ブラック企業戦士、異世界で救国の勇者になる
決着
「し、しかしですねえ……物事には順序ってものが……」
俺の気迫に気圧されたのか余裕の態度を保っているが山羊髭男の顔が若干青ざめる。
「もう良いよ、カーリー。」
その時美男子の方が口を開いた。
「彼は本気だ。我々の首を掻っ切った後で己が滅するまで我が兵士達を屠り続けるだろう。」
そう言うと俺に微笑みかけてきた。
涼やかな笑みだった。
この男も俺に命を握られているとは全く感じさせない。
この二人は今この場で葬っておいた方が良いのかもしれない。
そんな直感が頭をよぎる。
だが駄目だ。
今はなるべく無傷でこの場を収める、次の戦争の理由を作らない、それが最優先事項だ。
「わかった。撤退命令を出そう。我々も命は惜しい。しかしこれだけの軍勢だ。準備なども含めて半日ほどかかる事を許してもらえないだろうか?」
「もちろん、我々の命は君に預けておくとも。約束しよう、何もなかったかのように消えてみせるよ。だからもうしばらく時間をくれないか?」
飄々と答えながらも自分のペースに持っていこうとしている。
こういう男が一番油断ならない。
最初はこのヤラートはただの飾りでカーリーが実権を握っているのかと思ったが、実は違うらしい。
しかし俺も伊達にブラック企業で六年間営業をしていたわけじゃない。
この手の人間に対する最も効果的な方法は一つ、有無を言わせずに取るべきラインを提示させることだ。
「駄目だ。一時間以内に全軍まとめてこの俺の視界から消えろ。誰一人残らずだ。」
「今この場で全軍に対して命令を出し、速やかに去れ。貴様ら二人が殿だ。一目散に、わき目もふらずに国に帰れ。」
「貴様は嵐や地震、山火事に対して避難する準備が必要だから時間をくれとお願いするのか?」
「俺は貴様らにとっての災厄だぞ。」
「…………全軍撤退、今すぐにだ。」
しばらくの逡巡の後、ヤラートが口を開いた。
「ヤ、ヤラート様?」
「聞こえなかったのか?今すぐ全軍撤退だ!」
そう叫ぶヤラートの顔にうっすらと汗がにじんでいる。
流石に俺の気迫に気圧されたようだ。
実際ヤラートの命令があと数秒遅れていたら俺は彼の喉を掻き切っていただろう。
本気だったし、そうせざるを得ないくらい体力が限界に来ていた。
「撤退、撤退だ!」
「全兵士に命令、今すぐ撤退せよ!」
撤退の命令が波紋のようにノーザスト軍に広がっていき、大地が動くように兵士が移動を開始した。
「……負けたよ。君には。」
軽いため息とともに肩を落としてヤラートは言った。
「君のような戦士がいるならミッドネアを攻略するのはなかなか骨が折れそうだ。」
「そう思っているなら後ろで弓を番えている兵士に言ってやれ。貴様ら二人の次に命を落とすのはお前だとな。」
ヤラートは一瞬ギョッとしたような顔を見せたがすぐに困ったような微笑みを見せ、側にいた兵士に頷く。
背後から感じていた複数の殺気が消える。
「やはり大した戦士だね、君は。」
それはこちらの台詞だ。
やはりこの男は食えない。
目の前が霞んでくる。
剣を持つ手が細かく震えてきた。
どうやらブレンダンに貰った飲み薬の効果が切れてきたらしい。
この二人に自分が限界だと気づかれてはならない。
幸いノーザスト軍はかなり効率的な軍らしく最後尾の兵達が俺たちのいる場所まで迫ってきていた。
俺は最後の力を振り絞り、ノーザスト軍の後方、橋の袂までジャンプした。
着陸で体をかがめた隙にブレンダンからもらった残りの一本を飲み干す。
再び俺の体に火がともる。
だがこれが危険な状態である事も同時に理解した。
肉体はとっくに燃えカスで、魂に火をつけているようなものだ。
ブレンダンがこれを飲めば命はないと言ったのがよくわかる。
足元には再び開いた傷口から溢れた血で血だまりが出来つつある。
だがこれでまだしばらくは立っていられる。
俺はすっくと立ちあがり、剣を地面に突き刺し叫んだ。
「聞け!ヤラート!今後この地に来た時は一切の容赦はない!貴様が俺を視界に入れる前にその命はないものと知れ!」
ヤラートとカーリーはじっと俺を見つめている。
もしここで彼らが一転反撃に出たら俺に防ぐ力は残っていない。
今だって剣を杖代わりにして立っているのがやっとだ。
だが、その時はせめてあの二人だけは道連れにしてやる。
そう心に決めた。
どの位時がたっただろうか、ひょっとしたら数十秒だったかもしれないし五分だったかもしれない。
俺にとっては永遠に感じるくらいの後に二人は馬にまたがり、振り返ることなく去っていった。
周りに残っていた兵士達も後に続く。
俺は最後の一人の影が丘の向こうに消えるまで見届け、それから気絶した。
