ブラック企業戦士、異世界で救国の勇者になる
証明
「さっきから何を一人で進めとるんだっ!!!女王様のご知り合いとはいえ、どこの馬の骨とも知らん者が我が国の政治に口を挟むんじゃないっ!!」
そう言いながらズカズカと俺の前にやってきた。
「大体貴様に何ができる?先ほどは何やら怪しげな術を使っていたようだが、それでノーザスト兵二万人を倒せるとでも思っているのか?ああ?」
そう言って顔を近づけてきた。
グラードンの背は俺より頭一つ分位高い。
どうでもいいが恐ろしく口が臭い。
「言われてみれば確かに……」
「二万人に一人で立ち向かうなど、土台無理な話では……」
室内にざわめきが広がる。
「女王様も女王様ですぞ、国を預かる者がこのような口車に乗せられてはっ!」
調子に乗ったグラードンがルノアに矛先を向けた。
ルノアを責める事でこの場での主導権を握ろうという腹積もりだろう。
俺はそんなグラードンに向き直り、一歩進んだ。
「な、なんだ?貴様!この私に何かしようというのか?」
詰め寄られるのかと勘違いしたらしく急に怯みだした。
この男、態度はでかいがいざという時に腰が引けるタイプだな。
そんなグラードンの横を通り過ぎ、俺はみんなが席に着いている巨大な石造りのテーブルに手をかけた。
そして幅五メートル、奥行き三メートル、厚さ十センチはあろうかというその天板を掴み、ゆっくりと持ち上げた。
数トン、いやおそらく十トン近い重量があるだろう天板が音もなく持ち上がる。
場内にどよめきが広がった。
天板を水平に持ち上げ、再び静かにおろす。
天板の上に置かれていたグラスに入っていた水は一滴たりともこぼれていない。
天板を置き、俺はグラードンに振り向いた。
「これでも無理だと?」
「ひっ!」
俺に見つめられ、グラードンはだらしなく床に尻もちをついた。
ようやく俺の力がどういうものか分かったらしい。
もっともそれはこのルノアを含めこの室内にいる全員がそうだったと思うが。
陰で監視しているブレンダンを除いては。
今や室内は水を打ったように静まり返っている。
俺が見せた力に圧倒され、言葉を失ってしまったようだ。
無理もない、普通の人間にはでき得ない事をしたのだ。
俺を見る視線は恐怖に塗られている。
「いや、驚きました。」
静寂を破ったのはソリナスだった。
「凄いとは思っていましたが、まさかここまでとは。」
そう言いながら俺に近づいてくる。
そうして天板に手をかけて持ち上げるそぶりを見せた。
当然天板は少しも動かない。
おそらくここにいる人間全員でも無理だろう。
「この国を救うために女王殿下が召喚されたという事ですが、これほどの力を持っているとは想像以上ですね。」
言葉とは裏腹にソリナスの言葉は天気の話をしてるようなざっくばらんさだった。
「で、本当にさっきの案で上手くいくとお思いですか?」
その何気ない口調のままで突然話を元に戻してきた。
この男、やはり油断ならない。
おそらくこのソリナスを説得できるかどうかがこの作戦実現の鍵となる。
「上手くいく、というよりもそれよりいい方法がない、そうだろ?」
「仮にノーザストの通過を許したとして、そのまますんなり通り抜けてくれるわけはない。よしんば今回は通り抜けたとしても既成事実が出来てしまった以上、今後もそれを要求してくるはずだ。
そうなればこの国の一部が連中の領土になったも同然だ。」
「そして突っぱねたら突っぱねたで、ほんのちょっとでもいざこざが起きたらそれを口実に要求を通すつもりだろう。今、ミッドネアがやらなくてはいけない事は二つ。一つはノーザスト軍を通すつもりはないという意思をはっきり示す事。そしてノーザストにミッドネアを通過するのは割に合わないと戦争を起こさずに分からせることだ。」
「しかし、現実的にミッドネアとノーザストでは軍事力に差があり過ぎて危機感を持たせるのは難しい。だったらどうするか。」
「それはミッドネアにはノーザストにとって未知の力があると思わせる事だ。想像の脅威を連中に与えるんだよ。俺が能力を見せ、俺以外にも俺と同じ能力を持った人間が大勢いると思わせる。これなら最小の労力で最大の効果を得られるし、戦争を起こす必要もない。」
敢えて言葉に熱を込めず、これが事実であるかのように語る。
俺の言葉にソリナスはしばし考え込んだ。
「……確かに、仰るとおりかもしれません。」
