【連載版】断罪の不死者〜転生した俺は最愛との約束を果たす為旅をする〜

ノベルバユーザー519900

記憶

 どうしてこんな事になっているのだろう……過去を振り返ってもよくわからない。昨日は魔王と呼ばれる存在を倒した祝杯パーティーで、一日中飲んだり騒いだりして疲れ切った俺は、個室のベッドで寝ていたはずなのに……目が覚めたらそこは俺が寝ていた個室では無く、教会前の広場で昨日は無かったはずの処刑台の様な場所に居た。動こうにも何故か手足を枷で拘束されていて動くことが出来ない。


 そしてその周囲には何故か希望の様な眼差しで俺の事を見上げている人達、その中には、昨日の祝杯パーティーに参加していた人達も居た。


  (いったい……何が起きてるんだ?)


  突然の事で何が起きているか分からなかった俺はそんな疑問しか出てこなかった。


 しかし、そんな疑問の答えがすぐにやってきた。


  「皆の者、よく聞け!」


 その声は俺の右隣から聞こえてきた。そこには祭服を身に纏った男とその後ろに数人の魔術師が控えていた。


  「おぉー!あれは教皇様じゃないか!」


 周囲にいる人達の誰かがそんな事を言った。


  「我々は今まで、魔族の脅威に晒され続けていた!奴等の圧倒的な強さに恐怖し、もはや我らには希望は無いと思い、絶望する日々であった!」


 教皇と呼ばれていた男が周囲の人達に聞こえるくらいの声で話し始めた。


  「しかし!そんな日も終わり、今日から再び平和な日々が訪れるであろう!それも全て此処に居られる神の使者である勇者様が魔王を倒してくれたお陰である!」


  「「「おぉー!」」」
  「「「勇者様ぁーー!」」」


 教皇が勇者を称賛する様な発言をすると、周囲の人達が次々と歓声を上げる。


  「しかし、いつまでも勇者様に頼っていては真の意味で我々の平和は訪れない!これからは我々自身が平和が永遠と続くよう努力しなければならない!何より!勇者様は神の使者であり、平和になった今いつまでも我々の手元に置いておくのは神に対する不敬である!故に神の元へ返さなければならない!――よってこれより勇者様の帰還の儀式を行う!」


  (帰還...…そ、そうか!元の世界に帰れるのか!...でも何で手足を拘束する必要があるんだ?……これじゃぁまるで――)


 そんな事を思っていたら後ろに控えていた魔術師達が何らかの詠唱を唱え始めた。すると、自分の足下から魔法陣が浮かび上り、――次の瞬間、


  「うわぁぁぁああがぁぁぁあぁぁああ」


 今までに感じた事の無いくらいの痛みの衝撃が体全身に走り始めた。


 まるで血液が体全体を循環してるかの如くその激痛が体全体を走り続ける。そしてそのあまりの痛みに涙を流し、鼻水は出続け顔が酷く汚れていた。


  「がぁぁぁぁあぐぁぁあが、あぁぁあ」


 助けを呼ぼうとしてもその痛みに耐える事が出来ず唯叫ぶ事しか許されない。


 そこでようやく自分の置かれてる現状を理解し、さっき思った事も確信に変わった。
 ――これは間違いなく――殺される。


  (い、嫌だ!だれか!助け――)


 現状を打破すべく、痛みで叫ぶ事しか出来なくても、俺の異変に気づいてると信じ、周囲の人達に目を向けると――其処には、まるで奇跡を見たかの様に眼を輝かせている人達、中には涙を流している人も居た。俺にはその光景が狂気に見えた。


  (なんで?……なんで!なんで!なんで!なんで!どうして!?そんな眼で俺を見てるんだよ!!誰か…気付いてくれ!……気付いて……気付いて……気付いて……気付け気付け気付け気付け気付け気付けよぉぉぉぉおおお!!)


