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外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

7.虫の発生は止まず

 リンネ姫からの連絡があったのは蚊取り線香の生産を始めてしばらく経った頃だった。




「テツヤ、お主なら何か方法を知っているのではないだろうか」


 いつになく厳しい顔をしてリンネ姫が切り出してきた。


「な、なんだ?何がどうしたんだ?」


「これは実際に見てもらった方が早いだろう。今から言う場所に来てはくれないか?」


 真面目な顔のリンネ姫に肝を冷やしながら尋ねるとある場所を指定してきた。


 そこはフィルド王国中央部、国内でもっとも農業が盛んな地域だった。




「これは…酷いな…」


 そこに到着した俺は言葉を失ってしまった。


 見渡す限り広がる畑が全く活気を失っている。


 どの作物も元気なく葉を垂れ、中にはすっかり萎れているものまである有様だ。




「一体どうなってるんだ?雨が降らなかったのか?」


 リンネ姫は首を横に振った。


「水は十分ある。問題はこれなのだ」


 そう言って側に生えていた麦を一本抜きとってみせた。


「…これは?」


 そこには小さな虫がびっしりついていた。


 アブラムシ、ということは麦につくというムギヒゲナガアブラムシか?


「ついこの間から害虫が大発生しているのだ。しかも規模が尋常ではない。こんなに酷いのは初めてだとみなも言っておる」


「マジか…」


 俺にはかける言葉がなかった。




「なんかこう…魔法でなんとかならないのか?虫除けの魔法とかさ?」


 リンネ姫は俺の言葉に悲しそうに頭を振った。


「病気ならまだ何とかなるのだが魔法で虫除けは存外難しいのだ。虫除けとなると生命を操作する闇属性の魔導士かテイマーが行えるのだが、そのどちらも非常に稀な能力なのだよ」


「そうなのか」


「更に言うと虫使いというのは人気がなくてな。やはりイメージのせいなのか虫使いは報酬は良いのだがなりたがるものが少ないのだ」


 そう言ってリンネ姫はため息をついた。


「我が国で抱えている虫使いはみな既に限界に来てるほど働きづめなのだが、虫共の勢いは増すばかりでもはや手に負えなくなってきている」


「ふーむ、ならちょっと試してみるか」


 俺は地面に手を付けて意識を集中した。


 意識を畑の作物へ、更にそこへ群がる虫へと移していく。


 やがてアブラムシがポトポトと地面に落ちていった。


 地面に落ちたアブラムシを地中深くに埋めていく。






「おお!」


「す、凄え、あれだけいた虫があっという間に…」


 周りで見物していた農家が驚きの声をあげた。




「やったな、テツヤ!これなら他の畑も…」


 嬉しそうな顔で駆け寄ってきたリンネ姫だったけれど俺の顔を見てその言葉が止まった。


 おそらく俺が汗びっしょりになっていたからだろう。


「テツヤ、それは…」


 リンネ姫が驚いたように俺の首に嵌められている封魔環を指差した。


 言われるまでもなく封魔環の魔石が一つ赤くなっていることは自覚している。




「悪い、これは思った以上に魔力を消費するみたいだ」


 俺はそう言って地面に腰を下ろした。


 テイムは土属性のスキルの一つではあるけどそんなに得意じゃない。


 しかも虫を操るのは知能の高い動物や魔獣とはまた違ったスキルになるせいか疲労感が半端なかった。


「いや、無理をさせて悪かった。これはやはり別の方法を探した方が良いだろうな」


 リンネ姫が申し訳なさそうにハンカチで俺の汗をぬぐってくれた。


「小さい虫を操るってのは普通のテイムと勝手が全然違うんだ。なんて言うか…片手だけで風呂桶の水を掬いだしてる感じだ」


 普通のテイムは対象となる生き物の魂に触れるという感覚があるのだけど虫を対象にした時はそういう感覚が全くなかった。


 無理して意識を広げると虫の中に自分の魂を持っていかれそうになる。


 正直言うとかなり恐ろしい体験だった。


 虫使いというのはこういうことを普通に行えるのか?


 それとも通常のテイムとは全く異なる方法で操っているのだろうか?


 虫使いが特殊な能力だというのが身にしみてわかった気分だった。




「しかしあれほどいた虫たちを全て操ったのは見事だったぞ。一体どれだけの虫を操ったのだ?」


「大したことないよ。たぶん百平方キロメートルくらいかな」


「ひゃ、ひゃく!?」


 俺の言葉にリンネ姫が目を丸くした。


「そ、そんなに…」


「いや、この位の広さじゃ焼け石に水だろうな。それに一回でこれだけ消耗してしまうと続けてやるのは無理だ。ここだってあと数日もしたら元に戻ってしまうだろうし」


 驚くリンネ姫だったけど俺の気持ちは晴れなかった。


 農地というのはあまりに広すぎるし虫はあらゆる場所に潜んでいる。


 一か所だけ排除してもすぐに別のところから再侵入されてしまうだろう。


 だから定期的に防除を続けていかなくてはいけない。


 これを俺の能力だけで実行するのは到底無理だ。


「テツヤでも無理となるとどうすればいいのだ…」


 落胆するリンネ姫に俺は笑ってみせた。


「まだ手がないわけじゃないさ」



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