【連載版】断罪の不死者〜転生した俺は最愛との約束を果たす為旅をする〜
黒き救済
エリセンの街を出てからの道中、とくに魔物と遭遇する訳でもなく順調に進み一週間が経過した頃には無事にグリューセルの街に辿り着くことができた。
しかし目の前に広がる光景は決して無事であるとはとても言えなかった。
本来では住民の歓声によって生まれる賑やかな街である筈が、魔物たちの咆哮と言う悪い意味で賑やかな街となっていた。
魔物の進行を許してしまったことにより生じてしまった建築物の崩壊。そして立ち込める黒煙に所々見当たる人か魔物によるものか見当がつかない血痕の数々――そのまるで悪い夢でも見ているかの様な光景は、本来の街の姿とは余りにもかけ離れていて、そんなものは人間の平和的思考が生み出した唯の理想であり幻想であると告げているかの様だった。
つまり何が言いたいのかと言うと――今まさにグリューセルの街は魔物たちの侵攻によって崩壊に追い込まれていたのだ。
しかし見たところ冒険者や騎士団らしき者たちは見当たるものの、街の住人らしき人たちは一人も見当たらなかった。
(住民だけが華麗に居なくなってるな……流石に全員喰われたって事はあり得ないか……だとしたら余りにも綺麗過ぎるからな)
最初、馬車の中からグリューセルの街が見えた瞬間、まるで緊張が溶けたかの様に少しだけ表情が晴れやかになったロッソたち四人であったが、街に入り現状を目の当たりにした瞬間、その表情はエリセンの街の冒険者ギルドでウザ絡みしてきた男の話を聞いた時より絶望色に染まっていた。
それから四人は直ぐに馬車から勢い良く飛び降りるとそのまま俺とリリムを置いて何処かへ駆け出していった。
「お、おい! ちょっと待てって――!」
「……行っちゃったのだ……」
「……」
「どうすのだ?」
「追いかけるべきなんだろうなぁ……取り敢えず馬車はここら辺に留めておくか」
「うむ、それが良いのだ!」
♢♢♢♢♢♢
「嘘だろ!?」「そんな!?」
ロッソ達を追いかけると其処は街の一角であった。
崩壊が無いにしても、まるで最初からそうであったかの様な生活感の無い雰囲気――恐らくここ一帯は貧民街だったのだろう。
そしてきっと此処はロッソたちにとって思い入れのある場所なのだろう――だが今目の前にあるのは崩壊した建物の残骸のみ。
「シスターッ!」
流石にヴェルデもこの惨状を前にしては冷静でいられなかったようで、知人であろう者の名前を叫びながら辺りを見回していた。それは他の三人も同様であった。
「お前ら落ち着けって。周りをよく見てみろ――死体どころか住民一人も見当たらないんだ――普通こう言った状況が起こると死傷者の一人や二人は出る筈なのにそれが一切無いんだ。なあ、ロッソこの街には避難所とかあるんじゃないか?」
「あ、ああ、そう言えば緊急時の為の地下シェルターが何箇所かあったような……」
「なら考えられるとすれば事が起きるまで前に避難してたんじゃないか?」
「うむ、主人の言う通りなのだ。それに、先ずはアレを何とかしないと探したいものも探せないのだ」
そう言ってリリムは街の中心部がある方へと顔を向ける。其処には遠目からでも分かる程の黒い靄の様なものが発生していた。そしてそれから発せられる気配は正直言って尋常じゃない――。
「ああ、リリムさんの言う通りだな……しかしシスター達の安否の事で頭がいっぱいになってて気付かなかったが、アレはちょとヤバいんじゃないか? 」
「ちょっとどころかかなりヤバい」
「そうね。中央街から此処まで気配が届くなんて例え上位魔物だとしても普通じゃありえないわ。そもそもあの黒いのは何なのかしら?」
「さぁ? あんなの見た事ねぇな。だが一つだけ分かることがあるとすれば、あんな不気味なもん放ってる奴がただの上位魔物じゃねえって事だ」
