【連載版】断罪の不死者〜転生した俺は最愛との約束を果たす為旅をする〜
vs黒い怪物
《第一階位魔術》【フィジカルブースト】によって強化された身体で障壁に乗った黒い魔物の重い脚を押し返すと、魔物はバランスを崩して少しよろめきながらも後ろへ数歩下がった。
さらに距離を取ろうと《飛剣》で権勢するも大したダメージにはならず、その位置から微動だにしなかった。
しかしこうしてよく見るとほんと不気味だなぁ。
黒い靄に覆われていて表情は読み取る事ができない。だが、その黒い靄から覗かせる赤い瞳からは、まるで感情が無いかのように見える――ただ周りにあるものを破壊するだけの怪物――いや、破壊こそが存在意義であるかのようにも思える。実際、此処までくるのに幾つもの建物を破壊したのだから、真実味を帯びていると言えなくもない。
相対している時間が長ければ長い程、全身に鳥肌が立つほどの嫌悪感に襲われる。
今まで魔物に対してこんな感情を抱く事はなかった。何故なら魔物は使い魔でない限り人類の敵である事は明白であり、ただ、狩るべき敵として視認するだけで充分だったからだ。
それなのに、これは一体どういう事だろうか――あのカオスネグロでさえも恐怖心は抱いたものの、嫌悪感なんてものは無かった――むしろカオスネグロに対しては、その黒い鎧に黒い二対の剣と言ったまるで厨二心を擽る様なフォルムからして、少し格好良いなとさえ思っていたくらいだ。
前置きはそれくらいにして、取り敢えずステータスを覗いてみるか……。
================================================
#@&?(魔物) Lv99
 【体力】 9999
 【魔力】 9999
================================================
(なんだこれ……名前が文字化けして読めない)
ステータス自体は特に問題なく表示されているが、名前の欄だけが文字化けしていて読めなかった。
《観察眼》は前世でも使用していたがこんな事は初めてだ。まるでこの世のものでは無いから分からないと言われてる様な感じがした。
ただ、何故だか分からないが、名前は分からなくともステータスは分かるようで見たところヨルムンガンドを少し上回っている程度で、今の俺からしたら雑魚を相手するように瞬殺する事は未だ出来ないが別に大した事はない。
それよりも――
「おい、あんた」
俺の後ろで未だ、ぼけ〜っとまるで心ここにあらずと言った感じに放心して立ち尽くしている騎士に向かって正気に戻るようにと声を掛けた。
「……」
しかし返事はなかった。如何やらただの屍であったようだ……と言うのは冗談でもう一度――
「おーい」
「……」
……やはりただの……いや、こんな事で負けてはいけない。だからもう一度……次で最後だ。もしこれで返事が無かったらもう知らない。知ったこっちゃないね!
「おいっ!」
「――ッ!? ひゃ、ひゃい!?」
お、やっと返事してくれた。
兜を被っていてその表情は分からないが、驚きから発せられた上ずった声は、それにも関わらず、まるで透き通るかの様に耳に優しく入って来て、如何やらその声音からして騎士の正体は女性のようだった。
「大丈夫か?」
「騎士様……」
「騎士様?」
「はっ!? い、いや何でもない! ゴホン! ――助けてくれた事には感謝する。正直もうダメかと思っていたのでな。……だが今すぐ此処から離れるんだ! 恐らくアレは災害級――我々がどうにか出来る相手ではない――」
「じゃあ如何するんだ?」
「……不本意だがこの街を放棄する他あるまい。それから戻って対策を立てるしか――」
「それでどうにか出来るのか?」
「……」
「――ふっ、なら此処は俺に任せろ」
「――は? 何を馬鹿なことを言っているのだ!? アレを一人でどうにか出来るわけが――っ!?」
如何やら気付いたようだな。
「今まで我々のことを見向きもしなかった奴が警戒をしているだと――?」
そう、俺が介入してきたとは言え、言い方は悪いが、今までの様に周囲に興味を持たず、ただ己の本能の赴くままに破壊活動を再開すれば良いものの、その様な様子は一切見せず、何も映さなかった虚無なる瞳はただ一点に俺のことを捉おり、じっとこちらの様子を伺っていた。