 どれだけ泣き叫んでも、彼等は気付かなかった。


 それから暫くすると、腰から下の部分――下半身に痛みをかんじなくなっていた。何故かと思い其処に視線を移すと――消えていた。


 それは、比喩とかでもなく本当に消えていた。光の粒子となって消えていた。


 その光景が俺をもうじき死ぬという事を現実付させた。


  (い、嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!)


 光の粒子はをどんどん浸食し俺の体を消していく。


  (消えたくない!消えたくない!消えたくない!消えたくない!消えたくない!消えたくない!消えたくない!)


 やがて残ったのは頭だけとなり――


  (死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!)


 叫ぶ事が出来なくなり、耳が聞こえなくなり、眼が見えなくなり、そして――


  (あ、――――死んだ――)
























 ♦︎












(ここは……?)


 其処は辺り一帯暗闇の世界。


 音もしなければ、臭いも無い。


 これが死後の世界と言うのならば、これ程怖いものは無い。
 人は、死んだら、天国へ行くとか言うが、そんなのは嘘だ。
 いや、もしかしたら俺だけがこうなのかもしれない。


 何も見えないし、何も感じない。
 声を出すことすら出来ない。


 俺にとっては、これが事実。
 これが死。


 怖い怖いと、唯そう思う事しか出来ない。


 それからどれくらい時間が経ったのだろうか。
 もう、考える事さえ馬鹿らしくなってきた俺は、この暗闇の中を、身をまかせるがままに漂っていた。


 その時、僅かな光が見えた。


 今にも消えそうな弱々しい光だった。しかし、何故かその光から、強い意志のようなものを感じた。


 お願い。戻ってきて――と。


 気付けば俺は、その光に向かっていた。


 この暗闇から脱する事が出来るのならば、その光が善か悪なんて最早どうでも良かった。


 やがて光の元まで辿り着くと、まるで先程までの弱々しかったのが嘘であったかの様に、強く光だし、俺の事を優しく包み込んだ。


























 ♦︎










 眼を開けると其処は、先程までの暗闇の世界とは違い、辺り一帯に広がる色取り取りの花が咲き誇っている花庭だった。
 中には、今までに見たことの無い花も咲いていた。
 咲いている花はどれも美しく、一輪一輪が輝いているように見えた。


 一体此処は何処なのだろうか?


 俺がそう疑問に思っていると、背後から声を掛けられた。


  「気づきましたか?」


 背後を振り返ると其処には、一人の美しい女性がいた。


 腰まで伸びた透き通るような白い髪。
 容姿端麗で、周囲を惹きつける程の魅惑な瞳をしている。
 チリやホコリなどを一切受け付けないと言わんばかりの純白のドレスは、彼女の美しい容姿をさらに助長させている。
 汚れなく、むしろその佇まいから、神々しさを感じる程美しい。


  「あ、あんたは?」


 俺は、そのあまりの美しさに見惚れ、言葉を失いかけたが、なんとか声を出すことができた。


 「私の名前は、ディーティアです」
 「ディーティアって……まさか女神の?」
 「はい」
 「って事はここは……」
 「はい。ここはアルテンシアの神々が住まう世界、中でも私が住んでいる場所――『グロウ・ガーデン』です」


 俺は、改めて辺りを見渡す。


 もし、天国というのが存在しているならばこう言った場所を指すのだろう。


 それくらいに美しかった。


 「俺をここに連れ出したのは……」
 「はい。貴方をここに連れ出したのは、私です。一か八かの賭けでしたが、貴方が私の呼びかけに応えてくれて良かったです」


 そうか、じゃああの時感じた強い意志は彼女だったのか。


 「ありがとう。お蔭であの暗闇から脱する事が出来たよ」
 「いえ、私に出来ることはこれくらいでしたから、それに私は、貴方に謝らなければいけません。貴方をこちらの世界の事情に巻き込んでしまっただけでなく、あんな目に合わせてしまった」


 そうだった。長い間あの暗闇の中にいたせいで忘れていたが、俺は死んだんだった。それも、助けた人達に裏切られるという形で。
 思い出すと、憎悪よりも恐怖の方が強く蘇ってくる。


