なんと平和な(非)日常 ~せっかく異世界転生したのに何もやることがない件~

からぶり

悪魔サリエル


 俺の死因……というか、犯人? は神様が言うにはサリエルちゃんらしい。

 確かにあの写真にサリエルちゃんは映っていたし、現実でも俺とサリエルちゃんの周りにはほとんど人はいなかった。少なくとも、俺を殺せるほど近くに誰かがいたなんてことはない。
 これだけ聞くと、俺が死んだ原因はサリエルちゃんだと推理できてしまうのだろうが、俺からしてみれば、残念ながらそれは素人の考えだと言うほかない。
 なかなか面白い妄想だ、君は推理小説家になったほうがいい、という言葉もセットで送ろう。

 だって考えてみて欲しい。サリエルちゃんはこの世で最も『犯人』という単語から遠い存在じゃないか。

 身体を構築する物質の九割ぐらいが優しさで出来てそうなサリエルちゃんだぞ? あの『頭痛にバ○ァリン』でおなじみの薬ですら半分しか優しさで出来てないのに、それ以上だぞ?

 目の前のコンチクショウよりもよっぽど神様らしい女の子が、誰かを殺すなんてできるわけがないじゃないか!

「――というわけです……L・E・D、照明終了」

「LED(発光ダイオード)じゃなくてQ.E.D.です。照明じゃなくて証明です」

 ……さすが神様。人の揚げ足を取るのが上手だ。

「それより、俺が死んだのがサリエルちゃんのせいってのはどういう意味ですか? さすがに信じられないんですけど。サリエルちゃんが悪いことするわけないじゃないですか(サリエルちゃんに殺されるなら本望かもしれない)」

「本音が漏れてますよ」

「今のなし。でもあのサリエルちゃんですよ? 詳細な説明を要求します」

「……そうですね、先に言っておきますと、サリエルちゃんが原因だという意味では『サリエルちゃんのせい』というのも正しいです。ですが、決してあの子はあなたを殺そうとか悪意を抱いていたわけではありません。まあこれは言うまでもなくサンゴにはわかっていそうなことですが」

「そりゃもちろん」

 サリエルちゃんが誰かを殺そうとか、それどころか誰かに悪意を抱くことなど、神様が俺に優しくなるくらいありえないことだ。それくらい俺はサリエルちゃんが優しいことを知っていて、信頼していて、ついでに神様を信用していない。

「実はサリエルちゃんは特殊な能力を持っているのですよ。能力というより、種族由来の体質、と言った方が正確でしょうか」

「種族の体質……? あの、そもそもサリエルちゃんの種族ってなんですか? 魔王様の血縁だから人間じゃないのはなんとなくわかるんですけど」

「あら、意外ですね。サリエルちゃんが人間種じゃないことに気が付いていたのですか」

「いやまあ、なんとなくですげど。ちなみに魔王様の種族は?」

「オーダさんは鬼です」

 なんかすごい納得。

「それじゃあサリエルちゃんも鬼ですか? そうは見えなかったですけど」

 サリエルちゃんはたぶんあれだ。天使だ。

「いえ、鬼ではないですよ。ちなみに天使でもないです。むしろ逆です。ですが……まあなんというか、その勘の良さは正直気持ち悪いというか」

 勝手に人の心を読んで罵倒するのはやめてほしい。というか逆ってどういう意味だろうか。天使の逆?

 そんな俺の疑問に答えるように神様は口を開く。

「サリエルちゃんは天使ではなく、悪魔です」

「あくま」

「悪魔です」

 うーん、にわかには信じがたい。あのサリエルちゃんが悪魔ねぇ……。

「もちろん種族が悪魔なだけで、言うまでもなくサリエルちゃんは悪い子ではなくいい子です。ただ、悪魔という種族は悪魔ゆえの悪魔的体質を宿すことが特徴でして。特に負の側面の体質を」

 神様はそこで言葉を区切り、どこからか取り出した少し古ぼけた一冊の分厚い本をこちらに差し出してきた。どうやら古い図鑑のようで、開かれたページには大量の文字と共に一つの絵が描かれている。

「この本はサンゴの世界から持ってきたものです。そして、ここに描かれている天使の名前は『サリエル』」

「……同じ名前ですね。でも天使? 悪魔じゃなくて?」

「サリエルちゃんは悪魔の種族。一方『サリエル』は天使です。堕天使であるという言い伝えもありますが。まあ肝心なのはそこではありません。サリエルちゃんの種族は悪魔であり、天使『サリエル』と同じ名前だということだけ理解してください」

「は、はあ」

「名前が同じことは偶然ですが、しかし、同じ名前であるからこそ、サリエルちゃんとこの『サリエル』が同一人物であるのは必然とも言えます。ドラゴンやバジリスクなどの伝説や空想上の生物とは違い、神や悪魔は『生物』ではなく『概念』であり、たとえ世界が違っても、存在が複数あろうとも、それらを象徴する言い伝えは共通であって――」

「神様ストップ! 難しくて全然わからない!」

「ああ、気にしなくても後半の方は適当に言ってるので大丈夫ですよ」

「必死に理解しようとしてた俺がバカみたいじゃねぇか!」

 返せ! 俺の努力を返せ!

「サリエルちゃんは『サリエル』という天使……いえ、悪魔であると理解してればそれで十分です。そして肝心なのが、悪魔『サリエル』はどのような悪魔なのか、ということ」

「じゃあ早くそれを教えてくださいよ。サリエルちゃん――いや『サリエル』はどんな悪魔なんですか?」

 こう、サキュバス的なのだと大変うれしいのだが。

「天使『サリエル』を内包した悪魔『サリエルちゃん』はずばり――」

「ず、ずばり?」

「――死を司る悪魔です」

「なん……だと……!?」

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