それは奴が俺の事を道端にある石ころ程度の認識から倒すべき敵であると認識を改め、警戒している証である。
因みに今俺は【技能】《ヘイトアップ》を使用していない。
つまり奴は本能で俺のことを警戒しているのだ。
「君はいったい――何者なんだ?」
「アルス――唯の通りすがりの冒険者だ」
「そうか……ではアルス殿。我々騎士団も貴方と共に最後まで戦おう!」
「いや、此奴は俺一人で充分だ」
「なっ!? アルス殿、自分が何を言っているのか理解してるのか!? 相手は災害級なのだぞ!?」
「あぁ、分かってる。それを込めて言ってるんだ」
負ける事はまずあり得ないが、かと言って、相手は災害級――ただの下位魔物や上位魔物ならまだしも、流石に災害級が相手となると建物の被害とかを最小限に抑えるとか、そう言った周囲に気を配る余裕は無い。故に本人を前にして言えはしないが、正直、此処にずっといられても邪魔になるだけ――できる事なら撤退しながら周りの雑魚を相手して貰えると有り難い……。
「だからあんた達は周りの魔物の排除に徹してくれないか? そしたら俺も奴一匹に集中できるから」
「し、しかし――」
「大丈夫だ」
「――!? 分かった……」
どうやら納得してくれた様だ……。
「その代わり、ぜ、絶対に無事でいるんだぞ! 絶対だからな!」
そう言い残し、女騎士は周りにいる恐らく彼女の部下であろう者たちを引き連れて、俺たちがやってきた道とは反対側の道に向かって撤退をし始めたのだった。
♢ルーシェ
「皆、周囲の魔物を倒しながら撤退だ!」
「……本当に宜しいのですか? やはり此処は我々も――」
私が撤退の合図を出すと再び近くに居た騎士の一人が声を掛けてきた。兜ごしから発せられる声音にはどこか不服な気持ちが含まれていた。
彼は恐らくここに残って自分達も戦うと言いたいのだろう。それは一人残ったアルス殿の心配も当然含まれているが、きっと本音は別で――「国を護る騎士が退いて、冒険者一人に戦わせる訳にはいかない――それは騎士としての誇りが許さないから」とか思っているのではないだろうか。
彼の言いたいことも分かる。騎士にとって誇りとは騎士道と呼ばれる程に重要視されている事だから。
こんな事態でなければ彼等の意思を尊重したいところだが、今はかえってそれが邪魔になる――だから――
「ならん。そんな事したら邪魔になるだけだ」
「しかし――」
「君も見ただろう。彼があの災害級の一撃をたった一人で受け止めていたところを――私達がどれだけ束になってもそんな真似は出来ない。恐らく――いや、確実に彼はここにいる誰よりも強い。それも圧倒的にだ――だからそんな彼と奴との戦いに横槍を入れるなど邪魔でしかないだろう。故に、任せろと言った彼の言葉を信じようではないか」
私自身、さっきまではこの騎士と同じ様な思いでいた。しかし何故だろうか――あの時"大丈夫"と言ったアルス殿のまるで優しく宥める様な言葉に「あぁ、もう本当に大丈夫なんだな」と不思議と安心感を覚えた。そして何故か同時に胸の内が暖かくなった気がした。
こんな事は生まれて初めてだった。
人を導く立場故に私は私自身を含め、人の気持ちに対して敏感であり、決して鈍感ではない。だから何となくこの気持ちにが何なのかは察している――しかしその半面、疑う自分もいる。だってそうだろう? 命を救ってもらったとは言え初めて会った相手に対して、まさかそんな気持ちを抱くとは思わなかった。故に本当にそう言う事なのか? と疑念を抱くのは当然と言えよう。
「ふっ――案外私にも乙女な部分があったんだな」
今すぐにこの気持ちを確かめようがない――先ずは目の前に起きている事――彼に託された周囲の魔物の討伐に集中しないと――それから事が済んだらもう一度彼のもとに行きこの気持ちを確かめよう。
だけど何故だろうか、不思議とこの気持ちは間違いでは無いと確信している。
♢アルス
「……さてと……」
女騎士達が去っていくのを尻目で確認し、再び前方に居る黒い怪物へと視線を移す。
有難い事に、黒い怪物は俺と相対してから今の今まで警戒を緩める事なくジッとこちらの様子を伺っていた……でも、ちょっと警戒しすぎじゃない……?
