俺がマスコットに転生したのは馬鹿な子しか魔法少女になれない世界だった

海道 一人

新たな魔法少女

俺がマスコットに転生し、日向が魔法少女マジカルビーストになってから一週間が経った。
あれから変わったことはなく、俺はマスコットとして惰眠をむさぼり料理をむさぼる生活をしている。
日向のママさんの目が時々冷たくなるような気がするが文句はあの女神、アマーリアに行ってほしい。
あれ以来アマーリアからの連絡はない。
こっちもわざわざ藪をつついて蛇を出すような真似はしたくなかったから放っておいた。


そしてその日は突然やってきた。


とある月曜の朝、俺と日向がその日も遅刻ギリギリで教室に入ってきた時、担任の天音先生と一緒に一人の少女が入ってきた。


その姿を見て教室がざわつく。


それはその少女が目の覚めるような長髪黒髪の美少女だったからではない。


その頭に緑色のオウムのような珍妙な生き物を留まらせていたからだ。
あれは……まさか?


どうやら教室のみんな(日向を除いて)同じことを思っていたらしい。


「……なあ、あれって……」
「やっぱりそうだよな……」
「でも、同じクラスに二人もくるか……?」
「このクラス、ひょっとして呪われてない……」


みな日向とその少女をちらちら見ながらひそひそ囁き合っている。
その気持ちはよくわかる。
先生の顔が明らかにひきつっているが何も言わないところを見ると既に半ば諦めているのだろう。


「はい、みんな~静かにして。
転校生を紹介するわよ~」


そう言って黒板にその少女の名前を書いた。


美登里 美登里よどさと みどり


それが彼女の名前らしい。


「美登里さんはご両親の仕事の都合で越してきました。みんな仲良くしてあげてね。席は日向さんの横ね。日向さん、あとで学校を案内してくれるかな?」
「は~い!」
日向が元気に答える。
たぶんこいつ美登里の事を分かってないな。


「まだ教科書が届いてないから日向さん今日は美登里さんに教科書を見せてあげてくれる?」


「その必要はないわ」


美登里は先生の言葉をはっきりと拒否した。


!?


教室の空気が張り詰める。


「見せてもらったところでわからないから見る必要はないです」


あ、やっぱりこの娘馬鹿なんだ。


「先生、私の事は構わないでください。当てられても答えられないので」


あ~あ、先生うずくまっちゃったよ。


「……じゃ、じゃあホームルームはこれで終わります……みなさん……頑張ってねっ」
そう言い残して先生は教室を走り去っていった。


と、俺のマジカルスマホに通知が。
天音先生からのメッセージだ。
あとで生徒指導室に来てくださいって、マスコットに悩みを吐き出すのはどうかと思うぞ。


「おい、アマーリア!」
俺は念話でアマーリアを呼び出した。
しかし返事がない。


「アマーリア!おい、聞いてんのか!」


「……ふわ~い、何ですか~」
しばらくしてアマーリアの腫れぼったい声がした。
こいつ、寝てやがったな。


「寝てませんよ~、ちょっと昨日の夜に始まったソシャゲのキャンペーンをやってたら遅くなっちゃって、うとうとしてただけですよ~」
こいつ、ぜってー寝てたな。
「そんなことはどーでもいい、なんか魔法少女みたいなやつが転校してきたぞ!どうなってんだ?」
「え~と、ちょっと待ってくださいね~確かこの辺に通知書があったような~あれ、冷蔵庫の上だったかな?」
こいつ本当に女神か?


「あ~、あったありました。お布団の下に敷かれてました~えーとですね、確かに美登里さんは魔法少女ですね~」
「だからなんで魔法少女が二人も同じ場所に揃うんだよ。世界に十人しかいないんじゃないのか?」


「不思議なこともありますよね~通知書には本日より本気狩まじかる高校に入学としか書かれてないんですよね~その辺は本人に聞いてみてもらえますか?昨日から六時間しか寝てないからもう眠くて眠くて」
「六時間も寝たら十分じゃねーか!


