【連載版】断罪の不死者〜転生した俺は最愛との約束を果たす為旅をする〜

ノベルバユーザー519900

間接的被害者

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 アルスが黒い怪物を倒してから時は少し遡り、リリムとロッソ率いる《四星剣》一行――。


 既に周囲の魔物は彼らの手によって一匹残らず殲滅されており、今はアルスの戦闘の邪魔にならない位の距離から戦いの様子を見守っていた。


 元々先にいた冒険者や騎士団のおかげで残っていた魔物の数はそれ程多くはなかった為、殲滅まで時間は余り掛からなかった。
 勿論、数は少なかったとはいえ残っていた魔物は、オーガなどの上位魔物ばかりであったが、Cランクパーティーである《四星剣》とアルスと同等の実力を持つリリムが協力し合えば、そんなものは苦にはならなかった。


 特にリリムの活躍は凄まじかった。


 ロッソ達《四星剣》がいくらCランクパーティーとは言え流石に上位魔物を一人で相手することは出来ない。そもそも一つ上のBランクの基準ですら上位魔物を相手するのに最低でも十人は必要なのだ。であれば一人で相手するなんてのは持っての他、たった四人で挑むなど愚の骨頂――普通に考えれば不利であると言えよう。しかし冒険者登録してから齢二十と若輩者でCランク昇格へと至った経験と実力、それに加えてロッソの持つ鋭い観察眼の活躍により、決して楽では無いが上位魔物を相手とることが出来ていた。
 この様子を見るに彼らがBランク、ひいてはAランクへと至るのはそれほど遠くない未来と言えるだろう。


 話を戻そう――確かにロッソ達も上位魔物と渡り合う事ができていた。しかしそれはリリムのおかげであるとも言える。


 なんとリリムはたった一人で複数の上位魔物を相手していたのだ。
 その方法は、【技能】《血液操作》で自らの血を鋭い触手の姿に変え、魔物の心の臓へと一突き――たったそれだけの動作をただ淡々に作業するかの如く繰り返していたのだ。その表情はまさにどうって事ないと言わんばかりの澄まし顔であった。


 彼女の実力を考えれば当然と言えば当然である。しかしロッソ達にとってはそうでは無かった。


 リリムはアルスの仲間――言わばパーティーメンバーである。


 出会って間もない故に、アルスの実力の全て理解しているわけではないが、自分達Cランクよりは上であると、盗賊を装った闇ギルド《ケルベロス》の襲撃から救ってもらった時に確信していた。であればその仲間であるリリムなら当然それなりの実力は持っているのだろうと、ロッソ達は最初そう予想していた。


 実際にエリセンの《収穫祭》でリリムが戦えているのを同じ場にいたロッソ達は勿論目にしていた。しかし、その相手は下位も下位、行動パターンさえ理解していれば子供でも相手出来る――言わば雑魚中の雑魚、アウトオブ眼中なホーンラビットさんである。そしてそれは、リリムの実力を測る物差しには到底なり得なかった。


 故に今回の戦いで初めてリリムの実力の一端を目にしたロッソ達は当然驚かざるをえなかった。それもまさか上位魔物を一人で相手出来るほどだとは思っていなかったのだ。


 それにそう思わせる理由はもう一つ――リリムはとても戦闘向きとは言えない格好をしていた。
 紅いワンピースドレスにヒール――それはまるでこれから意中の相手とデートでもするかの様な全くこの場にそぐわない外向きの格好であった。
 《収穫祭》のような簡単な依頼なら兎も角、いつ死んでもおかしくない様な戦場でそんな格好をしていれば、充分に戦えるのかと不安や疑問に思うのは当然と言えよう。


 しかし結果はご覧通り――ロッソ達が抱いた不安心はただの杞憂でしかなかった。
 寧ろリリムが一気に複数を相手してくれたおかげで、ロッソ達はその圧倒的な個の戦力を盾に――いや、安心して背中を預ける事ができ、上位魔物一匹一匹に集中して相対することが出来たのだ。


 それ故に時間を持て余した彼等は最初、黒い怪物と戦っているアルスに加勢しようとしたが、すかさずそれをリリムが止めたのだ。


 何故止めるのだとリリムを咎めようとしたロッソ達であったが、リリムの向ける視線に誘われ、その先にある光景に目を向けた次には自分たちのそんな心配は直ぐに杞憂であったと理解したのだ。


 視線の先――アルスと黒い怪物の戦いはまさに竜虎相搏。


 戦況は黒い怪物がアルスに向かって何度も何度も攻撃を仕掛けているところであった。


 一見すればアルスが押されているかの様に見えるが、鋭い観察眼を持つロッソにはほんの一瞬でしか無いが、なんとかその目で捉える事ができた。


 黒い怪物の音を置き去りにした素早い突進を、余裕たっぷりの澄まし顔で交わしているアルスの姿を―――ヴェルドゥラ、ヴェルデ、アルジェンドの三人もまた、ロッソの様に眼で見る事は出来ないが、戦場の空気を肌でひしひしと感じていた。故に自分達が手を出したらかえって邪魔になると理解し、その中にいるアルスの実力を再認識したのだった。


 自分達とはまるで次元が違うその激しい戦いにロッソ達の口は驚きのあまり開いたまま塞がらず、四人はそのまま惹きつかれたかの様にその光景に目を奪われたのだった。










 それから時は進み現在――アルスの華麗なる股間スマッシュにより黒い怪物が倒れた様子を見ていた彼等はそれぞれの反応を見せていた。


「すごい、本当に倒しちゃった……」
「ええ……夢でも見てるみたいだわ」
「頬、抓ってあげようか?」
「……遠慮しとくわ」
「むふふ、主人なら当然なのだ!」


 あまりにも想像を絶する光景に上手く言葉が出せないヴェルデとアルジェンド。そんな二人に対して、まるで自分が成したかの様に主人の挙げた戦果に対して誇らしげに胸を張るリリム。そしてその傍らには――


「「……」」


 何故か前屈みになりながら、まるで生まれたての子鹿の様に膝をガクガクと震わせているロッソとヴェルドゥラ。そんな二人の表情は青を通り越して蒼白でありながら何故か、黒い怪物に向ける視線には若干の同情が込められていた。


 そう、二人は同情していたのだ――敵であり、それも魔物である黒い怪物に。
 しかし同情してしまうのも無理は無い。なにせ股間スマッシュだから。


 股間スマッシュ――それは女性には一生理解できないであろう、言わば男のさが。例え、歩むべき未来が違う敵国の者でも、はたまた魔物であろうと、それは唯一共有できる痛みおもいなのだ。故にその痛みを知っている者であるならば相手が誰であろうと、先ずは自分では無かったと安堵し、その者に敬意を示し同情する他ないのである。


 故にロッソとヴェルドゥラの二人もそれに倣って、敵である黒い怪物に同情してしまったのである。


 それに二人にはその思いを助長させる辛い過去があった――彼らの為にも余り詳しくは語れないが、簡潔に説明すると、それはまだ歳にして十歳と、それなりに異性に対して意識し始めた幼い頃、一人の女性を巡って争い、最終的に何故か大衆の前で股間スマッシュをされたと言う、辛い、それはもうこの上なく辛く、思い出さないようにと、記憶の奥底に封じ込めていたはずの黒歴史が、アルスの放つ股間スマッシュを目にした瞬間、脳裏にフラッシュバックしたのであった。


 残念ながら幼い頃についてしまったトラウマはそう簡単には癒えはしないのである。


 そんな男の性を知らない女性陣はロッソ達の様子を見て、唯不思議そうに首を傾げるのであった。





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