「まぁ良いや。そっちが来ないならこっちから行かせてもうだけだ!」
俺は黒い怪物に向かって駆け出した。
こうして迷宮の九十階層でのヨルムンガンドの周回を除けば、人生三度目となる災害級との戦いの幕が上がったのだった。
さらに距離を取ろうと《飛剣》で権勢するも大したダメージにはならず、その位置から微動だにしなかった。
しかしこうしてよく見るとほんと不気味だなぁ。
黒い靄に覆われていて表情は読み取る事ができない。だが、その黒い靄から覗かせる赤い瞳からは、まるで感情が無いかのように見える――ただ周りにあるものを破壊するだけの怪物――いや、破壊こそが存在意義であるかのようにも思える。実際、此処までくるのに幾つもの建物を破壊したのだから、真実味を帯びていると言えなくもない。
相対している時間が長ければ長い程、全身に鳥肌が立つほどの嫌悪感に襲われる。
今まで魔物に対してこんな感情を抱く事はなかった。何故なら魔物は使い魔でない限り人類の敵である事は明白であり、ただ、狩るべき敵として視認するだけで充分だったからだ。
それなのに、これは一体どういう事だろうか――あのカオスネグロでさえも恐怖心は抱いたものの、嫌悪感なんてものは無かった――むしろカオスネグロに対しては、その黒い鎧に黒い二対の剣と言ったまるで厨二心を擽る様なフォルムからして、少し格好良いなとさえ思っていたくらいだ。
前置きはそれくらいにして、取り敢えずステータスを覗いてみるか……。
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#@&?(魔物) Lv99
 【体力】 9999
 【魔力】 9999
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(なんだこれ……名前が文字化けして読めない)
ステータス自体は特に問題なく表示されているが、名前の欄だけが文字化けしていて読めなかった。
《観察眼》は前世でも使用していたがこんな事は初めてだ。まるでこの世のものでは無いから分からないと言われてる様な感じがした。
ただ、何故だか分からないが、名前は分からなくともステータスは分かるようで見たところヨルムンガンドを少し上回っている程度で、今の俺からしたら雑魚を相手するように瞬殺する事は未だ出来ないが別に大した事はない。
それよりも――
「おい、あんた」
俺の後ろで未だ、ぼけ〜っとまるで心ここにあらずと言った感じに放心して立ち尽くしている騎士に向かって正気に戻るようにと声を掛けた。
「……」
しかし返事はなかった。如何やらただの屍であったようだ……と言うのは冗談でもう一度――
「おーい」
「……」
……やはりただの……いや、こんな事で負けてはいけない。だからもう一度……次で最後だ。もしこれで返事が無かったらもう知らない。知ったこっちゃないね!
「おいっ!」
「――ッ!? ひゃ、ひゃい!?」
お、やっと返事してくれた。
兜を被っていてその表情は分からないが、驚きから発せられた上ずった声は、それにも関わらず、まるで透き通るかの様に耳に優しく入って来て、如何やらその声音からして騎士の正体は女性のようだった。
「大丈夫か?」
「騎士様……」
「騎士様?」
「はっ!? い、いや何でもない! ゴホン! ――助けてくれた事には感謝する。正直もうダメかと思っていたのでな。……だが今すぐ此処から離れるんだ! 恐らくアレは災害級――我々がどうにか出来る相手ではない――」
「じゃあ如何するんだ?」
「……不本意だがこの街を放棄する他あるまい。それから戻って対策を立てるしか――」
「それでどうにか出来るのか?」
「……」
「――ふっ、なら此処は俺に任せろ」
「――は? 何を馬鹿なことを言っているのだ!? アレを一人でどうにか出来るわけが――っ!?」
如何やら気付いたようだな。
「今まで我々のことを見向きもしなかった奴が警戒をしているだと――?」
そう、俺が介入してきたとは言え、言い方は悪いが、今までの様に周囲に興味を持たず、ただ己の本能の赴くままに破壊活動を再開すれば良いものの、その様な様子は一切見せず、何も映さなかった虚無なる瞳はただ一点に俺のことを捉おり、じっとこちらの様子を伺っていた。
それは奴が俺の事を道端にある石ころ程度の認識から倒すべき敵であると認識を改め、警戒している証である。