「このまま徒に時を重ねてもいずれノーザストは進軍を始めるでしょう。そうなればメノラにいる我が軍ではノーザストを止めることはできません。その前に進軍そのものを止めるというのは確かに理に適っています。」
「仁志殿の力は確かに我々の想像を絶していました。ならば、ノーザストにとっても同じなはず……」
ソリナスはそう言ってドラガルドの方を向いた。
「ドラガルド様、私は仁志殿の考えに賛成いたします。現状、最も現実的な考えではないかと思われます。問題があるとすれば、ここからメノラまでは通常行軍で十日、早馬でも三日はかかるのでそれまでノーザストが進軍を待ってくれるかどうか……」
「ふむ……」
ドラガルドはその言葉に顎髭を摘まみながら唸った。
そして、しばらく考え込んだ後に顔を上げ、ルノアを見た。
「女王殿下、軍を預かる身として儂も仁志殿の意見に賛成しよう。情けない話だが、そこのソリナスの言う通りメノラにあてている軍勢ではノーザスト軍二万は止められんだろう。ならば今は仁志殿の驚異的な能力に頼らざるを得ないようだ。」
「しかし……」
ルノアはそれでも躊躇うように喘いだ。
「ルノア女王。」
俺はルノアに片膝をつき、右腕を左胸にあてて首を垂れた。
「ここで誓う、俺は死ぬつもりはないしこの国の危機をここで見過ごすつもりもない。その上でこの方法が一番だと考えたんだ。約束する、必ず生きて帰り、戦争も起こさないと。だからルノア女王、この国のために決断してくれ。」
ルノアが唇を噛む音が聞こえた気がした。
どの位そうしていただろうか、俺は頭を下げ続けていた。
「仁志様、頭をお上げください。」
ルノアの声がした。
「ドラガルド将軍、今一度聞きます。我が国が拒否したとしてもノーザストは我が領土を通ると思いますか?」
その声は今までの気弱なルノアの声ではなく、強い意志が籠っていた。
その言葉にドラガルドは頷いた。
「むしろ通らない理由がないですな。奴らが軍を連れてここに来たという事は明確な意思を持っているという事。帰れと言われてそのまま帰る訳はありますまい。」
「では、我が国の領土を通ったとして、そのまま通り抜けると思いますか?」
その問いにドラガルドは首を横に振った。
「あり得ませんな。そもそもノーザストが我が国を通ったと知ればサウザンに知られない訳がない。そうなればサウザンも難癖をつけて我が国に入ってくるでしょう。そうなった時に我が国が奴らの戦場となる事はこのドラガルドの首をかけてもいい。」
「わかりました。ドラガルド将軍、ありがとうございます。」
ルノアはそう言うと俺の方を振り向いた。
「仁志様、勝手なお願いである事は承知しています。報酬はいかなるものであれお望みのものを用意いたします。どうか我が国のためにあなたの力をお貸しください。」
「馬鹿なっ!」
その言葉にグラードンが吠える。
「女王っ!今一度御考え直し下されっ!こんな男にこの国の未来を託すなどっ……」
「これは女王である私の決定です!」
グラードンの抗議をルノアは一蹴した。
そして円卓に振り返り言い放った。
「これより、私は戦時非常事態宣言を発令いたします。ここから先、メノラに迫ったノーザスト軍の脅威が晴れるまで全てにおいて軍を最優先とします。これは女王としての勅命です!」
その言葉にその場にいた人間は俺を除いて全員片膝をついた。
俺もあわててそれに倣う。
ルノアの言葉にはそうさせる迫力があった。
「仁志様。」
ルノアはその俺の前で膝をついた。
「貴方を頼らざるを得ない非力な私をお許しください。そしてどうか我が国を救ってください。」
ルノアの肩が小さく震えている。
十九歳という若さでこの国を背負っている肩だ。
「もちろんだ。」
俺はその肩に誓うように言った。
「俺はそのために来たんだから。」
それは今の俺にとって本心だった。
確かに始まりは急だったし、自分の意思とは無関係にこの国に呼ばれてきた。
だけど今は、この少女をこの状況から救い出したい、そう思っていた。
この若さで自分のしたい事も出来ず、女王の地位と暮らしと引き換えに何万人もの国民の命を責任されるなんてあまりに理不尽すぎる。
「ありがとうございます。」
そう言うとルノアは目じりを拭って立ち上がった。
「失礼します!」
その時、急に扉が開き一人の兵士が入ってきた。
「先ほど急伝が届きました。ノーザスト軍から、明朝八時までに我が国からの返答なき場合強行すると通達があったとの事です!」
