復讐の刃ーー独りになった少年が、世界を血の海に変えるまでーー

ノベルバユーザー520245

【第八話】スパイル・ラーチェス ①

「ん…………」


恭司が目覚めたのは、村に着いてから丸一日開けた夜だった。

ほぼ2日寝ていたことになる。

外では風が窓を圧迫し、強い雨も降っていた。

この状況で外にいれば死んでいたかもしれない。

本当に運が良かった。

恭司は布団から這い出ると、リビングに向かう。

"昨日"の時点から丸2日経っているのだから、状況が気になった。


(気配はなかったし、大丈夫だとは思うが……)


恭司は思案する。

あの後、恭司はヒューゴ村に入ったと同時に、すぐさま計画を実行に移したのだ。

治療院らしき施設に押し入って、住民を音もなく暗殺し、家を乗っ取った。

そして、

施設内にあった器具や薬で体に応急処置を施すと、そのままダイブするようにベッドに潜り込んだのだ。

よほど疲労と損傷が激しかったのだろう。

これだけ寝ていてもまるで起きる気配がなかった。

恭司は体の調子を確認する。

里にいた頃の見様見真似で処置を行い、傷口には薬を塗って包帯を巻いたが、思ったよりだいぶ楽になっていた。

おそらく睡眠が良かったのだろう。

出血は止まったし、頭痛や眩暈も抑えられたことで、森の中を走り回っていた時とは雲泥の差だ。


「ただ……骨折ばかりはどうにもならないな」


シェルとの戦闘で肋骨を何本かやってしまっていたが、そればかりはどうしようもなかった。

治療院だから環境そのものは揃っているのだろうが、流石に骨折の治療の仕方までは恭司にも分からない。

中立都市『ドラルス』に着いてから、ちゃんとした医者に診てもらう必要がある。


「殺す前に脅して治療させりゃ良かったかな……。まぁ、そんな余裕なかったし、後の祭りか」


恭司は気を取り直して改めて家の中を物色すると、とりあえず食べ物を探すことにした。

起きたら凄まじい空腹が襲い掛かってきたのだ。

体を回復させるためにも、なるべく多く食べていた方が良い。


「死人には必要のない物だし、遠慮なくいただくことにしよう」


恭司はこの家の元住民の残骸を尻目に、少し離れた所で食事を始めた。

昨日殺した段階で、住民の死体は刻んでコンパクトにしてある。

今は袋に詰めて、ゴミ箱の中だ。

恭司は腹を満たすと、ホッと息を吐く。

骨折がある以上、決して万全とはいえないが、当分動き回れるくらいには回復した。

ここまでゆっくり寝ていられたのだから、ビスもあれから追い掛けては来れなかったのだろう。

嵐の助けもある。

来れたとしても捜索は困難なはずだ。

未だ油断は出来ないものの、本当に運が良かった。

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