因みに今俺は【技能】《ヘイトアップ》を使用していない。
つまり奴は本能で俺のことを警戒しているのだ。
「君はいったい――何者なんだ?」
「アルス――唯の通りすがりの冒険者だ」
「そうか……ではアルス殿。我々騎士団も貴方と共に最後まで戦おう!」
「いや、此奴は俺一人で充分だ」
「なっ!? アルス殿、自分が何を言っているのか理解してるのか!? 相手は災害級なのだぞ!?」
「あぁ、分かってる。それを込めて言ってるんだ」
負ける事はまずあり得ないが、かと言って、相手は災害級――ただの下位魔物や上位魔物ならまだしも、流石に災害級が相手となると建物の被害とかを最小限に抑えるとか、そう言った周囲に気を配る余裕は無い。故に本人を前にして言えはしないが、正直、此処にずっといられても邪魔になるだけ――できる事なら撤退しながら周りの雑魚を相手して貰えると有り難い……。
「だからあんた達は周りの魔物の排除に徹してくれないか? そしたら俺も奴一匹に集中できるから」
「し、しかし――」
「大丈夫だ」
「――!? 分かった……」
どうやら納得してくれた様だ……。
「その代わり、ぜ、絶対に無事でいるんだぞ! 絶対だからな!」
そう言い残し、女騎士は周りにいる恐らく彼女の部下であろう者たちを引き連れて、俺たちがやってきた道とは反対側の道に向かって撤退をし始めたのだった。
♢ルーシェ
「皆、周囲の魔物を倒しながら撤退だ!」
「……本当に宜しいのですか? やはり此処は我々も――」
私が撤退の合図を出すと再び近くに居た騎士の一人が声を掛けてきた。兜ごしから発せられる声音にはどこか不服な気持ちが含まれていた。
彼は恐らくここに残って自分達も戦うと言いたいのだろう。それは一人残ったアルス殿の心配も当然含まれているが、きっと本音は別で――「国を護る騎士が退いて、冒険者一人に戦わせる訳にはいかない――それは騎士としての誇りが許さないから」とか思っているのではないだろうか。
彼の言いたいことも分かる。騎士にとって誇りとは騎士道と呼ばれる程に重要視されている事だから。
こんな事態でなければ彼等の意思を尊重したいところだが、今はかえってそれが邪魔になる――だから――
「ならん。そんな事したら邪魔になるだけだ」
「しかし――」
「君も見ただろう。彼があの災害級の一撃をたった一人で受け止めていたところを――私達がどれだけ束になってもそんな真似は出来ない。恐らく――いや、確実に彼はここにいる誰よりも強い。それも圧倒的にだ――だからそんな彼と奴との戦いに横槍を入れるなど邪魔でしかないだろう。故に、任せろと言った彼の言葉を信じようではないか」
私自身、さっきまではこの騎士と同じ様な思いでいた。しかし何故だろうか――あの時"大丈夫"と言ったアルス殿のまるで優しく宥める様な言葉に「あぁ、もう本当に大丈夫なんだな」と不思議と安心感を覚えた。そして何故か同時に胸の内が暖かくなった気がした。
こんな事は生まれて初めてだった。
人を導く立場故に私は私自身を含め、人の気持ちに対して敏感であり、決して鈍感ではない。だから何となくこの気持ちにが何なのかは察している――しかしその半面、疑う自分もいる。だってそうだろう? 命を救ってもらったとは言え初めて会った相手に対して、まさかそんな気持ちを抱くとは思わなかった。故に本当にそう言う事なのか? と疑念を抱くのは当然と言えよう。
「ふっ――案外私にも乙女な部分があったんだな」
今すぐにこの気持ちを確かめようがない――先ずは目の前に起きている事――彼に託された周囲の魔物の討伐に集中しないと――それから事が済んだらもう一度彼のもとに行きこの気持ちを確かめよう。
だけど何故だろうか、不思議とこの気持ちは間違いでは無いと確信している。
♢アルス
「……さてと……」
女騎士達が去っていくのを尻目で確認し、再び前方に居る黒い怪物へと視線を移す。
有難い事に、黒い怪物は俺と相対してから今の今まで警戒を緩める事なくジッとこちらの様子を伺っていた……でも、ちょっと警戒しすぎじゃない……?
「まぁ良いや。そっちが来ないならこっちから行かせてもうだけだ!」
俺は黒い怪物に向かって駆け出した。
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