そう言いながらズカズカと俺の前にやってきた。
「大体貴様に何ができる?先ほどは何やら怪しげな術を使っていたようだが、それでノーザスト兵二万人を倒せるとでも思っているのか?ああ?」
そう言って顔を近づけてきた。
グラードンの背は俺より頭一つ分位高い。
どうでもいいが恐ろしく口が臭い。
「言われてみれば確かに……」
「二万人に一人で立ち向かうなど、土台無理な話では……」
室内にざわめきが広がる。
「女王様も女王様ですぞ、国を預かる者がこのような口車に乗せられてはっ!」
調子に乗ったグラードンがルノアに矛先を向けた。
ルノアを責める事でこの場での主導権を握ろうという腹積もりだろう。
俺はそんなグラードンに向き直り、一歩進んだ。
「な、なんだ?貴様!この私に何かしようというのか?」
詰め寄られるのかと勘違いしたらしく急に怯みだした。
この男、態度はでかいがいざという時に腰が引けるタイプだな。
そんなグラードンの横を通り過ぎ、俺はみんなが席に着いている巨大な石造りのテーブルに手をかけた。
そして幅五メートル、奥行き三メートル、厚さ十センチはあろうかというその天板を掴み、ゆっくりと持ち上げた。
数トン、いやおそらく十トン近い重量があるだろう天板が音もなく持ち上がる。
場内にどよめきが広がった。
天板を水平に持ち上げ、再び静かにおろす。
天板の上に置かれていたグラスに入っていた水は一滴たりともこぼれていない。
天板を置き、俺はグラードンに振り向いた。
「これでも無理だと?」
「ひっ!」
俺に見つめられ、グラードンはだらしなく床に尻もちをついた。
ようやく俺の力がどういうものか分かったらしい。
もっともそれはこのルノアを含めこの室内にいる全員がそうだったと思うが。
陰で監視しているブレンダンを除いては。
今や室内は水を打ったように静まり返っている。
俺が見せた力に圧倒され、言葉を失ってしまったようだ。
無理もない、普通の人間にはでき得ない事をしたのだ。
俺を見る視線は恐怖に塗られている。
「いや、驚きました。」
静寂を破ったのはソリナスだった。
「凄いとは思っていましたが、まさかここまでとは。」
そう言いながら俺に近づいてくる。
そうして天板に手をかけて持ち上げるそぶりを見せた。
当然天板は少しも動かない。
おそらくここにいる人間全員でも無理だろう。
「この国を救うために女王殿下が召喚されたという事ですが、これほどの力を持っているとは想像以上ですね。」
言葉とは裏腹にソリナスの言葉は天気の話をしてるようなざっくばらんさだった。
「で、本当にさっきの案で上手くいくとお思いですか?」
その何気ない口調のままで突然話を元に戻してきた。
この男、やはり油断ならない。
おそらくこのソリナスを説得できるかどうかがこの作戦実現の鍵となる。
「上手くいく、というよりもそれよりいい方法がない、そうだろ?」
「仮にノーザストの通過を許したとして、そのまますんなり通り抜けてくれるわけはない。よしんば今回は通り抜けたとしても既成事実が出来てしまった以上、今後もそれを要求してくるはずだ。
そうなればこの国の一部が連中の領土になったも同然だ。」
「そして突っぱねたら突っぱねたで、ほんのちょっとでもいざこざが起きたらそれを口実に要求を通すつもりだろう。今、ミッドネアがやらなくてはいけない事は二つ。一つはノーザスト軍を通すつもりはないという意思をはっきり示す事。そしてノーザストにミッドネアを通過するのは割に合わないと戦争を起こさずに分からせることだ。」
「しかし、現実的にミッドネアとノーザストでは軍事力に差があり過ぎて危機感を持たせるのは難しい。だったらどうするか。」
「それはミッドネアにはノーザストにとって未知の力があると思わせる事だ。想像の脅威を連中に与えるんだよ。俺が能力を見せ、俺以外にも俺と同じ能力を持った人間が大勢いると思わせる。これなら最小の労力で最大の効果を得られるし、戦争を起こす必要もない。」
敢えて言葉に熱を込めず、これが事実であるかのように語る。
俺の言葉にソリナスはしばし考え込んだ。
「……確かに、仰るとおりかもしれません。」
「このまま徒に時を重ねてもいずれノーザストは進軍を始めるでしょう。そうなればメノラにいる我が軍ではノーザストを止めることはできません。その前に進軍そのものを止めるというのは確かに理に適っています。」
