外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

41.最後の後始末

 それから数日はお祭りのような騒ぎだった。


 というか実際にお祭りだった。


 蝗害の駆逐を祝って人々は浮かれ騒ぎ、通りにはゼファーを讃える歌が昼夜を問わず響き続けた。


 その一方で俺たちは忙しい日々を送っていた。


 なにせ五千億匹という膨大な数の蝗の死骸の後始末が待っているのだ。


 これは軍隊が責任を持って面倒を見てくれることになっていたけど、俺の方がそれとは別に運河の後始末が待っていた。


 運河はこのまま残しておくとベルトラン帝国の気候を変えかねないから元に戻さなくてはいけない。


 灌漑用に残すという案もあったけどほぼ無計画に掘った運河なので結局一旦埋め戻すこということで落ち着いた。


 そんなこんなでドライアドと龍人族が帰った後も俺たちはベルトランに残っていたのだった。


 そして一週間後、ある程度落ち着いたところで蝗害鎮圧の祝賀式典が行われ、俺たちもその式典に出席することになった。


 この日は王城が解放され、テラスの下はゼファーを一目見ようと集まった人たちで埋め尽くされていた。


 俺達はテラスの隣にある小広間でゼファーと共にゼファーのお披露目を待っていた。




「陛下、そろそろお時間です」


 従者の言葉に煌びやかな礼服に身を包んだゼファーがテラスへと足を向ける。




 その時だった。




 後ろで控えていたカエソが突然ゼファーに向かって走り出した。


 その手には短剣が握られている。


 カエソは体当たりするようにゼファーへとぶつかっていった。


 その衝撃でゼファーが大きくのけぞる。




「カ、カエソ…貴様…なにを」




 ゼファーが苦しみに顔を歪ませた。


「陛下、あなたが悪いのですぞ!大人しくしていれば良かったものを」


「も、者ども!狼藉であるぞ!カエソ殿を取り押さえよ!」


 衛兵の警告に後ろに控えていた数名の貴族が立ち上がった。


 しかしその手にはカエソ同様に短剣が握られている。


「き、貴様ら…」




「陛下、あなたの時代はもう終わったのです」


「後は我々に任せて心穏やかに逝かれよ!」




 貴族たちが口々に叫びながらゼファーに短剣を振り下ろした。






「ぐあああーーーーっ!」


 テラス前の小広間にゼファーの絶叫が響き渡る。






「…冗談はその辺にしておけよ」


 俺はため息をついた。




「は?」


「え?」


「なにっ?」


「なんだあっ?」




 ゼファーを襲った貴族が次々に素っ頓狂な声をあげる。


 それもそのはず、彼らが手にしていた短剣は柄の部分から完全に折れていたからだ。


「まったく面白みのない奴だな。もう少し盛り上げても良いだろうに」


 ゼファーが身を起こした。




 その体には傷一つついていなかった。


「んなぁっ!?な、何故?」


 カエソがギョッとしたようにゼファーを見た。


 カエソが握っている短剣も根元から折れ曲がっている。




「な、何故無事なのです…?」


「それはもちろん貴様らが余を襲うことを事前に知っていたからよ」


 余裕の表情で詰め寄るゼファーにカエソは汗を吹き出しながら後ずさった。


 もはやその姿は蛇に睨まれた蛙だ。




 実のところあの短剣は全て俺が使えなくしていたんだけど。


 それどころかこの式典自体が裏切り者をおびき寄せるためのゼファーが仕組んだ罠だった。


 今回の式典でゼファーが作戦を邪魔した者の名前を呼びあげて糾弾すると密かに、それでいて広く噂を流していたのだ。


 カエソたちはそれにまんまと乗せられたという訳だ。


 後は俺が短剣を持った人間を探査して襲撃の時にそれを使えなくしたのだ。






 カエソたちの持っていた短剣を全て針金に変えて襲撃者たちを拘束した。


「貴様らがしたことは余のみならずこの国をも裏切る行為だ。それに相応しい報いを受けるがよい」




「お、お待ちください!これには!これには訳があるのです!」


「お慈悲を!これは気の迷いなのです!悪魔が私を操っているのです!」


「カエソ!貴様にそそのかされたせいでこうなったのだぞ!」


 ゼファーの冷徹な宣言と共に裏切り者たちが哀れな叫びと共に引き立てられていった。




「いやはや、とんでもないことをしたものですなあ」


 そこへヒラロスがやってきて引っ立てられていった者たちを見ながら肩をすくめた。


「陛下の邪魔をするどころか暗殺まで企むとは、恐ろしいことをするものです。ともあれこれで元老院や執政官の膿を出すことに成功しましたね」




「ああ、その通りだな」


 ゼファーが頷く。


「あとはお主を捕らえれば一段落だ」




「は?」


 ゼファーの言葉に一歩前に出ようとしたヒラロスの動きが止まった。


 その喉元にヘルマが剣を突き立てていたからだ。




「ヒラロス副執政官、お主には国家反逆罪の嫌疑がかけられている。故に拘束させてもらう」


 ヘルマが冷たい声で告げた。


「お、お待ちください。これは何かの間違いでは?私が何をしたというのです」


 ヒラロスは変わらぬ笑顔を浮かべていたけどその額には汗が滲み出ていた。


「しらを切っても無駄だ。メッディンでの襲撃者、反乱を起こした魔導士や兵士に貴様の息がかかっていたことは既に調べてある。言い訳は証言台の上まで取っておくのだな」


 ヘルマの言葉にヒラロスの顔から血の気が引いた。


 あの夜、わざと逃がした襲撃者の頭目を追跡したことでヒラロスとの繋がりに辿り着いたのだ。


 今回の作戦は急ごしらえだっただけにヒラロスに付け入る隙を与えてしまったけど、慌ただしかったのは向こうにとっても同じことだったおかげで突き止めることができた。




 ヘルマがヒラロスには反応することもできないほど素早くその手を後ろ手に拘束した。
「弁明は法廷でしてもらおう。それまで取っておくのだな」




 ヒラロスは最後まで薄ら笑いを浮かべ続けながら連行されていった。




「これで本当に一件落着だな。いや、そんなものはないのかもしれぬな。大変なのはこれからなのだから」


 ゼファーが深いため息をついた。



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