 「……なんで……なんで俺は、殺されたんだ?
 俺は人類の為に魔王を倒したのに、なのになんで……」
 「…」
 「なぁ、教えてくれよ……なんで俺は殺されなきゃならなかったんだ!?」
 「それは――」










 それから俺は、彼女に自分が殺された理由だけで無く、アルテンシアの真実についても教えてもらった。


 曰く、神は、二種類に別れるという事。


 地球やアルテンシアだけで無く、宇宙に広がる様々な星は、元々一つの星であったという。


 神々は、その星を『原初の星』と呼んでいるらしい。


 その『原初の星』が何らかの出来事によって崩壊し、いくつかの星に分裂し、それが地球やアルテンシアであるらしい。


 そして、先程言ったように、神には、二種類存在する。
 それが『第一世代』と『第二世代』という。


『第一世代』は、世界がまだ一つだった頃、『原初の星』の時から存在していた神々のことを指し、『第二世代』は、世界分裂後より誕生した神々のことを指す。


 当然『第一世代』の神々の方が『第二世代』よりも上位の存在であり、『第一世代』が管理している星の方が上位の星ということでもある。


 一つの星に対し、『第一世代』は、一柱で管理し、『第二世代』は、複数で管理しているらしい。


 地球は、『第一世代』の神が管理しており、アルテンシアは、『第二世代』の神々が管理しているという事で、地球の方がアルテンシアより、上位の星になる。


 元々、アルテンシアの神は四柱だったが、その中に裏切り者がいた。
 そいつの名は、フォーリア。
 フォーリアは、俺をアルテンシアに召喚した神で、その正体は、『第一世代』の神。
 そして、一柱であるタビアという名の自然の女神がフォーリアが何かをしようとしている事を知ってしまい、消されてしまった。


 今では、アルテンシアの八割近くがフォーリアに支配されてしまっている。
 そして自分の都合の良いように、アルテンシアの世界常識を改変した。
 そして、最もその影響を強く受けているのは、エルトリデ皇国。


 エルトリデ皇国は、俺が召喚された場所であり、殺された場所でもある。


    彼の国は支配されて居るが故に俺が『帰還の儀』と称して殺されようとしてるのを目の当たりにしても誰も気づくことは無かった。
    何故なら彼等は本気で『帰還の儀』だと――神の奇跡だと信じていたからだ。
    それ故にあの時、俺が苦痛で泣き叫んでいた時も彼等の目には俺が自分たちとの別れを悲しんでいるとしか写っていなかったのだ。


    そもそもの話。今回の人族と魔族の戦争でどちらかを悪とするならば、それは人族の方であるらしい。
    今回の戦争の原因。それはフォーリアの支配拡大を防ぐ為のものであったらしい。
    しかし、俺が勇者として人族側に手を貸してしまったことにより、魔族が敗北してしまった。その結果、フォーリアの支配は拡大してしまった。


    そもそも何故フォーリアは、同じ『第一世代』の神が管理する地球から俺を召喚することができたのか――


 ディーティア曰く、本来、同じ世代同士の神の力は同等らしいのだが、フォーリアは、タビアの力を取り込んだ為、他の『第一世代』よりも少し強くなった。


 そして彼は、上位である星の地球に干渉し、その力を持って地球神を倒す事は出来なくとも、封印くらいは出来てしまった。


 その結果、地球もフォーリアによって支配されてしまった。


 フォーリアが何を目的に動いているのかは、分からないが一つわかる事は、フォーリアは、自らが強くなる事を望んでいるという事。


 ここまで長々と語ってきたが、結論から言うと、フォーリアは、上位の星である地球から俺を召喚し、勇者として育て、最終的にその力を取り込んで、自身を強化したと言う話だ。








