復讐の刃ーー独りになった少年が、世界を血の海に変えるまでーー

ノベルバユーザー520245

【第四話】三谷恭司 ③

「ミッドカオス……ッ!!」


恭一郎は思わず口に出す。

今まで散々やられながらも、里に帰ってからというもの一度も姿を見ていなかったのだ。

怒りが憎しみが溢れ出す。

やり場のないこの気持ちを、ぶつける相手がようやく現れたのだ。


「日本国の人間どもよ!!貴様らの仲間たちはこの通りだ!!このまま戦いを続ければ、残った貴様らにも同様の結末を用意することになる!!」


ミッドカオス軍が広場に陣取って早々、高貴そうな衣装を着た男が前に立ち、いきなり大きな声でそんなことを言い始めた。

身長は2メートルを超え、強靭な体躯に大きな髭を拵えている。

太い眉毛に獰猛な光を宿す瞳は相手を威圧し、凄まじい迫力を持っていた。

恭一郎も修吾も分かっている。

アレが誰なのか。

誰のせいでこんなことになっているのか。


「今なら温情措置を与える!!大人しく我らが軍門に降れ!!そうすれば、残る子どもも含め、助けてやろう!!」


その男は尚も言葉を紡ぐ。

要は降伏勧告だ。

逃げずに降伏すれば、命だけは助けると。

恭一郎はワナワナと身を震わす。

迷いはあった。

今生きている人間たちを救うには、もうコレに縋るしかないのかもしれない。

コレしか生きる方法はないのかもしれない。

ここに至るまでの方針もある。

今は生き延びて、復讐は後ですればいい。

とても分かる。

分かっている。


「デモ……オサエキレナイ」


つい、言葉が零れ落ちる。

恭一郎はふと、あの侍の長のことを思い出していた。

彼もそうだった。

分かっていたはずなのに、
知っていたはずなのに、

抑え切れなかった。

止まれなかった。

恭一郎は見据える。

あの男を、この戦いの元凶を。

ミッドカオスの王『バルキー・ローズ』を。

恭一郎は怒りに染まった"紅い目"を大きく見開き、その眼中に入れる。

アイツダケハ、ユルサナイ。


「時間は10分だ!!それ以上は待たない!!生き延びたい者は今すぐ……」

「戦ええええええええええええ!!」


戦場に響く声。

よく知った、信頼できる人の声。

バルキーは、ミッドカオス王は言葉を止める。

自らの声を遮られた怒りよりも、驚愕の方が勝っていた。

日本国の、三谷の方針を考えれば、上手くいくはずだったのに。


「聞こえるか!!日本国の同志たちよ!!俺はもう限界だ!!誇り高き我らがこんなにも一方的に蹂躙され、生き延びようと足掻いた挙句、多くの仲間の命を失った!!もう沢山だ!!もう我慢できない!!」


恭一郎の言葉はここら一帯に大きく響いた。

激しく、猛々しい怒りの咆哮が、この森全体を覆い尽くすほどの唸りを上げていた。

恭一郎は尚も叫ぶ。


「無理強いはしない!!嫌なら構わない!!だが!!日本国総指揮!!三谷の長として宣言する!!俺と共に死ねる者は!!今すぐ動けえええええええええッ!!!!」

「おおおおおおせのままにぃぃぃいい!!」


途端、

森中から一斉に影が動いた。

示し合わせたかのように全くの同じタイミングで人が動き出し、四方八方の至る所からミッドカオスに向けて錯綜する。

今までバルキー1人が制圧していたこの森は、この瞬間に日本国民の殺気で埋め尽くされた。

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