なんと平和な(非)日常 ~せっかく異世界転生したのに何もやることがない件~
ああっ、身体が勝手に!
「さぁサンゴ! どんどん行きなさい!」
「はいはい…………はぁ」
ご機嫌な小林の声を背中にうけながら、気分的にも物理的にも重い足取りで前に進む。
というのも、例の言うことを聞かせる魔道具により、小林の乗っている木製のソリのような乗り物を引かされているのだ。誰か変わって。
そんなソリもどきに乗っている小林はといえば、憧れの冒険ができているためかご機嫌の様子。時折控えめながら鼻歌が聞こえてくる。
「ところで小林」
「ん? なぁにサンゴ? あっ見てあそこ! リス!」
小林の指さした方へ目を向けると、確かにリスがいた。木の枝でくつろいでいたリスは小林の声にびっくりしたのか、素早く幹に空いている穴に入り込む。
……いやそんなことはどうでもいいんだよ。
「なぁ小林」
「あっ! あそこにリス!」
小林が指さした方へ目を向けると、確かにリスがいた。
……だからどうでもいいんだって。
「おい小林」
「あっ! あっちにもリス!」
「小林ィ!!」
確かに小林の指さした方にはリスがいた。
リスはもういいんだって! どんだけいんだよリス! もういいよリス!
「もう、だから何よサンゴ。さっきからうるさいわね」
「何でそこまで言われなきゃならないんだ! ――ごほん、まあいい。それはいったんおいておこう。後でじっくり話し合おう」
「えー。めんどくさいわ」
そんな一言で片づけられると悲しい。
「とにかくだ! 俺は言いたいことがある!」
足を止めて振り返り、ビシッと指を突きつける。
指をさされた小林はこてんと首を傾げ、
「……?」
「おいお前まで振り返るな」
別に指さした方にリスがいるわけじゃない。こっち見ろこっち、お前に言ってんだよ。
「いいか小林。そもそも俺達はどうしてこんな森の中を歩いてるか言ってみろ」
「いまさら何言ってるのよサンゴ。冒険するために決まってるでしょ」
「そうだな。それはもういいんだ。拉致同然に無理やり連れてこられたことはこの際目をつむろう。安全が保障される限り冒険だって付き合おう。理不尽な魔道具で体の自由を奪われることも特別に許してやろう。それに伴いお前のわがままもある程度は許容しよう。そのうえで聞くが小林。…………………………………………ここはどこだ」
小林は顎に手を当て、深く考え込む。
俺達二人の間に、静寂な時が訪れる。聞こえてくるそよ風と木々の揺れる音が、その静かさをより強調させる。一分ほどたち、ゆっくりと考えに耽っていた小林は、顔を上げると爽やかな笑顔でこう言った。
「わかんないっ」
たぶん今ならこいつを殴っても許されると思う。
「お前ふざけんなよ!? 迷子になっちゃったじゃんか!」
「で、でも、こんな人気のないところまで連れてきたのはサンゴじゃない!」
「人聞きの悪いこと言うな! お前が『止まらずに行きなさい!』なんて魔道具で命令したんだろうが!」
そんな命令を受けてしまった俺は、自分の意思とは関係なく走り出し、右へ左へと方向転換を交えながら森の奥へと進んでしまったのだ。
「行き過ぎなのよ! 加減ってものを知らないの!?」
「人の体を操ってんだから『止まれ』の指示くらい出せよ! 途中で行き過ぎたのに気付いて『あ、やべっ』って言ってたこと知ってるんだからな!」
「そそそんなこと言ってないわよ!」
ツインテールをぶんぶんさせながら慌てて否定してくるが、その反応だと自覚あるって言ってるようなもんだぞ。
「あーもうこれだから来たくなかったんだよなんだよ冒険って女の子が憧れるものでもないだろそもそもこの世界で勇者になりたいってことは少なからず魔王様を討伐したいって言ってるようなものでそれってもう不敬罪だろあんだけ格好つけて出発した結果が迷子ってもう恥ずかしくて街を歩けないその前に絶対に神様にバカにされる……」
「だぁあもう! ごちゃごちゃうるさいわね! 男なら細かいこと気にしないでもっと堂々としなさいよ! 私がついてるんだし安心でしょ!」
「お前がいるから余計に不安だ」
「にゃんですって!」
顔を赤くして牙をむく小林。まあ牙と言っても、実際には八重歯がちらりと覗くだけだから怖くもないのだけれど。
「なあ、本当にここがどこかわからないのか? せめてどの方向に街があるかくらいは見当がついてほしいんだが」
「うーん、そうね……太陽の位置的にこのまままっすぐでいいと思うんだけど……」
「なんだよはっきりしないな」
「適当に棒でも投げて、倒れた方角に進んでみる?」
「オーケーもう少し話し合おうか」
運試しで決めていい状況ではない。
「話し合いなんて必要ないわ! サンゴったら心配性ね! わからないことはわからないんだから、いつまでもうだうだ考えるなんて無駄よ! まずはまっすぐ進む! その後のことは、その時に考えるわよ!」
「え、もう少し慎重に考えてからのほうがあッとぉ!? おい魔道具やめろ! あといい加減自分の足で歩け!」
小林の号令と共にソリもどきを引いて無理矢理進みだす。
どうやら森から抜け出すには、もうしばらく時間がかかりそうだ。
「はいはい…………はぁ」
ご機嫌な小林の声を背中にうけながら、気分的にも物理的にも重い足取りで前に進む。
というのも、例の言うことを聞かせる魔道具により、小林の乗っている木製のソリのような乗り物を引かされているのだ。誰か変わって。
そんなソリもどきに乗っている小林はといえば、憧れの冒険ができているためかご機嫌の様子。時折控えめながら鼻歌が聞こえてくる。
「ところで小林」
「ん? なぁにサンゴ? あっ見てあそこ! リス!」
小林の指さした方へ目を向けると、確かにリスがいた。木の枝でくつろいでいたリスは小林の声にびっくりしたのか、素早く幹に空いている穴に入り込む。
……いやそんなことはどうでもいいんだよ。
「なぁ小林」
「あっ! あそこにリス!」
小林が指さした方へ目を向けると、確かにリスがいた。
……だからどうでもいいんだって。
「おい小林」
「あっ! あっちにもリス!」
「小林ィ!!」
確かに小林の指さした方にはリスがいた。
リスはもういいんだって! どんだけいんだよリス! もういいよリス!
