復讐の刃ーー独りになった少年が、世界を血の海に変えるまでーー

ノベルバユーザー520245

【第三話】ミッドカオス戦<2> ⑧

「畜生……ッ!!畜生……!!何故だ……何故、救えない。俺のやり方が間違っていたのか?俺では力不足だったというのか?」


休憩で足を止めて早々、恭一郎は木に近付き、その幹を静かに殴り始めた。

もう抑え切れないのだ。

どれだけ後悔しても懺悔しても足りない。

悔しくて苦しくて辛くて悲しくて、何度も何度も、ゴツゴツと木を殴り続けて、それすら何度やっても足りない。

子どもたちはそれを、ただ見ていることしかできなかった。

まだ現実感が心に追いついていないのだ。

ちゃんと見たはずなのに、聞いたはずなのに、何があったのか未だに分からないでいる。

知ってるくせに、何も知らない。

何も分からないフリをしている。

それくらいあっという間で、一瞬のような出来事だった。

心の整理なんて誰も出来ちゃいない。

出来るわけがない。

そして、

やはり修吾が、恭一郎の背後に近付き、その手を止める。

この中で唯一、修吾だけが変わらずに冷静だった。


「当主様、もうおやめください」


木を殴り続ける恭一郎の腕を背後から止めた修吾は、静かにそう言った。

気持ちなら痛いほど分かる。

自分だってそうだ。

さっきまで隣にいた人間が死んだなど、すぐに割り切れるもんじゃない。

しかし、

恭一郎は三谷のーー日本国の総大将なのだ。

ここでこうしている間はないのだ。

恭一郎は息を切らしながら呆然と拳を引っ込め、自らの異常なほど大量の血で染まった手を見つめる。

ポタポタと地面に赤色を作るソレは、明らかに常軌を逸していた。

恭一郎は修吾の言葉で冷静になり、ペコリと頭を下げる。


「すまない。見苦しい所を見せた。今はとりあえず、行動を起こさないとな」


そう言う恭一郎の声には力がなかった。

空虚に言わなければならないことを言っているかのようで、それが逆に痛々しかった。

だが、

皆、子どもでさえも、そこには突っ込まない。

気持ちは皆分かっていた。


「これから森を抜け、人心地付けそうな所まで逃げる。まだ万全じゃないだろうが、堪えてくれ」


恭一郎は何とか力を振り絞り、それだけを言った。

みんな頷く。

しかし、

そうこうしている内に、人の気配がした。


「ッ!!誰だ!!」


修吾と恭一郎がすぐに刀を抜く。

気配は自分たちの向かおうとしている方向から感じた。

多くなかった。

1つだった。

多勢を旨とするミッドカオスらしくないが、この状況でのソレは、ほぼ間違いなく追手だろう。

先回りされていたということだ。

修吾と恭一郎は警戒を強め、恭司と優香も刀を構える。

いざとなったら、2人も戦うつもりだ。

生きた肉体との戦闘は初めてだったが、鬼斬りのおかげでそれほど精神的な葛藤は無い。

あとは経験だけだ。

2人は固唾をグッと喉の奥に呑み込む。

すると、

茂みの奥から1人の男が現れた。

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