復讐の刃ーー独りになった少年が、世界を血の海に変えるまでーー

ノベルバユーザー520245

【第二話】ミッドカオス戦<1> ②

「……フタを開けてみないことには分からないか」


恭一郎はそう言って刀に手を当てる。

先日と同じ轍を踏まないようにするために自分がきたものの、今は様子を見ることしかできない。

優勢は間違いなく優勢な状況で、問題は起きていないのだ。

奇襲部隊は修吾に任せたし、自分はこっちの侍部隊と鉄砲部隊を見なければならない。

一見順調に見えるこっちの戦場も、長引けば体力を削られていずれ負けるのだ。

少数な上に兵士の替えがきかない日本国は、そうした長期戦にこそ弱点を持っている。

奇襲で短期決戦を狙わなければならないからこそ、兵士の体力が尽きる前に、敵が新たな増援を用意する前に、最初から優勢ですぐに終わらせないといけないのだ。

そういう意味でも、今回の三谷一族の働きには小さくない期待がのしかかっている。

恭一郎が行う全部隊の指揮も勿論だが、戦争を短期決戦に持ち込む正道は奇襲攻撃だ。

先日の時とは違い、今回は奇襲・暗殺のプロフェッショナルである三谷一族が奇襲作戦の全てを任されている。

世界中に轟く悪名と合わせて、三谷に期待が集まるのは当然のことだった。


「要の奇襲部隊の方は修吾に任せた。俺は、俺のやるべき役目を果たそう」


恭一郎は覚悟を決めた声で呟く。

恭一郎の役目とは、三谷の奇襲を込みにしてこっちの戦場をミスなくやり遂げることだ。

今のこの場における恭一郎は、三谷一族の長ではなく、日本国の総指揮官としての立場にある。

部族の成功ではなく、国の勝利が彼のミッションだ。

三谷だけでなく、他部族の士気を落とさないよう注意しながら、場の状況をコントロールして、作戦の成功まで上手く戦況を誘導しなければならない。

そこには、当然ながら純粋な総指揮官としての力量も必要になる。

要は間違いなく修吾の奇襲部隊側だが、その三谷の動きを理解しながら全軍を指揮って勝利に導ける者など、恭一郎をおいて他にはいなかった。

敵が卓越した戦術眼を持っているなら尚更だ。

三谷の動きを把握しつつ、特色の大きく異なる各部族を納得させて戦略を動かせる人材など、恭一郎以外には考えられない。

だが……


(……悪い予感が、当たらなければいいが……)


恭一郎は内心でそう祈りながら、気付かれないよう静かに息を吐いた。

この状況でため息など吐いていれば、味方の指揮にも影響しかねない。

兵士には泰然とした姿勢を見せるよう、恭一郎はなるべく普段通りの平静を装いながら、ゆっくりと本陣の指揮に戻っていった。

そろそろ侍たちの突出を宥め、改めて全軍の動きをコントロールしなければならないのだ。

そこで不確かな予感に焦っている姿など見せてしまえば、兵士たちに恭一郎の指示に対する不安を抱かせることに繋がってしまう。

しかし、

後の事を考えると、恭一郎はここでその懸念の追求に動いていた方が良かったかもしれない。

彼の感じている懸念と同様のことを考えている者は、現時点ではこの日本国には1人もいなかったのだ。

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