勇者召喚されたので復讐します〜俺は決しておまえらの事を許さない・・・〜

ノベルバユーザー519900

勇者召喚されたので復讐します〜俺は決しておまえらの事を許さない・・・〜

 最近ふと思う。充実した人生って何だろうって?

 家族が欠けている事なく、関係も良好である事?
 友達がたくさんいる事?
 親友と呼べる存在が居る事?
 恋人がいる事?
 勉強ができる事?
 運動ができる事?

 第三者は、これらの条件から相手の人生を勝手に決めつける。

 例えば、『恋人がいるお前はリア充だ』みたいな――。

 他人の評価――それもまた充実した人生だろう。何故なら他人からそう見られてると言う事は、少なくとも悪いイメージは抱かれていないのだから。
 しかし何よりも重要なのは自分がどう感じてるかではないだろうか。

 俺には父と母、そして歳の離れた妹が居た。
 決して多くは無いが、自分の趣味などを気軽に話せる友人がいた。
 将来を約束した恋人がいた。
 勉強は苦手だったが運動はそれなりに出来ていた。

 こうして振り返ってみると、自分は決して不幸ではなく、人の縁に恵まれ、それが当たり前かのように毎日が楽しいと感じていた。

 つまり自分は充実した人生を送っていたのだろう。

 充実した人生とは、そういった何気ない日々を無意識に当たり前だと感じる事だと俺は思う。

 しかし、当たり前の日々とは決して約束された物では無い。明日になったらそれが突然終わると言うこともある。

 現に俺は当たり前だと思って居た充実した日々を突然奪われたのだから――。






 ♢♢♢♢♢





「勇者アユムよ、貴殿がこの地にやって来て半年の時がすぎた。この半年は、貴殿に魔王を討ち取る力を身につけてもらう為に必要な時間であったが、如何であろうか?」
「……お陰様で今なら何でも成さそうなきがします……」
「おぉ! それは良かった! では早速で申し訳ないのだが、これより貴殿には魔王を討伐するべくこの地を出て魔族どもが住まう西の大陸へと向かってもらう。時は来たのだ!」
「……」

 勇者としてこの世界に召喚されてから半年が経った。
 これまで俺は力を手に入れるべく、武術や魔術など分け隔て無く、鍛えて来た。
 ただそれは決して魔王を倒すためでは無い。

「如何したのだ? ゆう「バインド」なっ!?」

 俺が唱えた魔術が鎖となり、王様、そして隣にいる王女を含め、此処にいる俺以外の全員を拘束する。

「アユムよ! これは一体何のつもりだ!?」
「……ふ、ふは、あははははははは!!」 
「な、何を笑っている!?」
「これが笑わずにいられるか! だって漸く、漸くなんだよ!」
「漸く? 何の事だ! 答えろアユム!」
「あぁ、王様。あんたの言う通り、時は来たんだ……アンタ達に復讐する時がな!」
「復讐だと!? 何をふざけた事を!」
「ふざけてなんかないさ、俺は本気だ」
「なに!?」
「なぁ王様。俺には歳の離れた妹が居たんだ。両親は共働きだから妹の面倒は俺が見てたんだ。幼稚園の送り迎えとか、ご飯とか色々な。それなのに……突然、俺が居なくなって妹は如何なると思う!? それだけじゃない。俺には将来、結婚して一緒になろうって約束した恋人がいたのに、永遠に果たせない約束になってしまった! それも全部、アンタらのせいだ! 何が勇者召喚だ! お前らのやった事なんてただの誘拐だろ! しかも国を挙げての誘拐だ、そこらの盗賊よりもタチが悪い! なぁ、そう思わないか!?」
「それは……貴殿には悪い事をしたと――」
「思ってないだろ!? だから毎日毎日俺の目の前で楽しそうに話をしてるんだろ! 家族と大切な人との日々を奪われた俺の目の前でなぁ! 本当に俺の苦しみを分かってるならそんな事はしないはずだ! ……だから決めたんだよ、復讐するって」
「……我々を如何するつもりなのだ?」
「そんなの決まってるだろ。お前らには俺と同じ苦しみを味わって貰うんだよ! 家族と引き離される孤独という名の苦しみをなぁ!!」
「「「「――っ!?」」」」
「アンタらのおかげで俺は世界が複数存在している事を知った。そして世界と言うのは常に一方通行で一度来たらもう引き返せないと言うことも……だからこれを利用して今からお前ら一人一人を別の世界に送り込む。そこで孤独を味わうが良い、それが俺の復讐だ!」

 俺のその言葉の意味を理解した皆が皆、「やめてくれ」と泣きながら懇願してくる。

「あぁ、良い。それだよ、その顔が見たかったんだ! アンタらの絶望に染まるその顔が! ……これでお別れだ《ゲート》!」

 転移の魔術を唱えたのを最後に、この場には俺以外、誰も居なくなった。


 ♢♢♢♢♢


 あれから一年。現在俺は俺を召喚した国から遠く離れた山奥に家を構え、一人ひっそりと過ごし、何も無い日々を送っている。

 こうして時間が出来てしまうと如何しても、家族の事などに思い馳せてしまう。

 両親は喧嘩せず仲良くやっているだろうか。
 妹は、俺が居なくても大丈夫だろうか。
 友達は元気にやってるだろうか。
 恋人は新しい彼氏でも出来てしまったのだろうか。
 皆んな、少しは俺の事を心配してくれているのだろうか。 

「皆んなに、会いたいな……」

 そう言えば友達が読んでる小説に、死んでしまった主人公が別の世界に転生するって言う異世界転生ってのがあったな。
 俺もここで死ねば元の世界に帰れるのだろうか。

「……きっと無理だろうな」

 復習とは言え、他人の幸せを奪ったんだ。そんな俺を神様が許してくれるわけないだろう。
 でも、夢で家族と会う事くらいは許してほしい……。

 部屋中に甘い木の匂いが漂う中、俺は、重くなった瞼をそっと閉じ長い眠りについた。

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