なんと平和な(非)日常 ~せっかく異世界転生したのに何もやることがない件~
魅惑のベッドルーム
「え、え? あれぇ?」
自分の目で見た光景が信じられず、ふらふらと中に足を踏み入れて部屋をぐるりと見渡す。目の前に広がるその部屋は、宝と思われるようなものは一切なく、では何があるのかと言われれば大きなベッドがあるだけの、寝室と思われる内装をしていた。
ここが……宝物庫? 魔王様曰く『無いものを探す方が難しい』宝物庫なのか? 金銀財宝どころか、価値のありそうなものなんてなさそうだけど。あるとすればこの、きれいに整えられた高級そうなキングサイズのベッドくらいで――
「がぁ!? グッ――ィ!?」
突然身体中を駆け巡った激痛に、堪らずベッドに倒れこむ。この力が根こそぎ抜けていく感覚、もはや慣れ親しんだともいえるこの感じは――ッ!
「う、ぐぅっ……さ、サリエル、ちゃん……?」
「う、ふふ、ふふふ……」
力を振り絞って顔を上げると、妖しげな笑みをその可愛い顔に浮かべた黒サリエルちゃんが、俺のすぐそばに立っていた。
ど、どうして……サリエルちゃん? 何で死の力を? いや、そもそもどうして……
「くふ、ダメですよぉサンゴさん。動けないふりなんかして。加減したんだから、喋ることくらい出来るはずですよぉ? ボクに聞きたいことがあるんじゃないですかぁ?」
黒サリエルちゃんの言う通り、痛みはあるが気を失うほどではない。俺の身体が死の力になれてきたからだと思ったけど、そうか、加減なんてできるんだ、黒サリエルちゃん。
「どう、して……ここが、宝物庫だな、んて、嘘を?」
「くふ、くふ、やだなぁ、違いますよ? サンゴさん。ボク、別に嘘なんか言ってないですよぉ? ボクはただ、ここが目的の部屋だって言っただけですぅ」
ああ……うん……そう、だっけ? ダメだ、頭が上手く回らない。もやがかかったみたいにぼんやりして、気を抜いたら眠ってしまいそうで……く、しゃんと意識を覚醒させなければぁァァ――ッ!? ちょ、ちょっとサリエルちゃん!?
「どうしたんですかぁ? そんなに驚いた顔して」
「さ、サリ、サリエルちゃぁん!? ちょちょ、そんな、う、うま、うまうまうま!?」
「はぁい? お馬さんがどうかしましたかぁ? ふふ」
ベッドに寝転ぶ俺の上に、覆いかぶさるように馬乗りになるサリエルちゃん。
うぉぉ意識が覚醒したぁ! 眠気なんかどっかに吹き飛んだよ! ああっくそ! うまく身体が動かないのがもどかしい!
「だ、ダメだサリエルちゃん! こんなところ誰かに見られたら俺は捕まってしまう!」
「そうならないためにぃ、エリさんと白いのを別行動にさせたんですよぉ? 安心してくださいサンゴさん。邪魔は入りませんからぁ」
「じゃ、邪魔って!?」
サリエルちゃんはいったい何をしようっていうんだ!? ナニをしようっていうんだ!?
お、落ち着け俺! そうだこんな時は素数を数えるのがいいって聞いたぞ! よしそれじゃえっと、アインスツヴァイドライフィーアフンフ……えーとシックスセブンエイト!
……なんか違う気がする。
「ねーえ? サンゴさん?」
「は、はひ」
「くふ、ああそんなに怖がらないでくださいよぉ。サンゴさんは嫌ですか? ボクと一緒に気持ちよくなるのは」
「き、気持ちよくッ!?」
こ、これはつまりアレってことだよな!? 何ってつまりナニをするってことだよな!?
「サンゴさんも嬉しいですよね? ボクのこと、可愛いって言ってくれたんですし。ええそうです。サンゴさんが望むことと、ボクが望むことをしましょう?」
こ……これが逆レ○プってやつかッ!! まさか『悪魔サリエル』の正体がサキュバスだったなんて! あ、ああー身体に力が入らなくて抵抗できないなー、さすが死の力だなーこのままじゃされるがままだなー、それならしょうがないなー。
「さ、サリエルちゃん、本気かい?」
「くふ、えへへ、はい、もちろんですぅ。最初に分裂して出てきたときからぁ、ずっと我慢したんですけどぉ……もう限界ですぅ」
ふっ……なるほど、委細承知。まさか女の子をずっとやきもきさせていたとは、俺はなんて罪な奴だ。わかったぜ、俺も男だサリエルちゃん。ぜひ好きなようにしてくれ。
「あふ、嬉しいですサンゴさん。受け入れてくれるんですね? まったく、白いの(ボク)と来たら、種族は悪魔のくせに性質のほとんどが天使のせいで、全然悪魔らしいことしないんですもん。そのせいで悪魔(ボク)はずっと心の奥底に眠らされたままですし、やっと自由になれたと思ったら、サンゴさんはすぐに治療するなんて言い出しますしぃ」
「……サリエルちゃん?」
あれ、なんか様子がおかしいような。赤い瞳に妖しい光が宿ってるような。
「はい、ボクも聞き分けはいい子なので、また一つ(ボク)に戻るのは我慢しましょう。でもその前に、ボクのしたいこともしていいですよねぇ?」
「あのぅ……サリエルちゃん?」
「くひ、知ってますよぉサンゴさん。五回も死んで生き返ってるんですよね? くひ、くふふ、ああ! それならその魂はどれだけ濃厚になっているのでしょうか! 眩暈がするほどに濃く、とろけるほどに甘美で、痺れるほどに純度が高い魂! サンゴさんっ! ぜひ! ぜひその魂をボクに食べさせてください!」【興奮――既定値超過】
「アガガガッ! うげぇ……あっれぇ!? サリエルちゃん!?」
魂をお食べになるんですの!? え、そんな話だったっけコレって!? 俺とサリエルちゃんがナニをアレする話じゃなかったの!? いつの間にそんなカニバルな話に!?
「お、おち、落ち着こうサリエルちゃん! そうだ素数を数えるんだ! ほらアインスツヴァイドラーイ!」
「もうサンゴさんったらぁ、恥ずかしがっちゃってぇ」
「照れ隠しじゃないよ!?」
あ、あああッ! 身体に力が入らなくて抵抗できないぃ! くぅっ! さすが死の力だなぁ! このままじゃされるがままだ!
「さ、サリエルちゃん本気かいっ!?」
「もちろんです! 大丈夫安心してくださいサンゴさん! サンゴさんが天井の染みを数えている間に終わりますからぁ!」
「終わるって何が終わるの!? 行為!? それとも俺の人生か!? うわあちょっとタンマタンマ! ま、まだ心の準備が!」
「くふふ、ではサンゴさん、いただきまぁす」
大きく口を開けたサリエルちゃんの顔が迫って来る。抵抗しようとしても、力の入らない身体ではもぞもぞと動くのが精いっぱいであり、俺の脳は視界いっぱいに広がるサリエルちゃんの顔を見て、ああ血色のいいきれいな舌だなぁともう諦めモードに入っていた。
あぁ……これで六度目の死か……まあ相手がサリエルちゃんならそれも悪くない――
「「――待ったぁぁああああ!!」」
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