なんと平和な(非)日常 ~せっかく異世界転生したのに何もやることがない件~
白泥沼
「う、おおおおおおっ!?」
「いきゃあああああっ!?」
ドラゴンに追われていた時よりも必死な叫びが二つ響く。
洞窟から飛び出したはいいが、出口の外には地面がなく、俺と小林の身体は宙に放り出されることになった。
「「――ぐべぇっ!!」」
幸いにも高さはそれほどでもなかったようで、いわゆる最悪の事態になることなく地面に衝突する。やわらかい土とたくさんの落ち葉がクッションの代わりとなったのも、無事に着地できた一因だろう。押しつぶされたような声を出しながらのあまりに不格好な不時着だったが、この際贅沢など言えないだろう。かっこよさよりも無事である方が大事だ。
「ヴェェ……ちょっとサンゴ……重い……」
「おっとすまん」
着地の際、小林を下敷きにしてしまったようで、そんな苦しそうな声が下から聞こえてくる。どうやら小林も無事のようだ。
「さ、散々な目に会ったわね……ドラゴンに追いかけられたり高いところから落ちたり」
落下の衝撃で壊れたのだろう、ばらばらになり乗り物としての役割を果たせなくなったソリモドキの残骸に腰かけながら、小林は愚痴をこぼす。
「ドラゴンに関しては自業自得な感じもするけどな。まあお互い無事なようで何よりだ。特に目立った傷もないし――つっ」
「さ、サンゴそれ! 腕っ腕っ!」
ふいに走った痛みに顔をしかめると、俺の腕を見て小林が慌てて駆け寄って来る。
見れば俺の腕には一本の赤い筋が刻まれ、そこから血が流れていた。落ちてるときにどこかに引っかかったのだろう。
「怪我してるじゃないの! だだだ大丈夫なのそれ!? 血でてるわよ!?」
「まあ、あそこから落ちたのにむしろこの程度で済んでよかったというべきだろ。それに意外とあんまり痛くないし……あ、嘘、意識したら痛くなってきた。じんじんする」
「さ、サンゴしっかりしなさい死んじゃだめよ!」
「この程度で死ぬか!」
まったく、小林は俺をどれだけひ弱な存在だと思っているのだ。これでも三回も死を経験している(そのうち二回の犯人は神様)男だぞ? そう簡単に『サンゴ、三度死ぬ』から『サンゴ、四度死ぬ』の称号を得てたまるか。
「でも、傷を放置するとそこから細菌が入り込こみ、手足がしびれたり口が開けにくくなる神経症状を引き起こしたり、破傷風になったり、放置すると重篤な状態になって最悪の場合は死に至るわよ!」
「怖いこと言うなよ!?」
なんでそんなに詳しいんだよ! おかげですごい恐怖が!
「ま、でもサンゴが平気っていうなら大丈夫ね」
「ここにきて急に俺を信頼するな! 心配して! もっと俺を手厚く扱って!」
だ、大丈夫だよな? そんな簡単に細菌が入り込んだりしないよな?
「でも治療するにも道具なんてないし」
「冒険に行くならそれぐらい用意しとけよ……はぁ、急いで街に戻るしかないか」
「まあいざとなったら神様が何とかしてくれるわよ! きっと!」
「うわぁすごいあてにならない」
あの神様が俺のために何かしてくれる光景など思い浮かばない。魔王様なら何とかしてくれるだろうか。
「問題はどうやって街に戻るかだ。小林、このあたりの道には心当たりないのか?」
「あるわよ」
「だよなぁ……そんな簡単に行くわけ……え? 今なんて言ったの?」
「だから、心当たりあるって」
「本当か!? 嘘だったら承知しないぞ!?」
「仮に嘘だったら何をするつもりなのよ……はっ! まさかアンタ、サリエルにしたみたいに、私にいじわるするつもりね!」
「サリエルちゃんに何かした覚えはねぇよ!」
あんないい子にいじわるなんかできるか。罪悪感で押しつぶされるわ。
「そんなことより、本当に街に戻れるんだろうな?」
「もちろんよ。どうもあの洞窟を挟んで、一本行く道を間違えてたみたいね。ここら辺の景色には見覚えがあるわ」
なるほど、進む方向はあっていたけど少し横に逸れてしまっていたわけか。正直俺にはさっきまでの景色も今の景色も同じに森の景色しか見えないが、小林にはわかるらしい。
「ところで、分かっているとは思うが、冒険は中止だからな? あんまり遅くなったらお前の親だって心配するだろ」
「わかってるわよ、さすがの私もそこまでわがままじゃないわ。あっそうだ! 街に戻る前に少し寄り道するわよ! 大丈夫、街に戻る途中にあるから」
「寄り道なんかするか! この怪我を見ろ! 時は一刻を争うぞ!」
一秒でも早く街に戻って治療したいというのに小林は何を言っているんだ。
「だから、よ! 喜びなさいサンゴ! まずはその怪我を治してあげるわ!」
「んん? 治療は出来ないんじゃなかったのか?」
「道具なんかなくても、この近くには天然の治療薬があるのよ。ふっふっふ、これ以上は実際に見てからのお楽しみよ」
もったいぶって大事なところを秘密にした小林は、先導するように俺の前を歩きだす。
「さぁいざ出発よ! 『白泥沼(はくでいぬま)』へ!」