 「はは……じゃあ俺は、最初からフォーリアが強くなる為だけに利用されてたって事か」


 自分の殺された理由を知り、それがただ、フォーリアという神が強くなる為だったと言う事実に俺は、呆れて思わず笑ってしまった。


 「其処でお詫びとして、貴方を転生させようと思います。
 勿論何か要望があれば応えますよ。
 如何ですか?」


 また生きることができるのは有難い。
 でも生きるという事は、死ぬ事に直結する。
 正直またあんな想いをするのは嫌だ。あんなの、恐怖以外のなにものでもない。
 だから俺は、永遠に生き続ける命が欲しい。つまりは――


 「……なら俺を不老不死にしてくれ」


 「……分かりました。しかし、不老不死という存在は、アルテンシアには存在しないので貴方の魂に定着させるには、時間が掛かります。
 なので暫くは、私のもとですごしませんか?」
 「あぁ、そうしてくれると助かるよ」


 こうして俺は、彼女のもとで世話になる事になった。








 それからどれくらい時間が経ったのか、時間の概念がないここ、神界ではどのくらい経ったのか分からないが、下界は、俺が勇者として活躍していた頃からおよそ、二百年経っていた。
 それくらい長い間、彼女と生活を共にしていた。


 その間、色々な事があった。


 ゼノスと名乗る邪神――では無く、戦神が顔を出しに来たり。


 俺と同じ地球からアルテンシアに迷い込んでしまった人達。
 そしてその人達が『スタンピード』と呼ばれる事件から人々を守り、勇者と称されるようになったり。


 気付けば「ティア」「トウマ」と、お互い愛称で呼び合うくらい、親しくなったりした。


 だがそれだけじゃ無い。何よりも俺は、彼女の人となりに触れ、彼女の事を異性として意識し始めていた。


 しかし、お互いの立場の違いやら何やらで、なかなか言い出せずにいた。


 そして約束の日は、来てしまった。






 「……それではトウマ、これより貴方を転生させます」
 「……」


 本当にこのまま別れてしまっても良いのだろうか


 「トウマ?」
 「……」
 

 否!俺はこの気持ちに嘘をつきたく無いし、逃げたくない!


 だから伝えよう。俺の想いを――


 「ティア...君にどうしても伝えたいことがあるんだ」
 「...…はい、それはなんですか?」
 「俺は、君の事が好きだ」


 俺がそう自分の気持ちを伝えた途端、彼女はいきよいよく、俺に抱き付いてきた。
 その身体は、僅かに震えていた。
 もしかして泣いているのか?


 「遅いですよ、ばか....…私このまま何も無く御別れしてしまうのでは無いかとずっとずっと不安でした」


 そうか、俺だけじゃ無かったんだ。彼女もまた、俺の事をちゃんと異性として見てくれていたんだ。


 「ごめん、本当はこの気持ちを伝え気はなかったんだ...…君は、神で俺は人間だ。立場が違いすぎる。だからこのまま別れるのか正解なんだろうと思っていた」


 彼女は、何も言わずに俺の言葉に耳を傾けていた。


 「でも、やっぱりそれは出来なかった。この気持ちに嘘はつけない。俺は、君が神とか関係なく、君の事が好きなんだ」


 「トウマ...…嬉しいです。私もあなたの事が好きです」


 その言葉を聞けて心嬉しくなった俺は、自然と彼女の腰に回していた手を肩に置き、正面に向き合った。そして、ゆっくりと顔を近づけ合って、閉じた唇を重ね合い、口付けを交わした。


 彼女の柔らかな唇が直に伝わってくる。
 初めてのキスは、レモンの味とか言うが、緊張やらで頭がいっぱいだったからあまり分からなかった。
 ただ、ほんのり甘かった気がしたのは、きっと間違えではないだろう。 


 「ティア……」
 「はい」
 「また会おう……」
 「はい……必ず……ではこれより貴方を転生させます」
 「……」
 「トウマ、忘れないで、私は貴方の味方です。
 それは私だけで無くゼノスも、そしてこれから貴方が出会う人たちの中にもきっと、貴方の味方になってくれる人はいます。だから、折れないで」
 「あぁ、ありがとうティア」

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