一人暮らし
第2話 アルバイト
春になり、新生活がスタートする季節を迎えた。
初めて両親の元を離れるのは、どうしても不安だ。事前に、母と一人暮らしのことについて話し、次のように約束をした。
①実家から食材が送られてくるので、朝昼夜それを調理して食べること。外食禁止。
②勉強に勤しむため、お小遣いは月1万円。サークル・バイト禁止。
③食費や家賃、インフラなどは両親が負担。
「るん、できるわね?」
「大丈夫よ、ママ。わたししっかりやるから。」
「本当にるんはいつも言うこと守って偉いわね。」
父は、人生一度きりの大学生活なんだからもっと楽しませた方がいいと言ったが、母は甘いこと言ってたら弁護士になれないと叱責した。父は私へ救いの手を差し伸べたのかもしれないが、私自身は勉強と部活動しかしてこなかったから気にならなかった。むしろ東京の大学に通わせてくれたことに感謝していたのもあり、母に同調した。完全に実家では母に軍配があがることが多い。
荷物をまとめ、東京に降り立った。
国立関東大学は、都会にありながらも自然と調和したキャンパスで、桜が舞い落ち、どこからともなく春の息吹が漂ってくる。
国立関東大学から徒歩10分くらいのところに大久保駅がある。
大久保から新大久保にかけて、所狭しと店が並び、新大久保からは日本随一のコリアンストリートへと続いていく。コスメや韓国料理店が肩を並べるようにしてひしめいている。
そんなコリアンストリートの大通りを脇道に逸れた所に新しい私の住まいがある。縦に細長い鉄筋5階建てだ。その501号室。外観は寂しく、階段しかないので、引越しの搬入作業をする際は業者がとても大変そうだった。両親にも手伝ってもらいどうにか引越しが終わった。
決して広くはないが、1Kで1人暮らしとしては十分な機能を兼ね備えている。
新しい生活が始まる。引っ越してみると実感が湧き、学業に勤しむ自分の姿を想像した。
大学に入学してからももちろん、母の言いつけ通り、サークルやバイトはせず、勉強に勤しみ朝昼夜と自炊を心掛けた。
しかし、2ヶ月ほど経った6月のある日。
るんは徐々に、新生活に疲れが溜まってきていた。実家にいれば手伝うことこそあったものの、洗濯や皿洗い、掃除も全て自分でしなくてはならない。それに加えて、毎日の勉強、朝起きて朝ごはんを作り、昼のお弁当、そして帰ったら夜ご飯を作る。疲労が蓄積し始めていたのである。
「1人でやるってこんなに大変なんだぁ〜。」
夜、寝る前に溜めていた皿洗いをしながらふと本音が出た。
その日は倒れるようにベッドに入った。
カーテンの隙間から光がくさびのように差し込む。
雨の晴れ間特有の、あぶらっこい陽射しだ。
(あれ…。)
そう思い、時計を見ると、、
「うそ!?もう8時過ぎてる!?」
(大学の講義に遅刻してしまう!)
急いで着替え、大学へと向かう準備をする。
(朝ごはん食べたり、昼ごはん作ってる暇なんてないか。。ままごめん!)
3色自炊をすることを旅立ち前に約束していたが、大学に遅刻するよりマシだ。私はそのまま大学へ向かった。
キーンコーンカーンコーン。
大学中に午前の講義の終わりを告げる鐘が鳴り響いた。
(昼ごはんどうしよう。)
学生食堂で食べようかとも思ったが、人が黒山のように集まっていて席の確保ができそうにもなかった。
そこで、大学の中にコンビニがあったので、コンビニでお昼ご飯を買うことにした。いつも母が作った料理を食べていた私にとって、コンビニのご飯など口にしたことがない。というよりもコンビニで買い物をすること自体が人生ではじめてな気がする。
(こんなに色々な種類があるんだ〜!)
パスタや、ラーメン、お弁当たくさんの種類がある。質素な食生活を送ってきたるんにとって、どれも自分を食べて欲しいと言わんばかりに艶があって美味しそうに見える。
売り上げナンバーワンの文字がるんの目に飛び込んできた。
(唐揚げ弁当か。。でもこれで600円近くするんだ。高いな。。でも仕方ないか。)
会計を済ませ電子レンジで温め、教室に戻って唐揚げ弁当を食べる。
コロモがサクッとしていて、お肉も柔らかくてジューシーだ。付属のマヨネーズをつけると、唐揚げの油とマッチしさらに旨味が増す。
(お、おいしい!!)