「仁志殿の力は確かに我々の想像を絶していました。ならば、ノーザストにとっても同じなはず……」
ソリナスはそう言ってドラガルドの方を向いた。
「ドラガルド様、私は仁志殿の考えに賛成いたします。現状、最も現実的な考えではないかと思われます。問題があるとすれば、ここからメノラまでは通常行軍で十日、早馬でも三日はかかるのでそれまでノーザストが進軍を待ってくれるかどうか……」
「ふむ……」
ドラガルドはその言葉に顎髭を摘まみながら唸った。
そして、しばらく考え込んだ後に顔を上げ、ルノアを見た。
「女王殿下、軍を預かる身として儂も仁志殿の意見に賛成しよう。情けない話だが、そこのソリナスの言う通りメノラにあてている軍勢ではノーザスト軍二万は止められんだろう。ならば今は仁志殿の驚異的な能力に頼らざるを得ないようだ。」
「しかし……」
ルノアはそれでも躊躇うように喘いだ。
「ルノア女王。」
俺はルノアに片膝をつき、右腕を左胸にあてて首を垂れた。
「ここで誓う、俺は死ぬつもりはないしこの国の危機をここで見過ごすつもりもない。その上でこの方法が一番だと考えたんだ。約束する、必ず生きて帰り、戦争も起こさないと。だからルノア女王、この国のために決断してくれ。」
ルノアが唇を噛む音が聞こえた気がした。
どの位そうしていただろうか、俺は頭を下げ続けていた。
「仁志様、頭をお上げください。」
ルノアの声がした。
「ドラガルド将軍、今一度聞きます。我が国が拒否したとしてもノーザストは我が領土を通ると思いますか?」
その声は今までの気弱なルノアの声ではなく、強い意志が籠っていた。
その言葉にドラガルドは頷いた。
「むしろ通らない理由がないですな。奴らが軍を連れてここに来たという事は明確な意思を持っているという事。帰れと言われてそのまま帰る訳はありますまい。」
「では、我が国の領土を通ったとして、そのまま通り抜けると思いますか?」
その問いにドラガルドは首を横に振った。
「あり得ませんな。そもそもノーザストが我が国を通ったと知ればサウザンに知られない訳がない。そうなればサウザンも難癖をつけて我が国に入ってくるでしょう。そうなった時に我が国が奴らの戦場となる事はこのドラガルドの首をかけてもいい。」
「わかりました。ドラガルド将軍、ありがとうございます。」
ルノアはそう言うと俺の方を振り向いた。
「仁志様、勝手なお願いである事は承知しています。報酬はいかなるものであれお望みのものを用意いたします。どうか我が国のためにあなたの力をお貸しください。」
「馬鹿なっ!」
その言葉にグラードンが吠える。
「女王っ!今一度御考え直し下されっ!こんな男にこの国の未来を託すなどっ……」
「これは女王である私の決定です!」
グラードンの抗議をルノアは一蹴した。
そして円卓に振り返り言い放った。
「これより、私は戦時非常事態宣言を発令いたします。ここから先、メノラに迫ったノーザスト軍の脅威が晴れるまで全てにおいて軍を最優先とします。これは女王としての勅命です!」
その言葉にその場にいた人間は俺を除いて全員片膝をついた。
俺もあわててそれに倣う。
ルノアの言葉にはそうさせる迫力があった。
「仁志様。」
ルノアはその俺の前で膝をついた。
「貴方を頼らざるを得ない非力な私をお許しください。そしてどうか我が国を救ってください。」
ルノアの肩が小さく震えている。
十九歳という若さでこの国を背負っている肩だ。
「もちろんだ。」
俺はその肩に誓うように言った。
「俺はそのために来たんだから。」
それは今の俺にとって本心だった。
確かに始まりは急だったし、自分の意思とは無関係にこの国に呼ばれてきた。
だけど今は、この少女をこの状況から救い出したい、そう思っていた。
この若さで自分のしたい事も出来ず、女王の地位と暮らしと引き換えに何万人もの国民の命を責任されるなんてあまりに理不尽すぎる。
「ありがとうございます。」
そう言うとルノアは目じりを拭って立ち上がった。
「失礼します!」
その時、急に扉が開き一人の兵士が入ってきた。
「先ほど急伝が届きました。ノーザスト軍から、明朝八時までに我が国からの返答なき場合強行すると通達があったとの事です!」
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