復讐の刃ーー独りになった少年が、世界を血の海に変えるまでーー

ノベルバユーザー520245

【第九話】スパイルの過去 ④

玉座の間。

赤いカーペットの先に大きな玉座が置かれたその空間で、スパイルは膝をついていた。

10位以下ではあり得ないことだが、9位以上の一桁ランキングに入ると、国権上の"役職"が付与されるため、王自ら任命する叙勲式が行われる。

今はその叙勲式の真っ最中で、スパイルは片膝をつきながら、王の御前で頭を下げて待機していた。


「スパイル・ラーチェス。面を上げよ」


名を呼ばれ、スパイルは顔を上げる。

王の横には『No.2』と『No.3』が立っていた。

一人は興味深く、一人はイラついた様子で、スパイルを見ている。

そして、

その中央ーー赤いカーペットの先にある玉座を改めて視界に入れると、そこには推定2メートルを超える巨大な椅子があった。

豪華な装飾がなされていて、王のための椅子だというくらいは分かるが、およそ人が座るための物とは思えないほどの大きさだ。

スパイルは思わず息を呑み込む。

ソレは『ルドルフ・サーライト』。

ディオラス王のためだけに作られた特注品だ。

ルドルフは身長3メートルを越える巨漢。

身長180センチを越えるスパイルが子供に見えるような体格差だ。

顔も厳つく、前にすると大概の者がすくみ上がるほどの威圧感を持っている。

見た感じは人外としか思えない出で立ちだ。

そんな男が、玉座に座ってスパイルを見下ろしていた。


「此度の件、聞き及んでいる。No.4を倒したそうだな?」

「ハッ。苦戦致しましたが、どうにか倒すことが出来ました」

「奴ほどの実力者を破るとは見事だ。それも、65位からのスピード出世とはな……。ここまでの快挙はティアル以来だ」

「……もったいないお言葉。ありがとうございます」


ティアル・サーライト。

このディオラスの皇太子にして、ルドルフの一人息子だ。

そして、

今、王の隣にいる、現在の『No.2』でもある。

つまり、『No.1』のルドルフを除けば、このディオラスでも最高の権力を持っているということだ。

もちろん、皇太子だから、という訳ではない。

ティアルは自分が5歳になった頃、当時の2位から10位までを全員集め、全員をまとめて一蹴したのだ。

全員を集められたのは皇太子が故かもしれないが、その後の結果を知ってからは誰も文句が言えなくなった。

全員をまとめて、というのは、決闘じゃない。

総力戦で、1人で全員を相手にしたのだ。

その辺りばかりは、このディオラスでも血縁が有利ということなのだろう。

ティアルは、ルドルフの強さをコレでもかというくらい受け継いで生まれてきた。

戦闘センス、固有能力、頭の良さに精神力。

どれをとってもズバ抜けて天才だった。

天災と言い替えてもいい。

生まれながらにして全てを手にしていたティアルは、その有り余る力もあって、ひどく残虐な性格と性質を持っていた。

退屈しのぎに自分を襲わせるよう誰かを唆すなど序の口。

怨みを敢えて買うよう、罪なき人間を"食い散らかす"ことも珍しくなかった。

要は頭のネジの飛んだ戦闘狂だ。

戦争中は英雄だなんだと呼ばれていたが、冷戦中で戦争の無い今は退屈で仕方がないらしい。

皇太子自ら内乱を無理に作り出し、それを暇潰し代わりにするなど、およそ皇太子のすることではなかった。

そういう意味では、シェルはまだマトモだったのかもしれない。

少なくとも、普段は皇太子として職務を全うしているのだから。

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