……おい、聞いてるのか!おい、こら!」
二度寝しやがった。
あの女神職務怠慢すぎだろ。
しかしこれでこの美登里という少女が魔法少女だという事ははっきりしたようだ。






「わたし、日向日向!ひなたって呼んでね!」
「私は美登里美登里、みどりでいいわ」


二人は先生や俺の悩みはよそに親しげに挨拶をしている。


「わたし、高いところが好きなの。だから放課後に屋上を案内してくれる?」
「え~屋上は生徒立ち入り禁止だよ~」


「そこを何とかするのがこの学校の先輩であるあなたの仕事でしょ。じゃあ頼んだわよ」
「困ったな~まあらりぴーちゃんが何とかしてくれるか!」


おい、俺を都合のいい道具扱いするなよ。
他の生徒は二人の会話を聞かないふりをしている。
既に大体の事情は掴んでいるようだ。






そして放課後、結局屋上へのドアは俺がピッキングで開けた。
でないと日向が力づくでドアノブを引きちぎっていただろうから。


「単刀直入に聞くわ。あなた、魔法少女でしょ?」


屋上に入り、フェンスに指をかけて遠くを見るように美登里が言った。


「そうだよ!私はマジカルビースト!マジカルトランスフォーム!」
日向はそう言うなりマジカルビーストに変身した。


そういや日向が魔法少女って事は公言して良いんだっけ?
まあ学校中に知れ渡っているようなものだが。


「そう……、本当に魔法少女なのね。私もよ」
「ええ~!そうだったの!?」
本当に気付いてなかったのかよ。


「わいは美登里はんのマスコット、ぱろりんや!」
頭に留まっていたオウムもどきが口を開いた。
関西弁なのか。
「ぱろりん……なんかのパロキャラなのか?」
「ちゃうわ!パロットのパロや!」
俺の何気ない一言にも的確に突っ込みを入れてくる。


「この子はね~、らりぴーちゃん!私のマスコット!」
日向が俺の胴体を抱えて持ち上げる。
「らりぴーちゃん?変な名前やな~」
「ほっとけ、っつーかそっちも大して変わらんだろ」


「……ここへは自己紹介をしに来たわけじゃないわ」
美登里が口を挟んだ。


「いずれ分かる事だと思っていたからあらかじめ明かしておいたけど、私が魔法少女だという事は秘密にしてほしいの。そのお願いをしにここに来たのよ」
そうだったのか、てっきり馬鹿だから高いところが好きなのだとばかり。


「まあ高いところが好きだから来たいというのもあったのだけれどね」
やっぱりそうなのね。


「ふーん、そうなんだ。なんで?」
日向は無邪気かつ単刀直入に聞いている。
こういう時に馬鹿は強いな。


「あなた……なんのために魔法少女をしてるの?」


おお、いきなりシリアスな展開?


「う~ん、なんか面白そうだから?」
「私もよ」
駄目だこいつら。


「まあそれは半分冗談なのだけれど。実は私の家は大きな会社を経営しているの。」


そういやテレビでなんとかグループの社長がこの街に引っ越したとかニュースになっていたな。
まさかそれが美登里の親だったのか。




「本来なら私の生活は安泰、と言いたいところだけど、お父様は私に会社を継がせる気はないのよ」


そりゃそうだろ。
魔法少女になるレベルのおつむの娘に会社を継がせるとか自殺行為に等しい。


「まあ私に会社経営ができる訳もないからそれはいいんだけど、お父様は投資信託会社を立ち上げて私が相続する分の財産をそこで管理させているの。これがどういう事かわかる?」
いやわからん。
卒業間近の高校生だったマスコットに経済を聞かないでくれ。
日向なんか既に会話に飽きていてちょうちょを追いかけている。
しかしそれは正しい選択だろう。
魔法少女に大金なんぞ渡したら三日、いや下手したら三時間で使い切る危険性がある。


「つまり、悪党が暴れて経済が悪化すると私の財産が減っていくのよ。私はそれを阻止し、経済を安定させて私の財産を増やしたい。だから魔法少女になったのよ」


立派なんだか俗っぽいんだか。


「同時に私が魔法少女になったと世間に知れたらお父様にも迷惑がかかるかもしれない。そうなるとお父様の会社の株価にも影響が出てしまうわ。だから私が魔法少女である事は秘密にしておいてほしいの。その代わり、私もあなたが魔法少女である事は黙っているし、出来る限りサポートもするわ」
いやー、こいつの場合既に学校中に知れ渡ってるし、おそらくあんたのことももう周知の事実だぞ?


