外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
22.虫使いバグラヴス
男が天井を見上げて言い放った。
枯れ木のように痩せこけた男だった。
落ちくぼんだ眼窩の奥で真っ黒な瞳が凶悪な光を放っている。
何故だ?何故ばれたんだ?
「テツヤ!」
その時ソラノの声が響いてきた。
「囲まれているぞ!」
辺りを見渡すといつの間にか染みのように黒い影が周囲を囲んでいた。
影じゃない、無数の虫たちだ!
絵の具で塗りつぶしたかと思うほどの密度となった虫たちが一斉にこちらに向かってきた。
「クソッ!」
俺は天井裏に穴を開けて下に飛び込んだ。
「ひいぃっ!な、何者だ!?」
突然現れた俺たちにシセロが情けない声をあげた。
「シセロ卿、先ほどの話はすべて聞かせてもらったぞ!」
「な、き、きさ…あ、あなたはヘルマ殿!」
ヘルマの姿を認めたシセロの顔が真っ青になった。
「貴兄らはどうやら今回の虫害に関わっているようだ。参考人として我々に同行してもらう!帝王陛下直轄部隊長の権限によって貴兄に拒否権はないと知ってもらおう」
ヘルマが曲刀を抜いて吠えた。
その声にシセロは顔面蒼白となってがくりと膝をついた。
「わ、私は関係ない!こ…この男にそそのかされただけなんだ!私の話を聞いてもらえばわかる!この通りだ!」
今度は顔を真っ赤にして涙目になりながら弁明を始めた。
まるで七面鳥だ。
一方で痩せた男の方は二対七(キツネを入れたら八)という状況なのに落ち着き払っている。
それが俺には何とも不気味だった。
「何者か知らないけどもう逃げ道はないぜ。どうやったのかは知らないけどあんたがこの虫害の張本人みたいじゃないか」
「虫たちがざわついているから何事かと思えば、大きな鼠が忍び込んでいたようですね」
男は愉快そうに言うと仰々しくお辞儀をした。
「わたくし、シセロ様の元で農業管理官をしておりますバグラヴスと申します。以後お見知りおきを」
「あいにくとこっちは自己紹介をしたくて来たわけじゃないんだ。大人しく投降してもらうぜ。嫌だと言っても実行させてもらうけどな」
「交渉の余地はないということですか。ずいぶんと強引な方々だ」
俺の警告にしかしバグラヴスは全く意に介していないというように肩をすくめた。
「しかしそれはお勧めしませんな。それよりも足下に気を付けた方がいいですよ」
その声に足元を見た俺は驚きで息を呑んだ。
いつの間にか足下に無数の虫たちがまとわりついていたからだ。
「テ、テツヤ…」
リンネ姫の怯えた声に振り返るとみんなの足下にも無数の虫たちが集っていた。
「動かない方がいい。痛みは感じないだろうが虫たちは既にあなた方の足に食らいついている。少しでも動くと虫たちの持つ毒が体内に送り込まれますよ」
バグラヴスの声にはったりの響きはなかった。
「…お前は一体何者なんだ…?」
「しがない虫使いですよ。今はここでシセロ様にお仕えして農地や倉庫の害虫を防ぐ役割をしております」
俺の問いにバグラヴスは肩をすくめて答えた。
「虫使い?だったらあの坑道に巣くっていた魔蟲もお前の仕業だったのか?」
「おや、やはりそのことをご存じでしたか。いやはやあの中を通り抜けてきたとは、なかなかどうして見た目によらず大した人たちのようだ」
バグラヴスが愉快そうに肩を揺らした。
「虫使いともあろう者が自国に害虫を放つなど気でも狂ったのか!」
ヘルマが食ってかかった。
「おっと、動かない方がいいと申し上げたはずですよ」
それを見てバグラヴスが指を突き立てた。
「クッ…」
ヘルマが動きを止める。
その首元には赤と黒の毒々しい色をした蜘蛛が取りついていた。
「その蜘蛛は一噛みでオーガをも昏倒させます。なお治療法はまだ見つかっていません」
「クソ…!シセロ卿!これはどういうことだ!この者を使って何を企んでいる!」
青い顔をしたヘルマがシセロに吠えた。
「わ、私は何も…!ただ…不良在庫になっていた穀物をできるだけ高値で売りさばこうと…それをこの男が勝手に…!」
ヘルマに問い詰められてしどろもどろになりながらシセロが答えた。
どうやらこのバグラヴスという男がシセロを良いように操って暴走したということか。
「質問はそのくらいでいいでしょう」
バグラヴスがシセロの前に出た。
「今度は我々が質問をする番です。あなた方は何者で何の目的でここに来たのですか?」
「こっちの質問はまだ終わってないぜ。お前らはどこまでこれをやる気なんだ?さっきベルトランを手中に収めるとかなんとか言っていたけど、それは本気なのか?」
「質問をしてるのはこっちなんですがね」
俺の問いにバグラヴスがつっけんどんに答えた。
言葉の端にイラつきが感じられる。
俺は構わずに話し続けた。
「ベルトランだけじゃない、フィルド王国やワールフィアでも虫の大発生が確認されている。それもお前らの仕業なのか?」
「質問をしているのはこっちだ!」
バグラヴスが怒号を張り上げた。
顔面が紅潮し、額には血管が浮き出ている。
どうやら自分の思い通りに行かないとすぐに余裕がなくなるタイプらしい。
「貴様は自分の立ち場が分かっているのか!?私がこの指を一つ鳴らせば貴様らなぞ即座に絶命させられるのだぞ!わかったのなら大人しく私の質問に答えろ!」
そう叫んでハァハァと息を立てながらこちらを睨みつけている。
バグラヴスはひとしきり叫んで落ち着いたのか顔色を元に戻すと改めてこちらに振り向いた。
「…いいでしょう、あなた方の質問に答えてあげましょう。答えは全てイエスです」
そう言って両手を広げる。
「ベルトランだけじゃない、この大陸全土を我がものとしてみせますよ」
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