外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

19.鉱山の秘密

 洞窟の中に積み上げられていた麻袋や木箱にはぎっしりと穀物や農産物が詰め込まれていた。


「こりゃどうなってるんで?確かどこも虫にやられて酷い凶作になっているはずじゃ…」


 袋の中の小麦を手で掬いながらキツネが素っ頓狂な声をあげた。


「ふん、あの男、こうなることが分かって蓄えていた農作物を隠していたのだな」


 ヘルマが皮肉気に口元を歪めた。


「おおかた値が最大に吊り上がったところで売る算段なのだろう」


「てことは…」


「ああ、そのシセロという男はこの状況を読んでいたということだ。いや、知っていたというべきだろうな」


 リンネ姫が頷いた。



「しかし廃坑を隠し倉庫にするとは考えたものだな」


 アマーリアが感心したように見渡した。


「ここなら人が来ることもないだろうし防御もしやすい。魔蟲まちゅうが跋扈しているなら査察に入ることもあるまい」


「待った、じゃああの魔蟲まちゅうは…」


「シセロがここを守らせるために放った、という可能性は大いにあるな」


「…そんなことが可能なのか?」




 俺の言葉にみんなが一斉に押し黙る。


 あれほどの数の魔蟲まちゅうを操る、そんなことをできる者がシセロの側にいるということなのか?


「高度な虫使いであれば魔蟲まちゅうを操れると聞いたことはあるが…あれだけの数を操るとなるともはや人の域を超えている」


 リンネ姫がポツリと呟いた。


「ヘルマはそういう噂を聞いたことがないか?」


「いや、これほどの力を持った虫使いは私も聞いたことがない」


 ヘルマが首を横に振った。


「キツネ、お前はどうなんだ?」


「へ、俺っすか?」


 木箱から金貨をポケットに突っ込もうとしていたキツネが動きを止めてこちらを振り向いた。


「凄い虫使いの評判とか知らないか?」


「いや~、聞かないっすねえ。虫使いってのは人気がないっすからね、自慢する人はあんまいないんすよ。その割に使える能力だってんでたいてい貴族お抱えになっちまうし」


 その辺の事情はフィルド王国とあまり変わらないということか。




「ともかくこれだけではまだ証拠としては不十分だ」


 ヘルマが洞窟内を見渡しながら話を戻した。


「ここにはシセロがこれを隠匿していたという証拠がない」


「これだけじゃ足りないってのか?」


「どこかの山賊が隠していたと言われてしまえばそれで終わりだ。仮にシセロが認めたとしてもせいぜい資産の不法隠匿と脱税として扱われるのが関の山だろう。奴がこの虫害に関わっているのであればその証拠を掴まなくてはならない」


「そういうものなのか」


「奴は海千山千の貴族だ。その程度のことは想定済みだろうな」


「ってことは…」


「結局シセロの元に行って確認するよりほかはないということだ」


 リンネ姫がため息混じりに言葉を継いだ。


「一休みしてから動き出すとしよう」








    ◆








「どうだ?」


「四人…五人、いや六人いますね」


 アマーリアの言葉にソラノが答えた。


 坑道の出口には衛兵が控えている。


「地下に通路を掘って別の場所から出るか?」


「いや、それだと魔力探知でばれてしまう恐れがある。魔法を使えるのはこの鉱山周辺だけだと考えた方が良いだろう」


 ヘルマが首を振った。


「できれば騒がれずにここを出たいところだが…」


「それならば大丈夫です」


 ソラノが詠唱を始めた。


誘眠スリープ


 眠りを誘う空気が衛兵たちに向かって漂っていく。


 バタバタと重いものが倒れる音がこちらに響いてきた。


 出口に向かうと衛兵たちが完全に眠りこんでいた。




「交代は日に三回、次の交代は日没らしい」


 衛兵の一人を覚醒させて尋問の魔法を施したリンネ姫がそう告げた。


「つまりあと数時間は自由に動けるということか。それまでにシセロの城に忍び込むと」


 ソラノが呟いた。




「だったらいい方法があるぞ」


 俺は地面で高いびきをかいている衛兵を見ながら言った。








   ◆








「なんだそいつらは?」


 二人組の警らが声を張り上げた。




「こいつらは鉱山で捕まえた。どうやら山を越えてきた冒険者らしい。今からシセロ様の元へ連行するところだ」


 兵士の恰好をしたヘルマが冷静な声で答えた。


 ヘルマに加えて俺とソラノ、リンネ姫も兵士の恰好をしている。


 鉱山の衛兵たちを縛り上げて服を奪い、それぞれのサイズに合わせた鎧は俺が作り上げた。




 一方でアマーリア、フラム、キリ、キツネは手を拘束して腰ひもで全員を繋ぎ、顔には布を被せている。


 捕縛者を連行する兵士、という格好だ。






 ベルトラン帝国は魔族が極端に少ない国だから見た目ですぐに魔族とわかる四人は捕まえたという形にしたのだ。




「冒険者?あの山を越えてきたってのか?」


 警らの兵士が驚いたように見てきた。


「あの山は魔物の巣だぞ。生きて越えてくる冒険者がいたとはな。どれどれ、どんな奴がここに潜り込もうとしてきたんだ?」


 兵士が興味深そうにキツネの顔にかけていた布切れをめくりあげた。



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