「学校内の事なら問題ないわ。この学校はお父様の息がかかってるからどうにでもなるし」
さらっと怖いこと言うなこの娘は。


「とにかく私とあなたはお互い魔法少女だし利害関係が一致しているはず。どう、悪い取引じゃないと思うけど?」
美登里はそう言って右手を差し出した。


「わかった!」
その手を握りかえす日向。
誓ってもいいが絶対に分かってないだろ。


「先に言っておくけど私のお小遣いは月々一万円なの。だから金銭的な援助は期待しないでね」
割とせこいな。
しかししっかりした父親だ。


話はこれで終わりよ、というので俺と日向は屋上を後にし家に帰る事にした。
美登里はまだしばらく屋上にいるらしい。
本当に高いところが好きなようだ。


「おい、アマーリア、もう起きてんだろ。さっさと説明しろ」
「ちょっと待ってください、今ブックマークしたネット小説が連続で更新されてるんです」
駄目だこいつ。


まあいいや、特に早急な影響はなさそうだしおいおい確認していけばいいか。


俺と日向が校舎から出た時、突然校門から巨大なブルドーザーが突進してきた。
慌てふためて逃げる学生をものともせず真っすぐ校舎へ向かってくる。
な、なんだ?


「おらー!この前の女ーーーー!!!!出てこいや!!!!!」
声の主は……呂怒零痔?
あいつ捕まったんじゃないのかよ?
警察に捕まったはずの呂怒零痔とロードレイダースがまたも徒党を組んでやってきたのだ。
しかも今度は巨大なブルドーザーを箱乗りし、拡声器まで持っている。


「俺が逮捕されたくらいで安心してんじゃねーぞ!俺のパパは代議士なんだ!俺を保釈することくらい訳ねえんだよ!!!お前がここの生徒だって事は制服でわかってんだ!!!出てこねえと校舎ごとぶっ潰すぞ!!!!」
親父の力で出てきたのかよ。
しかもパパって……


「不味いぞ、日向!あいつらお前がこの学校に通ってる事に気付きやがった!かと言ってほっとくわけにもいかないし……待てよ、俺に考えがある!」
俺はそう言って一人の少女に飛び掛かった。
三つ編みメガネの大人しそうな女子だ。


「おい、お前ストッキングを履いてるって事は替えも持ってるだろ?一枚よこせ!」


「ひ、ひいい!?日向さんと一緒の白いの?」
「説明は後だ!さっさとよこせ!」
半ば強引に鞄をこじ開けて案の定持っていたストッキングを強奪する。
六十デニールか、これなら問題ない。
「代金はあとで日向に請求してくれ!」


俺達は急ぎ校舎に駆け戻り、階段裏の人気のないトイレに駆け込んだ。
「よし、日向!魔法少女に変身だ!」
「OK!マジカルトランスフォーム!」


「おらーーー!さっさと出てこい!校舎ごとぶっ潰すぞ!」
がなり続けながら呂怒零痔がブルドーザーで近づいてくる。


そこでマジカルビーストに変身した日向がすっくと立ち塞がった。
「ちょっと待ったー!あなた達の乱暴狼藉、お天道様が見逃してもこの私が見逃さないわ!」


それ、決まり文句にするつもりなのか?


「あーん、なんだてめえは?」


「私は正義の使者、ストッキング仮面!」
そう日向と俺は顔に先ほどのストッキングを被っているのだ。
六十デニールの厚さならばれる事もあるまい。


「その恰好……さてはてめえこの前の変態の仲間か!?」


「変態?何のこと?」


「そ、そんなことよりマジカル……じゃなくてストッキング仮面、あいつらを退治するんだ!」


あいつら余計なことまで覚えていやがって。


「それもそうだね!マジカルダッシュパーーーーンチ!」
日向ことマジカルビーストことストッキング仮面はダッシュでブルドーザーのブレードにパンチをかました。
凄まじい轟音が響き渡る。
が、ブルドーザーのブレードは少し凹んだだけで微動だにしなかった。


「なっ!?」
俺は驚きの声を上げる。
魔法少女の力が通用しないなんて!
というか魔法少女の力ってどういう事が出来るんだ?


「馬鹿め!こいつはただのブレードじゃねえぞ!
クロームモリブデン鋼とハイス鋼、クロムステンレスの三層構造、硬さと粘りを備えた特注品よ!そんなパンチなんざ蚊に刺されたようなもんだ!」


ただの報復行為にそこまでするか?ふつう。
金を持った馬鹿とはここまで無茶なことをするのか。
つくづく美登里の父親は慧眼だったわけだ。
聞く耳を持たず日向はラッシュしている。
しかしブルドーザーは意に介さず日向ごと校舎へと向かっている。
まずい、このままだと校舎と一緒にスクラップだ。


「待ちなさい!」
その時、上空から声がした。


屋上のフェンスに立つ影、あれは……美登里か!?


