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追放チート魔道士、TS魔王と共に魔界で生活する

海道 一人

29.ロバリーの一夜

「美味い!」
 ルーシーがグラスを空け、叫んだ。
 叩き付けるようにテーブルに置いたグラスから銀色の液体が零れ落ちる。


「あんたのためにこの街中から水銀を集めてきたんだぜ!じゃんじゃん飲んでくれ!」


「うむ、この街はなかなか気が利くではないか!気に入ったぞ!」
 先ほどまでの怒りはどこへやら、上機嫌でグラスを空けている。


「メリサさん、俺の秘蔵の酒です!この街で一番ですよ!」


「何言ってやがる!メリサさん、こいつは魔界一の酒どころユーザワの十年ものですよ。あなたのような美しい人にはこの魔界誉十年こそが相応しい!」


「こっちは人界から取り寄せたワインです!あなたの髪のような赤です!是非飲んでください!」


「ほほほ、良い子たちだこと。今夜はとことん可愛がってあげるから、しっかりご奉仕なさい」


 街の若者たちに囲まれ、メリサも上機嫌になっている。


「お、キツネじゃねえか!おめえ生きてたのかよ」


「へ、俺っちが簡単にくたばるかよ」


「それよりも貸してた銀貨十枚耳を揃えて返しやがれ!」


「こっちは二十枚だぞ!こっちの方が先だ!」


「そんなことよりオーガのオニヘイがおめえを見つけたらぶっ殺すと息巻いてたぞ。逃げなくていいのか?」
 キツネは知り合いと旧交を温めている。


「さあさあじゃんじゃん飲んでくれ!遠慮はいらねえぜ!なんせあんたは街を救った英雄だからな!」


「俺の酒も飲んでくれ!」
 テオの目の前には酒のグラスがどんどん並んでいく。
 テオはそのグラスに懐から出した試薬を一滴ずつ入れていった。


「ふむ、十杯中七杯の酒になんらかの薬品が混入されているようですね。流石はロバリー」
 試薬に反応して緑に輝く酒を見て感心したように呟く。


「しかし、大したもんだよ、あんたたちは!」
 それを全く意に介さないかのように住人たちはテオを囲んでいる。


「あのダークロードとかいう野郎、むかつく奴だったけど実力は本物だったから誰も逆らえなかったんだ」


「それをこの街にやってくるなりぶっ殺しちまうんだもんな。ほんとすげえよ」


「あいつには住民みんな稼ぎの大半を持ってかれてたんだ。おかげでこの街もまた活気を取り戻せそうだぜ!」


「さあさあ、飲んでくれ、食ってくれ!全部俺たちの奢りだ!」


 祝宴は夜遅くまで続いていった。






 ◆




「今日は大丈夫なようだの」
 夜もとっぷりと暮れた中、テオの下にルーシーがやってきた。


 既に宴会は終わりに差し掛かり、数人の酔っぱらいが騒いでいる他はみんな家に帰るか酔いつぶれて地面に転がっている。


「流石にこの街で酔うのは危険ですからね」
 テオは苦笑しつつ応える。


「そちらも大丈夫そうですね」


「ふん、何かが混ぜられてはいたようだがの。その位でどうこうなる我ではないわ」


「どうこうなってしまった人もいるようですけどね」
 振り向いた先ではキツネとヨハンが前後不覚になり、身ぐるみはがされていた。


 流石にアラムは涼しい顔で今もグラスを空けている。


 メリサはというと酔っているのかいないのかはわからないが下着姿になって若者たちの間でポールダンスを踊って盛り上がっている。


「なかなか良い街であろう?」
 ルーシーはテオの横に腰かけると頭をテオの膝の上に乗せた。


「ええ、活気があって良いところですね。これほど賑やかな街はインビクト王国にもありませんよ」


「この街は昔からこうでの。我の領地内ではあるが面白いから放っておいてるのだ」


「魔王も認める無法街ですか」
 テオは苦笑した。


「しかし街を治める者がいなくなってしまって、この街はこれからどうなるのでしょう」


「どうもならんよ」
 テーブルにあった陸イカの干物を噛みながらルーシーはこともなげに言った。


「昔からここは実力のあるものが街を牛耳っていたのだ。これからもそうなるであろうよ。それともお主がここに住むか?さすればこの街はお主のものになるぞ?」


「勘弁してください」
 テオはそう言ってグラスを傾けた。


「良い街ではあるけど油断がなさ過ぎて魔法の研究を怠りそうです。私にはブレンドロット位の田舎が丁度いいですよ」


「そう言うと思っておったわ。ま、我はお主の隣だったらどこでも良いのだがの」
 そう言ってルーシーは愉快そうに笑った。




 宴会の喧騒をよそに、夜は静かに過ぎていった。






 ◆




「いい加減にしてください!」
 モブランが叫んだ。


「いいですか!もう我々には金がないんです!それにここから先はろくに人家もない!食料を買うために節約しなくちゃいけないんです!」


「それをどうにかするのが君の役目だろう!何故こうなる前に一言言わなかったのだ!」
 アポロニオが怒鳴り返す。


「言いました!何度も言いましたとも!聞く耳持たなかったのはそっちです!」


「もっと真剣に言わなかったほうが悪い!」


 ここは魔界との国境沿いの小さな町、アウトランドだ。


 宿はなく、飲食店と食料品店が一軒ずつあるだけだ。


 ここに来るまでの間でアポロニオ一行の旅費は尽きかけていた。
 ここから先は魔界の町、ブレンドロットまで町はなく、わずかに人家が数件あるだけだ。
 それなのにアポロニオは料理が不味いだのこんな食料は持っていきたくないだの文句を言っている。
 どんな時も贅沢を欠かそうとしないアポロニオにモブランは呆れかえり、アポロニオはというと手際が悪いとモブランを軽蔑しきっている。


 貧乏貴族出のモブランのことは最初から鼻にもかけていなかったのだが、この旅の中でこの二人の仲は最悪なまでに険悪になっていた。


「やはり、この遠征は止めた方がいいのでは……」
 サラが恐る恐る提案する。


「まだそんなことを!」
 呆れたようにアポロニオが絶叫する。


「良いですか!まもなくインビクト軍五万の兵士が我々に追いつこうというのですよ!今更止めるなどと言えますか!?」


「……それは」
 その言葉にサラも言いよどむ。
 アポロニオの言い分ももっともで、後から追ってきたインビクト軍は歩みの遅いアポロニオ一行に追いつこうとしている。
 今ここで止めると言い出したらサラたちはもとより王の責任追及も免れなくなる。
 既に引き返せないところに来ているのだ。


「さあ、さっさと行きましょう!ブレンドロットまではたったの二日です!その位なら野宿も耐えられるでしょう。そこのそいつがしっかり準備をしてくれればの話だがね」
 そう言ってモブランを冷たく睨む。


「だったら自分でやってみろよ。口だけで何もしねえくせに」
 モブランが小声で悪態をつく。


 サラはため息をついた。


 この旅は間違いなく失敗だった。


 ブレンドロットにつけたとしてもそこからどうなるのかサラにはさっぱりわからなかった。
 そしてそれはアポロニオとモブランも同じだった。



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