俺の気迫に気圧されたのか余裕の態度を保っているが山羊髭男の顔が若干青ざめる。
「もう良いよ、カーリー。」
その時美男子の方が口を開いた。
「彼は本気だ。我々の首を掻っ切った後で己が滅するまで我が兵士達を屠り続けるだろう。」
そう言うと俺に微笑みかけてきた。
涼やかな笑みだった。
この男も俺に命を握られているとは全く感じさせない。
この二人は今この場で葬っておいた方が良いのかもしれない。
そんな直感が頭をよぎる。
だが駄目だ。
今はなるべく無傷でこの場を収める、次の戦争の理由を作らない、それが最優先事項だ。
「わかった。撤退命令を出そう。我々も命は惜しい。しかしこれだけの軍勢だ。準備なども含めて半日ほどかかる事を許してもらえないだろうか?」
「もちろん、我々の命は君に預けておくとも。約束しよう、何もなかったかのように消えてみせるよ。だからもうしばらく時間をくれないか?」
飄々と答えながらも自分のペースに持っていこうとしている。
こういう男が一番油断ならない。
最初はこのヤラートはただの飾りでカーリーが実権を握っているのかと思ったが、実は違うらしい。
しかし俺も伊達にブラック企業で六年間営業をしていたわけじゃない。
この手の人間に対する最も効果的な方法は一つ、有無を言わせずに取るべきラインを提示させることだ。
「駄目だ。一時間以内に全軍まとめてこの俺の視界から消えろ。誰一人残らずだ。」
「今この場で全軍に対して命令を出し、速やかに去れ。貴様ら二人が殿だ。一目散に、わき目もふらずに国に帰れ。」
「貴様は嵐や地震、山火事に対して避難する準備が必要だから時間をくれとお願いするのか?」
「俺は貴様らにとっての災厄だぞ。」
「…………全軍撤退、今すぐにだ。」
しばらくの逡巡の後、ヤラートが口を開いた。
「ヤ、ヤラート様?」
「聞こえなかったのか?今すぐ全軍撤退だ!」
そう叫ぶヤラートの顔にうっすらと汗がにじんでいる。
流石に俺の気迫に気圧されたようだ。
実際ヤラートの命令があと数秒遅れていたら俺は彼の喉を掻き切っていただろう。
本気だったし、そうせざるを得ないくらい体力が限界に来ていた。
「撤退、撤退だ!」
「全兵士に命令、今すぐ撤退せよ!」
撤退の命令が波紋のようにノーザスト軍に広がっていき、大地が動くように兵士が移動を開始した。
「……負けたよ。君には。」
軽いため息とともに肩を落としてヤラートは言った。
「君のような戦士がいるならミッドネアを攻略するのはなかなか骨が折れそうだ。」
「そう思っているなら後ろで弓を番えている兵士に言ってやれ。貴様ら二人の次に命を落とすのはお前だとな。」
ヤラートは一瞬ギョッとしたような顔を見せたがすぐに困ったような微笑みを見せ、側にいた兵士に頷く。
背後から感じていた複数の殺気が消える。
「やはり大した戦士だね、君は。」
それはこちらの台詞だ。
やはりこの男は食えない。
目の前が霞んでくる。
剣を持つ手が細かく震えてきた。
どうやらブレンダンに貰った飲み薬の効果が切れてきたらしい。
この二人に自分が限界だと気づかれてはならない。
幸いノーザスト軍はかなり効率的な軍らしく最後尾の兵達が俺たちのいる場所まで迫ってきていた。
俺は最後の力を振り絞り、ノーザスト軍の後方、橋の袂までジャンプした。
着陸で体をかがめた隙にブレンダンからもらった残りの一本を飲み干す。
再び俺の体に火がともる。
だがこれが危険な状態である事も同時に理解した。
肉体はとっくに燃えカスで、魂に火をつけているようなものだ。
ブレンダンがこれを飲めば命はないと言ったのがよくわかる。
足元には再び開いた傷口から溢れた血で血だまりが出来つつある。
だがこれでまだしばらくは立っていられる。
俺はすっくと立ちあがり、剣を地面に突き刺し叫んだ。
「聞け!ヤラート!今後この地に来た時は一切の容赦はない!貴様が俺を視界に入れる前にその命はないものと知れ!」
ヤラートとカーリーはじっと俺を見つめている。
もしここで彼らが一転反撃に出たら俺に防ぐ力は残っていない。
今だって剣を杖代わりにして立っているのがやっとだ。
だが、その時はせめてあの二人だけは道連れにしてやる。
そう心に決めた。
どの位時がたっただろうか、ひょっとしたら数十秒だったかもしれないし五分だったかもしれない。
俺にとっては永遠に感じるくらいの後に二人は馬にまたがり、振り返ることなく去っていった。
周りに残っていた兵士達も後に続く。
俺は最後の一人の影が丘の向こうに消えるまで見届け、それから気絶した。
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