魚が主食の実家では唐揚げなんて滅多にお目にかかれないし、ほっぺが落ちるほど美味しく感じた。
家に帰り、母との約束を守れなかったことに自責の念に駆られた私は、生活リズムを見直した。
起床、就寝時間などを見直し、生活リズムを整えるようにした。
しかし、日々の疲れからどうしても1週間に1回くらいは仕方なく、自炊ができない時があった。
月1万円のお小遣い。雑費などで、どうしても出費が出てしまうことも考えると自炊ができないときの食費はあまりにも大きい。
どうにかならないかとインターネットで調べてみた。
副業
節約
アルバイト
(アルバイトか。。103万の壁。。そうなんだ。。)
扶養内で働けば親にアルバイトしていることがバレないと知った私は後ろめたさを感じながらもアルバイトを始めてみることにした。
初めてのアルバイト。
何から始めればいいんだろう。
履歴書。そうだ、書かないと。
でもどこを受けようか。
色々悩んだが、大学も家からも近い方が生活リズムも正せるうえ、勉強もできるという観点から新大久保のコリアンストリートでアルバイトを探してみることにした。
それから数日経ち、とある日曜日、ちょうど家がある脇道に逸れる前の角に梅庵というカフェがバイトを募集していたため面接を受けに行く。
店の前に着くと、一見、木造家屋のように見える。極めて日本風の造りだ。
準備中の札がかかげられた木でできた引き戸を横に引く。
「あの〜すみません。バイトの面接で来ました美山といいます。」
店の中にはヨーロッパを感じさせる模造の植物が飾られていて、いかにも洋風な造りだ。
店の奥から、身長185cmくらいの高身長な筋肉質な肉体をした男性が出てきた。
30代だろうか。短髪で、決してイケメンではないが、口元には髭を蓄えていて男前といった印象だ。
「俺が店長だよ。なかなか面接の時間が取れなくて、オープン前の朝から申し訳ないね。そこ座ってもらえる?」
テーブル席を指さされ、対面になって腰をかけ、履歴書を手渡した。
「ふ〜ん。上京したばかりなのかい?」
「はい。今年の春からです。」
「そうかそうか。で、なんでバイトうちにしようかと思ったの?」
「はい。生活費が必要であるという点と、弁護士を目指しているため、新大久保の立地……」
店長はははんと鼻で笑いながら、私の話を遮りこう言った。
「ははは!そんな真面目に答えなくても大丈夫だよ。君がここに住んでるのも、大学が近辺にあるのも履歴書読めば分かるよ。それに君が真面目なのもよーく分かった。生活費稼ぎたいんだったら、うちは今は少人数でやってるしシフトも入り放題だからちょうどいいと思うぞ。採用だ。採用。」
「あ、ありがとうございます!」
「おう、顔もかわいいし、大歓迎だよ。真面目ちゃん、よろしくな。あ、そうだな。。たしか制服はあったから。。今日からいけるかい?」
「はい!」
やった!はじめて、バイトをはじめられる。
これで、少しは生活が楽になる。
さっそく制服に着替えた。
黒のスキニージーンズに黒のワイシャツを着用した。
ちょうどSサイズがあり、今の私に私にぴったりだ。
「店長。着替え終わりました。」
ロッカールームから出て、声をかける。店長は私の体を下から上まで舐め回すように見ていた。
「おっ!ナイスバディだね〜!若い娘っていいね〜!!」
「えっと。。」
「そんなキョトンとしないでよ〜!あ、店長じゃなくて俺、梅澤拓也(うめざわたくや)っていうから梅澤でいいよ。」
「あ、はい。梅澤さん。」
後から先輩のアルバイトに聞いた話だが、梅澤さんは少し変わっているらしい。
男前な彼だが、体型をいじったセクハラ気味な発言が多いらしい。
と言っても手を出されたなどの悪い噂は聞かないし、普段はとても優しくユーモアがあって人望も厚い。
(いい店長さんでよかった。。)
るんはアットホームなカフェの環境にすぐ慣れた。
初めて両親の元を離れるのは、どうしても不安だ。事前に、母と一人暮らしのことについて話し、次のように約束をした。