「神聖なる学び舎への破壊行動、看過できるものではないわ!今すぐ立ち去りなさい!
さもなくば、このわた……わた、わたし……が!」
あ~あ、フェンスみたいに足場の悪いところに立ってるから。
海老ぞりみたいになってるじゃん。
今度は思い切り前のめりになって手をバタバタさせてるし。
あれじゃそのうち落ちるぞ。


あ、落ちた。
でもまあ大丈夫だろう、魔法少女なんだし。


美登里は屋上から落下し、生垣に落ちたと思ったら横っ飛びに飛んで俺達の横に着地した。
既に魔法少女のコスチュームに身を包んでいる。
基本的には日向と同じように襟や裾にフリルの着いた服なのだが、色が……モスグリーンのドットカモ?
髪はポニーテールになっていて、それを同じようにドットカモのリボンでまとめている。
片方の肩は弾帯をタスキのようにかけていて、腰と背中には小さなポーチが付いている。
なんなのこのミリタリー仕様の魔法少女。


「私の名はマジカルソルジャー!平和のため、経済安定のためにお前たちのような悪は許さない!」


「なんだあ?こいつは?こいつもお前らの仲間か?構わねえ、まとめてぶっ潰してやる!」


美登里、いやマジカルソルジャーが登場したことでかえって火が付いたらしい。
ブルドーザーが速度を上げて突っ込んできた。


身構えるマジカルビーストをソルジャーが片手で制する。
「私に任せて」


そう言って背中に背負った小さなポーチに手を入れた。
中から出てきたのは、携帯型ロケットランチャーだった。
何故そんな巨大なものが小さなポーチから?という疑問はない。
魔法少女ならその位やるだろう。


「マジカルHEAT弾!」
そう言ってロケット弾を撃ち込む。
しかし、ブルドーザーは止まらない!


「馬鹿め!HEAT弾のメタルジェットがブレード越しに車体まで届くものかよ!」
あざ笑う呂怒零痔。


「ええ、でもこいつを通す穴は開いたわ」
次にソルジャーが出したのは……擲弾銃?


「マジカルグレネードランチャー!」
ソルジャーの放ったグレネードが先ほどのHEAT弾で空いた穴を通り、ブルドーザーのフロントに命中した。
流石に車体に食らってはひとたまりもないのかブルドーザーの動きが止まった。


「これに懲りたらさっさと尻尾を巻いて帰る事ね」
肩にかかった髪を手で払いながらすまし顔でのたまうマジカルソルジャー。
グレネードランチャーあるんだったら最初から曲射でコクピット狙った方が早くね?


しかし不思議な事に呂怒零痔に焦りはない。


「ふん、勝ち誇るのはまだはえーぜ。足下を見てみな」


「こ、これは?」


俺達が足元を見ると、いつの間にか足首までコンクリでがっちりを固められていた。
周りを見るとロードレイジのメンバーがいつの間にか型枠を組み立てており、コンクリが流し込まれている。
くそ、この手際の良さ、こいつらプロか?
しかもブルドーザーの陰から伸びているのは……ブーム車のホース?




「ダハハハハハハ、馬鹿め!!!ブルドーザーは単なるおとりデコイよ!そいつは速乾性の超強力モルタルだ!もう逃げられねえぞ!」


くそ、ブルドーザーの陰にブーム付きのポンプ車が潜んでいたのか!
モルタルは既に乾き始めていてびくともしない。
周りではロードレイジ達がてきぱきと型枠を積み上げている。
モルタルは足首を超え、ひざ下まで迫りつつある。


「どーよ、このブーム車は。こいつはシン・〇ジラも太刀打ちできなかった代物だあ!お前らごときが敵う訳ねーだろ!」


なんなのそのブーム車に対する圧倒的な信頼は。
しかしピンチなのは確かだ。
さっきからぱろりんが静かだと思ってたらコンクリに頭から突っ込んで埋まってるし。


「このまま頭までモルタルで埋めた後で切り出してPVC流し込んで等身大のフィギュアにしてやらあ!」


犯罪者のわりに妙にマニアックなことをおっしゃる。


「できるものならね」
しかし、ソルジャーは冷静だった。
そしてビーストも。


腰のポーチに手を入れ……取り出したのは……はつり機?


