復讐の刃ーー独りになった少年が、世界を血の海に変えるまでーー

ノベルバユーザー520245

【第八話】スパイル・ラーチェス ⑥

「え?」


訳が分からなかった。

アレは陽動だったはず。

ただのフェイントだったはずだ。

それなのに、

今、恭司の真上にそれはあって、刃を下にしながら落ちてきている。

防御は間に合わない。

回避も間に合わない。

辛くも頭だけは避けて、

クナイは、恭司の体に突き刺さった。


「グアアアアアアアアアアア!!」

「ハァーッハハハハハハァ!!ジャストタイミングだッ!!流石は俺様ッ!!計算通りだなッ!!」


男から歓喜の声が聞こえる。

計算?

まさかと思った。

初対面であれだけの攻防を最初から予想していたなんて、あり得ない。


「博打の甲斐もあったってもんだ!!こんなに上手くいくなんてなァ!!さぁ!!クライマックスといこう!!」


男は叫ぶ。

そして、

不意に口を大きく開いた。

その方向は恭司に向いていて、殺意が強まっている。

恭司の背中に、ゾッと、寒気が走った。


(ヤバいッ!!)


動いた。

恭司はすぐさま瞬動で横に跳びのき、距離をとる。

頬に汗が一筋流れ落ちた。

瞬動が出来るほどの体力は限られている。

あまり乱用はしたくなかったが、今のは仕方なかった。

使わなければやられていた。

男は流石に予想外だったのか口惜しそうに口を閉じると、一瞬で数メートル離れた恭司の方を見る。

その目は、好奇心に輝いていた。


「すげぇな……ッ!!動きが速すぎて目で追えん!!今のはてっきり仕留めたかと思ったんだがな……ッ!!さっきもそうだったが、目的物が目の前で消えるなんて、生まれて初めての体験だ!!」


男の言葉には、やはりなんとも言えない昂揚感が入り混じっていた。

興奮し、ただただ純粋に相手を褒め称えている。

だが、

恭司としてはそれどころじゃない。


(信じられない……ッ!!驚きたいのはむしろこっちの方だ!!疲れがあるとはいえ瞬動の速度にこれほどまでに反応し、何よりあの対応速度……ッ!!並の敵じゃない!!ヤバい奴だ!!シェルほどじゃないにしても、それに近いレベルなのは間違いない……ッ!!)


恭司の頭は混乱の一途を辿るばかりだった。

さっきの攻防はほぼ相手のペースに乗せられて、主導権を全く握れなかったのだ。

明らかに強敵。

明らかに劣勢。

それに、

恭司は先ほど男が口を大きく開いた時に感じた悪寒を思い出すーー。

恭司は男の戦力を上方修正した。

この男は危険だ。

早く決着を付けた方がいい。

恭司は内心で決意すると、静かに体のギアを変えた。

ほぼトップスピード。

シェルと戦った時と同じ速度だ。

それはつまり……奥義を使うことと等しくなる。

敢えてトップスピードでいかないのは、戦い終わった後に少しくらいは動く体力を残しておくためだ。


(もう反応なんてさせない!!ペースも握らせない……ッ!!ここからは、三谷の"技"でバラバラにしてやる!!)


瞬間、

前方に男の姿を視界に入れると、もう思考することなく、恭司は……疾走った。

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