①実家から食材が送られてくるので、朝昼夜それを調理して食べること。外食禁止。
②勉強に勤しむため、お小遣いは月1万円。サークル・バイト禁止。
③食費や家賃、インフラなどは両親が負担。
「るん、できるわね?」
「大丈夫よ、ママ。わたししっかりやるから。」
「本当にるんはいつも言うこと守って偉いわね。」
父は、人生一度きりの大学生活なんだからもっと楽しませた方がいいと言ったが、母は甘いこと言ってたら弁護士になれないと叱責した。父は私へ救いの手を差し伸べたのかもしれないが、私自身は勉強と部活動しかしてこなかったから気にならなかった。むしろ東京の大学に通わせてくれたことに感謝していたのもあり、母に同調した。完全に実家では母に軍配があがることが多い。
荷物をまとめ、東京に降り立った。
国立関東大学は、都会にありながらも自然と調和したキャンパスで、桜が舞い落ち、どこからともなく春の息吹が漂ってくる。
国立関東大学から徒歩10分くらいのところに大久保駅がある。
大久保から新大久保にかけて、所狭しと店が並び、新大久保からは日本随一のコリアンストリートへと続いていく。コスメや韓国料理店が肩を並べるようにしてひしめいている。
そんなコリアンストリートの大通りを脇道に逸れた所に新しい私の住まいがある。縦に細長い鉄筋5階建てだ。その501号室。外観は寂しく、階段しかないので、引越しの搬入作業をする際は業者がとても大変そうだった。両親にも手伝ってもらいどうにか引越しが終わった。
決して広くはないが、1Kで1人暮らしとしては十分な機能を兼ね備えている。
新しい生活が始まる。引っ越してみると実感が湧き、学業に勤しむ自分の姿を想像した。
大学に入学してからももちろん、母の言いつけ通り、サークルやバイトはせず、勉強に勤しみ朝昼夜と自炊を心掛けた。
しかし、2ヶ月ほど経った6月のある日。
るんは徐々に、新生活に疲れが溜まってきていた。実家にいれば手伝うことこそあったものの、洗濯や皿洗い、掃除も全て自分でしなくてはならない。それに加えて、毎日の勉強、朝起きて朝ごはんを作り、昼のお弁当、そして帰ったら夜ご飯を作る。疲労が蓄積し始めていたのである。
「1人でやるってこんなに大変なんだぁ〜。」
夜、寝る前に溜めていた皿洗いをしながらふと本音が出た。
その日は倒れるようにベッドに入った。
カーテンの隙間から光がくさびのように差し込む。
雨の晴れ間特有の、あぶらっこい陽射しだ。
(あれ…。)
そう思い、時計を見ると、、
「うそ!?もう8時過ぎてる!?」
(大学の講義に遅刻してしまう!)
急いで着替え、大学へと向かう準備をする。
(朝ごはん食べたり、昼ごはん作ってる暇なんてないか。。ままごめん!)
3色自炊をすることを旅立ち前に約束していたが、大学に遅刻するよりマシだ。私はそのまま大学へ向かった。
キーンコーンカーンコーン。
大学中に午前の講義の終わりを告げる鐘が鳴り響いた。
(昼ごはんどうしよう。)
学生食堂で食べようかとも思ったが、人が黒山のように集まっていて席の確保ができそうにもなかった。
そこで、大学の中にコンビニがあったので、コンビニでお昼ご飯を買うことにした。いつも母が作った料理を食べていた私にとって、コンビニのご飯など口にしたことがない。というよりもコンビニで買い物をすること自体が人生ではじめてな気がする。
(こんなに色々な種類があるんだ〜!)
パスタや、ラーメン、お弁当たくさんの種類がある。質素な食生活を送ってきたるんにとって、どれも自分を食べて欲しいと言わんばかりに艶があって美味しそうに見える。
売り上げナンバーワンの文字がるんの目に飛び込んできた。
(唐揚げ弁当か。。でもこれで600円近くするんだ。高いな。。でも仕方ないか。)
会計を済ませ電子レンジで温め、教室に戻って唐揚げ弁当を食べる。
コロモがサクッとしていて、お肉も柔らかくてジューシーだ。付属のマヨネーズをつけると、唐揚げの油とマッチしさらに旨味が増す。
(お、おいしい!!)