「もう、だから何よサンゴ。さっきからうるさいわね」
「何でそこまで言われなきゃならないんだ! ――ごほん、まあいい。それはいったんおいておこう。後でじっくり話し合おう」
「えー。めんどくさいわ」
そんな一言で片づけられると悲しい。
「とにかくだ! 俺は言いたいことがある!」
足を止めて振り返り、ビシッと指を突きつける。
指をさされた小林はこてんと首を傾げ、
「……?」
「おいお前まで振り返るな」
別に指さした方にリスがいるわけじゃない。こっち見ろこっち、お前に言ってんだよ。
「いいか小林。そもそも俺達はどうしてこんな森の中を歩いてるか言ってみろ」
「いまさら何言ってるのよサンゴ。冒険するために決まってるでしょ」
「そうだな。それはもういいんだ。拉致同然に無理やり連れてこられたことはこの際目をつむろう。安全が保障される限り冒険だって付き合おう。理不尽な魔道具で体の自由を奪われることも特別に許してやろう。それに伴いお前のわがままもある程度は許容しよう。そのうえで聞くが小林。…………………………………………ここはどこだ」
小林は顎に手を当て、深く考え込む。
俺達二人の間に、静寂な時が訪れる。聞こえてくるそよ風と木々の揺れる音が、その静かさをより強調させる。一分ほどたち、ゆっくりと考えに耽っていた小林は、顔を上げると爽やかな笑顔でこう言った。
「わかんないっ」
たぶん今ならこいつを殴っても許されると思う。
「お前ふざけんなよ!? 迷子になっちゃったじゃんか!」
「で、でも、こんな人気のないところまで連れてきたのはサンゴじゃない!」
「人聞きの悪いこと言うな! お前が『止まらずに行きなさい!』なんて魔道具で命令したんだろうが!」
そんな命令を受けてしまった俺は、自分の意思とは関係なく走り出し、右へ左へと方向転換を交えながら森の奥へと進んでしまったのだ。
「行き過ぎなのよ! 加減ってものを知らないの!?」
「人の体を操ってんだから『止まれ』の指示くらい出せよ! 途中で行き過ぎたのに気付いて『あ、やべっ』って言ってたこと知ってるんだからな!」
「そそそんなこと言ってないわよ!」
ツインテールをぶんぶんさせながら慌てて否定してくるが、その反応だと自覚あるって言ってるようなもんだぞ。
「あーもうこれだから来たくなかったんだよなんだよ冒険って女の子が憧れるものでもないだろそもそもこの世界で勇者になりたいってことは少なからず魔王様を討伐したいって言ってるようなものでそれってもう不敬罪だろあんだけ格好つけて出発した結果が迷子ってもう恥ずかしくて街を歩けないその前に絶対に神様にバカにされる……」
「だぁあもう! ごちゃごちゃうるさいわね! 男なら細かいこと気にしないでもっと堂々としなさいよ! 私がついてるんだし安心でしょ!」
「お前がいるから余計に不安だ」
「にゃんですって!」
顔を赤くして牙をむく小林。まあ牙と言っても、実際には八重歯がちらりと覗くだけだから怖くもないのだけれど。
「なあ、本当にここがどこかわからないのか? せめてどの方向に街があるかくらいは見当がついてほしいんだが」
「うーん、そうね……太陽の位置的にこのまままっすぐでいいと思うんだけど……」
「なんだよはっきりしないな」
「適当に棒でも投げて、倒れた方角に進んでみる?」
「オーケーもう少し話し合おうか」
運試しで決めていい状況ではない。
「話し合いなんて必要ないわ! サンゴったら心配性ね! わからないことはわからないんだから、いつまでもうだうだ考えるなんて無駄よ! まずはまっすぐ進む! その後のことは、その時に考えるわよ!」
「え、もう少し慎重に考えてからのほうがあッとぉ!? おい魔道具やめろ! あといい加減自分の足で歩け!」
小林の号令と共にソリもどきを引いて無理矢理進みだす。
どうやら森から抜け出すには、もうしばらく時間がかかりそうだ。
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