神様、別にアンタにゃ何も望むまい。でもどうか、煙草くらいは、吸わせてくれよ。

椋畏泪

気分は上下する。現状は変化ない。

 ひとまず歩き疲れたことで、近所の公園へ一休みしようと思い立った。それほど離れていないはずだったが、先刻自動販売機を目にしたことで、喉の渇きが加速度的にひどくなってきている。

「……。くそ、マジで喉乾いたな……」

 呟くと、さらに乾きを自覚していった。まだ冬の寒さが残る気候ということで、それほど喉が乾くことはないだろうとたかを括っていたが、感想がひどかったらしい。

 俺は改めて前日の自分と、今朝の自分を恨んだ。ギャンブルに負けなければ、こんなことで苦労をすることも無かっただろうし、今朝もう少し様々なことを考えていれば、家で水を汲んでおくなりして回避できただろう。つくづく計画性のない自分の性質が嫌になる。

 道路沿いを走る運送トラックには、冷凍食品で有名な某企業のロゴが描かれており、それすらも俺自身の苛立ちを激しくしていった。

「大丈夫、もう少し……」

 イライラを奥歯の下に噛み締めるように言い聞かせ、ニコチン不足と水分不足の自分を諌めようとする。ともすれば、通行人にさえ怒りをぶつけてしまいそうになるほどの激情で、背骨と顎の下が突っ張るような感覚がした。

 自動車が俺の横の道路を通るたび、排水溝の蓋の部分をガタガタと小気味よく鳴らす。少し目を上げると、次の目的地にしていた公園が目に入り、妙な安心感を覚えた。先ほど手に入れた百円玉のことも思い出し、言いようのない充足感と、目標金額の三分の一しか集まっていないことでの絶望感とが混ざり合い、己を鼓舞する奇妙な活力へと変化していった。

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