魚が主食の実家では唐揚げなんて滅多にお目にかかれないし、ほっぺが落ちるほど美味しく感じた。
家に帰り、母との約束を守れなかったことに自責の念に駆られた私は、生活リズムを見直した。
起床、就寝時間などを見直し、生活リズムを整えるようにした。
しかし、日々の疲れからどうしても1週間に1回くらいは仕方なく、自炊ができない時があった。
月1万円のお小遣い。雑費などで、どうしても出費が出てしまうことも考えると自炊ができないときの食費はあまりにも大きい。
どうにかならないかとインターネットで調べてみた。
副業
節約
アルバイト
(アルバイトか。。103万の壁。。そうなんだ。。)
扶養内で働けば親にアルバイトしていることがバレないと知った私は後ろめたさを感じながらもアルバイトを始めてみることにした。
初めてのアルバイト。
何から始めればいいんだろう。
履歴書。そうだ、書かないと。
でもどこを受けようか。
色々悩んだが、大学も家からも近い方が生活リズムも正せるうえ、勉強もできるという観点から新大久保のコリアンストリートでアルバイトを探してみることにした。
それから数日経ち、とある日曜日、ちょうど家がある脇道に逸れる前の角に梅庵というカフェがバイトを募集していたため面接を受けに行く。
店の前に着くと、一見、木造家屋のように見える。極めて日本風の造りだ。
準備中の札がかかげられた木でできた引き戸を横に引く。
「あの〜すみません。バイトの面接で来ました美山といいます。」
店の中にはヨーロッパを感じさせる模造の植物が飾られていて、いかにも洋風な造りだ。
店の奥から、身長185cmくらいの高身長な筋肉質な肉体をした男性が出てきた。
30代だろうか。短髪で、決してイケメンではないが、口元には髭を蓄えていて男前といった印象だ。
「俺が店長だよ。なかなか面接の時間が取れなくて、オープン前の朝から申し訳ないね。そこ座ってもらえる?」
テーブル席を指さされ、対面になって腰をかけ、履歴書を手渡した。
「ふ〜ん。上京したばかりなのかい?」
「はい。今年の春からです。」
「そうかそうか。で、なんでバイトうちにしようかと思ったの?」
「はい。生活費が必要であるという点と、弁護士を目指しているため、新大久保の立地……」
店長はははんと鼻で笑いながら、私の話を遮りこう言った。
「ははは!そんな真面目に答えなくても大丈夫だよ。君がここに住んでるのも、大学が近辺にあるのも履歴書読めば分かるよ。それに君が真面目なのもよーく分かった。生活費稼ぎたいんだったら、うちは今は少人数でやってるしシフトも入り放題だからちょうどいいと思うぞ。採用だ。採用。」
「あ、ありがとうございます!」
「おう、顔もかわいいし、大歓迎だよ。真面目ちゃん、よろしくな。あ、そうだな。。たしか制服はあったから。。今日からいけるかい?」
「はい!」
やった!はじめて、バイトをはじめられる。
これで、少しは生活が楽になる。
さっそく制服に着替えた。
黒のスキニージーンズに黒のワイシャツを着用した。
ちょうどSサイズがあり、今の私に私にぴったりだ。
「店長。着替え終わりました。」
ロッカールームから出て、声をかける。店長は私の体を下から上まで舐め回すように見ていた。
「おっ!ナイスバディだね〜!若い娘っていいね〜!!」
「えっと。。」
「そんなキョトンとしないでよ〜!あ、店長じゃなくて俺、梅澤拓也(うめざわたくや)っていうから梅澤でいいよ。」
「あ、はい。梅澤さん。」
後から先輩のアルバイトに聞いた話だが、梅澤さんは少し変わっているらしい。
男前な彼だが、体型をいじったセクハラ気味な発言が多いらしい。
と言っても手を出されたなどの悪い噂は聞かないし、普段はとても優しくユーモアがあって人望も厚い。
(いい店長さんでよかった。。)
るんはアットホームなカフェの環境にすぐ慣れた。
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