「そうね。信じたく無いけど恐らく災害級くらいはあるんじゃ無いかしら」
「えぇ!? 災害級!? そんなの勝てっこないよ! どうするの!? 」
「「「……」」」
アルカナ王国の迷宮を攻略した俺やリリムでさえも少し冷や汗をかく位だ。他の奴からしたら気が気じゃないだろう。現にロッソ達はあの黒い靄の正体について何やら話し合っている様で、その内容が少し耳に入ったが如何やら彼等はアレを災害級と判断した様だ。
俺自身もその推察は間違い無いと断言できる――と言うのも俺の中で記憶に新しい災害級と言えば、迷宮の九十階層に居たヨルムンガンドと百階層のカオスネグロだ……まあ、前世を除けば、それ以外の災害急に出会したことなど無いのだから記憶に新しくて当然と言えば当然なのだが……。
ともかく、アレから放たれる尋常ならざる気配はヨルムンガンドを上回っており、ならば当然、その階級は災害級に該当すると言える。
しかしレベルの差があったとは言え、カオスネグロ程の脅威――もとい絶望感を感じる事はない。それは俺が成長したと言う証でもあるが、とにかく何とかしようと思えば何とかできると言うわけだ。
それにしても、落ち着いたりしなかったりでほんと、ある意味賑やかなパーティーだなぁ……。
「そろそろ俺達は行くがロッソたちは如何するんだ?」
「如何するって……お前まさか彼処に行くつもりなのか?」
「あぁ、そのつもりだが」
「……正気か……?」
「俺だって冒険者だ。勝算無しにこんな事は言わないよ」
「だが……いや、分かった。正直アレに勝てるかどうかなんて分からないが、お前らだけを行かせる訳にはいかねぇ……それに此処は俺たちの街だ。関係無い奴に任せて自分達は何もしないってのは違うだろ……だから俺も行く」
「……プライドは時に人を傷付けるぞ」
「プライドなんかじゃねぇ――これは俺の意志だ!」
「なら俺も行こう――」
「ヴェルドゥラ……」
「私も行くわ――アレを放っとく訳にはいかないもの」
「そうだね! やられた分の仮はしっかりお返ししないとね! 私達じゃ無理だから主にアルス君がだけど!」
「アルジェ、ヴェルデ……」
「分かった。元々止めるつもりはないし相手はアレだけじゃなく他の魔物もいるからな。人数が多いに越した事はない――」
こうして俺達は《第一階位魔術》【フィジカルブースト】で自身に身体強化を施すとそのまま中心街に向けて駆け出すのであった。
その時、俺とリリムが無詠唱で魔術を行使したのを見て驚いた彼等だか、それはまた別の話――。
♢♢♢♢♢
駆け出してからおよそ十分――最早中心街は目と鼻の先と言ったところまで辿り着くとその全貌が明らかになっていった。
冒険者と騎士団の尽力があってか魔物の数はかなり減っており、残すところ僅か数匹程となっていた。
しかしどうやら、それがイコール問題の解決とはなっていない様で、魔物の数が減って尚も建物は次々と壊されていく――たった一匹の魔物によって。
そして――
「マズいっ――!」
まさに今、その魔物の脚が近くで立ち尽くしている騎士に向かって振り下ろされようとしていた。
直感で分かる――あの一匹の魔物こそが今回の事件の元凶であると――黒い靄が奴から発生しているのが何よりの証拠だ。
気付けば俺は《技能》【瞬歩】を連続発動して目先にいる騎士を救うべく駆け出していた。
リリム達も俺の行動に気付くと言葉を交わす事なく道中、道を塞ぐ魔物達に魔術や技能やらで攻撃をしながら援護に回ってくれた。
おかげで奴との距離はどんどんと縮まって行く。
355――305――255――よく見るとその騎士は他の騎士達とは違い少し派手な見た目をしていた。
205――155――105――迷宮で手に入れた黒コートに魔力を流し障壁を展開する。
55――5――そして――
ドゴォォン――!!