「いきゃあああああっ!?」
ドラゴンに追われていた時よりも必死な叫びが二つ響く。
洞窟から飛び出したはいいが、出口の外には地面がなく、俺と小林の身体は宙に放り出されることになった。
「「――ぐべぇっ!!」」
幸いにも高さはそれほどでもなかったようで、いわゆる最悪の事態になることなく地面に衝突する。やわらかい土とたくさんの落ち葉がクッションの代わりとなったのも、無事に着地できた一因だろう。押しつぶされたような声を出しながらのあまりに不格好な不時着だったが、この際贅沢など言えないだろう。かっこよさよりも無事である方が大事だ。
「ヴェェ……ちょっとサンゴ……重い……」
「おっとすまん」
着地の際、小林を下敷きにしてしまったようで、そんな苦しそうな声が下から聞こえてくる。どうやら小林も無事のようだ。
「さ、散々な目に会ったわね……ドラゴンに追いかけられたり高いところから落ちたり」
落下の衝撃で壊れたのだろう、ばらばらになり乗り物としての役割を果たせなくなったソリモドキの残骸に腰かけながら、小林は愚痴をこぼす。
「ドラゴンに関しては自業自得な感じもするけどな。まあお互い無事なようで何よりだ。特に目立った傷もないし――つっ」
「さ、サンゴそれ! 腕っ腕っ!」
ふいに走った痛みに顔をしかめると、俺の腕を見て小林が慌てて駆け寄って来る。
見れば俺の腕には一本の赤い筋が刻まれ、そこから血が流れていた。落ちてるときにどこかに引っかかったのだろう。
「怪我してるじゃないの! だだだ大丈夫なのそれ!? 血でてるわよ!?」
「まあ、あそこから落ちたのにむしろこの程度で済んでよかったというべきだろ。それに意外とあんまり痛くないし……あ、嘘、意識したら痛くなってきた。じんじんする」
「さ、サンゴしっかりしなさい死んじゃだめよ!」
「この程度で死ぬか!」
まったく、小林は俺をどれだけひ弱な存在だと思っているのだ。これでも三回も死を経験している(そのうち二回の犯人は神様)男だぞ? そう簡単に『サンゴ、三度死ぬ』から『サンゴ、四度死ぬ』の称号を得てたまるか。
「でも、傷を放置するとそこから細菌が入り込こみ、手足がしびれたり口が開けにくくなる神経症状を引き起こしたり、破傷風になったり、放置すると重篤な状態になって最悪の場合は死に至るわよ!」
「怖いこと言うなよ!?」
なんでそんなに詳しいんだよ! おかげですごい恐怖が!
「ま、でもサンゴが平気っていうなら大丈夫ね」
「ここにきて急に俺を信頼するな! 心配して! もっと俺を手厚く扱って!」
だ、大丈夫だよな? そんな簡単に細菌が入り込んだりしないよな?
「でも治療するにも道具なんてないし」
「冒険に行くならそれぐらい用意しとけよ……はぁ、急いで街に戻るしかないか」
「まあいざとなったら神様が何とかしてくれるわよ! きっと!」
「うわぁすごいあてにならない」
あの神様が俺のために何かしてくれる光景など思い浮かばない。魔王様なら何とかしてくれるだろうか。
「問題はどうやって街に戻るかだ。小林、このあたりの道には心当たりないのか?」
「あるわよ」
「だよなぁ……そんな簡単に行くわけ……え? 今なんて言ったの?」
「だから、心当たりあるって」
「本当か!? 嘘だったら承知しないぞ!?」
「仮に嘘だったら何をするつもりなのよ……はっ! まさかアンタ、サリエルにしたみたいに、私にいじわるするつもりね!」
「サリエルちゃんに何かした覚えはねぇよ!」
あんないい子にいじわるなんかできるか。罪悪感で押しつぶされるわ。
「そんなことより、本当に街に戻れるんだろうな?」
「もちろんよ。どうもあの洞窟を挟んで、一本行く道を間違えてたみたいね。ここら辺の景色には見覚えがあるわ」
なるほど、進む方向はあっていたけど少し横に逸れてしまっていたわけか。正直俺にはさっきまでの景色も今の景色も同じに森の景色しか見えないが、小林にはわかるらしい。
「ところで、分かっているとは思うが、冒険は中止だからな? あんまり遅くなったらお前の親だって心配するだろ」
「わかってるわよ、さすがの私もそこまでわがままじゃないわ。あっそうだ! 街に戻る前に少し寄り道するわよ! 大丈夫、街に戻る途中にあるから」
「寄り道なんかするか! この怪我を見ろ! 時は一刻を争うぞ!」
一秒でも早く街に戻って治療したいというのに小林は何を言っているんだ。
「だから、よ! 喜びなさいサンゴ! まずはその怪我を治してあげるわ!」
「んん? 治療は出来ないんじゃなかったのか?」
「道具なんかなくても、この近くには天然の治療薬があるのよ。ふっふっふ、これ以上は実際に見てからのお楽しみよ」
もったいぶって大事なところを秘密にした小林は、先導するように俺の前を歩きだす。
「さぁいざ出発よ! 『白泥沼(はくでいぬま)』へ!」
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