「マジカルコンクリートハンマー!」
「マジカルモールスラッシュ!」


ソルジャーははつり機で、ビーストは素手で一瞬で強力モルタルを破壊した。


「こ、この化け物め……」


いや、ロケットランチャー出した時点で気づけよ。


「か、構わねえ!お前らやっちまえ!」
断末魔の悲鳴のような号令にロードレイジが襲い掛かる。
妙な人望だけはある奴だ。


しかし自由を取り戻した二人の敵ではなかった。
呂怒零痔とロードレイダース達は三分も立たないうちにボロボロにされ、グラウンドに横たわる事になった。


「さ、これで一件落着ね。さっさと帰りましょ」
軽く肩をはたきながらソルジャーがビーストに振り返った。


「しかし、これで良かったのか?魔法少女の事は秘密にするはずだったのに、こんなにすぐに、しかも校内で魔法少女になっちゃって」
「ああ、それなら問題あらへん」
いつの間にか復活したぱろりんが口を開いた。


「わいの特殊能力、催眠電波と認識阻害、認識改編で学校内全員の記憶を改ざんしといたから。あの悪党共も単に学校に破壊活動をしに来ただけという認識にしといたから二人の事は覚えてへんよ」


それマスコットが持っていい能力じゃねーだろ!


「その能力はらりぴーはんも持ってるんやで。マスコットの共通能力やからね」


それを早く言えよ、クソ女神!
つーかマスコットの能力怖すぎだろ!
もはや魔法少女いらねえだろ。


「あなたの事、見直したわ」


変身を解き、何故か一旦屋上に行って美登里が日向にそう告げた。


「まさか素手でブルドーザーを解体するなんてね。しかも五分もかからずに」


「そっちこそ。マジカルアンチタンクマインだっけ?あの大きな腕の付いた車が爆散したのはびっくりしたよ~」


こいつら、俺達があとで記憶をどうとでもできることを良い事に好きかって破壊活動をしやがって。
警察がテロでもあったのかと怯えてたぞ。


「あなたとはこれからも仲良くやっていきたいわ。魔法少女としてだけじゃなく、友達になっていただけるかしら?」
そう言って右手を差し出す。


「もちろんだよ!」
笑顔でその手を握り返す日向。
眼下で警察車両が何台もサイレンを鳴らしていなければ良い光景だったんだが。








「おい、いい加減に説明してもらうぞ」
その日の夜、家に帰って食事をし、風呂に入った後で俺はアマーリアを呼び出した。


「なんで世界に十人しかいない魔法少女がもう一人同じ街に来たんだ?」


「えーとですね~」
そういうアマーリアの姿はスウェットの上下だ。
こいつ、すでに自宅でくつろぎモードに入ってやがったな。


「それが私にもよくわかってないんですよ~ただ、他の女神に聞いてみたら~なんか~魔法少女が増えてるみたいなんです~」
マジか。
「それって……つまり……あほの娘が増えてるって事なのか?」
そうなると世界の危機だ。


「どうなんでしょう~詳しい事は後から連絡があると思うんですけど~とりあえず美登里さんと協力してこの街の治安を守っていただけれればそれで良いと思いますよ~」
釈然としないがこの女神が嘘をついてるようにも見えない。


魔法少女のマスコットになってすぐだが、何かイレギュラーが起きてるようだ。


「は~良いお湯だった。
あれ、女神様来てたんだ」
お風呂に入ってパジャマ姿になった日向が部屋に戻ってきた。


「ねえねえ、三人いるんだしなんかゲームする?私ケルト持ってるよ」
「すいませ~ん、申し訳ないのですが登録してる実況主の生配信が始まるのでそろそろおいとましますね~。
ゲームはまた今度にさせていただきます~」
そう言ってアマーリアは帰っていった。


「ちぇ、つまんないの。しょうがないからまたパパとママとやろうかな。らりぴーちゃんもやるよね?」


結局アマーリアからは何も得られるものがなかった。
しかしまあ今はそれでいいか。
いずれ何か知る事もあるだろう。


それに魔法少女が二人いるというのは何かと心強い。
魔法少女の事やマスコットの詳しい話も聞けるかもしれない。
今はそういう事にしておこう。


「らりぴーちゃん、早く早く~」
「わかったよ、ちょっと待ってろ」
そう言って俺は日向の頭にジャンプした。


既にテーブルにゲームが並べられ、三人の前には五百円硬貨が積まれている。
パパさんとママさんの目が真剣勝負をするかようにギラギラと輝いている。
今はこの勝負に勝つことが先決だ。
なんせ現金を持たない俺が負けたらトイレ掃除が待っている。
この体のサイズでトイレ掃除は流石に避けたい。


「じゃあはじめよっか」


日向の声が部屋に響いた。



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