衝撃波と激しい音が鳴ると同時に、展開した障壁に黒い魔物の重い一撃が乗った――正に間一髪と言ったところか、何とか救助に間に合うことができた。
しかし目の前に広がる光景は決して無事であるとはとても言えなかった。
本来では住民の歓声によって生まれる賑やかな街である筈が、魔物たちの咆哮と言う悪い意味で賑やかな街となっていた。
魔物の進行を許してしまったことにより生じてしまった建築物の崩壊。そして立ち込める黒煙に所々見当たる人か魔物によるものか見当がつかない血痕の数々――そのまるで悪い夢でも見ているかの様な光景は、本来の街の姿とは余りにもかけ離れていて、そんなものは人間の平和的思考が生み出した唯の理想であり幻想であると告げているかの様だった。
つまり何が言いたいのかと言うと――今まさにグリューセルの街は魔物たちの侵攻によって崩壊に追い込まれていたのだ。
しかし見たところ冒険者や騎士団らしき者たちは見当たるものの、街の住人らしき人たちは一人も見当たらなかった。
(住民だけが華麗に居なくなってるな……流石に全員喰われたって事はあり得ないか……だとしたら余りにも綺麗過ぎるからな)
最初、馬車の中からグリューセルの街が見えた瞬間、まるで緊張が溶けたかの様に少しだけ表情が晴れやかになったロッソたち四人であったが、街に入り現状を目の当たりにした瞬間、その表情はエリセンの街の冒険者ギルドでウザ絡みしてきた男の話を聞いた時より絶望色に染まっていた。
それから四人は直ぐに馬車から勢い良く飛び降りるとそのまま俺とリリムを置いて何処かへ駆け出していった。
「お、おい! ちょっと待てって――!」
「……行っちゃったのだ……」
「……」
「どうすのだ?」
「追いかけるべきなんだろうなぁ……取り敢えず馬車はここら辺に留めておくか」
「うむ、それが良いのだ!」
♢♢♢♢♢♢
「嘘だろ!?」「そんな!?」
ロッソ達を追いかけると其処は街の一角であった。
崩壊が無いにしても、まるで最初からそうであったかの様な生活感の無い雰囲気――恐らくここ一帯は貧民街だったのだろう。
そしてきっと此処はロッソたちにとって思い入れのある場所なのだろう――だが今目の前にあるのは崩壊した建物の残骸のみ。
「シスターッ!」
流石にヴェルデもこの惨状を前にしては冷静でいられなかったようで、知人であろう者の名前を叫びながら辺りを見回していた。それは他の三人も同様であった。
「お前ら落ち着けって。周りをよく見てみろ――死体どころか住民一人も見当たらないんだ――普通こう言った状況が起こると死傷者の一人や二人は出る筈なのにそれが一切無いんだ。なあ、ロッソこの街には避難所とかあるんじゃないか?」
「あ、ああ、そう言えば緊急時の為の地下シェルターが何箇所かあったような……」
「なら考えられるとすれば事が起きるまで前に避難してたんじゃないか?」
「うむ、主人の言う通りなのだ。それに、先ずはアレを何とかしないと探したいものも探せないのだ」
そう言ってリリムは街の中心部がある方へと顔を向ける。其処には遠目からでも分かる程の黒い靄の様なものが発生していた。そしてそれから発せられる気配は正直言って尋常じゃない――。
「ああ、リリムさんの言う通りだな……しかしシスター達の安否の事で頭がいっぱいになってて気付かなかったが、アレはちょとヤバいんじゃないか? 」
「ちょっとどころかかなりヤバい」
「そうね。中央街から此処まで気配が届くなんて例え上位魔物だとしても普通じゃありえないわ。そもそもあの黒いのは何なのかしら?」
「さぁ? あんなの見た事ねぇな。だが一つだけ分かることがあるとすれば、あんな不気味なもん放ってる奴がただの上位魔物じゃねえって事だ」
「そうね。信じたく無いけど恐らく災害級くらいはあるんじゃ無いかしら」
「えぇ!? 災害級!? そんなの勝てっこないよ! どうするの!? 」
「「「……」」」
