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神様、別にアンタにゃ何も望むまい。でもどうか、煙草くらいは、吸わせてくれよ。

椋畏泪

金がない。

 目を開けると、汚い天井と汚い床の両方が見えた。別に散らかっているわけではなく、築年数から来る、汚さ。床には昨日ヤケ酒をした残骸と、その空き瓶に無理やりねじ込まれている煙草の吸い殻だけがあった。

「あぁ……、クソ。やっちまった……」

 徐々に覚醒してくる意識の中で、俺は昨日の失敗を思い出した。

「競馬だけでやめときゃギリギリでも行けたのに……」

 一人呟き、端のほつれた毛布に再度顔を埋めた。

 昨日、競馬に行った。そして、こともなく、一日通して三万円スった。まぁ、それだけならまだ良い。しかし、俺の悪癖がその負けた事実だけで簡単に引き下がらせてはくれなかった。

 競馬のレースが終わった時刻は、大体夕方五時を過ぎたくらいだったかと思う。三万円という、俺にとっては大金を失って、これからどうすべきかを真剣に考えた。ここで引き下がれば、贅沢さえしなければ今月はしのげることが分かってはいたが、酒や煙草といった嗜好品類を我慢しなくてはならないことも、同時に分かった。そして、俺がついさっき失った三万円がありさえすれば、こんな節制はしなくても良かったのだと考えると、悔しい気持ちや喪失感を、みるみるうちに怒りへと塗り替えられていった。

 やってやる。そう考えてからの行動は早かった。競馬の施設の近くにあるパチンコ屋に入り、最近流行の最も荒い台に座った。

 パチンコは、一定確率で当たる。だから、こんなにも負けた俺を、神様は必ず救ってくれる。つまり、負けた分は返ってくる。いや、全額返ってこなくても良い。せめて半分戻ってくれば、今日の俺は大人しく帰る。だから頼む、神様。一度でいいから大当たりを見せてくれ!

 昨日の俺はこんな風に考えていた。まぁ、今考えれば初詣にさえロクに行かない俺を、どんな神様が救ってくれるのかは疑問である。しかし、件の願いは予想していたよりも早くに訪れる。

 座って十分足らず、金額にして三千円目で大当たり。しかもこれが中々に連チャンした。そして連チャン終了後の画面には、俺が切望していた等価換算で約一万五千円分の出玉が画面に表示されていた。

 内心、ほっとしていた。精神的に余裕を取り戻した俺は、ひとまず落ち着くためにも煙草と飲み物でも買って小休憩を挟むことにした。

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