外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

25.更に地下へ!

「地下に逃げたのは下策でしたね。地下は虫たちに取って住まいも同じ。逃げ場をなくしたのはあなた方ですよ」


 虫の集合体でできたバグラヴスの顔が愉快そうに笑った。


「は、そんなこと言っておいて自分が来る勇気はないってか。自信があるなら顔だけじゃなくて自分が来たらどうなんだ?」


「その手には乗りませんよ。そもそもあなた方を始末するのにわざわざ私が出向く必要がどこに?」


 俺の言葉に手の形となった虫たちが人差し指を突き上げてチッチッと揺らした。


 意外と器用な真似をしやがる。




「さて、状況が理解できたのなら大人しく降参してはいかがですか?今ならば先ほどの言葉通りご婦人方の命だけは助けてあげましょう。もちろん武装解除はしてもらいますがね。…そうですね、ついでに服も全て脱いでもらいましょうかね」


「下種め!」


 ヘルマが吐き捨てる。




「それならこっちもさっき言ったはずだぜ。それは断るってな」




「…まだわかっていないようですね。あなたには言っていないと!」


 叫ぶなりバグラヴスの巨大な拳がこっちに迫ってきた。


 いや、無数の甲虫でできた拳だ。


「クッ!」


 咄嗟にかわすと拳が真横にあった樽を粉々に砕いた。


 中に入っていた硫黄が撒き散らされる。




「クソッ」


 俺は周りの木箱や樽を次々に破壊した。


 中にあった鉱物が地下室中に撒き散らされる。




「視界を奪ったつもりですか?無駄なことを」


 しかしバグラヴスの操る虫たちは正確に俺たちの位置を把握して攻撃してくる。


 紫外線を視認できる虫にこの程度の目くらましは無駄ということか。




「これならどうだ!」


 俺はバグラヴスの操る虫たちとの間に土の壁を作り上げた。


 完全に隙間のない土壁で四方を覆いつくす。


 これなら虫たちと言えども入ってこれないだろう。




「それで防いだつもりですか?そのようなつまらない壁など虫たちの手にかかればものの数分で破壊してしまいますよ」


 バグラヴスの言葉と共に虫たちがたてる不気味な音が壁越しに響いてきた。




「どうする?奴の言う通り虫ならば土の壁くらいすぐに破ってしまうぞ!」


 ヘルマが青い顔をして俺の方を向いた。




「大丈夫だ、俺に考えがある。みんなこっちに来てくれ!」








    ◆








 数分後、土壁に小さなひびが生まれた。


 そのひびは瞬く間に広がり、やがて虫が顔を表した。


 一旦そうなると虫たちを遮るものは何もなく、土壁は浜辺にできた砂の城のように瓦解していった。




「ククク、土の壁ごときで誤魔化せたと思っているならあなた方の力を過大評価しすぎてしまったようですね」


 虫で出来たバグラヴスの顔が不敵に笑った。


「地下に逃げていることなど先刻ご承知ですよ」






「来たぞ!」


 殿を務めていたヘルマが叫んだ。


 俺たちは地下道を走っていた。


 正確に言うなら俺が作り上げたトンネルだ。


 土壁で防いだと見せかけて地下にトンネルを開けて脱走を図る、当然だけど触覚で振動を検知する虫たちを誤魔化せるわけはない。




「どこに逃げようというのですか。悪あがきをしても無駄だというのに」


 トンネルの奥からバグラヴスの声が響いてきた。


 トンネルを埋め尽くすような虫たちが後を追いかけてきている。


「おい!本当に大丈夫なんだろうな!」


 眼に涙を浮かべながらヘルマが叫んできた。


「大丈夫だ!俺を信じろ!」


 俺たちはひたすら走った。


 走って走って走りまくった。








    ◆








「む?何か変だな?」


 塔の中にいたバグラヴスは違和感に眉をひそめた。


 いつの間にかテツヤたちの気配を失っていたのだ。


 その理由に思い当たったバグラヴスの額に汗が浮かんだ。


 気配を見失った、それは虫たちが制御できなくなったことを意味する。


 気付けば虫たちの気配も全て消えていた。


「馬鹿な…何が起きたというのだ?」


 虫たちが全て死んだ?そんなことがあり得るのか?




「いや、そんなわけはない。あれだけの虫たちが全て死ぬなどあり得るわけがない!」


 バグラヴスは自分を納得させるように叫んで立ち上がった。


「それがあるんだな」


 不意に耳元でテツヤの声が響いた。


「ひっ!べっ!」


 驚いて身をのけぞらせるバグラヴスの顔にレンガがめり込んだ。








    ◆








「な、何故あなたたちがここに!?」


 鼻血を押さえながらバグラヴスが叫んだ。


「決まってるだろ、お前の放った虫を全部倒したからだよ」


「馬鹿な!あり得ない!」


「あり得ると言っただろ」


 俺は手に持っていたものをバグラヴスの前に投げ捨てた。


 それは一塊の硫黄だ。


「二酸化硫黄、って言ってもわからないだろうけど、こいつを燃やすと出るガスは猛毒なんだ。それこそ殺虫剤に使われるくらいにね」


 穴を掘って逃げる時に倉庫に大量に貯蔵してあった硫黄を一緒に運んでフラムの炎魔法で燃やして二酸化硫黄を発生させたのだ。


 酸化剤となる硝石が一緒にあったのも幸運だった。




 俺たち自身はソラノの風魔法が防御してくれたから影響はないし二酸化硫黄は大気よりも比重が重いから外に漏れだすこともない。




「あんたの武器である虫たちは全て地下で死に絶えてるよ」



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