復讐の刃ーー独りになった少年が、世界を血の海に変えるまでーー

ノベルバユーザー520245

【第六話】王族狩り ⑥

「久しぶりだなぁ、三谷一族。やってくれるじゃないか」


シェルはコメカミをひくつかせながら、怒りを抑えきれない様子で王族狩りに目を向けた。

戦場に似つかわしくない、異様な雰囲気を漂わせている。

改めて見たそいつは、顔に面を被っていた。

鬼を模した般若面だ。

服は青を基調とした着物姿で、腰には長大な刀をかけている。

パッと見た感じの体は細く、どことなく儚げな印象を持ったが、その男がやったのであろう現場の被害状況は、恐ろしく惨たらしいものだった。

連れてきた兵士のほとんどは真っ二つに切り捨てられ、手や足などの肢体や臓器がメチャクチャに飛び散っている。

血の量も凄まじく、蒸せ返るような鉄の臭いが場に充満していた。

よくもまぁ、この数分の間にやってのけたものだ。

まるで地獄絵図のような惨状だが、まだ全滅した訳ではない。

元々端にいたのであろう兵士たちが、まだ多少残っている。

シェルは素早く指示を出した。


「コイツの相手は僕がする!!生き残っている者は今すぐ城に戻り、王に伝えろ!!急げッ!!」


シェルに言われて、兵士たちは慌てて動き出した。

呆然と何がどうなのか分かっていなかったのだろう。

ようやく理解して、一目散に走り出す。


「…………」


そこに、王族狩りは風の刃を放った。

最初にシェルを襲った奴だ。

『三日月』と呼ばれる風の刃は逃げる兵士たちを背後から襲い、今にも体を裂かんと宙を走る。

しかし、

シェルは雷迅で一瞬のような速度でそこに移動すると、三日月を剣で弾いた。

兵士たちはその隙に一も二もなく撤退し、シェルは王族狩りに目を向ける。


「つれないことをするなよ。どこの誰かは知らないが、10年ぶりなんだろう?」


シェルは挑発的に話し掛けた。

あの戦争が終わってから、既に約10年の月日が流れている。

生き残りがいるなどと思っていなかったが、いたとすればそれ以来のはずだ。

シェルは剣を構えると、その途端に体を纏う雷がバチバチと音を鳴らした。

再び地面が捲り上がり、大気が弾けるように空気を揺らして、シェルは王族狩りに殺意を剥き出しにする。

燃えるような激しい殺気が場を覆い、シェルの目は興奮に大きくなって、その姿はどんどん人間離れしていった。

まるで雷神だ。

空想上のそれを思い浮かべるくらい、シェルの放つオーラは猛々しく、この戦場に圧倒的存在感を放っている。

ーー王族狩りは、それを黙って見ていた。

何も言わず、静かに刀に手をやり、足にグッと力を込める。

途端、

背筋が凍るほどの凄まじい殺気が放たれた。


「ッ!!」


シェルも思わずたじろぐ。

押し込んでいたものを解放するように、シェル以上に獰猛で激しい殺気が、急に場を支配してきたのだ。

シェルが雷神なら、王族狩りは魔王のそれだ。

見た者に恐怖を駆り立てる圧倒的絶望感に、妖気的な雰囲気。

冷え込むような空気感と合わさって、まるで死神のような印象すら与える。

神々しさと禍々しさがぶつかり合って、戦場はもはや異界にいるかのような混沌ぶりだった。

王族狩りは黙って殺気を色濃くしていき、シェルは怒りと興奮で強い殺意を振り撒く。

そして、

戦いは、王族狩りの不意打ちから始まった。

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