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外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

11.ベルトラン帝国の惨状

「これは…酷いな」


 ベルトラン帝国に入ってから目を覆うような光景が続いていた。


 上空から見るベルトラン帝国はどこまでも続く茶色の世界だった。




 前回来た時は魔法が規制されていたから馬車だったけど今回俺はゼファーの免状を持っているので魔法は使い放題だ。


 ということで今回は空を飛んで移動している。




 元々ベルトラン帝国は南の一部を除いて乾燥地帯が大半で荒涼とした荒れ地が多いのだけれど今はそれに加えて畑も荒廃しきっていた。。


 どこまで行ってもしおれた作物ばかりが続いている。


「まさかここまでとは…」


 リンネ姫やみんなも言葉を失っている。


 これでは作物の輸入どころか自国で賄う分すら危ういんじゃないだろうか。


 改めて俺は事の重大さを思い知った。




「それで、まずはどうする?ガルバジアに行って帝王と話をするのか?」


「いや、それは後にしよう」


 俺はリンネ姫の問いに首を振った。


「ゼファーにまずこの国の現状を知っておきたいと言ったら好きにしろと言われたしね。そのためには現場の話を聞くのが一番だ。だからイネスのところに行って話を聞くことにしよう」


 俺とゼファーがベルトラン帝国を彷徨っていた時に助けてくれたイネスは今ではウルカンシアの糧食管理長と農政長官を兼任している。


 今の状況を聞くのにこれ以上うってつけの人間はいないだろう。




「そうだな。当事者に話を聞くのが一番だろうしな」


 リンネ姫が相づちを打ち、こちらを見てきた。


「それに…そのイネスという女性にも会ってみたいしな。テツヤがこの国で一晩過ごしたというな」




 リンネ姫の言葉に他のみんながうんうんと頷く。


「ちょ、それは歪んで記憶してないか?」








 流石にベルトラン帝国は広大で俺たちがウルカンシアへ着いたのは二日後のことだった。


 もっとも馬車や竜車だと早くても二週間はかかっていただろうから相当な時間短縮だ。


 イネスは今は引っ越してウルカンシア市街に住んでいるという。


 俺たちはまず彼女の家へと向かった。


「テツヤ、じゃなくてテツヤ様、お久しぶりですね!お元気そうでなによりです!」


 イネスは喜んで俺を迎えてくれた。


 結局気絶したイネスを家に寝かした後に黙って出ていったきりだったから歓迎してもらえて良かった。




「そんなへりくだった言い方は止めてくれないか。前の通りテツヤでいいよ」


 俺は苦笑しながらイネスをハグした。


 イネスの顔は険もとれてずいぶんと穏やかになっている。


 どうやら今はかなり充実した生活を送っているみたいだ。




「積もる話もあるけど今日はこの国の農業がかなり酷いことになっていると聞いて調査をしに来たんだ。そのことを教えてくれないか?」


 一通り自己紹介を済ませたあとで俺は本題に入った。




「酷いもんだよ。こんなに酷いのは生まれて初めてさね」


 イネスは険しい顔をすると深いため息をついた。


「これからはようやく陛下のために生産量を増やしていけると喜んでいたのに…そういえばテツヤ…その、今日は陛下は一緒ではないので…?」


 イネスは暗い顔をしていたかと思うと急に赤面しながらもじもじと聞いてきた。


 ふうん、そういうことね。


「いや、今日は来てないよ。こっちで色々調べてから会うことになっているんだ」


「あ、そう」


 途端にイネスの態度が元に戻る。


 あのイケメンめ…!




 俺はガルバジアにいるだろうゼファーに心の中で悪態をつきながら話を続けた。


「…ま、まあそれは置いておいて、まずはこの辺の状況を調べたいから案内してくれないか?」








    ◆








「あれ…?」


 イネスに案内されて畑に出た俺たちだったけどその風景を見て拍子抜けすることになった。


 道中で見たように荒れ切った畑を想像していたのだけど、そこには青々と茂る野菜が広がっていたからだ。


 もちろんかなり虫にやられて元気はないけど、それでもここに来るまでに見た惨状と比べたら天と地ほども違いがあった。


「なんか…」


「ああ、もっと酷いかと思っていたら」


「…普通だな…」


 みんなも肩をすかされたような顔で見ている。




「なんだよ、ベルトランはとんでもないことになってると聞いたから心配してたけどこれだったら大丈夫なんじゃないか?」


 安堵のため息をつくとイネスが沈んだ顔で頭を横に振った。


「ここは良いんだよ。あんたたちもここに来るまで見てきただろ?あれがこの国全体に広まっているんだ。とても安心なんかできる状態じゃないよ」


「そうなのか…でもじゃあなんでここはこんなに元気なんだ?何か秘密があるのか?」


「それはこのおかげだね」


 イネスが野菜の葉っぱをめくった。


 そこにいたのは野菜にたかるアブラムシと…それを食べるテントウムシだった。


「…これは?」


「このおかげでウルカンシアの畑はまだマシなんだよ。このテントウムシだけじゃない、他にも害虫に寄生する虫なんかが野菜を守ってくれているんだ」




 天敵を用いて害虫や病原菌から野菜を保護する生物農薬という奴か。


 日本でも実行されていてかなりの効果を上げているケースもあるのだとか。


 テントウムシなどは通販でもやり取りされていると聞く。




「そんな知識があったなんて流石はベルトラン帝国だな」


 しかしイネスはそれを否定するように首を振った。


「この国がそういう知識を持ってるわけじゃないんだ。虫老人がこういう虫たちを放ってくれたおかげでウルカンシアの畑は無事なんだよ」



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