにも心配するな! おまえなき後、新婚時代を思い出して夫婦水入らずの生活を送るとしよう!」
「バカ両親、しねええええええええええええっ!」
俺が完全に異世界の森に吸い出され、その地面に転がった瞬間、バカな両親の姿と共に、玄関と思しき四角い空間も消えてしまった……。
「バカじゃねえの! なんなんだよ……これ……」
こうして俺――須田史人すは、異世界に文字通り投げ込まれることとなった。
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