アルカナ王国の迷宮を攻略した俺やリリムでさえも少し冷や汗をかく位だ。他の奴からしたら気が気じゃないだろう。現にロッソ達はあの黒い靄の正体について何やら話し合っている様で、その内容が少し耳に入ったが如何やら彼等はアレを災害級と判断した様だ。
俺自身もその推察は間違い無いと断言できる――と言うのも俺の中で記憶に新しい災害級と言えば、迷宮の九十階層に居たヨルムンガンドと百階層のカオスネグロだ……まあ、前世を除けば、それ以外の災害急に出会したことなど無いのだから記憶に新しくて当然と言えば当然なのだが……。
ともかく、アレから放たれる尋常ならざる気配はヨルムンガンドを上回っており、ならば当然、その階級は災害級に該当すると言える。
しかしレベルの差があったとは言え、カオスネグロ程の脅威――もとい絶望感を感じる事はない。それは俺が成長したと言う証でもあるが、とにかく何とかしようと思えば何とかできると言うわけだ。
それにしても、落ち着いたりしなかったりでほんと、ある意味賑やかなパーティーだなぁ……。
「そろそろ俺達は行くがロッソたちは如何するんだ?」
「如何するって……お前まさか彼処に行くつもりなのか?」
「あぁ、そのつもりだが」
「……正気か……?」
「俺だって冒険者だ。勝算無しにこんな事は言わないよ」
「だが……いや、分かった。正直アレに勝てるかどうかなんて分からないが、お前らだけを行かせる訳にはいかねぇ……それに此処は俺たちの街だ。関係無い奴に任せて自分達は何もしないってのは違うだろ……だから俺も行く」
「……プライドは時に人を傷付けるぞ」
「プライドなんかじゃねぇ――これは俺の意志だ!」
「なら俺も行こう――」
「ヴェルドゥラ……」
「私も行くわ――アレを放っとく訳にはいかないもの」
「そうだね! やられた分の仮はしっかりお返ししないとね! 私達じゃ無理だから主にアルス君がだけど!」
「アルジェ、ヴェルデ……」
「分かった。元々止めるつもりはないし相手はアレだけじゃなく他の魔物もいるからな。人数が多いに越した事はない――」
こうして俺達は《第一階位魔術》【フィジカルブースト】で自身に身体強化を施すとそのまま中心街に向けて駆け出すのであった。
その時、俺とリリムが無詠唱で魔術を行使したのを見て驚いた彼等だか、それはまた別の話――。
♢♢♢♢♢
駆け出してからおよそ十分――最早中心街は目と鼻の先と言ったところまで辿り着くとその全貌が明らかになっていった。
冒険者と騎士団の尽力があってか魔物の数はかなり減っており、残すところ僅か数匹程となっていた。
しかしどうやら、それがイコール問題の解決とはなっていない様で、魔物の数が減って尚も建物は次々と壊されていく――たった一匹の魔物によって。
そして――
「マズいっ――!」
まさに今、その魔物の脚が近くで立ち尽くしている騎士に向かって振り下ろされようとしていた。
直感で分かる――あの一匹の魔物こそが今回の事件の元凶であると――黒い靄が奴から発生しているのが何よりの証拠だ。
気付けば俺は《技能》【瞬歩】を連続発動して目先にいる騎士を救うべく駆け出していた。
リリム達も俺の行動に気付くと言葉を交わす事なく道中、道を塞ぐ魔物達に魔術や技能やらで攻撃をしながら援護に回ってくれた。
おかげで奴との距離はどんどんと縮まって行く。
355――305――255――よく見るとその騎士は他の騎士達とは違い少し派手な見た目をしていた。
205――155――105――迷宮で手に入れた黒コートに魔力を流し障壁を展開する。
55――5――そして――
ドゴォォン――!!
衝撃波と激しい音が鳴ると同時に、展開した障壁に黒い魔物の重い一撃が乗った――正に間一髪と言ったところか、何とか救助に間に合うことができた。
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